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新型プリウスはHEVか、PHEVか…元トヨタ担当の戦略プランナーが最後の最後で購入を見送った納得の理由

プレジデントオンライン / 2023年2月8日 8時15分

プリウス 2.0L PHEV プロトタイプ/マスタード - 写真提供=トヨタ自動車

1月に新型プリウス2.0L HEV仕様が発売された。オーダーが殺到し、実際の納車はかなり先になる見通しだ。来る3月にはPHEV仕様が発売されるといわれる。マーケティング/ブランディングコンサルタントで、戦略プランナーとしてトヨタを担当したこともある山崎明氏は、自身購入を詳細に検討した結果、「購入するならHEV。しかし、“今無理して発注するのは得策ではない”との結論に至った」という――。

■新型プリウスPHEVは3月発売予定

トヨタディーラーの営業マンからプリウスのPHEV(プラグインハイブリッド)仕様の受注が始まったという情報が寄せられた。正式な発売は3月らしいが、事前に受注が開始されたという。

私は現在、BMW 118dというクリーンディーゼル車に乗っており、昨年5年目の車検を受けている。走行距離はすでに6万km近くなっているため、次の車検あたりが買い換えのタイミングなのではと考えている。

まだ次の車検まで1年半以上あるが、1月10日に発売された通常のハイブリッド仕様のプリウスが大人気(および半導体不足による生産台数減少の影響)で、納期が1年半に及んでいるということだった。

次の車検までに間に合わせるにはあまりのんきにしていられない。そこで、プリウスの検討を始めてみた。

■スポーツカー並みの動力性能

プリウスには1800cc、2000ccのハイブリッド(HEV)、2000ccのHEVをベースとしたPHEVがある。1800cc版は事実上KINTO(サブスクリプション)専用で、新型プリウスの主力は動力性能を高めた2000ccのほうだ。

PHEVのエンジンとモーターは2000ccのHEVと同じものだが、大型バッテリーを搭載しているためシステム出力(ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせた総合出力)でHEVを大きく上回り、0-100km/h加速が6.7秒という、今までのプリウスでは考えられないスポーツカー並みの動力性能を持っている。

2000ccのHEVも従来のプリウスよりかなり高性能である。近距離ではEVモードで走れることもあり、まずはPHEVで検討してみることとした。

■「電費」の良さはいかほどか

プリウスは、高性能となったとはいえ燃費の良さが魅力の車である。現在所有のディーゼル車もガソリンより安い軽油で走るためランニングコストは安いが、それをさらにどの程度削減できるかを調べてみた。

PHEVのポイントは、その名(プラグイン)の通り、自宅で充電してその電力である程度の距離を走れることにある。その範囲だけで使えば、ガソリンを一滴も使わずに走れるわけだ。電気にはガソリンのように高い税金がかかっていないから、安く走らせることができるはず、と考えた。

プリウスPHEVのバッテリー容量は13.6kWhで、欧州仕様の場合EVモードでの走行可能距離は69kmと発表されている。日本仕様のデータはまだ発表されていないので欧州仕様のデータで単純計算すると、1kWhの電気で約5.1km走れるということになる。

BEV(バッテリー電気自動車)の日産リーフは60kWhで450km走るので、1kWhあたり7.5km走れる。PHEVはガソリンエンジンも搭載しているので電費的にはBEVに対して不利だ(以下、燃費データはすべてWLTCモード)。

■PHEVでも削減できないコスト

私の自宅の電気代を調べたところ、現在は燃料費調整額や再エネ促進賦課金などが加算されて高くなっており、直近の請求書によると1kWhあたり約38円となっている(支払額から基本料金を除いた費用を使用量で割って求めた)。

単純計算では1kmあたり7.5円くらいのコストとなる。もちろん深夜割引料金を使えばもう少し抑えられるかもしれないが、昼間の電気代が上がってしまうので悩ましいところだ。2月からは補助金がつくとはいえ、6月には電気代の約3割値上げとなる見込みである(東京電力の場合)。

今のBMW 118dは、平均で17km/l程度の燃費で、カタログ燃費の16.7km/lを若干上回る結果となっている。私の場合、高速道路での使用が多く、渋滞を走る機会が少ないのも奏功していると考えられる。

軽油は1リットル=128円(1月22日の近所のスタンドの価格)なので、走行1kmあたり7.5円程度のコストで運用できている。つまり、PHEVのEV運用でもコストは削減できないことになる。

■HEVのほうが燃費コスパが良い可能性

PHEVにはさらに懸念事項がある。PHEVは家で充電した電気を使い果たしたあとはハイブリッドモードで走らなければならない。

PHEVは大きなバッテリーを搭載しているため、重量がHEVより重くなる。ハイブリッドシステムは同じだから、重量の分だけ燃費は不利になるのだ。

プリウスPHEVの燃費はまだ発表されていないが、同様にHEVとPHEVをラインアップするハリアーの例で見ると、HEVが22.3km/lなのに対しPHEVは20.5km/lと1割ほど悪くなっている。

HEVのプリウスの燃費は28.6km/lである。レギュラーガソリン価格は1リットル=155円(1月22日の近所のスタンドの価格)として単純計算すれば1kmあたりのコストは5.4円となる。なんと、PHEVのEVモードの電気代よりかなり安く、日産リーフの5.1円に迫る数字だ。

ハリアー同様、PHEVの燃費は1割悪くなると仮定すれば、PHEVのハイブリッドモードでのコストは1kmあたり6円程度となる。つまり、PHEVでもガソリン主体の運用のほうがコスト安となるのだ。PHEVを買う意味は、加速性能のみとなる。

現在のBMWの燃費、また以前借りたヤリスハイブリッドの燃費から考えると(「『脱炭素へ、今必要なのはEVよりハイブリッド車』欧米が絶対認めたくない“ある真実”」参照)、私の乗り方だとカタログ燃費に近い燃費が達成できると考えられるので、HEVを選べば現在のBMWより1キロあたり2円くらい節約できる計算だ。PHEVでも1.5円くらい安くなる。

プリウス 2.0L PHEV プロトタイプ/内装
写真提供=トヨタ自動車
プリウス 2.0L PHEV プロトタイプ/内装 - 写真提供=トヨタ自動車

■補助金でPHEVのほうが安く買えるケースも

価格面ではどうだろうか。希望の装備を考えると、Zグレード一択となる。

HEVの2WDモデルの価格は370万円、PHEVモデルは460万円である。加速性能のために90万円は高すぎるが、PHEVには補助金が出るのだ。

私は神奈川県に住んでいるので、政府から55万円、神奈川県から20万円、合計75万円の補助金が期待でき、その差は15万円になる。東京都の補助金は60万円なので、もし東京に住んでいればPHEVのほうが安く手に入るのだ。

PHEVにはなぜ補助金がつくのか。PHEVは電気主体の運用ができるのでCO2削減に貢献するというのが第一義的な理由だが、前述のようにガソリンだけで運用したほうが安上がりとなれば充電して使う人はあまりいないだろう。

■PHEVの電力を家庭で使用するには数十万円の追加コスト

補助金がつく理由にはもう1つあり、PHEVにはV2H(Vehicle to Home)という、車にためた電力を家庭用に利用できる機能があるのだ。

電気代が安く、電力需給に余裕のある夜間電力で車に充電し、昼間はその電力で賄(まかな)えば電気代の節約とピーク時の電力逼迫(ひっぱく)緩和(かんわ)にも貢献できるというわけだ。災害時など停電の際にも活用できる。

非常に良い機能なのだが、V2Hを利用するためには家屋にもV2H用の設備が必要となる。これにも補助金がつくが、最も安いモデルでも数十万円の設置コストがかかる(神奈川県の場合)。

災害時のことを考えるとあったほうがいいとも思えるが、少々躊躇(ちゅうちょ)する金額である。

■その「補助金」に本質的な効果はあるのか

PHEVを買ったとしてもガソリン主体で運用してしまい、V2Hも設置しなかったとすると、補助金を出す理由をすべて無視することになるし、燃費が悪い分通常のHEVより多くのCO2を排出することになる。

これは非常に後ろめたいことである。補助金とはいえ税金である。

現状を鑑(かんが)みると、PHEVにこれだけ多額の補助金を出すのは無意味では、と思ってしまった。ほとんどの人がガソリン主体運用でV2Hは設置しないという選択をするように思うからだ。

それに現時点では電力は逼迫しており、電気で車を走らせることは限定的にしたほうが社会的にも望ましいだろう。やはり「今買うならHEV」というのが、社会的にも経済的にも妥当な選択だと思う。

■無理して発注するのは「今」ではない

しかし納期が1年半以上となると発注には躊躇せざるをえない。

プリウス 2.0L PHEV プロトタイプ/プラチナホワイトパールマイカ
写真提供=トヨタ自動車
プリウス 2.0L PHEV プロトタイプ/プラチナホワイトパールマイカ - 写真提供=トヨタ自動車

その間にもっと魅力的な車が発売される可能性もある。購入契約した車は基本的にキャンセルできないのだ。

納期遅延の主因たる半導体不足はコロナ禍(か)によるスマートフォンやPCの急激な需要増が原因だったため、それが落ち着くと思われる今年以降は自動車の生産も徐々に元に戻っていくと考えられる。

納期は今後短くなり、いずれは以前のような値引きも期待できるかもしれない。

そう考えると今無理して発注するのはあまり得策ではない、という結論になったのだった。

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山崎 明(やまざき・あきら)
マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)

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