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意外にも発信源はツイッターではない…最新研究でわかった「デタラメな陰謀論」を生む危険なメディアの名前

プレジデントオンライン / 2023年1月31日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dusanpetkovic

荒唐無稽な陰謀論はどこで生まれるのか。『陰謀論』(中公新書)を書いた京都府立大学の秦正樹准教授は「『SNS悪玉論』が支持されやすいが、統計的には、民放の政治番組などのほうが、陰謀論との関連が強い」という――。(インタビュー・構成=ライター 梶原麻衣子)

■ツイッターの利用頻度と陰謀論は関係が薄い

――秦さんの新著『陰謀論』(中公新書)でかなり意外だったのは、陰謀論や陰謀論者が発生するのはSNSの働きが大きいとする「SNS悪玉論」が否定されていたことです。

【秦】特にツイッターに関して〈ツイッターの利用は、むしろ陰謀論的信念の低さと関連している〉と分析しました。元々政治に相当程度の興味があって、そういうアカウントばかりフォローしている人にとっては、「ツイッターはいつもどこかで政治的な話で炎上している」というように見えてしまうのでしょう。しかしこれこそがフィルターバブルの世界です。

私が5年ほど前にツイッター上のオープンなアカウントのデータを機械的に収集して分析したところ、政治的なトピックを扱っているのは全体の10%にも満たない程度でした。しかも大半は「増税は勘弁してくれ」という程度で、いわゆるネトウヨのような激しい政治的意見を書き込みしている人の割合は本当にごくわずかです。

多くのアカウントは、「上司がうざい」とか、最近なら「キンプリ(King & Prince)からメンバー脱退に衝撃」とか、「サッカーのワールドカップで日本が健闘!」というような、日常的な話題がほとんどです。僕の調査でも、特に若年層ではツイッターの利用頻度が高くても、陰謀論的信念が高まるわけではない、という結果が出ています。

SNS、中でもツイッター悪玉論を唱えてしまう人たちは、日頃から、自分自身が「政治ネタの論争化、陰謀論化している部分だけ」を見ているからそう思ってしまうのかもしれません。ツイッターユーザー全体から見れば、ごくごく薄い部分の話をしているに過ぎないということを認識するべきです。

本書で紹介した調査では、「ツイッターをよく利用している人ほど、『自分自身は陰謀論やデマの影響を受けにくい』が、『自分以外の第三者はそうした影響を受けやすい』と考えている」ことも分かりました。

このような背景にあるメカニズムを「第三者効果」といいますが、こうした認識が「SNSでは陰謀論が跋扈(ばっこ)して、影響を受ける人が増えている」という論調や認識を生んでいる可能性があります。

一方で、実際に、統計的に「陰謀論的信念の高さと関連がある」と言えるのは、民放の政治番組を視聴する頻度です。

また、まとめサイトに関しても若年層やミドル世代では閲覧頻度と陰謀論的信念の高さに関係性はみられませんでしたが、年配層の場合は関連がみられました。

■陰謀論に右派、左派は関係ない

――本書は、多くの陰謀論の解説本が話題にすることの多い右派・保守の事例だけでなく、左派・リベラルの事例も分析されているのも特徴です。

【秦】陰謀論を信じている人たちとして目立つのは右派や保守が多いのは確かだと思いますが、一方で左派の人たちも陰謀論を唱える人は結構な数でいます。

特にこの10年ほどの間、左派的な野党支持者の中に、陰謀論的なものを信じる人たちが増えてきているように思います。

――それは長期にわたって安倍政権だったことの影響ですか。

【秦】そう思います。安倍・菅路線というのは、国際的に見れば、一部の国ほどに極端な右傾化というわけでないと思いますが、日本のリベラルからすれば、「極右」的で許せないことのオンパレードだったと言えるでしょう。

そんな「気に食わない政府」なのに、長期にわたって多くの人は支持しているし、政権も安定して続いた。そのために、批判する側である野党支持者は長い間、「政権に対してどんなに批判的な声をあげても、選挙で変えようと思っても、全く何も変わらない。むしろどんどん悪化している」という経験を強いられ、フラストレーションをため続けていると考えても不自然ではありません。

「何を言っても、自民党にかき消されてしまう」「どんなに応援しても、自民党政権を倒せない」、こうしたフラストレーションは陰謀論の受容しやすさにつながる。

実際に、日本以外の多くの国でも、選挙に負けた人たちは陰謀論を信じやすくなるという傾向があるという研究もあります。

■Qアノンが生まれた構図

【秦】もっとも、これは右派・左派どちらにも当てはまる傾向です。

実際、アメリカで右派のトランプ支持者が2020年の大統領選で負けて陰謀論に走ったのは、「トランプが勝つはずなのに、負けてしまった」という思い込みに依る部分が大きかったと思われます。

選挙で負けたという現実を否定したい気持ちから、「トランプ敗北というあり得ない一大事の裏には、意図的に仕組まれた秘密のたくらみがあったに違いない」という考えに引きずられてしまったと考えるべきでしょう。

ドナルド・トランプ
写真=iStock.com/olya_steckel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/olya_steckel

――Qアノンと呼ばれる人たちですね。

【秦】彼らは最終的には議会襲撃事件まで起こしてしまいました。自分にとっての「あるべき現実」と「現実」の間に乖離(かいり)があると、陰謀論が入り込む余地が生まれてしまう。2020年の米大統領選は、まさにその典型です。

日本でも、例えば保守からすれば「防衛費はもっと増えるべきなのに、そうならないのは誰かが邪魔している」となる。リベラルからすれば「リベラル政党が負け続け、ネトウヨが跋扈する右傾化した世の中になったのは、誰かがそう仕組んでいるからに違いない」と考え始めると、陰謀論的思考につながっていきます。

リベラルは保守の陰謀論を批判しますし、保守も、リベラルだって陰謀論を信じていると批判しますが、僕から見れば、お互いに実態が見えていないところがあって、右でも左でも、陰謀論が発生する理屈はどちらも同じです。

今のところ可能性は低いように思いますが、仮に日本で、立憲民主党が与党になって長期政権になったとしたら、今度は保守の側が、「日本は中国や韓国の勢力に牛耳られている」「選挙不正が行われている」と堂々と言い出す可能性は十分にあります。

■政治家にとって有益な陰謀論

――確かに「ネトウヨ」が勢力を増したのは自民党が政権の座から滑り落ち、民主党政権になった時代でした。

【秦】本書でも「なぜ反中・嫌韓的なネトウヨが『普通の日本人』と言いたがるのか」という説明で、「相手がこっちを嫌うなら、こっちだってもっと相手を嫌ってやる。そう思うのが普通の日本人の感覚のはずだ」という素朴な心理が働いているのではないかと解説しました。

――「ネトウヨ的」な話題で言えば、最近、自民党の杉田水脈議員の過去の発言が議論の的になりました。

【秦】陰謀論的言説と政治家の関係で言えば、陰謀論を言うインセンティブが最も高いのは政治家だと思っています。政治家による陰謀論の発信は、支持層を新たに広げることにはあまりつながりませんが、すでにいる支持者を固めるのには役に立つ。これも、与野党関係ありません。

――立憲民主党の原口一博議員が予算委員会などで「ディープステート(闇の政府)」に言及したり……。

【秦】しかも、日本では、危なっかしい政治家がいてもせいぜいツイッターの一部で取り上げるくらいで、デモや署名のような形で直接政治家に訴えることは少ない。つまり、選挙くらいしか政治家をジャッジする機会がないために、陰謀論を支持固めに使う政治家は、次の選挙までの間、議会やその他の場所で陰謀論を発信し続けることができてしまう。

さらには、当選回数を重ねている議員が陰謀論を口にすると、「あの人がそこまで言うのだから、実際に何かあるんだろうな」と思ってしまう人が一定数出てくるのも問題です。

政治家に対しては、ある種の模範的な市民、選良であるべきだという印象を持っている人は今なおいます。それに「少なくとも政治家には一定の良識がある」と仮定しなければ、そもそも代議制なんて成り立ちません。そうであるだけに、政治家発の陰謀論は一般人が発信するそれよりも明らかに悪質です。

■「メディアは隠しているが…」のウソ

【秦】さらに言えば、自衛隊や外務省のOBなどが陰謀論を口にするのもかなり大きな問題だと思っています。

一般人には情報が入らず、しかも分かりづらい軍事や外交の話題において、OBであっても自衛隊や外交関係者が危機を煽ると「自衛隊や政府は、間もなく戦争が始まるという情報をつかんでいるのだろう。だからああいう主張をしているに違いない」と思って鵜呑みにする人も出てきてしまいます。

しかし、本当に戦争が始まる時には、国内外のメディアが大々的にその兆候を報じるでしょう。安全保障環境が変化してきているからこそ、一部の元関係者はより丁寧で慎重な言葉選びが求められるはずです。

ニュース速報
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

■陰謀論にハマる人の特徴

――「政治に興味を持ちすぎることが、陰謀論にはまり込む原因になる」という指摘もありました。どのように「ほどほど」を保てばいいのでしょうか。

【秦】日常的な出来事に関心のある人は、陰謀論信念を持ちにくい傾向があります。それはよく考えれば当たり前で、「普通」に暮らして、自分の生活や職場の話、子供の教育、スポーツや芸能人の話題に関心が高い人は、「日常」というフィルターバブルの中で生活していますから、政治の話や、まして陰謀論など入り込む余地がない。

――ほとんどの人にとっては議会の解散より、キンプリのメンバー脱退の方が圧倒的に重大事件。

【秦】陰謀論にハマってしまう人は、特に党派性的な観点から政治に関心を持つことで、自分から陰謀論に近寄ってしまっています。

民主主義国である以上、有権者は相応の政治的関心を持つべきで、そんなことは当たり前ですし否定するような話でもありません。

しかし「韓国は絶対に許せない」とか「アメリカがロシアを追い詰めた」、あるいは「メディアは大事なことを報じない」といったところから入ってしまうと、確かに政治への関心は高まりますが、同時に陰謀論も引き寄せてしまう。

■これが出たら危険信号

もちろん、先ほども言ったように、政治に関心を持つな、ということではありません。

秦正樹『陰謀論』(中公新書)
秦正樹『陰謀論』(中公新書)

そうではなく、「住宅ローン減税の適用期間が短くなったな」とか、「俺のタバコ代の一部が防衛費になるのか」といった、日常生活への影響をメインに物事を考える方が健全ではないか。政治に対しても、自分の生活に密接なところからの関心を持つことが「適度」を保つ一つの方法だと思うんです。

ツイッターでも政治的な意見ばかりではなく、「○○で食べたランチとても美味しかった」みたいな日常的なつぶやきもする。それが自分にとっての防波堤にもなります。

もちろん、人それぞれの「適度」があります。選挙前やニュースを見たときに政治に関心を持つのは当然ですが、職場に行っても、家族や友人とご飯を食べていても、政治の話題が頭から離れない、となったら危険信号、と思っていいのではないでしょうか。

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秦 正樹(はた・まさき)
京都府立大学公共政策学部准教授
1988年生まれ。2016年、神戸大学大学院法学研究科(政治学)博士課程後期課程修了。神戸大学学術研究員、関西大学非常勤研究員、北九州市立大学講師などを経て、京都府立大学公共政策学部公共政策学科准教授。著書に『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』(中公新書)。

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(京都府立大学公共政策学部准教授 秦 正樹 インタビュー・構成=ライター 梶原麻衣子)

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