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お茶会で「お先に頂戴します」とひと声かける理由…千利休が茶の湯で伝えたかった「7つ」の心得

プレジデントオンライン / 2023年1月31日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/halbergman

「おもてなし」とは、本来どういう意味なのか。茶道歴40年の茶道家・竹田理絵さんは「千利休が残した茶の湯の7つの心得には、あたりまえのことを実践する難しさが込められている。お茶会で『お先に頂戴します』と人声かけるのも、お互いを思いやり尊重することの大切さからきている」という――。

※本稿は、竹田理絵『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』(自由国民社)の一部を再編集したものです。

■千利休が残した「7つ」の心得の深み

「利休七則」とは、千利休が残した茶の湯の7つの心得です。

茶の湯とはどのような心構えで臨むべきものかを示したものですが、その心得には日々の暮らしやビジネス、生き方の指針においても大きなヒントが隠されているように感じます。

利休七則にまつわる逸話があります。

弟子が「茶の湯の極意とはどのようなものでしょうか?」と尋ねた時に、利休が答えたのが、利休七則です。

それを聞いた弟子は、「それくらいのことなら私でも知っています」と答えたところ、利休は「もしそれができているのなら、私があなたの弟子になりましょう」と返したそうです。

これには知っていることとできることは別物であり、あたりまえのことを実践する難しさが込められています。

理屈や言葉ではわかっていても実際やってみると思い通りにはいかない。おもてなしの奥深さを物語っています。

たった7つの心得ですが、実際に行動するのは簡単なようにみえて難しいものです。

茶の湯は、単にお茶を点てて飲むだけの行為ですが、相手を思いやり、細かな気配りをして万全を尽くすという、そこに人の心を育て、人生を豊かにする、おもてなしの極意があります。

それを説いているのが、利休七則なのです。

コロナ禍で人と人の距離が遠くなり、コミュニケーションが欠落している現在だからこそ、利休七則から新しい生活様式のヒントを見出し、日常生活やビジネスに取り入れていただければと思います。

■自分が理想とするお茶を相手に押し付けてはいけない

茶は服のよきように点て(気配りの大切さ)

「服」とは飲むこと、「服のよきよう」とは、飲む人にとってよい加減であるということを指します。

つまり「お抹茶は、飲む人にとってちょうどよい加減になるように点てなさい」という意味になります。

自分が理想とするお茶を相手に押し付けるのではなく、飲む人の気持ちにたってお茶を点てることが茶道の根本であり、気配りを持って接しなさいという教えです。

飲む人が美味しいと喜んでくださるお茶を点てるのが、茶道のおもてなしなのです。

私の茶道体験のお茶室には、小さなお子様からご年配の方、外国の方など様々な人々がいらしてくださいます。

美味しいお抹茶を点てるためのお茶の量やお湯の量、温度など基本はありますが、やはりそれぞれのお客様にあった丁度よいお抹茶を点てています。

例えば、小さなお子様ならお抹茶の量を少なめにして、ぬるめのお湯でお抹茶を点てます。すると、「お抹茶、美味しかった」「もっと飲みたい」とお子様にも喜んでいただけます。

ご年配のお客様が、お菓子をゆっくりと召し上がっている時には、召し上がり終わった頃にお抹茶ができあがるように調整します。

こちらのテンポに合わせてせわしい思いをさせてしまうのではなく、お客様の状況に合わせて、丁度よい頃合いにできあがったお抹茶をお出しすることで、お客様にもゆっくりと美味しいお抹茶を召し上がっていただくことができます。

■一人ひとりに寄り添い、その時々に合わせて「心を込める」

また、外国のお客様が多くいらしてくださるので飲みやすいお抹茶をとの想いから、宇治のお茶屋さんを歩き回り、苦みが少なく甘味がある特別ブレンドの美味しいお抹茶を探し出しました。

そのかいあって、外国のお客様にも「こんなに美味しいお抹茶は初めてです」「お抹茶は苦いと思っていましたが、とっても美味しかったです」とお喜びいただいております。

お茶を楽しむ白人男性
写真=iStock.com/kumikomini
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kumikomini

寒い季節なら温かいお抹茶を、暑い季節なら冷たい冷抹茶をお出しすることもあります。

その時々のお客様の状況やお気持ちを察して、気配りすることでお客様に美味しいお抹茶を召し上がっていただくことができます。

相手の状況や気持ちを汲み取り、誠心誠意を持ってお抹茶を点てることは、お茶の世界だけでなくビジネスにも実生活にも活かすことができるかと思います。

例えば、相手に寄り添い、何を求めているかを考えた上で、相手の立場になってプレゼンをしたり、応対したりすることで仕事もプライベートも円滑にまわるかと思います。

基本は勿論大切ですが、一人ひとりに寄り添い、その時々に合わせて「心を込める」ことこそが、相手の心を動かし、お喜びいただけることだと思います。

■自分自身も安心でき自信を持って仕事をするために

炭は湯の沸くように置き(準備の大切さ)

「炭はお湯が沸くように置きましょう」という意味です。

現代はスイッチをひねればお湯が沸きますが、茶道では、お釜にたっぷりの水を注ぎ、炭を使ってお湯を沸かします。

美味しいお抹茶を点てるためにはお湯の温度が重要です。

お湯の温度が低ければ、うまく点てることができずに美味しいお抹茶ができません。

ですから、この炭の置き方がとても大切で、置き方によってはお湯が沸かないこともあります。

逆に適した湯加減になると、「松風」の音(お釜からシューという松林を風が吹き抜けるは音に例えた)が鳴ります。

この音は、五感を大切にしている茶道ではごちそうともいわれています。

このように、炭を置くことは事前準備で裏方での仕事ですが、ここを怠ると火がうまくおきずに美味しいお抹茶を点てることができないため、茶道の一番の要でもあります。

これは、事前の準備や段取りの重要性を表しています。

美味しいお抹茶を点てるためには、準備を怠ってはいけないということです。

これはお湯の準備だけに限らず、何事をするにも、事前の準備や要点を押さえた段取りをすることで成果がみえるということを表しています。

例えば、仕事の打合せでも準備が間に合わずに直前に慌てる人がいますが、このような人は取引先の前でも落ち着かずに、忘れものをしたり、大事なことが抜け落ちていたりして、相手の信頼を欠いてしまい、仕事もうまくいきません。

やはり事前準備をしっかりすることで、自分自身も安心でき自信を持って仕事ができますし、相手にも信頼を与え、仕事もうまくいくと思います。

■本来ある自然体のシンプルな美しさを引き出す

花は野にあるように生け(自然体でいること)

「花は野に咲いているように生けなさい」という意味です。

ただし、ここでいう「野にあるように」というのは、野原に咲いているそのままの状態で入れなさいという意味ではありません。

大切なのは、無駄を取り除いた花で、野に咲く花を思わせるという、物事の本質を追求することです。

床の間に飾る茶花は、西洋の豪華なフラワーアレンジメントと違い、引き算の美学ともいわれています。

花を入れる時は余分な花や枝葉を切り落し、余計なものを徹底的に省くことで、本来ある自然体のシンプルな美しさを引き出すことができるのです。

野に咲く多様な花
写真=iStock.com/borchee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/borchee

亭主はその日のお茶会に想いを込めて、お花を入れます。

お茶席で唯一、命があるのがお花です。

花の個性や魅力をうまく引き出すことで、命の尊さを盛り込むことができるのです。

即ち、一輪の花には、命が凝縮されています。

花にも個性があり、命があるように、私たち一人ひとりにもそれぞれの個性があります。

人の目や周りの環境を意識して、見栄を張ったり、虚勢を張ったりすることもあるかもしれませんが、自然体でいることこそが一番美しい状態なのではないでしょうか。

過剰な装飾をそぎ落とすことで、魅力がさらに際立つと思います。

床の間に飾ってあったお花と再びめぐりあうことはないと思います。

人との出会いも、この瞬間はたった一度きりのものです。

だからこそ、この一瞬を大切に想い、自分本来のシンプルな姿でいたいと思います。

■季節感を演出しながら、お客様に五感を使ってもらう

夏は涼しく冬暖かに(相手を思いやる心)

これは言葉通りの意味で、心地よい空間を提供するという、相手を思いやる心を表しています。

現代はスイッチ1つで、室内を快適な温度に保つことができますが、利休の時代にはそのようなものはありませんでした。

お客様に暑さや寒さを和らげていただくために、五感で涼しさや暖かさを感じるような工夫をしていました。

現代でも、茶道は季節感を大切にし、その時々に応じた工夫をしてお客様をもてなします。

夏は障子を簀戸にして、打ち水をして、床の間には「瀧」や「涼一味」などの軸をかけ、平たいガラスのお茶碗などを使って涼しさを演出します。

冬は立ち上がる湯気が温かい大きなお釜を使い、お抹茶が冷めにくい筒茶碗を用いて温かさを感じてもらいます。

このように、季節感を演出しながら、お客様が五感を使って快適に過ごせるような工夫をするのです。

■相手のことを考えて、工夫をして創りだす心地よさの

外国からのお客様は、日本の季節感を大切にする茶道にとても感動されます。

お菓子をみても、春は桜、夏は涼し気な水を型取ったもの、秋は紅葉、冬は雪のように、「季節を表したお菓子は自国にはなく、とても繊細で美しく、食べるのが勿体ない」と、どなたもおっしゃいます。

これは四季折々の自然と共にある日本ならではのおもてなしですが、逆に日本人にとっては身近にあるため、大切なものを忘れているようにも感じました。

現代はエアコンのおかげで快適ではありますが、忙しい毎日の中、季節感を忘れがちでもあります。

季節の移ろいを感じながら、四季折々に準じた五感でのおもてなし。

もてなしの時節のお道具、季節の色や音、お菓子などの細やかな演出。

先人の智恵を感じて逆に心の贅沢さを感じます。

この相手を思いやる心や気配りは、普段の生活でもビジネスでもとても大切なものだと思います。

相手のことを考えて、工夫をして創りだす心地よさの重要性を説いているのではないでしょうか。

■「時泥棒」は弁済不能の十両の罪

刻限は早めに(時間に余裕を持つ。気持ちにゆとりを持つ)

刻限とは、定められた時刻のことをいいます。

「時間は早めに余裕を持ちましょう」という意味になります。

ただし、これは単に時間を守りましょうという意味だけではありません。時間に余裕を持って行動することで焦りがなくなり、気持ちにゆとりが生まれるという教えです。

茶道はゆっくりと流れる時間の中で、優雅なひとときをお楽しみいただきます。

亭主は余裕を持って準備することで丁寧なおもてなしをすることができますし、お客様もゆとりを持っていくことで細やかな心尽しに気がつき感謝の気持ちがわきます。

気持ちに余裕を持つことで、主・客共に思いやりの心で通じ合うことができるのです。

時間に余裕がなかったり、気持ちにゆとりがなかったりする時は、目の前のことや自分自身のことだけで手いっぱいになり、周りの人を思いやることができなくなります。

そうなると、イライラして対応が雑になったり、口調が強くなったりしてしまうかもしれません。

自分にも、周囲の人にもよいことは何もありません。

これでは、心のこもったおもてなしをするのは無理なことですよね。

ビジネスでは、お客様との約束で遅刻をしてしまうと、初めからつまずき、チャンスを失うかもしれません。

その後、信頼を回復するのは大変なことです。

江戸時代、相手の時間を奪う行為は「時泥棒」といわれ、弁済不能の十両の罪といわれたそうです。

お金は借りても返済できますが、時間は返すことができません。

アメリカでも「Time is money」(時は金なり)という言葉があります。世界中どこでも時間を大切にする気持ちは一緒です。

時間を大切にすることが信頼を結ぶ基本となります。

自分の中の時計を常に少し進めて設定することで、心に余裕が生まれ、周囲を思いやり、全てにおいてよいスタートをきることができると思います。

■何かあっても心の中で、「大丈夫、大丈夫」

降らずとも傘の用意(不慮の事態に備える)

「雨が降らなくても傘を用意しましょう」という意味です。

現代はもしもの時のために折り畳み傘がありますが、利休の時代は突然、雨が降ると濡れるしかありませんでした。

傘を持たずにお茶会にいらしたお客様は帰りが心配になり、ゆっくり落ち着いてお茶を楽しむことができません。

そのような不測の事態に備え、お客様をお迎えする時には雨が降っていなくても傘を用意して、お客様に余計な心配をさせないようにしなさいという利休の教えです。

気配りを心がけるには、相手に余計な心配をさせないように不慮の事態への備えを常に意識する、相手のことを第一に考える、利他の精神です。

鞄に折りたたみ傘
写真=iStock.com/t_kimura
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/t_kimura

茶道では、どんな時にも落ち着いて行動し、何事にも臨機応変に対処する心構えがあります。

海外でのお茶会では、様々なハプニングがありました。

荷物が届いていなかったり、会場が設営されていなかったりする場合もありましたし、受付人数の倍のお客様がお茶会にいらしたことや急にお茶会を開いてほしいというご要望もありました。

海外でのお茶会では日本にいる時と違って、お抹茶やお菓子やお道具が足りなくても、近所ですぐに購入することができません。

そこで、常に不測の事態に備えて、何があってもお客様にご迷惑にならないように、喜んでいただけますようにと準備を怠りません。

何かあっても心の中で、「大丈夫、大丈夫」とおまじないをして、その時にできる最大のことをして、お客様にもお喜びいただくことができました。

ビジネスでもお客様を不安にさせないように、起こりうる事態を想定し、あらかじめ予防策をたてておくことは大切です。

どんな時でも臨機応変に対応できるように、お客様のために万全の備えをする。備えあれば憂いなしです。

■お茶会で「お先に頂戴します」とひと声かける理由

相客に心せよ(お互いに尊重し合う)

「相客」とは同席したお客様のこと、「心せよ」とは気を配りなさいということです。

「同席したお客さまに気配りをしましよう」という意味を表します。

つまり、同席したお客様同士がお互いに気遣い、尊重し合い、共に楽しいひとときを過ごせるよう思いやることで、より心地よい空間になるという教えです。

これまでは、おもてなしをする亭主側からお客様への心遣いを記していましたが、ここではお互いに尊重し合い、思いやりを持ちましょうと記しています。

一方的に亭主だけが気を配ればよいというわけではなく、おもてなしを受けるお客様も共に、相客に配慮したり他者を思いやったりする気持ちが大切なのです。

例えば、一人の身勝手な振る舞いが周りの人々に不快感を与え、楽しいはずのお茶会が台無しになってしまうこともあります。

お客様同士もお互いに尊重し合うことで、よりよい、特別な空間となるのです。これは、一期一会の精神でもあります。

お茶会では、お菓子やお抹茶をいただく際に、お隣りの方に「お先に頂戴します」とひと声かけます。また、お抹茶を点てて下さった亭主にも「お点前頂戴いたします」と感謝の言葉をかけます。

お互いを思いやり、尊重することで和やかなお席となります。

■千利休が本当に伝えたかったこと

私のお茶室には、毎年30カ国以上の国からお客様がいらしてくださいます。

相席での茶道体験なので、フランス人、アメリカ人、中国人、ロシア人など色々な国の方々が同席されることもあります。

どのお客様も、茶道を体験するという1つの目的を楽しみにいらして下さっているので、お席はいつも和やかです。

それぞれのお国のお話や、日本での観光スポット、美味しいレストランなど、同席した人たちがにこやかに情報交換をされています。

ある日のお茶室で、お客様のしのび笑いが聞こえてきました。

日光にいかれた三人組のアメリカのお客様が三猿の真似をして、楽しかった思い出話をしていたのです。

私もその姿を見て笑ってしまい、お茶室中が笑顔で溢れました。

あれから数年経ちますが、今でもその楽しかった場面を思い出します。

竹田理絵『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』(自由国民社)
竹田理絵『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』(自由国民社)

一つひとつの出会いに感謝をし、同席できたことをお互いに喜んで、おもてなしに感謝し合うことにより心に残る素晴らしいお茶会が整うのです。

茶道というと作法や形のことが頭に浮かびがちですが、利休が大切にしている茶道は全て心についての教えでした。

形だけきちんとしていても、心がなければ本当の茶道ではないということです。

人と人との思いやりや気遣いが何よりも大切ですよ、と説いています。

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竹田 理絵(たけだ・りえ)
茶禅 代表取締役
和の教養や精神を身につけて、世界で活躍したいビジネスパーソンに対して、日本の伝統文化や茶道、和の作法で支援するグローバル茶道家。神楽坂生まれの3代目江戸っ子。青山大学文学部卒業後、日本IBMに入社。退社後、日本の伝統文化の素晴らしさを伝えたいと株式会社茶禅を創設。 銀座と浅草に敷居は低いが本格的な茶道を体験できる茶室を開設。茶道歴40年、講師歴25年。年間世界30カ国の方々に日本の伝統文化を伝え、延べ生徒数は30000人を超える。一般社団法人 国際伝統文化協会 理事長、日本伝統文化マナー講師 茶道裏千家教授も務める。

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(茶禅 代表取締役 竹田 理絵)

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