男性の2人に1人は子を持たずに生涯を終える…岸田首相は「まもなく日本を襲う過酷な現実」が見えていない
プレジデントオンライン / 2023年2月1日 8時15分
■「晩婚化のせい」はあまりにも的外れ
岸田文雄首相の「異次元の少子化対策」発言以来、少子化問題に関する話題が世間をにぎわせています。しかし、〈政府の対策は「ひとりで5人産め」というようなもの…人口減少の本質は少子化ではなく「少母化」である〉の記事に書いたように、政府の対策は子育て支援一辺倒であり、抜本的な少子化対策にはなりえないどころか、事実上、今現在でも2人産んでいる多くの子育て世帯にさらなる出生を求めるものであり、何か戦前の「産めよ、殖(ふ)やせよ」と何が違うのだろうという印象があります。
加えて、自民党の麻生太郎副総裁が、少子化の最大の原因は晩婚化との見方を示した発言は大いに炎上しました。それも当然で、麻生氏の発言は的外れにもほどがあるからです。
以前、私は、当連載において、〈いま増税するなんて狂気の沙汰である…政府は「若者が結婚しない本当の理由」を分かっていない〉という記事で書いた通り、晩婚化など起きておらず、若者が若者のうちに結婚できなくなったがゆえの非婚化であり、もはや若者の諦婚化であるという話をしました。
■中国の結婚は滅亡状態にある
あわせて、ニュースでは、中国の人口が減少していることも報じられ、今まで1.70はあると言われてきた中国の合計特殊出生率が、2020年世界銀行の統計では、日本より低い1.28と発表され、そのあまりの出生減は世界に衝撃を与えました。
ちなみに、中国のこの出生減も日本同様、子どもが生まれない少子化ではなく婚姻減による少母化によるものです。中国の婚姻数は2013年の1327万組をピークに7年連続で減少しています。しかも2020年の婚姻数は2013年対比40%減です。日本の婚姻数も激減していますが、それでも同時期の2013年対比では18%減程度なので、いかに中国の結婚が滅亡状態にあるかがわかると思います。
日本、中国に限らず、アフリカを除く先進諸国は軒並み出生率を下げ続けており、これらの要因もほぼすべて「少母化」によるものであることは明らかです。INSEE(フランス国立統計経済研究所)ですら、「近年の出生率低下の要因は、フランス人の出産・育児年代に当たる女性の絶対人口の減少=少母化」であると明言しています。
■生涯無子率がダントツで上がっている日本
さて、その中で、経済協力開発機構(OECD)が公開した、世界各国のチャイルドレス(生涯無子率)統計を日経新聞が報じて、これも大きな話題となりました。日本における生涯未婚率を50歳時未婚率というように、50歳時点で子のない女性は生涯無子として分類されます。
日本を含む世界各国の生涯無子率(生まれ年別50歳時点の無子率)をグラフ化したのが図表1です。
日本の2020年時点(1970年生まれ対象)の生涯無子率は27%で、世界一高い。何より、この15年で一気に他国をごぼう抜きしています。とはいえ、日本より出生率の低いイタリアやスペインなども無子率は急激に上昇していますし、北欧のフィンランドも20%超えです。OECD統計にはありませんでしたが、ドイツの値も21%です。
世界各国、生涯無子率が上昇している中で、唯一アメリカだけは16.3%から11.9%へと減少しているのが目立ちます。しかし、そのアメリカとて、同じスパンでの出生率は2.02から1.64へと下げているので、生涯無子の女性の割合は減ったかもしれませんが、その分一人当たりの出生数は減っているということになります。
■近い将来、男性の半分は子を持たずに生涯を終える
このニュースでは、日本の生涯無子率が27%、つまり、約3割の女性が生涯子無しであることばかりが注目されましたが、出生は男女それぞれ1人ずつの共同によるものなので、当然男性の生涯無子率もあります。そして、それは女性より高いのです。
勘違いがあるのですが、生涯無子は、結婚して子のいない夫婦の割合ではありません。結婚しても子どものいない「婚歴有の無子」に加えて、未婚のままで子どもがいない「未婚無子」の両方を合算したものです。日本の場合は、極端に婚外子が少ないので、未婚はほぼ無子とみなしてもいいでしょう。婚歴有の無子の場合は、男女ともほぼ同じ数値になりますが、未婚の場合は男女とで大きく差があります。
2020年の国勢調査(配偶関係不詳補完値)による生涯未婚率は、男性28.3%、女性17.8%でした。つまり、OECD統計の女性の生涯無子率27%というのは、婚歴有の無子率が、27%-17.8%=9.2%であることを意味します。この婚歴有の無子率を男性の生涯未婚率と足し上げると、男性の生涯無子率は37%超と計算できます。これは、男性のほぼ4割が生涯無子であることを意味します。
さらにいえば、これが天井ではなく、さらに未婚率は上昇すると推計されているので、やがて日本の男性の半分は子を持つことなく生涯を終える時代になるでしょう。
■「なぜ日本に子供が増えないか」の最終結論
日本おける生涯無子率という正式な統計はありませんが、出生動向基本調査において、45~49歳時点の夫婦の子無し割合については長期的に統計をとっています。OECDの統計と多少の誤差はありますが、ほぼイコールと考えていいでしょう。
それによれば、婚歴有の無子率は1980年代と比べて上昇しているとはいえ、3.5%が9.9%へと6.4ポイント上がったにすぎません。一方で、女性の生涯未婚率は13.4ポイント、男性は25.7ポイントも上昇しています。生涯無子率を上げているのは、生涯未婚率が上昇しているからだと結論づけられるでしょう。
もちろん、一生結婚しないという選択的非婚や結婚はしても子を持たないと決めた選択的無子の夫婦も存在しますし、そういう方の選択は尊重されるべきですが、一方で、本当は結婚したいのにできない不本意未婚や本当は子を持ちたいのにできない不本意無子に対しては、何らかの手立てが必要かもしれません。
■30年前は2割しかいなかったが、今や4割に
特に、前者の人口ボリューム的に多い未婚の問題は深刻です。未婚増の問題は、婚姻減に直結する話でもあり、婚姻減はそのまま少子化として反映されていきます。
出生動向基本調査の結果で「一生結婚しない」割合が増えたことがニュース化されますが、実はそんなことはどうでもよくて、問題は結婚したいのにできない不本意未婚が増えることのほうです。20~34歳の未婚男女のうち、不本意未婚は4割以上も存在します。
まだ皆婚時代の名残のあった1990~1994年時点ではこの「不本意未婚」は、男性でも2割程度、女性に至っては数%しかいませんでした。これは、結婚を希望する20~34歳の未婚女性は1990年代前半まではほぼ全員が結婚できたということになります。その後、2005年にかけて不本意未婚は大きく増加し、男女ともに4割以上の「不本意未婚」が生まれているのですが、これは奇(く)しくも生涯無子率や生涯未婚率の上昇とも連動しています。
少子化の問題は、婚姻減の問題であると繰り返し私が言っているのはそういうことです。
■0人→1人に結びつく婚姻増が急務ではないか
令和2年に出された「少子化社会対策大綱」においては、新しい令和の時代にふさわしい少子化対策へと題して、基本的な考えの1番トップに「結婚・子育て世代が将来にわたる展望を描ける環境をつくる」という項目があげられ、具体的には「若い世代が将来に展望を持てる雇用環境等の整備」「結婚を希望する者への支援」となっています。
子育て支援より上位に、この若者の経済環境整備や結婚支援をあげており、この時点の判断としてこれは間違っていません。にもかかわらず、「異次元の少子化対策」といわれて出てきたものはほぼすべて子育て支援のバラマキばかりで、大綱に書かれた、特に若者の経済環境の整備どころか、かえって彼らの可処分所得を減らしているような状況です。一体何のための大綱だったのでしょうか。
もちろん、子育て支援は重要で、それはそれで取り組むべき問題ですが、今突きつけられているのは、子ども2人を3人に増やすこと以上に、子ども0人→1人に結びつく婚姻増を図っていかなければならないのではないでしょうか。
私が試算した「発生結婚出生数」というデータによれば、1婚姻あたり(たとえその後離婚があっても)平均約1.55人の子どもが生まれているのです。2021年婚姻数はわずか50万組でした。2022年の出生数が80万人を切るといわれていますが、50万組×1.55人=77.5万人となり、当然の結果なのです。
それとも、政府はこのまま生涯未婚率と生涯無子率を上げ続け、「子を持つ」ということは、選ばれし一部の人たちの特権化としたいのでしょうか。
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コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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