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保育園に迎えに行くのに「早く帰れていいね」…働く親の罪悪感を増幅させる"最大の敵"

プレジデントオンライン / 2023年2月2日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

子育てと仕事は両立できるものなのか。東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員の中条薫さんは「働く親の多くは常に時間に追われ、周りの人に罪悪感を抱いているのが現実だ。これからは、ワークとライフを分けてバランスを取ろうとするのではなく、統合的に捉える考え方へシフトする必要がある」という――。

※本稿は、中条薫『しなやかな心とキャリアの育み方』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■ワーキングペアレンツの実態はわかりにくい

仕事と子育ての両立は、ワーキングペアレンツにとって最大の悩みです。働きやすい制度はもちろんのこと、職場の環境や一緒に働く方たちからの協力と理解が欠かせません。

とはいえ、ワーキングペアレンツの実態は、当事者以外にはなかなかわかりにくく、子育て経験の少ない上司や同僚とのコミュニケーションが難しい局面も多々あります。

この問題の改善に向け、わたしも参加する東京大学のプロジェクトでは、バーチャルリアリティ(VR)を活用して、ワーキングペアレンツへの理解を深める研修についての検討を進めています。VRの世界のなかで、子育て中の社員とその上司の方々に、仮想的に上司としての仕事や子育てを擬似体験してもらい、2つの視点にたった体験を通してコミュニケーションをすることで、自らのバイアスに気づいたり、互いの理解を深めていただく試みです。

■時代は変わっても母の悩みは一緒

今回、VRで体験するシナリオと研修内容を具体化するにあたり、子育てと仕事の両立の悩みや、働きやすい職場に向けたアイディアなどについて、ワーキングペアレンツの方々に生の声を聞かせていただける機会を得ました。

総勢15名、子育てと仕事の両立に真っ最中な方々へ、合計12時間にわたりヒアリングをさせていただき、本当に学びの多い貴重な体験となりました。子育てと仕事で忙しいなか、少しでも働きやすい職場の実現に役立つのならと時間を割いてくださった方々には、心から感謝しています。

ワーキングマザーの方々との会話では、「時代は変わっても母の悩みは一緒だなあ」と、かつて働く母親であったわたし自身にも共通する悩みや想いも数多くありました。

他方では、テレワークという新しい働き方に伴う新たな悩みや、個々の方々のリアルな体験を伺ったりもしました。

さらに、ワーキングファーザーの方々との会話では、「時代はここまで変わってきているんだ!」と目から鱗が落ちる体験をさせていただいた気がします。

そして、これらの貴重な会話を通じて、ワーキングペアレンツを取り巻く課題が浮かび上がってきました。

■夕方からの子育ては「第2ラウンド」

今回のヒアリングで、ワーキングマザーから共通して語られた言葉があります。

それは、「時間に追われる」と「罪悪感」です。

朝起きてから子どもを保育園に預けるまでの分刻みの対応から、ワーキングマザーの1日が始まります。出社した後も、お迎えの時間に間に合うように仕事をこなし、夕方には保育園に子どもを迎えに行き、子どもを寝かしつけるまで続く、一瞬たりとも気が抜けない時間。

夕方からの子育てを「第2ラウンド」と表現された方が複数いらして、なるほどなぁ、名言だなぁ、と感心させられました。しかもこの第2ラウンドは、「大人が思うように時間は進まず」かつ「親は常に選択を迫られている」時間なのです。

でも、当事者の時間に追われている大変さは、職場の方々には伝わりにくいもの。会社を定時で帰ろうとすると「早く帰れていいね」と同僚に声をかけられ、これから第2ラウンドへ向かうわたしは辛いんだけど……、と複雑な気持ちになったという声も結構聞かれました。

母親のワークライフバランス
写真=iStock.com/Nuthawut Somsuk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nuthawut Somsuk

■職場にも、家庭にも申し訳ない気分

また、第2ラウンドに向かおうとしている時間帯でも、仕事を頼まれることもあれば、問題が発生して会議が終わらないこともあります。保育園へ子どもを迎えにいくために、自分だけ先に仕事を切り上げて、退社しなければいけない場合も出てくるでしょう。

そうなると、会社の上司や同僚、チームメンバーに対しても、ゆっくりと向きあえない子どもや家族に対しても、どちらにも申し訳ない気分になってしまう。

彼女たちは職場と家庭でかかわる、両方の人々への「罪悪感」を抱いていました。

一方で、ミレニアル世代のワーキングファーザーの方々との会話では、家事や子育ては女性の役割というバイアスに対する意識変化が、予想以上に進んでいると感じました。

それと同時に気づいたのは、仕事と子育てを両立している女性の多くが感じてきた「罪悪感」を、彼らも同じように感じている事実です。

子どもが病気になった時に急に仕事を休むことなどに関する職場への罪悪感と、子どもやパートナーとの十分な時間を持てない罪悪感を、彼らもまた抱えていたのでした。

■バランスなんて簡単に取れるものではない

日本では、「ワーク・ライフ・バランス」を提唱する企業や組織が多くありますが、実際のところワークとライフのバランスなんて簡単に取れるものではありません。

とくに日々の生活での時間的なバランス。

ワーキングペアレンツの方々も「時間に追われる」「罪悪感」といった言葉で、その難しさを表現されていました。わたしの経験でも、とくに子育てで忙しかった頃は、ワークとライフのバランスが取れている、なんて感じたことは、ほとんどありませんでした。

ワークとライフ、仕事と子育てを個別に位置づけて「バランス」を取ろうとしても、身体はひとつしかありません。バランスが取れないことは、しょっちゅう起こります。

そのたびに、わたしたちはバランスを取れないことに罪悪感を抱き、自分を責めてしまう。でもそれは、メンタルヘルス面でもマイナスでしかありませんよね。

だったら、いっそバランスを取ろうなんて考えない方がよいと思いませんか。どうせバランスなんて取れないんだと、時には割り切ってしまう方が気が楽になります。

■「バランス」の捉え方で人生は大きく変わる

一方で、しなやかに生きるためには、人生全体を見通すという意味でのバランスが、とても重要だとわたしは思っています。物事のバランスを意識するには、単に2つの事柄を取り上げるのではなく、そこにかかわるさまざまな要素に対しての、全体的なバランスを考えることが肝心なのです。

子育てと仕事のバランスを考えるうえでも、目の前にある毎日の時間の使い方だけにフォーカスすると、本来考えるべきバランスを見失ってしまいます。もう少し長い時間軸で、子育てと仕事の取り組み方や力の入れ具合、お金の使い方などを考えることで、違った景色が見えて、精神的にも安定するでしょう。多方面に目を向けるバランスの捉え方は、子育てと仕事においてだけではなく、人生のさまざまな場面で役立ちます。

いくつもの「わたし」を持ち、人生を1年・3年・5年・10年と中・長期的な時間軸と複数のモノサシで捉え、全体のバランスを調整する。その繰り返しが、より豊かで振り返った時に自分で満足できる人生を創る鍵になるのです。

■ワークとライフはインテグレートする時代

「ライフ・ワーク・インテグレーション」という言葉をご存じでしょうか?

ワークとライフを分けて考えるのではなく、共に人生の重要な構成要素として統合的に捉える概念のことです。両方を豊かにすることによって、人生をより豊かにしようという考え方なのです。経済同友会が2008年にかかげた概念で、まだ日本では認知度は低いものの、新しい生き方や働き方として、近年注目を集め始めています。

コロナ禍の影響もあり、リモートワークが急速に増え、わたしたちの人生におけるワークとライフの境界線が薄れつつあります。働く時間だけでなく、働く場所も柔軟になってきています。働き方が大きく変わりつつあるなかで、従来の「ワーク・ライフ・バランス」に代わって、これからの時代により適した考え方が、ワーク・ライフ・インテグレーションなのです。

■勤務時間ではなく、仕事の質を重視すべき

日本ではこれまで、仕事の比重が大きく、仕事の時間や場所の自由度が低かったことも影響して、ワークとライフを分けて考えざるを得ない状況が続いてきました。ワーク・ライフ・バランスを向上させようとしても、両者を分けて認識していることで、どちらかを大切にしようとすると、片方を犠牲にしているような気がしてしまう。

例えば、「子育てをするために、仕事をする時間を制限している」「仕事で成果を上げるためには、家族と過ごす時間を削らざるを得ない」という感じです。

これからの時代、わたしたちの仕事は、単なる従来の延長ではなく、新たなことを生みだしたり、イノベーティブな取り組みにチャレンジすることが増えていきます。求められることは、働く時間の長さではなく、アウトプットの質にシフトしていくでしょう。

充実したライフから生みだされるアイディアや考え方が仕事の質を向上し、より生産性や創造性を高めていくことは想像に難くありません。その観点からも、仕事も生活も人生の一部と捉えて、相互作用によって人生全体の充実を図ることが、これからの世のなかではますます必要になっていくと思います。

■個人主導の働き方が必要になっている

ワーキングペアレンツとの会話では、ほとんどの方が「罪悪感」を抱えていました。わたしはその状況を改めて認識し、「ワーク・ライフ・バランス」から「ワーク・ライフ・インテグレーション」へシフトする必要性を強く感じています。

中条薫『しなやかな心とキャリアの育み方』(クロスメディア・パブリッシング)
中条薫『しなやかな心とキャリアの育み方』(クロスメディア・パブリッシング)

ワークとライフのどちらかを選ばなければと悩むというよりは、ライフ(私生活、人生)があって、そのなかで重要なもののひとつがワーク(仕事)と捉える方が自然ではないでしょうか。

ライフとワークを日々の生活、そして人生のなかで、どのようにインテグレーションする、つまり、統合するのが自分にとって好ましいのか。一人ひとりが主体性を持って、これらを統合させるマインドで考えていかなければなりません。

個人が人生をデザインし、それを企業がサポートしていく。個人主導の働き方が、大きく変わっていくこれからの時代には必要になると思います。

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中条 薫(ちゅうじょう・かおる)
東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員、SoW Insight 代表取締役社長
富士通入社後、米国富士通研究所駐在、モバイルフォン事業、IoT事業を経て、2017年に本部長としてAI事業の立ち上げを実施。神経心理学(NLP)プロフェッショナルコーチの資格を有し、2020年12月に心理学を取り入れたコーチングを軸に、経営および人材育成領域のコンサルティングを提供する株式会社SoW Insightを起業。現在は、3社で社外取締役として経営に携わるとともに、しなやかに活躍するためのキャリアデザインやリーダーシップなどの研修・コーチングを提供している。著書に『しなやかな心とキャリアの育み方』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

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(東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員、SoW Insight 代表取締役社長 中条 薫)

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