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価格は国産哨戒機の6分の1…アメリカ製の大型無人機が自衛隊で「令和の黒船」と呼ばれているワケ

プレジデントオンライン / 2023年1月27日 8時15分

海上保安庁か導入した無人機「シーガーディアン」 - 海上保安庁提供

自衛隊が、先行する海上保安庁に続きアメリカ製の大型無人機「シーガーディアン」の導入を進めている。防衛ジャーナリストの半田滋さんは「国産哨戒機の6分の1以下という低価格で、性能も高いので、どんどん増えそうだ。一方で、搭乗する必要はないので、パイロットの仕事は減る。自衛隊員の働き方を根本から変えるインパクトがある」という――。

■アメリカ製の最新無人機が日本にやってきた

海上保安庁は昨年10月から海上自衛隊八戸基地(青森県)で無人航空機「MQ9Bシーガーディアン」の運用を開始した。2023年度にはさらに2機を導入し、計3機が交代で「24時間365日」の海洋監視体制に入る。

一方、米軍は昨年11月から海上自衛隊鹿屋基地(鹿児島県)でシーガーディアンの先行機種「MQ9Aリーパー」を8機運用して東シナ海の警戒監視を開始した。

リーパーは、米軍が海上自衛隊鹿屋基地に配備した無人機「リーパー」の同型機(米ジェネラル・アトミクス社のホームページより)
米軍が海上自衛隊鹿屋基地に配備した無人機「リーパー」の同型機(米ジェネラル・アトミクス社のホームページより)

ともに米ジェネラル・アトミクス(GA)社が開発した無人機だが、同社関係者は「リーパーが偏差値40の無名私立大学レベルだとすれば、シーガーディアンは偏差値70の東京大学レベル。センサー性能に雲泥の差がある」と話す。

しかもシーガーディアンの本格運用は、開発した米国を差し置いて日本が世界初だ。

加えて海上自衛隊も23年度から八戸基地でシーガーディアンの試験運用を開始する。四方を海に囲まれた日本にとって重要な海洋監視は無人機による長時間運用、加えて低コストという新時代を迎えた。

■性能は「偏差値70」と呼ばれる優れもの

機体下部には、昼夜や荒天時を問わず映像を撮影できるレーダー、カメラなど複数のセンサー類が搭載されている。これらの性能が例えて偏差値70といわれる優れものだ。撮影された映像は通信衛星を通じてリアルタイムで地上に送られる。

赤外線カメラ撮影画像(貨物船)は、シーガーディアンが赤外線カメラで撮影した貨物船
海上保安庁提供
シーガーディアンが赤外線カメラで撮影した貨物船 - 海上保安庁提供

八戸基地には大小30個のモニターが並ぶオペレーションセンターが開設された。GA社から派遣されたパイロットとセンサーオペレーターが座るコックピットに並んで指示を出す海上保安官の席がある。

シーガーディアンオペレーションセンターは、海上自衛隊八戸基地に新設されたシーガーディアンのオペレーションセンター
海上保安庁提供
海上自衛隊八戸基地に新設されたシーガーディアンのオペレーションセンター - 海上保安庁提供

24時間の連続飛行が可能なので、八戸基地を離陸後、本州、四国、九州、北海道の領海線をたどって日本を一周して帰ってくることができる。この間、オペレーションセンターの人員は交代し、切れ目なく監視できる仕組みだ。

映像は八戸基地だけでなく、東京の海上保安庁本部や全国の航空基地へも同時中継される。海上保安庁には固定翼機、ヘリコプター合わせて90機の航空機があり、海難事故などの状況に応じて、シーガーディアンと組み合わせて運用する。

海上保安庁が無人機導入の検討を始めたのは北朝鮮の違法操業船の出没がきっかけだ。2016年以降、日本海最良の漁場「大和堆」に北朝鮮の漁船が現れ、スルメイカの違法操業を始めた。巡視船が近づくと逃げ、また戻るというイタチごっこが続いていた。

そこで一般の航空機と比べて滞空時間が長い無人機の特徴を生かし、強力な監視体制を敷く計画が浮上した。その後、北朝鮮漁船の違法操業は減ったものの、日本は世界第6位という広い排他的経済水域を持ち、海洋監視の重要性は変わっていない。

■海自と海保の連携で「鬼に金棒」

シーガーディアンを使った飛行テストは2020年10月から八戸基地で始まった。航空機との空中衝突を避ける自動回避行動を確認するなど1カ月の飛行テストの結果、正式に採用が決まった。八戸基地の貸主にあたる海上自衛隊も23年度からシーガーディアンを使った運用試験を開始する。

浜田靖一防衛相は昨年11月の記者会見で「海自・海保それぞれが取得した情報の共有や、施設の相互利用を通じた運用の効率化を図ることとしている」と述べ、同じ基地で同一機種を運用する海上保安庁との連携に言及した。

浜田防衛相は、記者会見でシーガーディアン導入について語る浜田靖一防衛相(防衛省のホームページより)
記者会見でシーガーディアン導入について語る浜田靖一防衛相(防衛省のホームページより)

一方、海上保安庁の担当者は筆者の取材に「海上保安庁が得た情報については、海上自衛隊に提供する」とし、「海上自衛隊と同一の海域を飛行する可能性がある場合は有人機と同様に飛行海域の調整を実施することが必要」と回答した。

海上自衛隊は日本防衛、海上保安庁は海の警察活動と役割・任務は異なるものの、連携すれば実質4機体制となり、入手できる海洋情報は増えることになる。

■このまま海保と海自の一体化が進むのか

平時の連携はメリットばかりだが、有事や情勢緊迫時の連携は海上保安庁にとって、軍事行動とみられるおそれはないだろうか。

海上保安庁法25条は《この法律のいかなる規定も海上保安庁またはその職員が軍隊として組織され、訓練され、または軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない》と定めている。

一方、自衛隊法80条は《内閣総理大臣は(略)特別の必要があると認めるときは、海上保安庁の全部または一部を防衛大臣の統制下に入れることができる》と規定している。

海上保安庁の非軍事化を定めた条文と軍事機関である自衛隊を指揮する防衛相が海保を統制可能とする条文は矛盾してみえる。

海上保安庁法は1948年、自衛隊法はその6年後に制定された。自衛隊が誕生した時点で海保との関係を整理しておくべきだったが、手つかずで来た。

昨年、安全保障関連3文書の改定へ向けた自民党内の議論で海保を軍隊化する狙いから海保法25条の改正が検討された。「海の法執行機関」が消えると自衛隊と外国軍との間に入る緩衝材の役割がなくなる。

いたずらに緊張を高めかねない愚策というほかないが、年末に改定された安保関連3文書のうち国家安全保障戦略に「海上法執行機関である海上保安庁が担う役割は不可欠である」との一文が盛り込まれ、現状維持とすることで落ち着いた。

シーガーディアンの有事や情勢緊迫時のあり方について、海上保安庁の担当者は「海上保安庁の任務にない軍事目的で飛行することはない」と回答している。

■海自でも重要性が増す無人機の役割

一方、23年度から試験運行を始める海上自衛隊のシーガーディアンは、軍事的な運用となるため、中国軍やロシア軍の艦艇を監視することになりそうだ。対ロシアは八戸基地の利用で十分だが、対中国となると東シナ海までの進出に時間がかかり、燃料も浪費する。より近い基地の活用が必要になる。

昨年11月、米軍は鹿屋基地にリーパー8機を配備して東シナ海の監視飛行を始めた。運用開始に先立って鹿屋市を訪れた在日米軍のジェームズ・ウェロンズ副司令官は「鹿屋基地は戦略的に重要な基地だ」と説明。米中間で緊迫する台湾情勢を背景に鹿屋基地の重要性を強調した。

リーパーは米軍によるアフガニスタン攻撃に利用されたミサイルを搭載できる無人機だが、今回、武器は搭載していない。むしろ陸上偵察版のリーパーがどこまで海洋監視に活用できるのか実証実験の色彩が強いようだ。

米軍は今年11月には引き揚げるが、海洋監視の必要性が薄れることはない。海上自衛隊による監視は、これまで通り鹿屋基地や那覇基地(沖縄県)の哨戒機を使うほか、シーガーディアンの鹿屋配備も予想される。基地が新設される馬毛島(鹿児島県西之表市)も配備候補となりそうだ。

シーガーディアンはリーパーのセンサー能力を格段に高めた海洋監視の専用機にあたり、潜水艦のスクリュー音を探知するソノブイを搭載できるため対潜水艦戦に活用できる。

ソノブイは、潜水艦探知のためのソノブイ搭載機を付けた無人機「シーガーディアン」(米ジェネラル・アトミクス社のホームページより)
潜水艦探知のためのソノブイ搭載機を付けた無人機「シーガーディアン」(米ジェネラル・アトミクス社のホームページより)

海上自衛隊の関係者は「シーガーディアンを恒常的な監視飛行に活用し、潜水艦を探知した場合、P1哨戒機やP3C哨戒機が急行する。無人機と有人機の組み合わせが考えられる」と話す。

■「シーガーディアンは『令和の黒船』になるかもしれない」

シーガーディアンのパイロットやセンサーオペレーターになるにはもちろん専門的な教育が必要だ。とはいえ、哨戒機の乗員養成と比べて期間は短く、負荷も格段に小さい。とくに女性にとって新たな社会進出の機会となるのは確実だろう。

何より低価格に魅力がある。海上保安庁はGA社から機体をリースしており、価格は1機40億円。川崎重工業で製造するP1哨戒機が1機258億円(2022年度防衛費)と比べて6分の1以下という安さだ。

反発も出てくるだろう。哨戒機の乗員を希望する隊員にとって「地上勤務のパイロット」は魅力的に映るだろうか。また国内の防衛産業から「仕事を奪われた」という不満が出ることは容易に想像できる。

だが、中国軍が東シナ海から太平洋に4種類もの無人機を飛ばす時代である。シーガーディアン導入の流れはとまらないだろう。前出の海上自衛隊関係者はこういう。

中国無人機は、今年1月1日、沖縄本島と宮古島の間を通過する中国軍の偵察型無人機「WZ-7」
統合幕僚監部提供
今年1月1日、沖縄本島と宮古島の間を通過する中国軍の偵察型無人機「WZ-7」 - 統合幕僚監部提供

「長時間の監視飛行が可能という利点に加えて、勤務環境を抜本的に変え、価格破壊も起きる。海上自衛隊にとってシーガーディアンは『令和の黒船』になるかもしれない」

■無人機が自衛隊のあり方を大きく変える可能性

岸田文雄政権は昨年12月、安全保障関連3文書を閣議決定し、安全保障政策を大転換した。その中で「無人アセット防衛能力の強化」が初めて打ち出され、「有人機の任務代替を通じた無人化・省人化により、自衛隊の装備体系、組織の最適化の取組を推進する」(国家防衛戦略)と明記した。

航空機であれ、艦艇や装甲車であれ、無人機の導入は自衛隊のあり方を抜本的に変えるゲームチェンジャーとなり得るだろう。最終的な判断はAI(人工知能)ではなく、「ひと」が行うことを厳守することにより、効率的で抑制が効いた装備体系を構築することが求められている。

【飛行中】シーガーディアンは、海上保安庁が導入し、飛行する無人機「シーガーディアン」
海上保安庁提供
海上保安庁が導入し、飛行する無人機「シーガーディアン」 - 海上保安庁提供

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半田 滋(はんだ・しげる)
防衛ジャーナリスト
1955年(昭和30)年生まれ。防衛ジャーナリスト。下野新聞社を経て、91年中日新聞社入社、元東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。法政大学兼任講師。92年より防衛庁取材を担当。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に、『戦争と平和の船、ナッチャン』(講談社)、『変貌する日本の安全保障』(弓立社)、『安保法制下で進む! 先制攻撃できる自衛隊―新防衛大綱・中期防がもたらすもの』(あけび書房)、『検証 自衛隊・南スーダンPKO-融解するシビリアン・コントロール』(岩波書店)、『零戦パイロットからの遺言-原田要が空から見た戦争』(講談社)、『日本は戦争をするのか-集団的自衛権と自衛隊』(岩波新書)、『僕たちの国の自衛隊に21の質問』(講談社)、『「戦地」派遣 変わる自衛隊』(岩波新書)=09年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞、『自衛隊vs北朝鮮』(新潮新書)などがある。

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(防衛ジャーナリスト 半田 滋)

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