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「一期一会」の意味を聞かれて「一生涯でただ一度の出会い」と答えるだけでは不十分な理由

プレジデントオンライン / 2023年1月30日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bokan76

「一期一会」とはどういう意味か。茶道歴40年の茶道家・竹田理絵さんは「『一期一会』は『一生涯でただ一度の出会い』と解釈している人は多いが、それは少し違う。本来は『人生は一度きり、相手に対して精一杯の誠意を尽くせるか』という茶道の心得を表している」という――。

※本稿は、竹田理絵『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』(自由国民社)の一部を再編集したものです。

■グローバル社会で「わび・さび」の精神を語ることの意味

現在、グローバル化が進み、世界の人々に向けて日本の文化を語れる力が重要視されていますが、海外の人へ向けて、わび・さびの精神について語ることはできるでしょうか。

何となくわび・さびという言葉から、茶道や古いお茶室、苔むした灯篭や枯山水の庭園などのイメージは浮かびますが、この世界観をはっきりと言葉で説明できる人は少ないかもしれません。

海外のビジネスパーソンたちは、自国の文化や芸術について小さい頃から勉強しており、しっかりと語ることができます。

ですから、自国の文化を語ることができないとがっかりされてしまうことがあります。

こうしたことから日本の美意識について、しっかりと語れるようになっておくことが、これから世界で活躍するためには益々重要になってくるのではないでしょうか。

それでは、いったいわび・さびとはどういう意味なのでしょうか?

わび・さびは、日本特有の美意識で、漢字では「侘び・寂び」と表します。

実はわび・さびは1つの言葉ではなく、「わび」と「さび」というそれぞれ別々の意味があります。

■「わび・さび」は足りないことを美しさとして見出すこと

「さび」は、時間の経過と共に古くなり、色あせ、錆びて劣化していきますが、逆に古くなることで出てくる味わいや枯れたものの趣ある美しさを表します。

例えば、銀などは時を経ることで、色味や風合いが変化して、アンティークのような落ち着いた味わいになります。

さびは、英語で「impermanent」と訳されます。

日本人は時間と共に移ろいでいく様を愛でて、そこに美意識を見出しているのです。

「わび」は、さびを美しいと思う心や内面的な豊かさを表します。

例えば、歪みや壊れなど、姿かたちが整っていないものでも、個性として独自の魅力を見出し、不完全なものを面白がるのが、わびの美意識です。

置かれている状況を悲観するのではなく、それを楽しむ精神的な豊かさを表した言葉です。

わびは、英語で「incomplete」と訳されます。

わびは、室町時代に茶の湯と結びついて発達しました。

「わび茶」の創始者といわれる村田珠光は、高価な「唐物」の美術品鑑賞を尊ぶ茶会に対して、より簡素な道具を用いる静寂な茶の湯へと変えていきました。

華麗なものを一切そぎ落とした精神的なものを重視することが「わび」の概念となりました。

この2つが併さり、わび・さびとなりました。

■西洋的モダニズムと対局的な美意識

わび・さびという言葉は英語でもWabi-Sabiとして通じます。

このわび・さびを外国人の視点から説明しているのが、1990年代にアメリカで出版された、レナード・コーレン著の『Wabi-Sabi for Artists, Designers,Poets & Philosophers』(邦題:『わびさびを読み解く』)です。

それまで明確化されていなかった「わび・さび」を、正反対にある西洋的モダニズムと呼ばれる思想と比較してわかりやすく説明した本です。

例えば、テクノロジーと自然、人工と天然、大量生産と一点ものなど、近代合理主義を背景とした西洋的モダニズムがわび・さびと対局化した美意識だということがわかります。

また、明治時代に、岡倉天心が『The Book of Tea』(『茶の本』)で日本の茶道や日本人の精神性を紹介しました。

この中で、「茶道の根本は、不完全なものを敬う心にあり」と記しています。

この不完全なものという表現が「わび」をよく表していて、日本の美意識として世界へ広められました。これらの本によって、世界中にWabi-Sabiブームが起こりました。

わび・さびは、簡素なものの趣を味わう日本的な美意識であることはわかりました。

ただし現代の機械化され、ものにあふれた日本社会を見渡すと、日本からわび・さびの繊細さや感性が消えつつあるように感じ、寂しさを覚えます。

しかし、コロナ禍がもたらした現在の鎖国のような不自由な時代の中でこそ、物質的な豊かさではなく、質素さの中にある内面的な美意識や、古いものの美しさを感じ取る日本人としての感性を再構築できるのではないかと思っています。

朝日を浴びる東京
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■「一期一会」とは、二度とないこの瞬間を大切にすること

皆さんもどこかで「一期一会」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。

「一期」とは仏教語で「一生涯」を表し、「一会」は、「ただ一度の出会い」を意味します。

つまり、一生涯でただ一度の出会いをいいます。

その日に出会った人とは、今後もう二度と会えないかもしれないので、その人との時間を大切にしましょう、と多くの人が解釈しているようです。

しかし、この言葉の本当の意味は少し異なります。

たとえ毎日顔を合わせる家族や友人、仕事仲間であっても、その日その時の出会いは一生に一度だけで、二度と同じ日や機会が戻ってくることがありません、という意味です。

海外からいらしたお客様に「一期一会」の意味をお伝えすると、「有意義な人生を過ごす上でとても大切な言葉ですね」ととても感動されます。

「一期一会」は、千利休の弟子の一人である山上宗二が記した『山上宗二記』の中に、「いつもの茶会であっても、臨む際は一期に一度のものと心得て誠意を尽くせよ」といった一文が最初であるといわれています。

そして、この言葉を広めたのが、江戸幕府の大老で、茶人でもあった井伊直弼です。著書『茶湯一会集』に次のような文章があります。

「そもそも茶の湯の交会は、一期一会といひて、たとへば、幾度おなじ主客交会するとも、今日の会に再びかえらざることを思へば、実にわれ一世一度なり。」

(たとえ同じ人と何度も茶会で同席する機会があっても、今、この時の茶会は一生にその日ただ一度のこと。二度と同じ時に戻ることはできない。だから一回一回の出会いを心を尽くして臨まなければならない)と述べています。

「一期一会」は、茶道の心得を表した言葉となり、お茶会に臨む際には、今後、お茶会を開く機会があったとしても、全く同じものを繰り返すことはできないので、常に人生で一度きりと心得て、相手に対して精一杯の誠意を尽くしましょう、といわれています。

■いつもの平凡と思っている日常が違ってみえる

お茶会に限らず、「一期一会」の精神は実生活でも役立つ生き方だと思います。

私たちの人生は、出会いの連続です。

家族や友人、仕事仲間などたくさんの人たちとの出会いがあります。

たとえ毎日同じ人と同じ場所で、何度出会いを重ねても、やはり毎日が「一期一会」で同じ日はなく、戻ることもできません。

私も幼い頃、祖父母がいて、両親がいて、妹がいて、学校にいけば友人がいて、いつも皆が周りにいて、同じような風景がいつまでも続くと思っていました。

頭の片隅では、永遠に続くことはないことはわかっていながら、この状態がずっと続くように思っていました。

そして今、祖父母はいなくなり、友人たちとも別々の道に進むようになりました。

目を瞑り、その当時を思い出すと、二度と戻ってこないその日がとてもひかり輝いて見えて、大切な日や人々だったと思うことができます。

今日という日はかけがえのない一日だと感じることができれば、いつもの平凡と思っている日常が違ってみえるのではないでしょうか。

その日一日を大切に目の前のことに一生懸命向き合っていく。

自分を、周囲の人たちを、時間を、大切に誠意を持って生きる。

現代の心が落ち着かない、人と人が簡単に会うことが叶わなくなってしまった時代だからこそ、「一期一会」人との出会いを大切に、丁寧に生きることで、明るい未来に繋がっていくと思います。

■外国の方々に日本の精神性を感じられる話は喜ばれる

大都市ニューヨークの玄関口である、JFK空港でお茶会をさせていただいたことがあります。世界各国の人々が交差する巨大空港で、お茶会にいらして下さった様々な国のお客様との出会いはまさに、一期一会でした。

お客様に一期一会とは、「二度とない今という瞬間や出会いを大切にすることですよ」とお伝えすると、「まさしく、今この時も一期一会ですね」ととても感動されます。

「一期一会の意味を、覚えておきたいのでもう一度教えてほしいです」とメモを取る方も多くいらっしゃいました。

竹田理絵『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』(自由国民社)
竹田理絵『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』(自由国民社)

アメリカでお茶の研究をされているお客様に、一椀のお茶をお出しして、一期一会のお話をした際には、「今まで飲んだどのお茶より一番美味しかったです」と涙を流されました。

お茶も美味しいと思っていただけたのかもしれませんが、心を込めた一期一会の精神的なものに感動していただけたのではないかと思います。

外国のお客様は伝統的なものは勿論ですが、精神性をとても大切にされているように感じます。

外国の方々に一期一会の、人との出会いや毎日を丁寧に生きる大切さのお話をされると日本の精神性を感じることができ、きっと喜んでいただけると思います。

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竹田 理絵(たけだ・りえ)
茶禅 代表取締役
和の教養や精神を身につけて、世界で活躍したいビジネスパーソンに対して、日本の伝統文化や茶道、和の作法で支援するグローバル茶道家。神楽坂生まれの3代目江戸っ子。青山大学文学部卒業後、日本IBMに入社。退社後、日本の伝統文化の素晴らしさを伝えたいと株式会社茶禅を創設。 銀座と浅草に敷居は低いが本格的な茶道を体験できる茶室を開設。茶道歴40年、講師歴25年。年間世界30カ国の方々に日本の伝統文化を伝え、延べ生徒数は30000人を超える。一般社団法人 国際伝統文化協会 理事長、日本伝統文化マナー講師 茶道裏千家教授も務める。

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(茶禅 代表取締役 竹田 理絵)

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