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1兆円投入「リスキリング」は結局何をするのか…例えばマーケの人がAI系転職時に学ぶ意外な分野はこれ

プレジデントオンライン / 2023年1月31日 11時15分

後藤宗明『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』(日本能率協会マネジメントセンター)

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは後藤宗明著『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』(日本能率協会マネジメントセンター)――。

■【イントロダクション】

「リスキリング(Reskilling)」という言葉が、ある種のトレンドワードになっている。2022年10月3日には、岸田文雄首相がリスキリングの支援に1兆円を投じると発言した。

時代の要請から世界中で取り組まれているリスキリングだが、「学び直し」だけを意味するものではないようだ。

本書では、いま注目されているリスキリングを理解し、実践する上で必要な知識を網羅。リスキリングとは何か、必要とされる社会的背景、実際の手順や手法、ツールの活用法などを、著者自身の経験や事例を交えながら詳説している。

リスキリングは「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」と定義され、「学び」だけでなく、学びにより身につけたスキルを活用して、社内の別部署への異動、新規事業の立ち上げ、異業種への挑戦などに役立てるところまでを含むのだという。

著者は、2021年に、日本初のリスキリングに特化した非営利団体として自ら設立した一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブの代表理事を務める。2022年には、AIを利用してスキル可視化を可能にするリスキリングプラットフォーム、SkyHive Technologiesの日本代表に就任。

はじめに これからの時代を生き抜くために必要な「リスキリング」
1.なぜリスキリングする必要があるのか
2.リスキリングする方法
3.リスキリングを実践する10のプロセス
4.リスキリングと「スキルベース採用」の時代の到来
5.リスキリングによるキャリアアップと人材の流動化
6.AIやロボットが同僚になる新たな時代に向けて
おわりに 死を意識したどん底から這い上がる

■リカレント教育とは異なる「リスキリング」

リスキリングは直訳するなら、「スキルの再習得」「職業能力の再開発」といった表現になるかと思いますが、分かりやすく表現すると、「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」と言えるのではないかと思います。

向かい合って仕事をするビジネスマンの上からの眺め
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

日本では、ともすると「学び直し」と訳されて、リカレント教育と近い概念に捉えられることもあります。個人が自分の好きなことを学ぶ「学び直し」とリスキリングは実は異なります。

特に大きく異なるのは、背景です。リカレント教育は、人生100年時代の生涯学習の一環として注目を集めました。一方で、リスキリングは技術的失業(テクノロジーの導入によりオートメーション化が加速し、人間の雇用が失われる現象)、テクノロジーが人間の労働を代替する社会問題の解決策として注目されているものです。

そしてリカレント教育においては、「学び直し」そのものが目的かつ、職業と関係ない学びも含むのに対し、リスキリングは新しい職業に就くことを目的としているため、職業に直結するスキル習得を指しています。

さらにリカレント教育は、個人の関心が原点であり、個人が自分の好きなことを学ぶ機会を探し、私的な活動として取り組むことが基本であるため、実施責任は個人にあります。一方で、リスキリングは、技術的失業を背景として、企業の生き残りをかけた変革ニーズに基づくものであるため、企業が従業員へリスキリング機会を提供し、実施責任は企業にあります。また、デジタル戦略を国家主導で行っているデジタル先進国では、リスキリングも国家主導で行っています。

■世界経済フォーラムが「10億人をリスキリングする」宣言

研究者や評論家によっては、「デジタル産業含め、成長産業で雇用が増えているので、技術的失業は起きない」というご意見の方々もいます。確かに、デジタルテクノロジーによって雇用の絶対量は増えていくとみられています。問題は、その新しく増えている雇用に必要なスキルを多くの労働者が持っていないため、求められているスキルレベルとのギャップが生じていることです。

デスクを囲んでミーティングをする人たちの上からの眺め
写真=iStock.com/Creative-Touch
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Creative-Touch

急激なテクノロジーの進化によって、テックスタートアップや大企業のDX実行部署などでは、今すぐ働いてほしいというポジションがたくさん募集されているにもかかわらず、労働者のスキルの供給が追いついていない。そのため、多くの労働者が仕事を失う前に、成長産業で必要となるスキルを新たに身につけるリスキリングを行う必要があるのです。

世界経済フォーラムが全世界におけるリスキリングの導入に向けて大きな役割を果たしています。2020年1月に開催された年次総会(*ダボス会議)において、技術的失業に対する解決策として、Salesforceのマーク・ベニオフ会長やイヴァンカ・トランプ(前)米国大統領補佐官らが中心となり、世界経済フォーラムはReskilling Revolution Platformというプロジェクトを開始しました。このプロジェクトを通じて「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」という宣言を採択しました。

それ以来、世界経済フォーラムは、各国政府への政策提言や大企業に向けたリスキリング施策の導入についての提言を続けており、2022年1月には途中経過として、全世界で1億人のリスキリングを完了したと発表がありました。

海外企業は、リスキリングに対して積極的です。主な理由は以下の通りです。

1 リスキリングは採用よりコスト安

企業にとって最大のメリットは、採用コストと比較して、従業員へのリスキリングコストは6分の1で済むこと、という説があります。これは、世界的に有名な人事コンサルタント、ジョシュ・バーシン氏が述べている説です。

2 社内の人間をリスキリングしたほうがデジタル化は早く進む

かつてないスピードで企業がデジタル化に取り組むようになり、特に高度なデジタルスキルを保有する希少な人材を社外から採用することが困難になりました。また、そういったデジタル人材を採用しようとしている間にDX計画が遅れてしまうので、社内のことをよく分かっている人材を長期的な視野でリスキリングしたほうが、デジタル化が早く進むという理由です。

3 外部人材の退職リスク

デジタル分野の高度なスキルを持っている人材は引く手数多のため、仮に採用できてもカルチャー等が合わないと判断した場合、すぐに退職してしまう可能性が高いため、即戦力ではないものの社内業務を理解していてカルチャーに合っているスタッフをリスキリングしたほうが結果的に予定通りに計画が進むという理由です。

■既存スキルの「隣接スキル」をリスキリングの足がかりに

「リスキリングに取り掛かる上で最初に何から始めたら良いですか?」という質問をよくいただきます。その答えは、「スキルの可視化(見える化)」です。

その上で、自分のスキルの中で「スキルの類似性」を発見できることがとても重要になります。特に自分の現在の得意なスキルを起点に、目指す新しい職務との類似性を見出し、新しい環境でのリスキリングを進めていくのです。

オフィスでパソコンを使用するビジネスマン
写真=iStock.com/iryouchin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/iryouchin

ところで、新型コロナウイルス感染症の影響で、業界横断で対面型の職務の自動化や効率化が進み始めています。例えば、訪問型営業が少人数制かつ非対面のインサイドセールスへ、有人店舗営業から無人店舗営業へ、自動化されてしまう可能性のある職務に就いている方々のリスキリングは本当に待ったなしのステージに突入しているのです。

こうした状況を打開するためにとても大切な考え方が、「Skills Adjacency」と呼ばれるスキルの隣接関係を起点に、テクノロジーを学ぶことで、デジタル分野等の成長産業で新しい職に就くチャンスを生むというものです。

スキルの隣接関係とは、個人が既に持っているスキルと、リスキリングする上でこれから習得するスキルのつながりを指します。「Adjacent Skills(隣接スキル)」といった場合は、リスキリングを進めていく上で現在持っているスキルと関係性の深い、これから習得するスキルを指します。

■マーケの人がAI関連の仕事に就く際のリスキリング

例えば、マーケティング分野で働く人がAI関連の仕事に就くために重要な隣接スキルをGartner社が分析したデータによると、AI分野とマーケティング分野をつなぐ重要な隣接スキルは、「センチメント分析」です。センチメント分析とはネット上のSNS投稿内容、口コミ情報、ブログのコメント等のテキスト情報から特定個人が持っている感情(センチメント)を分析する手法のことです。

SNSなどを使用する、横断歩道を行き交う人々
写真=iStock.com/cofotoisme
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cofotoisme

マーケティング分野においてこのセンチメント分析を行う際に、AI分野における「NLP(自然言語処理)」を利用するのです。つまり、このセンチメント分析は、2つの分野の接点となり、マーケティング分野からAI分野へリスキリングする際の重要な接点となるのです。

具体的には、マーケティング分野側のソーシャル・リスニング(SNS上で行われるユーザーの会話を収集し、分析することで、商品開発やブランディング、リスク分析に活用するマーケティング手法)のスキルを持つマーケティング担当者は、センチメント分析にも精通している可能性が高く、(*センチメント分析は)AI分野へリスキリングしようとする際の大切な隣接スキルとなります。この場合は、「ソーシャル・リスニング→センチメント分析→NLP(自然言語処理)」という流れでマーケティング分野からAI分野へのリスキリングへ入っていくことができます。

海外企業の人事部では、社内のDXを推進する上で、AIプラットフォームを活用して現在の社員の「スキルの可視化」を行います。そして明らかになった社員のスキルの中からデジタル分野の業務に関連性の深い隣接スキルを持つ社員向けに、リスキリングを進めていくことができるのです。

※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの

■コメント by SERENDIP

組織、個人、いずれの場合も、リスキリングに取り組む際にもっとも気をつけなければならないのは、リスキリングを「目的」にしないことではないだろうか。本書にも例示されているのだが、「会社でオンライン講座を契約したから、好きなものを受講しなさい」といった「リスキリングに取り組んだ」事実だけを目的にするようなことでは、うまくいかない可能性が高い。リスキリングはあくまで「手段」でなければならないのだと思う。目的は、企業であればDXや新規事業などの「変革」であり、個人ならば「従事したい未経験の業務や職業」「なりたい自分」などが考えられる。そうした「めざす未来の姿」を解像度高く描ければ、そこからバックキャストして、そこに至るリスキリングの方向性や方法が自ずと明らかになるのではないか。

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(書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」)

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