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東電は6月から電気料金を3割値上げ…昨年をはるかに上回る「最悪の値上げラッシュ」に早く備えよ

プレジデントオンライン / 2023年1月30日 10時15分

記者会見で、厳しい表情を見せる東京電力ホールディングスの小早川智明社長=2023年1月23日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■賃金が追いつかないほど物価が上がり続けている

2022年を振り返ると、わが国の物価は久しぶりに上昇した。異常気象、ウクライナ危機などで、世界的に資源、食料品などの価格が上昇したことが大きく影響した。それに加えて、外国為替市場で円安が進んだことも物価の上昇を加速した。日米の金利差急拡大の観測によって、10月には一時151円95銭まで円安が急速に進んだ。資源などの価格上昇と円安の掛け算によって、国内の物価は上昇した。

問題は、わが国の物価にはまだ上がりそうなことだ。電気料金や食料品など、多くの分野で値上げ予定が目白押しだ。その分、賃金が上がってくれればよいのだが、平均すると、賃金上昇は物価上昇に追いついていない。ということは、実質ベースでみた賃金は減少している。今後もインフレ傾向が続くとすると、金利は上昇するだろう。

金利の上昇は、預金者にとってプラスだが、住宅ローンの金利が上がると、その分金利支払い負担は増えることになる。相対的に所得の少ない層への影響は大きくなるはずだ。経済格差が拡大するかもしれない。多くの人の生活はさらに苦しくなることが懸念される。

■企業の自助努力で価格を抑えてきたが…

わが国の物価は趨勢的に上昇している。2022年12月、川上の企業物価指数は前年同月比で10.2%上昇した。2022年平均でみた企業物価上昇率は9.7%と1981年以降で最高だった。主要な品目別にみると、電力・都市ガス・水道、天然ガスなどの鉱産物の価格上昇は大きかった。また、円ベースでみた輸入物価は年平均で39.1%上昇した。

一方、同月、川下の消費者物価指数は総合指数、および生鮮食品を除く総合指数ともに前年同月比4.0%上昇した。生鮮食品を除く総合指数は41年ぶりの上昇率だった。品目別に物価上昇の大きかったものを確認すると、食料、水道、光熱費などの上昇は大きい。わが国の企業は自助努力によってコストを吸収してきたが、それは難しくなっている。そのため価格転嫁が進められ、消費者物価の上昇が勢いづいている。小売り分野などでは値上げが実施された。

■85%が「1年後も物価は上がる」と回答

物価が上昇する環境下、わが国では賃金が伸び悩む状況が続いている。深刻なことは、物価上昇の影響を除いた実質ベースで賃金が減少していることだ。2022年11月速報の毎月勤労統計調査によると、前年同月比で実質賃金は3.8%減少した。8カ月連続の減少だ。名目賃金(現金給与総額)は緩やかに上昇しているものの、物価上昇(消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合))の上昇率がそれを下回っている。

その結果、家計の生活負担は上昇している。2022年12月に日銀が実施した“生活意識に関するアンケート調査”によると、1年前と比較した場合、物価は“かなり上がった”との回答が52.7%に達した。昨年9月の調査では46.4%だった。物価上昇は家計を圧迫している。

現在の暮らし向きについて“ゆとりがなくなってきた”との回答も53.0%に上昇した。今後1年間の支出を考えるにあたって物価動向を特に重視するとの回答も増えている。1年後の物価に関しても“かなり上がる”との回答割合は32.5%に上昇し、“少し上がる”も含めると85%が物価上昇を警戒している。

■「物価はまだまだ上がる」これだけの理由

懸念されるのは、当面、わが国の物価に上昇余地があることだ。特に、食料品や電気代の上昇は大きい。具体的には、東京電力は家庭向けの電気料金(低圧の規制料金)の値上げ(平均で29%)を申請した。6月から新料金の適用を目指している。

また、東京商工リサーチによると121の食品メーカーのうち、64社が価格改定を発表した。今後、1万36品の値上げが行われる。2~3月にその7割程度が実施される模様だ。5267の品目で5%以上10%未満の値上げが実施される。値上げの理由として原材料価格の上昇、資源や燃料の値上がり、包装資材などの値上がり、人手不足などが指摘されている。家庭用の食塩の価格も引き上げられる。

その背景にはいくつかの要因がある。まず、わが国では企業物価指数と消費者物価指数の上昇ペースが乖離(かいり)している。その分は企業がコストとして負担しなければならない。収益を守るために、価格転嫁を加速させる企業は増えるだろう。

■すぐに円高に振れる展開は予想しづらい

また、昨年に比べれば小さくはなるだろうが、為替レートの影響も無視できない。2022年1月から3月前半ごろまで円の為替レートは1ドル=110円台で推移した。足許、ドル/円は1ドル=130円程度で推移しており、1年前に比べると円安だ。それは前年同月比でみた輸入物価の押し上げ要因になりうる。

今後、連邦準備制度理事会(FRB)は追加の利上げ幅を縮小するものとみられる。それによって、昨年10月中旬のように1ドル=150円に達するような急激な円の下落は想定しづらい。ただ、依然として日米の金利差は大きい。短期的に、為替レートが前年同月の水準を大きく割り込むまで円高に振れる展開は予想しづらい。

さらに、中国などでの新型コロナウイルスの感染再拡大、ウクライナ情勢もわが国の物価を押し上げる要因になりうる。万が一、中国の感染再拡大が勢いづけば、生産活動や物流が混乱し本邦企業のコストプッシュ圧力は高まる恐れがある。年明け以降、中国の景気持ち直し期待の上昇が先行し、原油、銅などの商品市況も上昇している。

■賃金体系を見直す動きは広がっているが…

今後、わが国家計の生活負担が追加的に上昇する恐れは高まっている。日々の生活に必要な支出を見直したり、不要不急の外出を減らして節約を心掛けたりする消費者は増えそうだ。

スーパーで買い物中の女性
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

足許、わが国企業の中には、人事制度を国内外で統一したり、実力主義を徹底したりすることによって人々に成長を促し、組織の成長力を引き上げようとする企業が出始めた。政府からの賃上げ要請も、そうした取り組みの一つの要因になっている。物価への抵抗力をつけるために、それは重要なことだ。

ただ、経済全体でみると、年功序列や終身雇用といった雇用慣行は続いている。世界的な景気後退の懸念が高まるにつれて、賃上げの機運は弱まる恐れがある。特に、事業環境の不安定感が相対的に高い中小企業にとって、賃上げのむつかしさは増すだろう。わが国全体で持続的に賃金が上昇する展開は想定しづらい。

■今年は物価と同時に金利も上昇する

今後の物価上昇によって懸念されるのは、所得の相対的に少ない層への影響が大きくなることだ。また、物価上昇によって年金の受給額は増えるものの、物価上昇を勘案した実質ベースでは減少する。状況によっては、わが国における経済格差が広がることも考えられる。ミクロで考えた場合、企業が物価上昇などを克服して成長を目指すために競争原理を取り入れることは重要だ。

ただ、マクロの視点で考えると、それが経済全体でみた人々の安心感を高めるとは限らない。政府は格差の固定化などを防ぐためにしっかりとした対策をとらなければならない。また、人々が自律的に成長を目指すために学び直しの制度などを拡充することも欠かせない。

物価が上昇するに伴い、どこかの時点でわが国の金利も上昇するだろう。1999年2月に“ゼロ金利政策”が始まって以降、わが国は超低金利環境に浸った。消費者をはじめわが国全体で超低金利の記憶は強い。その分、家計や企業にとって金利上昇のインパクトはかなり大きなものになると懸念される。

その一つとして、住宅ローン金利の支払い負担は高まり、個人消費の鈍化懸念は高まりやすい。また、金利上昇は中小企業をはじめ企業の資金調達コストや元利金返済の負担も増加させる。それによってわが国経済の持ち直しペースが鈍化する展開は排除できない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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