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「抹茶はどのように作られるのか」外国人のよくある質問に日本人として知っておきたい"教養としての茶道"

プレジデントオンライン / 2023年1月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kumikomini

あなたは外国人に「抹茶はどのように作られるのか」と聞かれて答えられるだろうか。茶道歴40年の茶道家・竹田理絵さんは「茶の葉をそのまま飲む抹茶は、粉状の茶葉をお湯と茶筅で点てたもので、煎茶とはまったく違う」という――。

※本稿は、竹田理絵『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』(自由国民社)の一部を再編集したものです。

■外国人が飲んでいるお茶は煎茶であることが多い

外国人のお客様からの質問で一番多いのが、「お抹茶はどのように作られるのですか」というものです。

茶道体験にいらしたお客様に、「お抹茶を召し上がったことはありますか?」とお尋ねすると半数くらいの方が「飲んだことがあります」と答えます。

しかし、よくよく聞いてみますと、「お寿司屋さんで飲んだことがあります」、「日本食レストランで出てきました」など、煎茶とお抹茶を混同されてしまっていることがよくあります。

「通常、お寿司屋さんや日本食レストランで出てくるお茶は煎茶です。煎茶は紅茶と同じように、茶葉にお湯を注いで淹れたものをいただきます。茶道で使われるお抹茶は粉状になっていて、お抹茶にお湯を注いで茶筅(ちゃせん)で点てたものをいただきます。

日本にはたくさんの種類のお茶がありますが、お茶の葉をそのまま飲むのは抹茶だけです」とお話しすると、「お茶の葉をそのまま飲むのですか?」、「どのように作られているのですか?」と驚かれます。

■お抹茶は、約4ミクロンという非常に細かい微粒子

お抹茶の栽培や製造方法は、煎茶や玉露といった他の緑茶とは少し違います。

お抹茶は新芽が伸びる茶摘みの2週間ほど前からは直射日光が当たらないように黒い覆いをかけます。この黒い覆いは寒冷紗といい、この栽培方法を覆下栽培といいます。

日光を遮ることで、葉緑素が増加して鮮やかな緑色になり、覆い香という香ばしい香りがつきます。また、渋み成分のタンニンが少なくなり、旨み成分であるテアニンの多いお抹茶に適した高級茶葉になるのです。

摘まれた茶葉はムラのないように蒸気で蒸して、その後、葉を揉まないですぐに乾燥炉で乾燥させます。蒸すことにより茶葉の酸化を止め鮮やかな濃緑色となります。

煎茶や玉露は、蒸した後、揉む作業が入りますがお抹茶の場合は揉みません。

こうしてできあがったものをお抹茶の原料、荒茶といいます。

荒茶の葉を小さく砕き、葉脈を取り除いた後、葉を乾燥させ選別します。これが碾茶(てんちゃ)となります。

碾茶を石臼で挽いて、お抹茶ができあがります。

できあがったお抹茶は、約4ミクロンという非常に細かい微粒子です。

石臼で挽いたものは、口当たりや味・香りが最も優れているといわれています。

通常の緑茶より、手間暇かけてできあがったお抹茶を是非、じっくりと味わっていただければと思います。

■千利休が広めた茶道は男性必須のビジネスツール

茶道体験にいらした外国人のお客様から、「日本人は皆、茶道をするのですか」という質問をよく受けます。

残念ながら、茶道の体験をしたことがある日本人はとても少ないのです。

「最近の若い世代は、西洋のスタイルを好み、住んでいる家には畳の部屋もなく、飲みものもペットボトルのお茶ですよ」とお答えすると、「こんなに素晴らしい日本の伝統文化を継承しないのは残念だし、とても悲しいですね」といわれます。

海外の人からは素晴らしくみえる日本の文化も、日本人にとっては古く思えたり、敷居も高く感じられたり、面倒なものにみえるのかもしれません。

「それでは、どんな人が茶道をしているのですか」

戦国時代に千利休が広めた茶道は、武将が心を整えるだけではなく、武道同様の“たしなみ”で、お茶室は密談をする格好の場となり、男性の必須ビジネスツールでした。しかし現在茶道をしている人の多くは、教養や作法を身につけたいと考える女性です。

「それは勿体ないですね。元々は昔の男性が仕事にも活かしていたのですね。それなら何かよい効果があったのだと思います。現代の男性も、ビジネスや教養のため、茶道を取り入れるとよいのではないでしょうか」

外国人にはみえているものが、残念ながら日本人にはみえないのかもしれません。

■茶道でグローバルな視点が得られる理由

「茶道は小学校で習うのですか」

多くの小中学校では書道は習いますが、茶道の授業はありません。現代では、大人になり自ら興味を持たないと茶道に触れる機会はほとんどありません。

「欧州では、小学校や中学校で自国の文化の授業があり、そこで美術や音楽、歴史などの教養を学んでいます。そのため、しっかりと自国の文化を語ることができるし、語れないと“教養がない人だ”と思われてしまいます」

日本とはあまりに違うので、驚きました。欧州人は子どもの頃から学校で自国の文化を学んでいるから、教養としてしっかりと文化を語れるだけでなく、文化を継承できるのですね。

「茶道教室は何年通えばいいのですか」これもよく聞かれる質問です。

茶道教室は3年通えば終わりというようなことはありません。

日本には茶道の他にも、華道や剣道、柔道など、「道」とつく習いごとがあります。それはただ型を覚えて終わりではなく、精神修行も含まれています。

お稽古は教われば教わるほど、その深さや自分の未熟さ、基礎の大切さを思い知ります。

そのため、一生涯をかけての勉強となります。

「終わりがないなんて驚きです。そのような精神修行を伴う習いごとは自分の国にはありません。とても素晴らしいことですね。感動しました!」

日本人より外国人の方が“マインド”を大切にしていて、日本の伝統文化の精神性を高く評価する傾向があるように感じます。

茶道
写真=iStock.com/kumikomini
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kumikomini

「ものの豊かさより、心の豊かさ」

「はっ」として、私も逆に外国のお客様から教わることがあります。

外からは素晴らしくみえるものが、中にいるとみえない。ちょっと寂しく思いますし、勿体ないとも感じます。

あなたがもし世界で活躍したいなら、少しでもグローバルな視点を持ちたいなら、日本国内で外国人と接する機会が多いなら、是非、茶道を通して日本の文化の素晴らしさを体験し、実感してみてください。

■「お茶会はどのような時にするのですか」

外国人のお客様から、「お茶会はどのような時にするのですか」と質問されることがあります。

外国人のお客様の中には、日本人は皆、茶道をしていて、家にはお茶室があり、家族でお茶会を楽しんでいると思っていらっしゃる方もいます。

「お誕生日のお茶会はするのですか?」
「日本の結婚式ではお茶会を楽しむのですか?」

と聞かれることもあります。

勿論、なかにはそのようなお茶会を楽しまれる方もいるかとは思いますが、一般的には、全ての日本人がすることはないですよね。

それでは、お茶会はどのような時にするのでしょうか。

私たち、茶道を楽しむ者たちは季節ごとのお茶会を開きます。

お茶会を通して、その季節や行事などを味わい、堪能するのです。

茶道はとても季節感を大切にします。

寒い季節(11月から4月)には炉に釜をかけて、お客様が少しでも温まるようにと考えます。暑い季節(5月から10月)には風炉に釜をかけて、お客様から離れたところで炭をおこし、暑くならないようにと心がけます。

釜をかける位置だけでも季節により違ってきますし、道具類やお花、お菓子、お点前なども、それぞれの季節を考えて、お客様に楽しんでいただけるような趣向になっています。

■季節ごとのお茶会を開き、日本の四季を味わう

お正月には「初釜」というお茶会を開きます。

初釜は、年が明けて初めて釜に火を入れることを意味し、新年最初に行われるお茶会のことをいいます。

床の間には、初春にふさわしい掛け軸が飾られ、結び柳という天井から畳に流れるほどの長い柳で長寿を祝います。

お菓子も花びら餅という特別なものをいただきます。

白い丸餅の上に赤い菱形の薄い餅を重ね、その上に白味噌の餡、甘く煮たゴボウをのせて、半月型に包んだものです。

平安時代に長寿を祝うため、固いものを食べる新年の習わし「歯固めの儀式」があり、それを簡略化したものといわれています。

他にも、「節句の茶会」や「花見茶会」、「涼みの茶会」や「紅葉茶会」、「雪見茶会」など、季節ごとのお茶会を開き、日本の四季を味わい、楽しみます。

秋の到来を知らせる紅葉
写真=iStock.com/Brisana
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Brisana

昨今、季節感がなくなったといわれておりますが、日本の伝統行事や季節を、お抹茶やお菓子と共に楽しんでいただけましたら、日々の生活が彩り深く、豊かになるのではないでしょうか。

■日本の美意識「わび・さび」の本当の意味

外国人のお客様から「茶道の精神を教えてください」と問われることがあります。

外国人のほうが、茶道の精神性に魅了され感動される方が多いように感じます。

茶道の基本精神は「和敬清寂」という言葉で表され、「和やかな心、敬い合う心、清らかな心、動じない心」という意味があります。

茶道の修練によってその教えを心に刻み、人間として成長しようとする日本独特の道でもあります。

また、茶道は禅宗と深く関わり「わび・さび」という精神文化を生みだしました。侘び・寂びは日本の美意識の1つで、元々は別の意味を持ちます。

さびは時間の経過と共に色あせて劣化することで出てくる味わいや趣きある美しさをいいます。わびはさびの味わい深さを美しいと思う心や内面的な豊かさを表します。

両方が併さり、落ち着いて、静かで質素な、枯れたものから趣が感じられることをわび・さびといいます。

茶道においては、このわび・さびの精神を大切にしています。静かなお茶室で一椀のお抹茶を点てることにのみ集中することで心を落ち着かせ、自分自身と向き合い、精神を高めていきます。

■その日の心の在り方で味が随分変わる

利休百首といわれるものの中に、「茶の湯とはただ湯を沸かし茶を点てて飲むばかりなることと知るべし」と詠まれたものがあります。

この歌は、茶の湯はお湯を沸かし、お茶を点てて、ただ、いただくという、茶道は決して難しいものではなく日常生活を元にしている教えであるということを伝えています。

このように簡単にみえるものこそ難しい。一服のお抹茶といえども、その日の心の在り方で随分変わってきます。

心が落ち着かずイライラしている時に点てたお抹茶は苦みが強く、とげがあるような味がします。しかし、同じお抹茶を使っても、心が平静で優しい気持ちで点てたお茶は、甘味があり、まろやかな味がします。

これは私たちの日常生活や仕事にもいえるのではないでしょうか。

毎朝同じ時間に起きて、電車に乗り、会社で代り映えのしない同じ生活が続いているという方がいらっしゃいますが、本当にそうでしょうか?

その簡単で単調に思えるものをどのような心持ちで過ごすかで半年後、1年後が大きく変わるのではないでしょうか。

その日一日一日を大切に生きること。それが茶道の精神の重要な部分だと思います。

■「まるで舞踊をみている」ような美しい動き

ただ一椀のお抹茶を点てるために、袱紗という布で道具を清めたりする一連の所作であるお点前をみて、「茶道の美しい動き(お点前)はなぜ必要なのですか」という質問を受けることがあります。

茶道が始められた最初の頃は、別室に茶湯所が設けられ、そこでお抹茶を点ててから客室へ持ち運ばれる形式でした。

それが安土桃山時代になり、四畳半のお茶室が生まれると、お客様の目の前で道具を清め、お抹茶を点てる形式に替わりました。

それは何もやましいことはしていないことを証明するため、また、点てたばかりの熱いお抹茶をお客様に召し上がっていただきたいという心遣いの表れでもありました。

お点前は、袱紗という四角い布を規則的に折り畳み、道具類を清めたり、お茶碗を温めたりすることから始まります。

この一連の所作には全て意味があり、最小限の無駄のない動きは合理的でありながら、流れるように美しい形となっています。

外国人のお客様からは、

「まるで舞踊をみているようでした」
「芸術的でとても美しい」

という声が聞かれるように、彼らはお点前が始まると誰もが静かになり、じっとみつめています。

それまで騒がしかった小さな子どもまでも、お点前の静粛な空気を感じるのか、静かになりお行儀よく見入っています

しかし、お点前はただ単に手順や形が決まっているだけのものではありません。お点前をすることで、自分自身の精神や呼吸を整え、お道具を清めると同時にお茶室内も清浄にし、お客様の心も清めて落ち着かせるという意味もあります。

精神的な心の在り方が大切なものなのです。

竹田理絵『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』(自由国民社)
竹田理絵『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』(自由国民社)

茶道は動く禅ともいわれ、静かなお茶室で精神を統一してお抹茶を点てることは、精神修養することでもあります。

皆さんも目の前のお抹茶を美味しく点てることだけに集中してみてください。

頭の中にいっぱいだった仕事のことや悩みごとなど全てを忘れて、空っぽになることができると思います。

そして、是非簡単な英語を使って、外国人に日本の伝統文化である茶道の素晴らしさを伝えてみてください。

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竹田 理絵(たけだ・りえ)
茶禅 代表取締役
和の教養や精神を身につけて、世界で活躍したいビジネスパーソンに対して、日本の伝統文化や茶道、和の作法で支援するグローバル茶道家。神楽坂生まれの3代目江戸っ子。青山大学文学部卒業後、日本IBMに入社。退社後、日本の伝統文化の素晴らしさを伝えたいと株式会社茶禅を創設。 銀座と浅草に敷居は低いが本格的な茶道を体験できる茶室を開設。茶道歴40年、講師歴25年。年間世界30カ国の方々に日本の伝統文化を伝え、延べ生徒数は30000人を超える。一般社団法人 国際伝統文化協会 理事長、日本伝統文化マナー講師 茶道裏千家教授も務める。

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(茶禅 代表取締役 竹田 理絵)

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