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当選のためには「立憲→自民」の移籍もやる…今井瑠々氏のような"非常識候補者"を選んでしまう根本原因

プレジデントオンライン / 2023年1月30日 9時15分

記者会見で岐阜県議選への出馬表明をした今井瑠々氏(中央)=2023年1月13日、岐阜市 - 写真=時事通信フォト

2021年秋の衆院選で全国最年少候補として立憲民主党から岐阜5区に出馬した今井瑠々氏が、今春の岐阜県議選に自民党推薦での立候補を表明した。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「こうした非常識な鞍替えが起きる根本には、地方議員の『なり手不足』という問題がある。無投票当選が続くと、資質に欠けた候補者がどんどん出てきてしまう」という――。

■立憲→自民の「禁断の移籍」を表明した今井瑠々氏

立憲民主党に所属していた今井瑠々(るる)氏が、同党を離党して今春の岐阜県議選に自民党の推薦を得て無所属で立候補する考えを表明した。2021年秋の前回衆院選岐阜5区に立憲から全国最年少候補として出馬し、自民党のベテラン・古屋圭司氏に肉薄した若手のホープが、報道によれば、自ら直接戦った相手の軍門に降ったわけだ。

裏切られた形となった立憲は今井氏から出されていた離党届を受理せず、同氏を除籍処分とした。

さすがにここは「有望な若手に逃げられた立憲」などと言って冷笑するところではないだろう。「逃げた」側の今井氏の行動が、政党政治家というより、社会人としても非常識に過ぎるからだ。一般企業における転職活動でさえも「こんなやり方はすべきではない」と言われるのが普通ではないだろうか。

■「目指すもの」が全く見えない候補者

筆者は少し別のところに無力感を覚えている。

この場で何度も書いてきたが、小選挙区制を主体とする衆院の現行の選挙制度の下では「目指すべき社会像を異にする二つの政治勢力が、政権をかけて戦う」のが衆院選のあるべき姿だと考えている。国民は衆院選の投票行動によって、どちらの政治勢力に政権を任せるか、つまり「どんな社会像を目指すのか」を自らの手で選ぶものだと。

自民党の安倍晋三元首相は在職当時「この道しかない」と繰り返していた。これに対し、野党第1党の立憲民主党と党所属の政治家がやるべきことは「本当にこの道しかないのか」「別の道を歩むべきではないのか」と、時の政権に問い返すことであるはずだ。

「目指すべき社会像」が真逆の政党に簡単に移れる、ということは、つまりその政治家に、もともと「目指すべき社会像」がないというのに等しい。今井氏は自民党岐阜県連での記者会見で「政党が変わっても、目指すものは何も変わらない」と語っていたが、その「目指すもの」とは何なのだろう。

■野党から与党に転じる政治家自体は珍しくはない

「野党から与党に転じる政治家」はこれまで何人も見てきた。例えば2015年に旧民主党を離党し、17年に自民党に入党した松本剛明総務相は、民主党の菅直人政権で外相を務めた経験の持ち主だ。今さら驚くには値しない。

ただ、松本氏をはじめ、現在自民党に所属している旧民主党系の政治家は、おおむね2000年代初頭の初当選組だ。この当時、民主党はそれまで野党第1党だった新進党の突然の解党と、同党所属議員の入党などによって党の保守化が進みつつあった。また、政権交代への期待感も、現在の状況に比べればかなり高かった。そんな中で、選挙区事情などで自民党からの出馬がかなわなかった保守系の人材が、民主党から出馬するケースは珍しくなかった。

もちろん、だからといって安易な政党の鞍替えを容認するものではない。ただ、当時の「自民vs民主」の二大政党は、結果として「目指すべき社会像」の対立軸が明確でなかったがゆえに、こういう議員を生んだと言えなくもない。

■現在の政局は与野党の対立軸が明確になっている

ただ、現在は当時とは状況が違う。

民主党が2012年に政権の座を降りた後、17年の「希望の党騒動」によって、野党第1党の「目指すべき社会像」の整理はかなり進んだ。寄り合い所帯で党内対立が絶えなかった民主党(この時点では民進党に改称)が、改革保守系(希望の党)とリベラル系(立憲民主党)の2党にざっくりと分かれ、最終的に現在、立憲が第1党として野党の中核を担っている。後の野党再編で、結果として現在の立憲が「民主系の再結集」に見えるかもしれないが、希望の党騒動の前と後とでは、意味合いが決定的に違うのだ。

20年前の「自民vs民主」時代に比べれば「自己責任の社会vs支え合いの社会」という「目指すべき社会像」の対立軸は明確になりつつあったし、少なくとも立憲はそれを強く打ち出していた。だがそれは「政党の扉を叩く候補者の側には、全く伝わっていなかった」ということなのか。筆者も徒労感を覚えるし、書き手としての責任も感じる。

■立憲は「まっとうな候補者」を見抜く目を養うべき

今回の件で立憲が反省すべきことがあるとするなら「若い政治家を育て上げる能力の欠如」ではなく「政治理念を共にできる人物を選び抜ける能力の欠如」だと思う。

目指すべき社会像を共有していない。それどころか、そのようなものを持たず、ただ「政治家になること」だけが自己目的化している。そういう人物を「つかまされて」しまう。候補者になる人物と最初に接触する地方組織の弱さ、それをチェックする党本部機能の弱さ、つまりは「地力のなさ」ということなのだろう。

春の統一地方選は、こういう意味でも党組織を鍛え直す良い機会である。地方議員を増やすことは立憲にとって喫緊の課題だが、それと合わせて「まっとうな政治家」となれる候補を探し出せる確かな目を養うことにも、ぜひ力を入れてほしい。

■一度も登院しない国会議員が政治家を続けられる異常さ

今回の問題は、今井氏個人のみならず「そもそも政治の世界に参入するまっとうな人材が減っているのではないか」という、本質的な問題を突きつけたようにも思う。多かれ少なかれ、多くの国民に共通する思いではないだろうか。

最近国会に議席を得た人物を見ても、例えばNHK党のガーシー(東谷義和)参院議員が、昨年7月の初当選以来、アラブ首長国連邦のドバイに滞在したまま帰国せず、一度も登院していない問題が、通常国会で注目を集めている。ガーシー氏の問題は2月上旬にも、国会の懲罰委員会にかけられそうだ。

ほかにも、聞くに堪えない国会の質疑など「政治家の質が担保できていない」と嘆きたくなる事例は、この10年ほどでかなり増えたと実感する。

あまりこんなことは言いたくないが、実社会でまともに通用しそうもない人間が、政治家になるための心構えも十分でないまま、言葉は悪いが「選挙でワンチャンあるかも?」といった軽いノリで、いきなり国政に流れ込んでいるのではないか、と思えてならない。もちろん、それをスクリーニングできない政党の側にも問題はある。

一時は候補者の公募や政治塾のようなものがもてはやされたし、これらは政治家になる人材を固定化させず新しい人材を流入させることには、一定の意義はあると思う。しかし、それだけではやはり、長く国民のために働ける人材をつかみきれない。

やはり候補者が国政選挙の候補者として表に出てくる前に、その人物像が地域に暮らす国民の前に十分にさらされ「国政でもまっとうな活動ができそう」という信頼感を事前に得た上で、有権者の側から「押し上げられる」形で公認されるというシステムを、もっと大事にすべきではないだろうか。国会議員にあるまじき人間が何人も議席を得てしまうような事態を少しでも防ぐには、使い古された言葉だが「出たい人より出したい人」を、より大切にすることしかない。

このように考えていくと、結局そういう人材は、地方議会に求めるのが最も妥当なのではないか。

もちろん従来のように「地域のボスが自分に連なる人脈の地方議員を一本釣り」のような形で選んでは意味がないが、少なくとも地方議員は国会議員に比べ、住民により身近な地域の課題を扱い、その活動ぶりも目に見えやすい。そうした中から、これぞと思う地方議員について、有権者自らが声を上げて、国政に押し上げることは不可能ではないと思う。

■地方議員の深刻な「なり手不足」

問題はその地方議員の「なり手不足」である。

前述したように、今春には統一地方選が予定されているが、最近、統一地方選のたびに話題になるのがこの「なり手不足」問題だ。4年前(2019年)の前回統一地方選では、都道府県議の27%、町村議の23%が無投票で当選した。

有権者が選挙にさえ関与できないような状況が続けば、地域住民が自分のまちの政治や行政の課題に無関心になり、地方議会にも政治家の資質に欠けた議員がどんどん進出してくることになりかねない。一部にはすでにその兆候が出ている。

街頭演説を行う候補者のイメージ
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

■候補者を育てることで被選挙権に間接的に関与する

候補者がいないのなら、有権者が自らの力でつくるしかない。「自分たちが応援したい候補者を自分たちでつくる」。そんな形で政治に関与できないだろうか。

投票という「選挙権の行使」だけではなく、候補者づくりという形で間接的な「被選挙権の行使」を行うのだ。少なくとも「自らが立候補する」ことに比べれば、ハードルははるかに低いはずだ。

そんな形で少しずつ、地道に民主主義を取り戻していけば、資質に欠けた政治家が簡単に議席を得るような政治は、時間はかかるにしろ、いつしか消えていくだろう。

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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。

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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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