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原始時代からのDNAが作用している…佐藤優「相手との関係を深くしたいなら鍋や焼肉を囲むといい」

プレジデントオンライン / 2023年1月29日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

良い人間関係を構築するにはどうすればいいか。元外交官で作家の佐藤優さんは「深い人間関係を築くには、一緒に食事をすることが大切だ。特に鍋や焼き肉は親密度が増しやすい」という――。

※本稿は、佐藤優『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』(ジャパンタイムズ出版)の一部を再編集したものです。

■リモートに慣れると人と会うことが億劫になる

まず、職場の人間関係について考えてみましょう。よく言われるのが、直接的な人間関係の大切さです。

インターネットやSNSが発達して、リモートでもやり取りが自由にできる時代になりました。だからこそ直接会って話をする。食事をしたりお酒を飲んだりして付き合いを深める。直接的なコミュニケーションが大事だということです。

たしかにFacebookで友達が何人いても、Twitterでたくさんフォロワーがいても、実際の仕事において、そのようなバーチャルなつながりはほとんど力になりません。

メタバースもそうです。IT技術で構築したバーチャル・リアリティー(VR)でユーザーがアバターとなって、現実に似たコミュニケーションができるサービスです。しかし、ウクライナでの戦争のことを考えてみましょう。

国土の中央部の低地を流れる現実のドニエプル川をアバターで越えることはできません。VRが現実の戦争に影響を与える力を持っていないわけで、このことは実は人間関係にも当てはまると思います。

ただし、直接的な人間関係をどの程度築いていくか? その加減が実は難しいのです。

ところで、皆さんはこの2年ほど、新型コロナ禍の影響で自宅で仕事をすることが一気に増えたと思います。

Zoomで会議をしたり打ち合わせをしたりする。直接相手と対面することが大事だと教わってきたけれど、意外にこれがうまくいく。ということで、すっかりスタンダードになりつつあります。

リモートに慣れてしまうと、今度はいざ対面で話すときにとても億劫に感じます。実際そういう人も増えているのではないでしょうか?

■互いに一歩踏み込むことで、次の次元の関係性に入る

以前、精神科医で筑波大学教授の斎藤環さんと対談したことがあります。斎藤さん曰く、人と直接会うという行為は、本質的に暴力的な行為だというのですね。

直接対面するということは、相手のテリトリーの中に侵入していく行為でもあるわけです。直接相手と会って話した方が交渉はまとまりやすいと言われているのは、その暴力性によって相手を屈服させているという側面があるからなのです。

だから皆さんがリモートに慣れて、人と会うのが億劫に感じるというのは、ある意味まともな感覚だということです。

そう理解した上で、人が本当に分かり合ったり共感したりするためにはやはり直接会う必要があることを認識する必要があります。

つまり人間関係とは本質的に暴力性を内在させていて、あえてお互いに一歩踏み込むことで、初めて次の次元の関係性に入ることができるのです。

例えばある男性がある女性を好きになるとします。何とか相手に自分を認識してもらい、親しくなりたい。LINEやFacebookなどで相手にアプローチし、アピールする。

そして実際に会う約束を取りつける。そう言うとなんだかスマートに聞こえるかもしれないけれど、それ自体には本質的に相手のテリトリーに入り込んでいくという暴力的な面があるでしょう。

でも、一歩踏み込んでいく暴力性がなければ、恋愛関係には発展しません。ここが難しいところでもあって、相手にその気がないのに必死に食らいつくと、ストーカーという立派な犯罪行為になります。

■うんと深く付き合うのは5人でいい

若い人たちがなかなかお互いに深い関係になりにくいというのは、その暴力性に敏感だということです。ただし、恋愛と同じように、やはりお互いが理解し合うためには、その暴力性に対して、怖れず向き合う必要があると思います。

ここで重要になるのが「選択と集中」です。

周囲の誰とでも親密な関係を築くのではなく、本当に自分にとって大切で重要な人物に絞り込み、その人に対して一歩踏み込んでいくのです。私はそういう人は自分の周りに5人いれば十分だと思います。

いざとなったら心を開いて相談できる人、深刻な話を受け止めてくれる人を5人つくること。

5人なんて少なすぎないかという声が聞こえてきそうです。でも、よく考えてみてください。深く付き合える人を5人持っている人は、実はそんなにいないはずです。

その核となる5人を一人一人が持ったらどうなるでしょうか?

5人が自分の本当に信頼する人間をそれぞれ5人持っているとしたら、5×5で25人のコアなつながりができるでしょう。さらにそれぞれが5人の信頼する人物を持っていれば、25×5で125人。つまり5の累乗で深くコアな関係がつながっていくわけです。

■良質な人間とつながれば、その先に良質な人脈がある

本当に信頼できる人を5人つくれれば、それを辿れば相当に強くてかつ広い人脈ができるはずです。

例えば交通事故を起こしてしまい、誰か弁護士の知り合いを探したい。そんなときにコアな人脈の中に、誰かしらふさわしい人材が見つかるはずです。

人脈と言うと、とにかくたくさんの人と知り合う必要があると考えたら大間違いです。よく名刺交換会だのパーティーだのやたら参加して名刺を配りまくっている人がいますが、そんなところから本当の人脈なんてできません。

人脈をつくりたかったら、むやみに広げてはいけません。まず自分が本当に信頼できる人を5人つくること。そしてその関係を大事にし、強くしていくこと。

そのためには相手をよく選び、絞り込む必要があります。つまり、選択と集中です。良質な人間とつながれば、その先に良質な人脈があって、それとつながることができるのです。

■仕事を通じているからこそ、互いを信頼し、リスペクトし合える

社会に出ると損得勘定を抜きにした人間関係はできないとよく言われます。どうしても利害が絡むので、学生時代の友人のような関係は難しいと。

これは、半分は本当で半分は嘘です。

仕事の関係であっても、いやむしろ仕事を通じているからこそ、互いを信頼し、リスペクトし合える深い人間関係になることがあります。そこには単なる仕事での付き合いを超えた、仲間意識のようなものが芽生えたりします。

作家という立場で編集者やライターの人たちとの付き合いが私自身ありますが、その中で信頼できる人が何人かいます。

単なる利害関係や損得勘定ではなく、いろいろなことを相談できる相手でもあり、私もその人たちのために何かできることがあればできる限りのことをします。

たしかに学生時代のようにまったく利害関係のない友情とは違います。しかし、私にとっては大切な仲間であり、ある意味、仕事を超えた関係であることも確かなのです。

逆に、社会人でありながら利害関係のまったくない友達ばかりだとしたら、むしろ問題でしょう。趣味やサークルでの仲間ということになるかもしれませんが、果たして肝心の仕事をちゃんとしている人なのかどうか? 私からしたら、むしろあまり信頼できない人物ということになります。

■仕事でつながった関係を深める「連立方程式」

社会人であるからには、まずは仕事としっかりと向き合っているかどうかが基本だと考えます。それができない人は、人間関係に関してもしっかり向き合える人かどうか怪しいものです。

社会人だからといって利害を超えた関係は築けないと決めつけるべきではないというのが、私の実体験からの結論です。

極端な話、社内恋愛で結婚するというのは、本来仕事を通じての利害関係であったものから、深い人間関係に到達した典型的な例でしょう。結婚でなくとも、仕事を通じて知り合った人が、一生の付き合いになることもあります。

そういうことを前提にして、仕事で良好な人間関係、深い人間関係を築くには、上手に「連立方程式」を作ることができるかにかかっていると思います。

テイク&テイクでは絶対によい関係は築けません。例えばここにオレンジが一個あるとしましょう。相手は実を食べたいと思っている。自分も実を食べようと思ったら奪い合いになるかもしれません。

そこで自分はマーマレードの作り方を知っているから、実の方は相手にあげて、自分は皮をもらってマーマレードを作ることにする。こういう形でお互いが、ある条件の下でプラスになるための連立方程式を作ることが大事になります。

これが上手にできる人が、大人の友情を育むことができる人です。利害から始まった関係が次第に変質して、より深い一歩先の関係へとつながっていくのです。

湾曲ディスプレーに映し出されたスクリプト
写真=iStock.com/monsitj
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monsitj

■Facebookの友達が1000人でも仕事的には意味がない

次に大事になるのが、人脈をいかに維持し、よりつながりを深めていくかということ。つまり人脈のメンテナンスということになります。

まず大事なことは人脈を重要度で仕分けするということ。

全員と同じように付き合うということは物理的に不可能です。当然、付き合い方の濃淡が出てきます。

重要な人物かどうかをどう判断するべきでしょうか? 会社や組織の中で意思決定ができる人かどうかで仕分けるのも一つの方法でしょう。

組織の中で意思決定ができるとなると、やはり役員クラスということになりますが、なかなかすぐにはそういう人と付き合うことは難しいと思います。ならばワンクッション、あるいはツークッションで意思決定にアクセスできる人とつながるようにするのです。

本部長や部長、あるいは組織によっては課長クラスが力を持っている場合もあります。意思決定に近い人を重要度の基準にすることです。

認知心理学では、一生の間で本当に深く関われる人は30人だと言われています。どうやら認知心理学的に、その能力としての限界がその数字らしい。ですから人脈においても深い関係になるのは30人が限度だということです。

それを考え合わせると、そこまで関係性が深くない人も含めて仕事で実際に付き合える有効な人脈は、どんなに多くても100人が限度だと私は考えています。

ですからFacebookで友達が何百人、何千人いるからといって、ほとんど仕事的には意味のないものだと考えていいでしょう。むしろいろいろな雑音が入ってきたり、面倒なことが起きたり、マイナスになることの方が多いように思います。

■3の数で人脈をメンテナンスする

20代から30代であれば人脈で100人は多すぎます。まずは先ほどの重要度などを基準に30人に絞り込み、できるだけ長く、密に付き合うようにすることです。

経験則から私は3という数字が重要だと考えています。ある場所で面識を持ってこれはと目を付けた人物と一定の期間内に最低3回は会うこと。最初に会ってから1カ月以内にもう一度会う。それから3カ月以内に3回目、何かしら理由をつけて会う。

3カ月から4カ月くらいの間で3回会うことができれば、強い印象を相手に残すことができます。その後は3カ月に1回ぐらいを目途にしてあいさつをするとか、食事に行くなどして顔つなぎをします。

ちなみに、前任者から引き継がれた人脈は基本的に会社の人脈と考えましょう。それが自分の人脈になるのは、相手との相性がかなりよかった場合だけです。職種にもよりますが、引き継ぎは3割成功すればいい方でしょう。

■鍋や焼き肉が特に相手との関係性を深める理由

人付き合いにおいて、会食や飲食はとても重要です。動物は仲の悪い相手とは同じ餌箱から餌を食べようとしません。人間も同じで、嫌な奴とか気が合わない人間とは食事をしたくないものです。

苦手な上司から昼食に誘われ、嫌々食事に行っても胃が痛くて味も分からない、なんてことがあるでしょう。ならばいっそコンビニでおにぎりかサンドイッチを買って一人で食べた方がいいと思ってしまう。

逆に言えば、ある人物とストレスなく飲食をする時点で、すでにかなり近しい関係にあるということ。そして飲食を共にすることで、親しい関係がより親密になるということです。

特に関係を深めるのにいいのが鍋や焼き肉です。皆で一緒につつき合いながら食べることで、より親密度が増します。もっといいのがBBQです。料理だけではなく火と煙も囲むでしょう。

炭火で焼肉
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

原始時代とか縄文時代は、家族で火を囲み肉や魚などを焼きながらみんなで食べた。そのときの団欒の幸福感だとか家族意識のようなもののDNAが確実に私たちの中に残っていて、それが呼び覚まされるのだと思います。

煙は上に昇っていくでしょう。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の社会では、その煙を神様が食べるという意味があります。

家族だけでなく神様も一緒に食事をすることで、結びつきがより強固になるわけです。仏教でお香や線香をたくのも、おそらく同じ流れからきているのでしょう。

■一緒に食事をすることの重要性

食べるという行為は、いろんな存在とつながるという深い意味があるわけです。お通夜でもお斎をみんなで食べるのは、死者と一緒に食事をすることでつながるためです。

だから会食するということは相手とつながるという象徴的な意味があります。無意識に私たちは会食することでそのメッセージを共有しているということです。

ですから大事だと思う人とはできるだけ一緒に食事をすること。いきなり高い店をセッティングする必要はありません。社員食堂でも、ファミレスでも構わないでしょう。その際、会食において重要なのは、お金をどちらが払うかということです。

佐藤優『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』(ジャパンタイムズ出版)
佐藤優『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』(ジャパンタイムズ出版)

相手が年上でお金もある人の場合は、どうしても向こうが払うことが多いかもしれません。ただし、一度や二度は甘えても、ずっと奢られっぱなしではいけません。いつもどちらかが奢り、どちらかが奢られているとそれは力関係になってしまいます。

2回に1回、あるいは3回に1回は払うようにしましょう。相手が高級レストランで奢ってくれたとしても、こちらは同じような高級店である必要はありません。分相応の店で十分です。

あるいはどうしてもこちらが食事代を持てないという状況なら、ちょっとしたお土産でもいいでしょう。奢られっぱなしという形だけは避けるのが鉄則です。

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佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。

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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)

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