1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

中国人の「リベンジ旅行」がウイルスを撒き散らす…「11億人の感染者」に頭を抱える習近平の本音

プレジデントオンライン / 2023年1月28日 10時15分

中国・北京の人民大会堂で開かれた春節祝賀レセプションで演説する習近平氏(=2023年1月20日) - 写真=EPA/時事通信フォト

■「中国人の8割が新型コロナに感染した」と発表

中国で新型コロナ感染が爆発している。

折しも1月21日から、旧正月(春節)に合わせた7日間の大型連休に突入。世界最大の移動を引き起こすとも言われる期間へと入り、農村部への帰省ラッシュが起きている。

高齢者の多い農村部各地では、感染リスクが一段と高まった。米ワシントン・ポスト紙によると香港の専門家は、ウイルスが「国土の隅々まで行き渡ることは間違いない」と指摘している。

事の発端は、習近平政権が昨年12月8日から突如導入した、ゼロコロナ規制の大幅緩和だ。これを機に中国では、ゼロコロナ政策によってそれまで自然免疫を持たなかった国民のあいだで、都市部を中心に感染が急増した。

米CNNは、中国疾病予防管理センター(中国CDC)の主任疫学者である呉尊友氏が旧正月入りの前日、「エピデミックのピークにより、約80%の人々がすでに感染している」と発言したと報じた。中国の人口は14億人を超えていることから、事実なら11億人超が感染した計算だ。

中国疾病予防管理センター公式サイトのグラフ
画像=中国疾病予防管理センター公式サイトより

死者も急増している。ロイターによると中国当局は、1月19日までのわずか1週間において、コロナによる新規死者数が1万3000人近くに上ったと報告している。段階的な緩和措置を怠った習近平政権の無策により、尊い人命が奪われる結果となった。

また、世界経済の回復にも冷や水となるおそれが出てきた。3年ぶりの規制のない旧正月とあって、本来ならば世界の旅行市場は中国人旅行客の復帰を歓迎できていたはずだった。しかし、感染爆発下での国境再開となり、各国は変異株の発生と流入に神経を尖(とが)らせている。

■規制のない春節、中国人は「リベンジ旅行」に燃えている

旧正月はパンデミック以前、毎年起こる事象としては世界最大の移動現象であるとされてきた。今年は3年ぶりの規制のない連休期間となり、旅行需要は天井知らずだ。

CNNは中国国営放送CCTVの報道を基に、旧正月入りの前日だけでも2600万以上が旅行に出たと報じている。

移動機会の増大は、旧正月の7連休のみに留まらない。これと前後する約40日間、今年は1月7日から2月15日ごろまでが、旅行数が急増する「春運」の期間となる。ブルームバーグはこの期間、昨年の2倍の規模となる約21億回の旅行が生じるとの予測を取り上げている。

香港国際空港の案内板
写真=iStock.com/samxmeg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/samxmeg

長く続いたゼロコロナ政策は、今年の旧正月に反動を生みそうだ。外交問題評議会のヤンゾン・ファン氏は、ワシントン・ポスト紙に対し、コロナ禍で蓄積した旅行欲を満たす「報復ツーリズム」が流行するとの見方を示している。この「報復ツーリズム」により、「1月末までにウイルスが(中国の)国土の隅々まで行き渡ることは間違いない」とも氏は指摘する。

■中国政府は1カ月で6万人が死亡したと認めた

国外旅行にも復調の兆しがある。中国政府は旧正月に先立ち、1月8日から渡航制限を解除している。CNNは旅行予約サイト「Trip.com」のデータを基に、旅行解禁が予告された翌日、フライトの予約数が254%上昇したと報じている。

記事によると日本もまた、中国の人々のあいだで人気の旅行先のひとつになっているという。コロナ前の2019年のデータでは、日本はタイに次ぐ2位の人気で、950万人の中国客が訪れた。

このような大移動は、通常ならばパンデミックからの回復として歓迎すべきものではある。だが、中国国内の感染状況を鑑みれば、現時点での旅行再開を適切な動きと捉えることは困難だ。

CNNは1月15日、中国当局がついに約6万人の死亡例を認めたと報じた。対象期間は12月8日から1月12日となっており、規制緩和直後からのおよそ1カ月間だ。当局はパンデミック入りからこれまで、公式には5273人の死亡しか認めてこなかった。一気にこの10倍以上の死者数を認めた形だ。

■死者が100万人に達する推計も

しかし海外の専門機関は、これでもまだ非現実的に低い数字であり、今後も数字は拡大するだろうと述べている。ブルームバーグは英保健分析会社のエアフィニティーによる分析として、死者数が旧正月中の1月下旬にピークを迎え、最悪期には1日あたり3万6000人が死亡するとの試算を報じた。

米FOXニュースによると、ワシントン大学医学部保健指標評価研究所は、今年の中国におけるコロナ死が計100万人に達するおそれが高いと報告している。

ゼロコロナ緩和の直後から、中国の感染率は異様な上昇を見せてきた。CNNによると中国疾病予防管理センターの主任疫学者は、人口の8割がすでに感染したと発表している。すでに多くが感染しているため、今後は大規模に拡大しないとの主張だ。

だが、感染により免疫を獲得しても、その効力は時間とともに低下する。オミクロン株に関する知見は限定的であるものの、デンマークの研究チームによる査読前の論文によると、約1カ月後にはオミクロン株の同系統の亜種に再感染したという例が複数報告されている。

12月8日のゼロコロナ緩和を受け、中国の都市部では12月中旬から下旬に感染が爆発した。1月下旬の旧正月はちょうど、再感染が起き始める時期と重なる。

再感染では一般に重症化のリスクが低いと言われているものの、すでに逼迫(ひっぱく)している中国国内の医療システムにさらなる負荷を与えることは必至だ。

■中国人の大移動が農村部を直撃する

中国では過去に国内産ワクチンをめぐるスキャンダルが発生しており、農村部ではいまだブースター接種をためらう高齢者も多い。都市部から帰省した出稼ぎ労働者たちが、医療制度の整わない農村にウイルスを持ち込み、一気に打撃を与える事態が懸念される。

中国の農村風景
写真=iStock.com/Nikada
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikada

米シンクタンクの外交問題評議会で国際保健問題担当上級フェローを務めるヤンゾン・ファン氏は、CNNに対し、高齢者がワクチンを接種しているケースでも、最後の接種から6カ月以上が経過し、抗体レベルはすでに非常に低くなっていると指摘する。

旧正月の農村部への大移動は、このような状況で始まった。英エコノミスト紙は1月20日、「出稼ぎ労働者たちは(旧正月から始まる)うさぎ年を前にして、脱兎(だっと)のごとく故郷へ向かっている」と述べ、都会から農村部への大移動を報じている。

米ABCはこうした無謀な大移動が、結果として中国経済への打撃となるのではないかと論じている。

アクサ・インベストメント・マネジャーズの上級エコノミストであるアイダン・ヤオ氏は記事に対し、都市部では今後ゆるやかな回復が見込まれる一方、「出稼ぎ労働者たちが病人の看護のため、旧正月明けに都市部に戻れないケース」が想定され、このような事態が多発すれば同国の経済にとって新たな試練となるのではないかと指摘している。

■中国人観光客に頼る各国も手放しでは喜べない

中国国内に限らず、世界経済への影響も無視できない。中国旅行客の再開は各国の経済に吉報となるはずだったが、感染率が高止まりしている現状、各国としても受け入れを手放しでは喜べない状態となった。

パンデミック以前、中国国民の旅行需要は、世界経済を一定程度下支えしてきた。ロイターはパンデミック以前、中国からの旅行客が世界で年間2550億ドルを費やしていたと指摘する。

アジアにおいてはさらに観光への影響度が大きい。CNNは、2018年のアジアの観光GDPにおいて、中国が単独で51%を占めていたと振り返る。

だが、中国からの訪問客を受け入れることは、国内への感染リスクを受容することを意味する。特定の国を対象とした規制は差別につながるとの見方もあり、慎重さが求められるが、各国は水際対策の再導入の検討を迫られている。

ワシントン・ポスト紙は、過去に高い感染率が確認された実例を列挙している。12月下旬に中国を発ったイタリア便2便では、搭乗者のそれぞれ約半数と約3分の1が陽性反応を示した。1月第1週には、中国から韓国・台湾へ向かった旅行者の20%、実に1000人超の感染が確認されたという。

マスクをして空港のベンチに座っている人たち
写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

報じられている8~9割の感染率よりは低いが、これは選択バイアスによるものだ。米シンクタンクは、有症者であれば旅行を控えると考えられることから、中国国内の感染率はこれよりも高い水準にあると指摘している。

CNNは、免疫力の低い農村部へと懸念が移ったいま、新たな変異株の出現が懸念されると指摘する。旧正月を機に変異株が発生すると確定したわけではないが、人民の大移動によりそのおそれが高まったことを受け各国は、単純に受け入れを歓迎できない状況になっている。

専門家は、検疫などの水際対策では変異株の国内流入を阻止できないと指摘する。香港大学公衆衛生学部のカレン・グレピン准教授は、CNNに対し、「現実的に言って、こうした(水際)対策が、実際に有効であることを裏付ける科学的根拠はないのです」と説明している。

2021年にオミクロン株が出現すると、各国の水際対策に反して世界に拡散した。グレピン氏は当時の対策に「ほとんど効果がなかった」と指摘し、空港での検疫はせいぜい拡散を遅らせる機能しか持たないと述べている。

■中国共産党は「コロナに勝利した」と自画自賛

習近平政権が3年間固持したゼロコロナ政策は、旧正月直前という最悪のタイミングで緩和された。

中国全土で相次いだデモに気圧(けお)され、習近平政権は突然のゼロコロナの終了で火消しを図った格好だ。国民は行き過ぎたロックダウンからこそ解放されたが、あまりにも杜撰(ずさん)な政策転換であったことは明らかだ。

英ガーディアン紙はゼロコロナの転換で、感染が「全土に野放しに拡散」したと批判している。

ところがBBCによると、中国共産党の機関紙である人民日報は対照的に、勝利宣言を出し自画自賛している始末だという。人民日報は、中国共産党が「最小の代償を払い、最大の効果を得た」と主張していると報じた。

当然これは、海外主要メディアの論調と一致しない。ゼロコロナ政策の緩和を契機に、14億人を率いてきた習政権の弱さが露呈したとの指摘すら上がっている。米FOXニュースは、国民のデモに屈する形で崩壊したゼロコロナ政策自体に、習氏の弱さが表出しているとの論調だ。

■もはや習近平にも止められない…

また、取り巻きたちは習近平の指示待ちに徹し、自ら動こうとしないとも同記事は指摘している。デモの発生や感染者数の急増など、政権は突発的な事象に対応できる体制になく、この点でも構造的な弱みが露呈した。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのセンタービル前で行われた、ゼロコロナ政策に反対する抗議デモ
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのセンタービル前で行われた、ゼロコロナ政策に反対する抗議デモ(写真=PaintWoodSt/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

長きにわたり、数名の感染者を確認しただけで建物や都市全体を封鎖してきたゼロコロナ政策は、昨秋爆発した民衆の怒りを前にして崩れ去った。ところが悪政が去ると同時に、人々は新たな愚策に翻弄(ほんろう)されている格好だ。

旧正月の前夜、習近平氏は農村部での蔓延(まんえん)に備えるよう警告を発している。英フィナンシャル・タイムズ紙はこれを、ゼロコロナ後の公衆衛生の悪化を政権が最も直接的に認めた事例だと捉えている。

ゼロコロナにより自然感染と免疫獲得の機会を逸し、有効率の低い国産不活化ワクチンのみに依存した状態での規制解除。これにより国内の感染率は9割とも言われる異様な水準に達した。

続く旧正月の大移動により、農村部の高齢者の命が危険にさらされている。国外では、各国が中国の国境再開を喜ぶどころか、変異株の流入に神経を尖らせている状態だ。

習近平氏は、拙(まず)い状況に追い込まれた。ゼロコロナの頓挫を通じ、中国国民はすでに、デモによって政策を変革できるという事実を学んだ。旧正月の前後の死者数の推移によっては、綻(ほころ)びの目立ち始めた習近平氏の施策に対し、次なる大規模なデモの波が襲い来る事態も考えられそうだ。

----------

青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

----------

(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください