元防衛省情報分析官が教える…「本当に必要な情報」と「価値のない情報」を見分ける驚きの方法
プレジデントオンライン / 2023年1月23日 9時15分
※本稿は、上田篤盛『超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル 仕事で使える5つの極秘技術』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■ビジネスで使う情報は「集める目的を必ず秘密にする」
情報の取り方が“公然か非公然か”“合法か非合法か”を問わず、その情報収集の目的を秘匿するのが諜報(ちょうほう)だ。
だから、諜報員は目的を絶対に秘密にする。諜報員が行なう秘密工作では、派手な謀略行為も時として見られ、行動そのものが表に出ることがある。
しかし、「なぜ、それを行なったのか?」という目的は秘密にされる。だからこそ、日本軍の諜報、宣伝、謀略などは、秘密戦と呼ばれた。
諜報員は目的を秘密にして情報を取ることが基本だが、ビジネスの場合でもそれが言える。これは、社内外にかかわらずである。
営業スタッフでも、モノやサービスの開発者でも、企画を考える者でも、マーケッターでも、経営者でも、目的を周りにベラベラ話すようでは、他社の競争相手には勝てない。また、社内のライバルに、自分の目的がバレるようであれば競争には勝てない。
まず大前提として、ライバルに先んじて何事かを成し遂げたいのなら、情報を収集する前に、「情報を集める目的を必ず秘密にする」ことを肝に銘じたほうがよい。
■主な情報源は「公開情報」と「人的情報」
では、諜報員はどこから情報を集めるのだろう。大きくは、公開か非公開かに分かれる。
公開情報は、新聞、雑誌、テレビ、インターネットから集めることができる。公開情報のことを、オシントと言う。
![ノートパソコンと図書](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/7/1200wm/img_2718bb060e9ae535ee80009df0f44c5b403044.jpg)
非公開情報は、文字通り一般には隠された情報だ。国家や企業の秘密から、個人が持っている秘密スキルや情報、居酒屋の秘伝のタレまでさまざまである。
その非公開情報には、「人に接近して取る情報」であるヒューミントと、「技術的手段を駆使して取る情報」であるテキントがある。
テキントには通信傍受や偵察衛星などを使うものがあるが、一般ビジネスパーソンにはあまり関係がないので深く知る必要はない。
これらの情報発信元を情報源と言う。
単独で活動する諜報員は、公開情報(オシント)と人的情報(ヒューミント)が主な情報源である。
公開情報は、全体のインテリジェンスの90%以上を占めるとされている。諜報員は、まず公開情報を集めるということだ。
我が国の諜報員の最高峰と称される明石(あかし)元二郎(もとじろう)は、日露戦争時にロシアやスウェーデンで、ロシアに敵対する協力者を獲得して諜報活動を行なった。
そのとき、まずは公開情報によるロシアの事前分析を行なっているが、その綿密さには驚かされる。興味があれば、明石の書いた『落花流水』をおすすめする。
一般ビジネスパーソンも、オシントとヒューミントは活用できる。
現在では、さまざまな情報がインターネット上にあるので、心がけ次第でいくらでもオシントは集められる。
ただし、価値のある情報と価値が無い情報が入り混じっているし、誤情報やニセ情報が流されている。さらには、情報操作も行なわれているので注意が必要だ。
■情報収集に役立つ、CIA元副部長の「HEAD」思考法
「どんな情報を集めるか」ということをわかっていない諜報員はいない。
なぜなら、諜報員には、分析部署から情報収集の指示があり、その分析部署には、意思決定者から「戦略を立案するために必要な情報が欲しい」という指示が与えられるからだ。
この「情報収集の指示」は「情報要求」と呼ばれるが、情報を収集するための方向性を定める上でとても重要だ。
現代社会は情報が氾濫している。多くのデータを集めれば、必要とされているインテリジェンスを作成できる可能性は高まる。
だが、すべての情報が価値を持っているわけではない。分析を混乱させるゴシップやニセ情報が含まれていることが多い。
だから、分析担当は氾濫するデータの渦から、本当に必要なインテリジェンスを選り分けなければならない。
これは、インテリジェンスの業界用語では「小麦ともみ殻を選り分ける」「ノイズからシグナルを取り出す」と言われる。
![データ分析](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/1/1200wm/img_e1b690ee56a43f628ae36e16d50648c5364503.jpg)
元CIAの副部長のフィリップ・マッド氏は著書『CIA極秘分析マニュアル「HEAD」』の中で、「CIAは“紙の時代からデジタルの時代に急速に移行し”、すでに1990年代の湾岸戦争では、著者の周囲には膨大な量の『秘密情報の山』があった」というような内容を語っている。
しかし、マッド氏は膨大な秘密情報から、湾岸戦争での戦略・判断に必要なインテリジェンスをなかなか取り出せなかった。
マッド氏は「情報の泥沼からどのように抜け出せるのか?」「何が重要であり、何を捨てるべきか?」に苦悩した。
この経験から生まれたのが、一般人やビジネスパーソン向けの分析術「HEAD」である。
ちなみに、「HEAD」とは、「High(高い)」「Efficiency(効率)」「Analytic(分析)」「Decision-making(決断をつくる)」の頭文字を合わせた言葉だ。
「HEAD」思考法は、次のような手順を取る。
2 次に、「問い」を明らかにするための枠組みを決める
3 そして、「枠組みの中に収まる、問いの解明に必要な情報だけを集める」
つまり、「問い」とは、国家情報機関の「情報要求」に相当するもので、「問い」の設定は、一般人やビジネスパーソンの情報収集の方向性を定めるものだ。
■不必要な情報にアクセスすることがなくなる
「問い」の設定を簡単な事例で紹介してみよう。家を購入するときのことを考えてみよう。
家の購入前には、いきなり住宅展示場に行ったり不動産業者に飛び込んだりしても、良い決断をするための材料は得られない。
まず、現在の生活スタイルを守ることができて、職場への通勤が1時間以内の物件はあるか、といった「問いを立てる」。
次に、居住地、価格・ローン、間取り(広狭)、周辺環境、ハザードマップ、設備といった知りたいことの「枠組みを設定」する。
こうして、「集める情報を絞り」、意思決定に結びつける。
この思考法を使えば、不必要な情報にアクセスすることはなくなり、効率的な分析と意思決定ができる。
■有報、IR…公開情報はインテリジェンスの生材料にすぎない
海外で活躍する諜報員は、事前に国内で赴任国のことを勉強する。そして、現地のさまざまな公開情報を集める。
また、赴任先では、地域にある程度溶け込んでから、知りたい情報を持っている人物(ターゲット)に接近する。その際、いきなりターゲットに近づいて警戒されるようなことは避け、じっくりと間合いをつめる。
情報収集では、第一に「目的を明確にする」、第二に「事前準備を行なう」、第三に「利用できる者から着手する」ことが重要であり、いきなり無理をしてはいけない。
一般ビジネスパーソンが情報を集める場合も同様だ。
ビジネスパーソンが競合他社についての情報を知ろうとするときに、いきなりエージェントと接触したり、探偵を雇って情報を入手するといった強引な方法はできないだろう。
まずは、会社のホームページであったり、有価証券報告書、IR情報を見るといった公開されている情報を見るのが基本である。
ただし、その情報はインフォメーションであって、インテリジェンスではない。つまり、情報はインテリジェンスの生材料にすぎないのであって、そのまま使用すればヤケドするということを認識してほしい。
■「最終的にどう使うのか」というイメージを確立せよ
現在、公開情報は充実しており、誰もが安全に利用できる。しかし、公開情報は他の情報源と異なり、受動的に入ってくるので、疑わしい情報が多いし、情報収集の目的を失いやすい。すなわち、目的を明確にしないで、ただ情報を集めることに没頭するという“愚”を犯しかねないのだ。
情報には使用目的がある。どのような意思決定に使用するのかという目的を、自分なりに明確にしておくことが大切だ。つまり情報を、「最終的にどう使うのか」というイメージを確立させよということだ。
また、情報から価値あるインテリジェンスを得るには、異なる情報と照らし合わせそこで情報の疑問点や齟齬(そご)をなくすことが重要である。
他の情報とつき合わせることで、情報の正確さを確認できる。結び合わせることで、モレのない情報が出来上がる。
特に玉石混淆(ぎょくせきこんこう)の公開情報では、相手側の分析、推測、解釈、意見が混入しているので、しっかりと分別する必要がある。
たとえば、新聞記事は推測を事実のように記述したり、記者の思想に読者を誘導するような仕込み記事が書かれることもある。ビジネスパーソンもよくよく注意してほしい。
公開情報といえども、しっかりと分析して磨き上げれば、価値のあるインテリジェンスとなる。
■公開情報の組み合わせで「ダイヤモンド」になる
このことをあなたに理解していただくために、次の話を紹介しよう。第二次世界大戦前の1935年頃の話。
ヒトラーは、ドイツ情報機関のトップであるニコライ大佐を呼びつけて叱責(しっせき)した。
当時、ナチスから追放され、ロンドンに亡命中のドイツ人医師ヤコブが書いたドイツ軍に関する小説の中で、軍事組織の詳細が明らかになってしまったからだ。
ヒトラーは、ドイツ軍の何者かがヤコブに情報を漏洩(ろうえい)したと考えて、ニコライ大佐に調査を命じた。
情報機関はヤコブをスイスに連れ出し、そこで誘拐しようと試みた。
ニコライ大佐は配下に命じて、スイスに出版社を開かせた。情報機関がこしらえた出版社は、ヤコブに「先生の本を出版したいので、旅行もかねて夫婦同伴でスイスに来られたし」という手紙を送った。
スイスにやってきたヤコブは、商談目的ということでレストランでもてなされ、そこで睡眠薬を盛られて、鉄道でドイツに連れ出された。
![上田篤盛『超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル 仕事で使える5つの極秘技術』(ワニブックス)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/b/1200wm/img_1b429e8456ac30c7dbf63c3e07010570261485.jpg)
そして、ドイツ調査委員会によってヤコブは尋問された。しかし、彼は「すべての情報はドイツの新聞から得たものだ」とし、スパイ容疑を否認した。
実は、彼はドイツ軍人の結婚式や葬儀の出席者を丹念に調査し、ここからドイツ軍の指揮官名や編成組織を解明したのであった。
インターネット上にはインテリジェンスの原石が山のように眠っている。分析術を鍛え、他の情報と組み合わせれば、公開情報からダイヤモンドのようなインテリジェンスを手にすることができるのだ。
ただし、繰り返すが、「情報の氾濫」に巻き込まれないように目的意識を持つことを絶対に忘れてはならない。
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元防衛省情報分析官
株式会社ラック「ナショナルセキュリティ研究所」シニアコンサルタント。1960年広島県生まれ。防衛大学校(国際関係論)卒業後、陸上自衛隊に入隊。2015年定年退官。在職中は、防衛省情報分析官および陸上自衛隊教官として勤務。93年から95年まで在バングラデシュ大使館において警備官として勤務し、危機管理などを担当。現在、官公庁および企業において、独自の視点から「情報分析」「未来予測」「各国の情報戦」などに関するテーマで講演を行なっている。
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(元防衛省情報分析官 上田 篤盛)
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