「妻に潔く"チャンネル権"を渡せるか」弘兼流・円満な老後の夫婦関係に欠かせない10のポイント
プレジデントオンライン / 2023年2月2日 9時15分
※本稿は、弘兼憲史『弘兼流 60歳から、好きに生きてみないか』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■家庭で夫が妻に嫌われないための10のポイント
老後は夫婦が一緒にいる時間が長くなります。
その分、「粗」とか「短所」が現れて、嫌われる元になります。そのためには嫌われない方法を実行すればいいわけです。
このケースは妻にもいえますが、なんといっても妻は家庭の中の実力者。
ここでは夫が妻に嫌われない方法に絞って考えてみます。
①相手の小さな「変化」に気づくこと
②気づいたことは口に出すこと
③上から目線にならないこと
④家事を分担すること
⑤買い物、散歩は一緒にするとよい
⑥チャンネル権は相手優先
⑦なるべく外出する時間をつくること
⑧それぞれが自立すること
⑨家の中での身だしなみに気をつけること
⑩いたわる心を持つこと
簡単に説明を加えてみましょう。
①妻が新しい服を買い、さりげなく着ていたとか、髪型が変わったときなど、その変化に気づくこと。男性は案外無頓着なものです。
②気がついたら口に出すこと。「その服、明るくていいね」とか「おや、髪型を変えたね」などと。黙っていては気がつかないのと同じです。
③男性はつい上から目線、命令調になりがちなところがあります。会社と家は違います。
④家事を分担すること。最近は「男の料理」ばやりですから、夕餉の一皿分を作ってみるのはよいことです。でも女性によっては台所で夫がうろうろするのを邪魔と思う場合があります。そんなときは「皿洗いはわたしの分担」、あるいは「料理はキミ、掃除はボク」などと提案してみるのもよいでしょう。
⑤買い物、散歩はなるべく一緒に。おたがいに顔を突き合わせていると話しにくいものですが、歩くにしろ車に乗るにしろ、そのときは2人が同じ方向を向いています。するとなぜか話しやすくなるものです。
『東京物語』『晩春』など、昭和の巨匠・小津安二郎監督の映画をご覧になったことがあるでしょうか。夫婦が同じ方向を向いて座りながら、また歩きながら、たがいの心情を語り合うシーンがたくさん出てきます。その要領でいきましょう。
■なるべく外に用事か「行くところ」を見つける
⑥チャンネル権をどっちが取るかは案外、たがいの感情を刺激するものです。夫たるもの、チャンネルぐらい妻に譲ってしまいましょう。その代わり、ぜひ観たいものはあらかじめ言っておくこと。「明日のサッカーの試合は絶対観るよ」というように。
⑦いつも一緒ではおたがいに疲れます。たまには一人で外出するとよいと思います。心理学者の多湖輝さんが、「キョウヨウ」と「キョウイク」が脳の老化防止になると言っていました。「キョウヨウ」は「教養」にあらず。「今日、用がある」ということ。「キョウイク」は「教育」にあらず。「今日、行くところがある」ということ。
なるべく外に用事をつくること。用事がなかったら、ともかく「行くところ」を見つけること。公園でもよいし、川べりで釣りをするでもよいし、図書館でもいいのです。
![グリーンで運動するシニアマン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/9/1200wm/img_59da14bc9814fcff8b6ae566e600581a870462.jpg)
⑧自立。当たり前じゃないかと言われそうですが、日本の男性は概して妻を母親代わりとしているので、ほんとうに自立できているかどうか疑わしいといえるでしょう。
それが証拠に妻に先立たれた男性は追いかけるように死に急ぐといわれます。身の回りのことを妻任せにしていたため、料理一つ満足にできず、朝から台所の隅で一升瓶を抱えているような生活を送れば健康を害します。
⑨パンツ姿で家の中をうろうろする。注意されるまで垢のついたシャツを着替えない。無頓着にも程があります。
⑩長い間一緒に暮らしてきました。定年になれば仕事の人間関係は縁が切れ、同窓会にしろ、だんだん億劫になってきます。最後までそばにいるのはおたがい(夫婦)なのです。
長い地球の歴史を思えば、その出会いは不思議です。何十億の人の中から「その人」を選んだわけですから。そんな関係ですから、相手に思いやりの心を持つのは当然といえば当然ではないでしょうか。
■あなたの話をわざわざ聞く必要はない
60代からの夫婦関係円満の秘訣は、一言でいえば「会話力」です。
多くの男性が、表現力にやや難ありということ。その理由として、相手との距離を正確に把握していないということが挙げられます。
ですから、関係が楽しいものになりません。
とくに妻の側からはそう思えるのです。
会社勤めのとき、あなたの話を聞く必要がある人とあなたは話していました。でも、家庭に入ると、あなたの話をわざわざ聞く必要がない人が周りにいるという自覚を持ちましょう。
ですから命令口調は致命的です。
妻があなたと話したがらないのは、あなたの話し方が「上から目線」だからです。
こういう話をすると、馬鹿丁寧に話す人がいますが、そうではありません。口調が乱暴だというのでなく、立場が上からの命令口調だということです。
出先で、「何を食べようか」と質問されているのに、「なんでもいい」「まかせるよ」というのは、一見、相手に合わせているようですが、要は「キミとの食事はなんでもいい」と思っているわけです。
「そんなつもりはない」と反論するかもしれません。でも、あなたが「キミとの食事はなんでもいいなんて思ってないよ」と主張しても、相手にはそう伝わっているわけです。
「おれはそんなふうに思ってない」ということ自体が命令口調だということです。
「そうか。そういうふうに伝わったのか。ごめん。おれが言いたかったのは、今は食べたいものがとくにないので、キミの好きなものでいいよ、という意味なんだ」というべきだということです。
そんな面倒くさい言い方はできない。
ほら、もう命令口調になっていませんか。
命令されていい気分に感じる人はほとんどいないでしょう。
会社では「よく話を聞いてくれた」と思っているかもしれませんが、部下は上司の話を聞くのも仕事だと思って、黙って聞いているだけです。
家族はあなたの話を聞く義務はありません。ですから間違いなく命令口調は嫌われます。息子や娘はとくにそうです。社会人になっているなら、なおさらです。
「おやじの時代とは違うんだ」。この一言で終わりです。
基本は聞き役になること。これこそ好かれるコツです。
■「やっぱり夫婦だな」を大切にする
生涯を未婚で終える人が増えています。
国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2022年)」によると、50歳までに一度も結婚しない人の割合は、2010年に男性が20.14%、女性が10.61%。それが2020年には男性が4人に1人の28.25%、女性が17.81%にまで上昇しています。
将来、晩婚化(結婚の遅れ)や非婚化(生涯結婚しない)の増加により、この数値がさらに高くなることが予想されます。これは現在日本が抱えている少子化問題の直接的な原因にもなっています。
実際、わたしを担当する編集者なども独身者が多いし、離婚経験者もたくさんいます。男女を問いません。当然、子持ちも少ない。少子化の進行を実感します。
夫婦という単位、そのありかたがどんどん変化してきているようです。
これは、いいとか悪いとかの問題ではありません。こういう状況の中で、若い人たちがこれからどんな人間関係を築いていくのか、興味があります。
では高齢者の夫婦はどうでしょうか。
わたしの周りにも熟年離婚が増えてきてはいます。
本来、60代からの夫婦には、おたがいに死を看取る役割があると思います。どちらかが倒れたときに、すぐに対応できるように生活を共にしている。極端なことをいえば、そんな関係でいいと思っています。
「やっぱり夫婦だな」と思える。そんな関係を大切にしたいものです。
ふだんは別行動。それもよしです。
あるアンケートによると、「配偶者と一緒は楽しいか?」という問いに、「そう思う」「まあそう思う」と回答した人は、合わせて約9割という結果もあります。
かつては「老いては子に従え」といわれましたが、今日、子どもは子ども、それぞれ別の人生を歩んでいます。
結局、最後に頼りになるのが夫婦という、おたがいさまの関係なのでしょう。
![手をつないで良い中年のカップル](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/e/1200wm/img_de911e09e6e9f2c06edacc02b1b3aa19632900.jpg)
■伴侶の「ありがたみ」がよくわかる法
小説家・平岩弓枝さんが、編者としてまとめた『伴侶の死』(文藝春秋)という本があります。
この本には、「伴侶」というこの世で最愛の人を亡くした人たちの、40篇の手記が収録されています。序文「添いとげればこそ」では、平岩さんが次のように書いています。
「よく、夫婦は空気のようなものだと申します。常にそこにあるのが当り前で、多忙多彩な日常生活では、つい、有難味を感じもしないで過していて、或る日、突然、失って激しい衝撃を受け、こんなことなら、もっと感謝の心を伝えておけばよかった、相手を大事にするべきだったと、後悔、先に立たずの口惜し涙を流します」
![弘兼憲史『弘兼流 60歳から、好きに生きてみないか』(三笠書房)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/d/1200wm/img_6d66b66d4eda98251c26e0505f494b0a281057.jpg)
普段から、伴侶に対して感謝の心を持つことを、忘れずに大切にしたいものだと思います。
また、この本の巻末には平岩さんと精神科医の齋藤茂太さんの対談が掲載されています。その中で齋藤さんが次のように述べていました。
「神様は男より女性のほうを強くおつくりになったようですね。(中略)精神的にも復原力が強いですよ。現実にいろいろな患者さんと接していても、それは実感します。そりゃあ亭主に死なれて2、3年は泣き崩れているかも知れませんが、男性よりは立ち直る確率が高いですよ。逆に奥さんに死なれた男性の場合は、33パーセントが3年以内にあとを追って亡くなっているという統計がある」
「配偶者を亡くした人は、現在を失う」といわれています。
しかし、女性は夫を亡くしても、孤独の中で無為に過ごすということはほとんどありません。友だち同士で食事や旅行に行ったり、美術展に出かけたりします。
ところが男性の場合、妻を失ったことによる喪失感からなかなか抜け出すことができません。「女房がいなくなって、生活に不自由した」「体を壊した」という話も多く聞きます。
男性は弱い動物だとつくづく思います。
60代からの男性は、衣食住といった生活の場での、そして孤独に耐えるといった意味でのしっかりした「自立」が求められているのだと思います。
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漫画家
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)に入社。74年に漫画家デビュー。作品に『人間交差点』『課長 島耕作』『黄昏流星群』など。島耕作シリーズは「モーニング」にて現在『会長 島耕作』として連載中。2007年紫綬褒章を受章。
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(漫画家 弘兼 憲史)
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