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「マサル、君は私の試験に合格だ」佐藤優がロシアの大物との距離感を縮めた"驚きの方法"

プレジデントオンライン / 2023年1月30日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/izusek

大物に近づくためにはどうすればいいか。元外交官で作家の佐藤優さんは「仕事の話は一切せず、相手が興味のある話だけを投げかけることだ。私はロシアの大物に神学について語ることで、破格の待遇を得た」という――。

※本稿は、佐藤優『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』(ジャパンタイムズ出版)の一部を再編集したものです。

■「やる気があって能力が低い人物」は要注意

人脈を広げるにあたって、相手を見極めるにはどんな点に注意するべきでしょうか?

仕事ができて成果を上げている人であることは当然の条件になります。ただし、そういう人物であれば誰でも重要な人物であるとは限りません。

私がよく人物判定に使うのが、意志と能力のマトリックスです(図表1)。意志つまりやる気があって能力があれば、当然仕事の成果は上がるでしょう。意志と能力の積こそが仕事力ということになると思います。

そこで横軸に意志を、縦軸に能力を取ったマトリックスで人物を判定するのです。

【図表】意志と能力のマトリックス
出典=『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』

まず、第一象限に属する「意志も能力も高い人物」は、文句なく人脈として有効な人物だと言えるでしょう。それもできるだけ右上に位置する人物がふさわしいと考えられます。

第三象限の「やる気がなく能力も低い人」は論外ですし、第二象限の「能力はあってもやる気が低い人」はやはり人脈として魅力はありません。やる気の低さに引きずられて、能力は落ちていきます。

一番問題なのは第四象限の「やる気があって能力が低い人物」です。結論から言うと、こういう人物は避けた方がいいでしょう。意識が高くやる気があるので仕事ができるように見えますが、実際は能力が追いついていません。

無駄なことに時間と労力をかけた挙げ句、ミスや失敗を犯し、周りが後始末に苦労させられる人物です。

やる気があり前向きなので、やたら名刺を積極的に配り、自己アピールする人物が多いのも特徴です。ですが、一緒に仕事をするとどこかツボを外していたり、トンチンカンなことをやったりして、被害を被るということは往々にしてあります。

やる気があり前向きな人物が第一象限と第四象限のどちらに該当するのか、しっかりと見極めなければなりません。できればその人物をよく知っている周囲の人の評価を聞くことです。

あるいはしっかり時間を使って、その人物の行動を観察し、仕事の成果を見極めることです。いずれにしても第四象限の人物とは、距離を極力置くこと。

このマトリックスは人脈づくりだけでなく、社内の上司や部下の人物判定にも大いに役立ちますから、ぜひ活用してみてください。

■相手を見極めるために「小さな約束をする」

相手が信用できるかどうか見極めるにはどうすればよいか? それはわりと簡単です。ちょっとした約束をして、それをしっかりと相手が守れるかどうかを確かめるのです。

例えば待ち合わせの時間にちゃんと遅れずに来るか? いつまでに連絡を取り合うという約束を守るかどうか。

ちょっとした約束事を守れない人物は、大きな約束も守れません。つまり信用できない人物ということになります。

ただし、詐欺師はこの理屈を逆手に取るため、気を付けなければいけません。彼らは最初に一万円や二万円といったちょっとした借金をします。そしていつまでに返すという約束をきっちりと守るのです。しかも利子をしっかりつけて返してきます。

それを繰り返して自分を信用してくれたと確信した段階で、一〇〇万円や三〇〇万円など大きな借金を申し込んできます。

「これまでも必ず期日までにしっかりと利子を付けて返してくれた、しかも今度は額が大きいから利子でかなり儲かるぞ」という欲がこちらも出てきます。欲が出ることで、冷静な判断ができなくなるわけです。

それで貸すと、今度は約束の日を過ぎても返済がありません。連絡しても通じません。そこで初めて「やられた!」となるわけです。

詐欺のケースは話が別になるのでこれ以上触れませんが、少なくとも、小さな約束を破る相手は、信用できる人物ではないことはたしかなことです。

■相手をコントロールすることに長けた人物も要注意

ギブ&テイクができない人物も要注意です。見極めるには一緒に飲食をして何度かこちらが奢ります。その際、一向に相手が奢り返してきたり、何らかのお返しの一つもしない人物だったときは気を付けるべきでしょう。

自己中心的で幼児性が強く、全ては自分のために世の中が回っていると考えるタイプかもしれません。

つまり、「同心円状のアイデンティティ」の持ち主で、自分にとってよいことが会社や社会、そして世界にとってよいことなのだと考えているのです。しかもそういう人物ほど肩書や地位を持っていたりすることがあります。

こういう人物はとにかくテイク&テイクで自分の利益になることだけを考えています。周囲の人間は自分が得をするための道具でしかありません。相手を都合のいいようにコントロールすることに長けていて、気が付くと相手のペースにはまってしまいます。

このような人物は虚言癖を持っていることも多く、話に一貫性がないのも特徴です。少し経って同じ質問をすると、言っていることが前と今とで微妙に違っています。そういう人物は気を付けなければなりません。

限りなくサイコパス的な性質で、騙されたあげく、徹底的に利用されておしまい、ということになる可能性があります。

彼らは仕事ができるように自分をアピールするのが上手で、実に弁舌爽やかで魅力的に見えることがあります。

ですが、時間をかけて注意深く話を聞いていると、どこかに矛盾点が出てきます。どこか怪しいと感じたら、可能であれば相手の周囲の人物に聞いてみましょう。すると話が真っ赤な嘘であったり、意外な素顔を持っていることが分かったりします。

異業種交流会や派手なパーティーなどに行くと、こういう人物が時折出没しては獲物を探していることがあるので要注意です。このような場所で弁が立ち、何かと目立つ人物は少し警戒する必要があります。不用意に近づかないことです。

■相手に興味を持ってもらう一番の近道

人脈を広げる上で大事になるのは、いかに自分に興味を持ってもらうかということです。

自分が相手にどれだけ興味を持って近づきたいと思っても、相手がこちらに対して興味を持たず、何のメリットも感じなければ近づくことは難しいでしょう。

それにはまず相手をよく知ることが大前提となります。

相手の性格、好き嫌い、趣味嗜好、行動パターンなど、できるだけ相手の情報を集めること。特に大事になるのが相手の専門知識や教養レベルがどれくらいかということ、さらには思想信条、あるいは思考のパターンを理解することです。

その人物が著名人で、著作や論文など何かしら書き残したものや、本人を取り上げた新聞や雑誌記事があれば、それらをチェックするのは基本中の基本です。ただし、一般の人の場合はそのようなテキストがありません。

そういうときに便利なのがSNSなどによる発信履歴です。FacebookやTwitterなどで本人が何かしら発信しているものがあればそれを調べます。その人物の興味や行動、考え方などを知る貴重な手がかりになるでしょう。

スマホでSNSをチェックしている手元
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

相手を知り、相手の持っている知識や関心に合わせて話をすること、自分をアピールするのではなく、相手が乗ってくる話をすることがポイントです。

できるならば、相手と同じか、それに近いくらいの知識や教養があればなおいいでしょう。

「なんだか面白そうな奴だな」と相手が思ってくれたらしめたものです。

かりに相手ほど知識や教養がなかったとしても、その領域のことに対して関心を示し、質問するだけでも印象はかなりよくなるはずです。

■大物の警戒心を解くには距離感が重要

人脈をつくるにあたって陥りやすいのは、相手との距離感を見誤ることです。特にどうしてもこの人と近づきたいと考える相手であればあるほど、距離感を間違えやすくなります。

思いが強いあまり、つい相手に近づきすぎてしまうのです。恋愛でもそうですが、得てして追えば追うほど、相手は負担に感じて逃げてしまうものです。

特に仕事の人脈は、基本的に利害関係です。相手にしてみるとガッついて距離を縮めてくるほど、「どれだけ得をしようとして、焦って近づいてきているのか?」と魂胆を見極められてしまいます。

特に誰からも一目置かれるような重要人物となると、周囲にはそのような輩で溢れています。すると「またこいつもか」と思われてしまうのがオチです。重要人物ほど、距離感がとても大事になってきます。

かつて私がモスクワの日本大使館に勤めていた頃、当時ボリス=エリツィン大統領の側近でソビエト連邦の崩壊のシナリオを描いたゲンナジー=ブルブリスという人物がいました。

しかし、この人物は大変な切れ者である一方で、非常に気難しいことで有名でした。彼に近づくことができた日本人は誰もいませんでした。

私は一計を案じ、ブルブリスが登壇するシンポジウムに、私もパネリストで参加することができれば、懇意になることができると考えました。

■仕事の話はせず、相手が興味のある話を投げかける

私は大使館に勤務するかたわらモスクワ大学哲学科で講師を務めていたので、科学アカデミー哲学研究所の友人に頼んで、その機会をうかがったところ、ある日、ブルブリスと同じ壇上に上がることができたのです。

ただし、そこで面識を得たからといって、いきなり仕事の話をしてもブルブリスのような人物は取り合ってくれないことは分かっていました。

調べてみると、彼は哲学、特に唯物弁証法に造詣が深いことが分かりました。私もまた弁証法神学を学んでいましたから、仕事の話は一切せず、まずは私自身が最も興味のあったヨゼフ・ルクル・フロマートカというチェコの神学者について話しました。

案の定、ブルブリスは神学について熱く語る東洋人に大いに興味を持ってくれました。そしてしばらくして、「マサル、君は私の試験に合格した。以後は私のシンクタンクに自由に出入りして構わない」と、破格の待遇を得ることができたのです。

佐藤優『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』(ジャパンタイムズ出版)
佐藤優『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』(ジャパンタイムズ出版)

今にして思えば、やはりブルブリスのような気難しい重要人物の場合は、特に距離感が大切だということです。

私が焦って、「これからのロシアはどうなりますか?」「エリツィン政権はいつまで持ちそうですか?」など、いきなり本題を持ちかけていたら? おそらく彼は貝のように口を閉ざし、決して私を自分のテリトリーの中に入れようとはしなかったでしょう。

仕事の話はせず、あくまでもブルブリス自身が興味のある話を投げかける。相手がOKと言うまでは、ずかずかと相手の領域に踏み込むことはしない。

つまり絶妙な距離感を保つことができたからこそ、私はブルブリスに気に入られ、特別待遇を受けることができたと考えています。

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佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。

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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)

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