もう「次のカトパン」を期待してはいけない…「スター女子アナ」が減り、「地味女子アナ」が増えた根本原因
プレジデントオンライン / 2023年2月19日 18時15分
※本稿は、鎮目博道『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)の一部を再編集したものです。
■男性アナウンサーが次々とテレビ局を去っている
もし「好きな男性アナウンサーは誰ですか」と聞いたら、名前が挙がるのはおそらくTBSの安住紳一郎アナや、元日テレの羽鳥慎一アナ、元・日テレの桝太一アナぐらいではないでしょうか。
安住アナと羽鳥アナはアラフィフですし、桝アナはアラフォーで、いずれもかなりのベテランです。そしてきっと、彼らより若い男性アナの名前はあまりパッと思い浮かばないのではないでしょうか。
いま男性アナは「氷河期」とも言える厳しい状況に置かれています。
かつては「女性アナウンサーは歳をとるとほかの部署に異動させられるけれど、男性はアナウンサーのまま定年を迎える人が多い」感じでしたが、いまでは男性アナも比較的若いうちに人事異動で報道記者や広報セクション、秘書などになるケースが増えていて、アナウンサーを辞めてぜんぜん違う仕事に転職してしまう人も増えています。
女子アナが脚光を浴びているその裏側で、男性アナは“絶滅の危機”に瀕しているのです。なぜなら、彼らの仕事がどんどんなくなってしまっているからです。
男性アナウンサーの「花形」はかつてはスポーツ実況アナでした。しかし、残念ながらいまやスポーツ番組の数は驚くほど減ってしまいました。巨人戦がテレビのキラーコンテンツで、ゴールデンタイムに野球が多く編成されていたのは、遠い昔の話になりました。
最近では野球もサッカーも、スポーツの試合は専門の有料チャンネルで見るのが当たり前になりましたよね。ということは、地上波に「スポーツ実況アナは多くはいらない」時代になったということです。
■スポーツ、ニュース、バラエティはどれも逆風
そしてニュース番組でも、メインMCのほとんどは女性アナウンサーです。民放各局の平日夜のメインニュース番組の「顔」を思い出してみてください。
日本テレビは有働由美子アナ。TBSは小川彩佳アナ。フジテレビは三田友梨佳アナ。テレビ朝日は唯一男性ですが、大越健介キャスターはアナウンサーではなく記者出身で、金曜日はメインが徳永有美アナ。テレビ東京は大江麻理子アナと佐々木明子アナ。
ジェンダー平等の意識が高まっているからなのか、女性の視点が大切にされるからなのか、ほとんどが女性アナで占められているのが現状で、男性アナはせいぜい「サブ」なのです。
さらに、バラエティ番組も男性アナにとっては“逆風”です。番組制作費が減っていますから、女子アナを「お金がかからないサブスクタレント」のように考えて、アイドルなどの代わりに出演させて予算を節約するのが、いまや制作サイドの常識です。
それに、日本のバラエティ番組のメインMCのほとんどはまだまだ男性タレントですから、その「サブ」をやらせるには、女子アナのほうがバランスがいいということで、男性アナはあまり「お呼びでない」んですよね。
「男性アナはバラエティに起用されないから有名になれない。有名じゃないからいっそうバラエティに起用されない」という「バラエティ・デフレスパイラル」みたいな状況になっています。
このように、テレビ番組の三大ジャンルである「スポーツ、ニュース、バラエティ」のどれでも、男性アナウンサーたちは厳しい状況に追い込まれています。「なんであの人は辞めてしまったんだろう?」と思われるような退職者が増えているのは、こうした「男性アナ氷河期」が背景にあるからなのです。
■極端な若手重視で局に長くいる理由がなくなった女性アナウンサー
さて、なぜ男性アナウンサーが辞めてしまうのか、おわかりいただけたと思いますが、じつは辞めるのは男性ばかりではありません。女性アナウンサーも「すぐに辞めたくなってしまう」現実があります。
その理由は? 簡単に言うと「極端な若手重視」で、局に長くいても報われないからです。
![夜にオフィスでラップトップで作業している間にストレスを感じている若いビジネスウーマンのショット](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/b/1200wm/img_abf6dcb1e353614dd1eefcbf7560f1db612379.jpg)
かつては新人アナウンサーたちは、すぐにテレビに出ることはできませんでした。「アナウンス部」と言えばテレビ局内では体育会系の代表格で、入社するとすぐに『巨人の星』のような“地獄のスパルタ訓練”が待っていました。
アナウンスの基礎からの徹底的な教育はもちろん、礼儀作法もみっちり教え込まれますし、合宿でランニングさせられるようなノリの、「甘えた性根を叩き直す」と言わんばかりの“新兵訓練”が行われているのを横目に見ながら、我々総合職の局員は「アナウンス部コエえなあ……」とビビっていたのです。
「毎日アナウンス部で先輩たちの机を磨き、かかってきた電話は誰よりも早く取って完璧な日本語で対応しなければならない」というのが新人アナに課せられたいちばんのタスクでした。
そんな訓練期間を経て半年くらいで、ようやく「初鳴き」と呼ばれるテレビ番組への初出演が許されます。そしてそこから、提供読みとか5分程度の短い定時ニュース、さらには番組のコーナー出演などを経験して、何年も経ってようやく大きな番組へのメイン格での出演が許される! というのがアナウンサーのたどる道だったのです。
一歩一歩階段を上るようにして、次第に「一人前」として認められるのです。
■「伝え手、読みのプロ」から「女性タレントの代用」へ
ところがいまや状況はまったく変わってしまいました。女性アナウンサーという職業の“位置付け”自体が大きく変化してきたのだと思います。
かつては局に所属する「伝え手、読みのプロ」としての職人の役割が重視され、「技術を身につけさせたあとでないと恥ずかしくて表に出せない」という考え方で教育がなされていました。
それがいまや「手軽に使えて、出演料もかからないサブスクタレント」のように扱われるようになってしまいました。月給はかかりますが、番組ごとの出演料はいらないわけですから、まさに「定額制」と言えますよね。
前項でも少し書きましたが、番組制作費が減る一方の状況で、「女性タレントの代用としてお金がかからない女性アナを起用しよう」という風潮が強くなっています。となれば、できるだけ若くて新鮮味があるうちに画面に出演させようということになって、いまや入社直後から大きな番組のサブMCを務めるようなケースも増えてきました。
たとえば私の古巣であるテレビ朝日でも、『ミュージックステーション』のアシスタントにいきなり新人女性アナを起用するのがもはや定番化しています。
![『tv-asahi』HPより](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/3/1200wm/img_232c70a5c6fcb7101682b569258dde0c476954.jpg)
■入社直後がいちばんの旬で、経験はさほど重視されない
ということで、女性アナは、いまや「入社即戦力」を求められています。
長期間の訓練などしている余裕は、どんどんなくなってきていますから、学生時代にアナウンススクールに通うのは当然のこととして、アイドルグループの所属経験や子役経験があるような人材が採用されるケースが増えているわけです。
そして、サブスクタレントですから、人気があるうちはガンガン出演させられることとなり、けっこうブラックな職場です。気をつけないと、からだや心を病んでしまいがちです。そして入社すぐにこき使われるわけですから、そんなに教育をしてもらえず、実力を蓄えているヒマもあまりありません。
そしてハッと気づくと、より若い後輩たちに仕事がいくようになり、自分の出演はだんだん減ってきている……という、厳しい言い方をすれば「入社直後がいちばんの旬で、経験はさほど重視されない」状況になりつつあります。
女性たちが男性と変わらず働けて、男女平等に活躍できるように、ということが重要な課題となっているいまの日本で、なんとも時代錯誤な話ですよね。これでは女性アナたちがイヤになって辞めていくのも無理はありません。
ということで、氷河期を迎えている男性アナとはまた違う事情ではありますが、女性アナたちもやはり辞めたくなってしまうのが現状なのです。
■もう二度と「カトパン」は現れない
私たちはつい「次のカトパンは誰だろう?」と考えてしまいます。「次世代のスター女子アナはいったい誰なのか?」と期待するのです。しかし残念ながら、もうスター女子アナの時代は終わりました。もう二度とカトパンは現れません。
![フジテレビが開催する夏のイベント「お台場合衆国2013」の記者会見。加藤綾子さん(左)と三田友梨佳さん=2013年6月10日、東京都港区台場](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/a/1200wm/img_ea536e14f68a193a59184a5ae7a5afc6424602.jpg)
スター女子アナの時代が終わり、「地味女子アナの時代」が始まったのです。
スター女子アナと聞いてあなたが思い浮かべる現役の女子アナは誰ですか? 局に所属するアナウンサーで名前が挙がるのは、せいぜい日本テレビの水卜麻美アナとテレビ朝日の弘中綾香アナ、フジテレビの三田友梨佳アナくらいではないでしょうか。
あとの人は局に所属していない、つまり厳密な意味では「タレントさん」かも。たとえば、新井恵理那さんはセント・フォース所属のタレントです。これからは、事務所に所属するタレントがこれまでの「スター女子アナの役割」をこなすほうが、都合がいいのです。局にとっても、本人にとっても。
なぜ局にとってスター女子アナよりタレントがいいのでしょうか? それは「働き方改革」の問題があるからです。かつてはテレビ局にとってスター女子アナは、とてもありがたい存在でした。独占出演してくれて、朝から晩までガンガン働いてもらえる、「視聴率が見込めるお得なサブスクタレント」でしたが、「働き方改革」で大きく事情は変わりました。
じゅうぶんな休みを与えなければ問題になりますから、昔のように長時間働かせるのはアウトです。朝や深夜などの帯番組にレギュラー出演させると、どうしても生活リズムが狂い、体調やメンタルを壊してしまうアナウンサーが出てきます。
■フツーの女子アナとしてボチボチ働くほうがいい
しかし、そうなれば「ブラック企業だ」と非難を浴びる可能性があります。また、みんなキレイで若いので、恋愛スキャンダルを起こすリスクも考えておかねばなりません。企業コンプライアンス的な観点から考えると、スター女子アナはなかなかリスキーな存在になってきたのです。
他方、新井恵理那さんのような外部タレントの場合はどうでしょうか。出演料は多少高くついたとしても、体調やメンタルの管理は“事務所の責任”です。原則、放送局が気にする必要はありません。そういう意味では、外注したほうがいろいろなリスク管理を外部に任せることができるので、局も助かります。
そして、女子アナ本人にも「スター女子アナ」になるメリットはほとんどありません。これも理由は簡単です。女子アナはテレビ局という有名企業に勤めるサラリーマンですから、「スター女子アナとして朝から晩まで身を粉にして働く」のも、「フツーの女子アナとしてボチボチ働く」のも、お給料はほとんど変わらないです。
スター女子アナになってしまえば、プライベートな時間はいっさいなくなり、学生時代の友だちとの楽しい時間などは夢のまた夢に。しかも、芸能人と同じレベルでマスコミにも注目されますから、気を抜くことも許されません。ほぼ同じ給料でなぜわざわざ“イバラの道”を行かなければならないのか? と女子アナのみなさんは考えます。
地味女子アナのほうがワークライフバランスがいいのです。堅実に仕事をこなしていけば、一般企業と比べて破格にいい給料がもらえて、時間も恋愛もしばられずOK。そのうちアナウンススキルも上がりますし、職業人としての満足度も高い。有名女子アナになって重い「スターの看板」を背負う必然性は、なに1つありませんよね。
■スター女子アナは昭和の遺物である
「それでも人気者になってガンガン活躍したい」と思うような人は、最近でははじめから局ではなくてセント・フォースのような事務所に入ります。
![鎮目博道『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/d/1200wm/img_fd51b72d59d8e211361549414cefea07305329.jpg)
そのほうがどの局にも出演できますし、マネージャーを付けてくれて、世話を焼いてもらえます。こうなると、「なぜわざわざ局に?」と考えると、あまり旨味はないのです。
ということで、「地味女子アナの時代」が到来しました。それは、「タレント性はタレントに求め、会社員であるアナウンサーは会社員として地道に働く」という、本来あるべき当たり前の姿に戻ったということかもしれません。
バブル時代が生んだ「スター女子アナという昭和の遺物」が、令和のいま、「持続可能」で堅実な在り方に戻ったと考えれば、そんなに嘆くべきことではないとも思います。
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テレビプロデューサー・ライター
92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、さまざまなメディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師を経て、江戸川大学非常勤講師、MXテレビ映像学院講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。 Officialwebsite:https://shizume.themedia.jp/ Twitter:@shizumehiro
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(テレビプロデューサー・ライター 鎮目 博道)
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