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バブル組を"排除"したい…トップ企業は"異次元"の年収3年分だが中堅は1年分「割増退職金2023」の最強寒波相場

プレジデントオンライン / 2023年1月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chipstudio

グーグル、マイクロソフト、メタなど米IT企業の大規模リストラが相次いでいるが2023年の日本はどうなるか。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「各社ともバブル期入社世代への対応に苦慮している。業界トップ企業なら割増退職金として年収3年分の上乗せができるが、中堅大手は1年分がやっと。辞めさせるには2年分ないと厳しい」という――。

■日本に米IT企業並みのリストラが襲来する日

アメリカのIT企業の大規模リストラが相次いでいる。

フェイスブックを運営するメタが1万1000人超、アマゾンが1万8000人超の削減が話題になったが、その勢いは今年に入っても止まらない。

1月18日、マイクロソフトが従業員の5%弱にあたる1万人を解雇することを発表。20日にはグーグルが世界で約1万2000人を解雇すると発表した。超巨大IT企業に限らず、アメリカではIT企業のリストラが続いており、2000年初頭のITバブル崩壊以来の規模と言われている。

一方、日本企業のリストラはコロナ不況の20~21年は2万5000人超のリストラが実施されたが、現在は小規模のものはあるが、ほぼ無風状態といってよい。

逆にちょっとした賃上げムードに沸いているが、今年は世界的な景気減速も指摘されており、いつ日本にリストラの風が吹き荒れるのか予断を許さない状況にある。

グーグルのスンダー・ピチャイCEOは20日、リストラの理由について従業員向けのメールで「創業から約25年の企業として、当社は困難な経済サイクルを経験することになります。これらは集中力を高め、コスト基盤を再構築し、人材と資本を最優先事項に向けるための重要な時期」と説明している。

リストラの理由は、日本のリストラの典型である「早期退職者募集」のニュースリリースとさほど変わらないが、ピチャイCEOは従業員に対して以下のメッセージも送っている。

「これは私たちが一生懸命に雇用し、一緒に働くことを愛してきた信じられないほどの才能のある人々に別れを告げることを意味します。大変申し訳ございません。これらの変更がGoogle社員の生活に影響を与えるという事実は、私に重くのしかかっており、私たちをここに導いた決定について全責任を負います」

従業員に謝罪し、経営陣が潔く経営責任を認めるメッセージを従業員に発信するのは、日本企業では珍しいのではないか。少なくとも対外向けのリリースでは見たことがない。

■解雇されたグーグル社員が手にする「13カ月2860万円」

アメリカは世界でも珍しい使用者が正社員をいつでも自由に解雇できる原則解雇自由の国であるが、ヨーロッパや日本は「正当な理由なき解雇は無効」とする解雇制限がある。

しかしそのアメリカでも労働組合との間で「解雇には正当な理由が必要」との「労働協約」を結んでいれば、苦情仲裁制度に申し立て、正当な理由がないと判断されると元の職場に戻れる。

失業中のビジネスの人々のシルエット
写真=iStock.com/chipstudio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chipstudio

原則解雇自由のアメリカでも日本の早期退職者募集と同じように「特別退職金」を支給する企業も少なくない。

グーグルもアメリカ国内で退職する人に退職金を含む以下の役務を提供するとしている。

① 通知期間中(最低60日)は従業員に支払う。
② 16週間の給与に加えて、グーグルでの勤務1年ごとに2週間の退職金パッケージを提供し、GSUの権利規定を少なくとも16週間早める。
③ 影響を受ける人々には、6カ月間のヘルスケア、就職支援サービス、移民サポートを提供する。

通知期間中とは、「米労働者調整・再訓練予告法」(WARN法)によって大量解雇を行う場合は、60日前までに労働者に通知することを使用者に義務づけている。違反すると予告期間に足りない分の賃金を請求することに基づいたものだ。

退職金は②の部分だ。仮に10年勤務していた場合は16週+40週=56週となり、月数で13カ月分となる。ちなみにアメリカ本社の平均年収(2019年4月提出の有価証券報告書)は2648万円(1ドル約107円)。1カ月平均約220万円。13カ月で2860万円。現在は円安ドル高なのでもっと高くなるが、金額自体は日本の大企業の割増退職金と比べても決して見劣りしない。

GSUとは「グーグル・ストック・ユニット」のことで社員に付与されたストックオプションのようなものだ。

■日本企業のリストラ割増金の相場

ところで日本の今後のリストラの潜在的な火種の要因となっているのが、バブル期入社世代への対応だ。1988年から1992年にかけて入社した人たちで、社内のボリュームゾーンとされる。88年入社の社員は今年57歳になるが、4年後には60歳定年に到達する。その後は定年後再雇用となり、場合によっては70歳まで雇用しなくてはいけなくなる。

労働人口が減少していくとはいえ、全員を雇用することに躊躇する企業も少なくない。上場企業の建設関連会社の人事担当者はこう語る。

「50~60代をどうしていくのかという戦略が定まっていない企業も多い。必要な社員もいればそうでない社員もいる。定年後再雇用になると給与も減少し、モチベーションが下がるという現実もある。現在、60歳を迎えるのは毎年数百人程度だが、バブル期入社組になると一挙に2~3倍に増える。人件費の増額を抑えるために中堅社員の給与を減らさないといけなくなるし、採用も抑制することになりかねない。バブル組をどうしていくか悩んでいる企業は多いだろう」

将来への不安について考える人
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

そこで一つの解決策が50代のうちに早期退職者募集を実施し、一挙に削減する方法だ。人事担当者は「あっさりと見切りをつけた企業はすでにリストラを行っている。割増退職金をつけた希望退職者募集をかけて定年後再雇用を選ばないような形に持っていく企業もある。実はできればやりたいと思っている企業もあるだろうが、ネックとなるのが割増退職金だ」と語る。

早期退職者や希望退職者に募集する際に、通常の退職金にプラスして割増退職金と、オプションで再就職支援会社を通じた就職支援サービスを付けるのが一般的だ。

割増退職金は月給の何カ月分にするかが目安となるが、今では12~24カ月分、多いところでは36カ月分も支給する企業もある。50代の大手企業の年収は大体800万~1000万円であるが、年収1000万円の社員であれば36カ月(3年分)だと3000万円になる。

通常の退職金が2000万円だとすれば計5000万円になる。

■大手は3年分、中小は1年分「割増退職金」の天国と地獄

メディアに登場する大手企業の希望退職者募集の割増退職金の相場も3年分(36カ月)が多く、募集人数に対し、応募者が上回るケースも多い。しかしそれだけの金額を支給できる会社は少ない。前出の人事担当者はこう語る。

「当社の50代の年収は非管理職で800万円、管理職で1000万円ぐらいだ。しかし割増退職金で出せるのは12カ月分、つまり年収の1年分程度だ。他社でも1年分が相場だと聞いている。しかし1000万円程度では社員は会社を辞めないだろう。少なくとも2年分、2000万円を出せば自ら辞める社員も出てくるだろう。かつて老後の生活には2000万円が必要と言われたが、通常の退職金で住宅ローンの残額を支払った上に2000万円もらえるのであれば、奥さんも説得できるのでないか」

50代の社員を辞めさせたくても年収の1年分しか出せない会社が多いという。バブル期入社組が60歳定年を迎えるのは4年後だ。「このままずるずる引き延ばしてもよくないと思うが、解決策がなかなか見つからない」(人事担当者)という悩みを抱えている企業が多いのが現実だ。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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