1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

男性はお酒離れしているが…産業医が「30代以上の女性の飲酒率増加」を心配する深刻な理由

プレジデントオンライン / 2023年1月26日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

飲酒による健康リスクに、男女差はあるのだろうか。産業医の池井佑丞さんは「男性や若年層の飲酒は減っている一方で、30代以上の女性だけ飲酒率が上がっている。しかし女性の体の方がお酒の影響を受けやすく、肝硬変やアルコール依存症にもなりやすい」という――。

■30代以上の女性だけ飲酒率が増えている

近年、飲酒離れが進んでいます。特に若い人ほどその傾向が強く、20代、30代では過半数が日常的な飲酒習慣をもたないとも言われています。ただ、全体として飲酒率や飲酒量は減少していますが、コロナ禍の影響で飲酒量が増えたという声があがっていたり、高アルコール飲料が人気となるなど、飲酒の状況は多様化しています。さらに最近では、女性の飲酒が増加していることも指摘されています。

日本の飲酒習慣者の男女年齢別割合を平成元年(1989年)と令和元年(2019年)で比較した結果、男性の飲酒習慣率はすべての年代で減少傾向にありますが、女性では男性ほど減少していません。むしろ、30代以上の女性の飲酒率は増加しています。増加割合は、30代では3.1%、40代では4.4%、50代では10.1%、60台では4.0%といずれも優位に増加しています。生活習慣病のリスクのある飲酒者(男性40g/日以上、女性20g/日以上アルコールを摂取している人)の割合についても、男性はほとんど変わっていないのに対し、女性は増加しているそうです(e-ヘルスネット「わが国の飲酒パターンとアルコール関連問題の推移」)。

女性の飲酒が増えた背景の一つとして、女性の労働人口が増加したことが挙げられます。男性と同じように働く女性が増えたことで、かつては男性中心であった“飲み”の場に女性が参加することは珍しくなくなりました。また、酒類業界では女性をターゲットにしたマーケティング展開が一般的になり、お酒のCMに若い女性を起用することも当たり前になりました。女性が男性と同じようにお酒を楽しめるようになったことは悪いことではありませんが、女性は男性よりも体質的にお酒に弱い傾向があります(その理由については後述します)。女性の飲酒では男性よりも少ない飲酒量で健康影響が出ることや、女性特有のリスクがあることを念頭に置いてほしいと思います。

■「目安の飲酒量」は男性の半分

飲酒による女性特有のリスクをご説明する前に、国が推奨する飲酒量の目安についてご紹介しておきます。厚生労働省が推進する国民の健康増進方針「健康日本21」では、「節度ある適切な飲酒量」は一日あたり純アルコール約20g程度とされています。20gを超えると飲酒量に比例して死亡率が上昇することが、国内外の研究で明らかになっているそうです。ですが、この20gという数値は男性の身体を想定した値です。女性の場合は、男性の半分程度が適当とされており、純アルコール量10gになります(純アルコール量については商品パッケージやメーカー各社のWebサイトに記載がある場合が多いです)。

■肝硬変やアルコール依存症になりやすい

女性が男性に比べて体質的にお酒に弱いのは、なぜでしょうか。

お酒の強さには個人差がありますが、それはアルコールの分解能力が人によって異なるためです。飲酒により取り込んだアルコールは、体内の水分や血液中に溶け出します。女性は男性と比べて体脂肪が多く、体内の水分量が少ない傾向にあることに加え、体も小さいことから、男性と同じ量の飲酒をしても、体内のアルコール濃度が高くなりやすいのです。さらに、女性ホルモンがアルコールの代謝を妨げるため、女性は男性よりもアルコールの分解に時間を要します。このため女性は男性よりもアルコールによる健康影響を受けやすく、体質的にお酒に弱い傾向があるのです。

こうしたことから、女性は男性の3分の2程度の飲酒量で肝硬変に至ること、アルコール依存症については男性の半分ほどの期間で発症することがわかっています。

■飲酒は女性の健康にどう影響するか

以下、女性特有の健康リスクについてご紹介します。

・PMSを悪化させる

PMS(月経前症候群)はエストロゲンやプロゲステロンという女性ホルモンの分泌と関連が深いことがわかっていますが、これらの女性ホルモンにはアルコールの代謝を抑制する作用があります。月経前の体内では、エストロゲンの分泌が急激に増加し、続けてプロゲステロンが増加します。そのため月経前は普段よりもアルコールの影響を受けやすくなるのです。

飲酒がPMSになる可能性を1.45倍高めること、特に過剰なアルコール摂取をすると1.79倍高めるという研究もあります(※1)。PMSの症状に悩んでいる人の中には、「お酒を飲むと一時的に症状が楽になる」と、月経前に飲酒をされる方がいるかもしれません。ですが、依存症につながる危険もありますので月経前の飲酒は、むしろ普段よりも控えることをおすすめします。

※1 del Mar Fernández, et al, Premenstrual syndrome and alcohol consumption: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open. 2018 Apr 16

腹痛で苦しんでいる女性
写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn
・乳がんリスクを高める

乳がんは、日本人女性が罹患(りかん)するがんのうち最多の割合を占めます。男性も発症することはありますが圧倒的に女性の発症が多いがんです。アルコールが危険因子となるがんは多くありますが、乳がんもその一つです。

国内における飲酒習慣と乳がんの関係を調査した研究をご紹介します。乳がんを罹患した人を飲酒習慣ごとにグループ分けしたところ、アルコール換算で週に150g以上飲酒するグループでは、飲酒したことがないグループに比べ、1.75倍リスクが高いことがわかりました(「飲酒と乳がん罹患との関係について」国立がん研究センター 多目的コホート研究)。

乳がんには、女性ホルモン(エストロゲン)ががん細胞の増殖に深く関わる「ホルモン依存性」のものと、そうでないものとがあります。エストロゲンはアルコールと同様、肝臓で代謝されるため、お酒を飲むとエストロゲンの代謝がおろそかになり、血中のエストロゲン濃度が上昇します。これが乳がんリスクを上げてしまう可能性があるのです。

・骨粗しょう症リスクを高める

お酒を飲むと、アルコールの利尿作用により用を足す回数が増えます。この時、尿とともにカルシウムも排出してしまうため、飲酒は男女ともに骨粗しょう症のリスクとなります。

もともと骨粗しょう症は女性に多く、男性の3倍とも言われています。特に更年期以降の女性は、骨の代謝に関わる女性ホルモンの分泌が減少するために、骨がもろくなりやすくなります。お酒を飲むと、カルシウムを多量に排出してしまうため、骨粗しょう症リスクに拍車がかかります。また、過剰な飲酒は骨密度を低下させることもわかっています。

・妊婦の飲酒は胎児に影響する

妊娠中の飲酒は、胎児の先天異常の原因となります。これは「胎児性アルコール・スペクトラム障害」と呼ばれ、生まれてきた子どもに特徴的な顔貌や発達の遅延が認められることがあります。その他にも、低体重児や早産、流産のリスクも高まります。妊娠がわかった時点で飲酒をやめること、妊娠中は少量の飲酒もしないことが肝要です。

■女性特有のリスクに留意を

昨今は、「在宅勤務の流れで早い時間から飲酒をしてしまう」「家で長い時間飲み続けることが習慣化してしまった」などのケースが見られ、過剰な飲酒につながりやすい状況とも言えます。健康を損ねるような飲み方を控えるべきことは、男女ともに変わりありませんが、女性の場合は男性よりも飲酒の「適量」が少なく、女性特有のリスクもあります。

お酒が好きな女性はもちろんですが、一緒に飲酒する男性にもこの点を知っておいてほしいと思います。これらを理解したうえで、節度ある飲酒に努めていただきたいと思います。

----------

池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

----------

(産業医 池井 佑丞)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください