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簡易ベッド、食事なしで24時間体制…過酷すぎる子供の「付き添い入院」が放置されるワケ

プレジデントオンライン / 2023年2月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eggeeggjiew

子供の入院時には、保護者の付き添いが求められがちだ。小児科医の森戸やすみさんは「保護者の多くは過酷な環境で、お子さんに付き添われています。こうした無理が行われているのは、制度に問題があるためです」という――。

■大人と違って子供に「付き添い」が必要な理由

昨年末、「付き添い入院」の過酷さがニュースになり、やっと少し報道されるようになったと思いました。私は以前から保護者の負担の大きい付き添い入院には問題があると思っていて、ツイッターやブログなどで発信したことがあったためです。

付き添い入院とは、乳幼児などの小さな子供が入院する際に保護者が同じ病室に泊まり込んでお世話をすることを指します。例えば、子供に心臓の病気などの先天性疾患があった場合、腎臓などの慢性的な病気で通院している場合、「今度、検査入院をしましょう」「予定入院をしましょう」と入院することがあります。定期的に何度か入退院や手術を繰り返す場合もあるでしょう。そのほか、特に持病がない子供でも、急に具合が悪くなって入院するということがあります。大人と違って、子供の場合は、むしろ急な入院のほうが多いでしょう。

それらの入院の際に、保護者は病院側から「付き添いはできますか?」と聞かれたり、「付き添いがないと入院できません」と言われたりすることがあるのです。大人の入院だと付き添いの必要はないのに、なぜ子供だと付き添いが必要になるのでしょうか。

■乳幼児がたった1人で生活するのは難しい

乳幼児は自分が病院にいなくてはいけない理由がわかりませんし、点滴をされたり、触ってはいけない医療機器に囲まれたりしている理由もわかりません。当然、点滴やモニターなどの医療機器を触るだけでなく、手に取ろうとしたり、遊ぼうとしたり、急に立ち上がって病室から出ていこうとしたりします。それでは治療ができませんね。

そして幼ければ幼いほど、食事だって大人と同じように配膳するだけでは食べたり飲んだりしてくれません。こぼすこともあるでしょう。当然、内服薬も机に置いたら自分で飲んでくれるということはありません。

さらに急に不安になったり、痛みに耐えられなかったり、思うように動けないつらさから癇癪を起こしたり、寂しくなって泣いたりすることもあるでしょう。そもそも普段の生活においても、乳幼児を長時間1人でいさせることは難しいものです。

まして慣れない病院の部屋で、痛みや不安に耐えて1人で過ごすことは難しいでしょう。常に誰か大人が近くにいて治療が受けられるようにし、食事や薬をとらせたりし、気持ちを落ち着かせたりしなくてはいけませんね。しかし、現状では、病院側が行うのは不可能なため、付き添いが必要になるのです。

■看護師の配置基準は子供でも大人でも同じ

どうして病院のスタッフが子供の介助や保育をすることは難しいのでしょうか。それは間違いなく人手が足りないからです。

看護師の配置基準は、大人でも子供でも同じ人数です。「日勤帯」と呼ばれる朝8時から夕方17時の時間帯では、看護師1人に対して患者7人。さらに16時から24時半の「準夜帯」、24時から翌朝8時半までの「深夜帯」では看護師の人数が減ります。そのため、看護師1人当たりの担当患者数は増えるのです。とても子供の介助や保育はできません。

では、看護師の人数を増やせばいいと思う方もいるかもしれません。しかし、病院に支払われる診療報酬は、健康保険制度で決まっています。その制度で加算が認められている小児入院医療管理料は、求められる要件が厳しいことから、多くの病院は看護体制を強化できません。病院によっては看護助手がいたり、病棟保育士がいたり、看護師を独自に増員したりしていますが、手厚くすればするほど病院の負担が増えます。小児医療は不採算、つまり儲(もう)かるどころか赤字になりやすいのはそういう理由なのです。

その結果、保護者に付き添いをお願いするか、病院として小児の入院を取らないか、そのどちらかになりがちです。ですから、目の前の小児科医や看護師、病院に苦情を言っても、残念ながら改善は期待できません。日本の医療制度の問題なのです。

病院のベッドに座るガウンを着た子供
写真=iStock.com/HRAUN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HRAUN

■子供の「付き添い入院」における過酷な生活

付き添い入院中の保護者は、どんな生活になるでしょうか。

病室には、医師が患者さんの診察に少なくとも1日1回以上、看護師が1日2〜3回検温や心拍数、呼吸数などを記録するためにきます。大人の患者さんだと自分で食事量や排泄の有無、量を記録できますが、子供の場合は保護者の仕事になります。個室でなければ、周囲に他の患者さんや付き添いの人、医療従事者がいたり、モニター音が鳴ったりして静かな環境ではありません。

そして一般的に、付き添いの人のための寝具は病室に常設されていません。そのため、子供の病床に一緒に寝たり、折りたたみ式などの簡易ベッドを病床の隣に置いたりして寝ます。簡易ベッドは硬くて狭いものがほとんどで、全身が痛くなるという声が多く聞かれます。また多くの場合、患者さんには育児用ミルク、1日3回の食事、年齢によってはおやつも出ますが、付き添いの人の食事は自分で用意しなくてはいけません。買いに出かける時間がなく、また冷蔵庫や冷凍庫なども不足しているため、院内のコンビニで購入したお弁当、レトルトやインスタント食品を食べることになる人が多いようです。

シャワー室などは使える時間が決まっていて、予約しないと使えない場合が多いでしょう。そもそも、シャワー室がない病院もあります。患者さんと付き添いの人が自由に使える洗濯機を設置した病院も少ないでしょう。保護者が病室を出てトイレや買い物などに行く場合は、看護師に伝えたり、誰かに一時的に子供をみてもらうように頼む必要があります。

■新型コロナ禍でより悪化した付き添い環境

このような付き添い入院のつらさは、インターネット上で繰り返し話題になっています。ツイッターなどのSNSで「付き添い入院」で検索すれば、驚くほど大変な状況がよくわかるでしょう。「過酷すぎて精神的にも参ってしまった」「食事も睡眠もとれない」などという声がたくさんあります。付き添い入院の大変さ、過酷さは、私が研修医だった20年以上前から変わりません。

それどころか、コロナ禍で昔より悪化しているとさえいえるかもしれません。現在、コロナ禍の影響で、入院する患者さんは抗原検査やPCR検査で新型コロナウイルスを持っていないかどうかを検査されますが、付き添う保護者も同様です。そして今は院内感染予防のため、入院したら退院まで同じ保護者が付き添わなくてはならない、付き添いの保護者も退院まで外出できない場合があり、よりいっそう過酷な環境になっています。

新型コロナウイルスが蔓延する以前だったら、家族などの誰か大人が付き添っていればよく、入院から退院までお母さんとお父さん、おじいちゃんやおばあちゃんが交代で付き添うことが可能でした。日中はおばあちゃんやおじいちゃんにお願いして、夜は共働きのお母さんとお父さんが日替わりで付き添うご家庭もあったのです。1人でずっと付き添うのはとても大変ですね。仕事や生活にも影響が大きいでしょう。

■本来なら親子の希望や状況に合わせるべき

入院はお子さんの一大事ですが、その保護者にかかる負担もとても大きいのが問題です。そして、今は共働き世帯の方が専業主婦世帯の2倍以上で、ひとり親家庭も多いのです。子供が入院するまでに看病や通院のために数日仕事を休んだのに、さらに1〜2週間ほどの付き添い入院のための休暇を快く認めてくれる職場は少ないでしょう。失職の原因になるかもしれません。通常、子供の入院には公的な制度があり費用がかかりませんが、付き添いの人のベッド代、食費、洗濯代などはかかります。

本来、子供の付き添いは、子供と両親の希望に沿ってできることが理想でしょう。病気の子供に付いていたい(付いていられる)保護者は一緒に入院し、それができない場合は看護師や病棟保育士、チャイルド・ライフ・スペシャリスト、ヘルパーなどが付くことで子供独自のニーズに合わせ、安全に入院できるようにするべきです。

同時に、付き添う保護者が、もっとよい環境で子供と一緒にいられるようにしないといけないと思います。食事をとる、トイレに行くあいだは誰かがみていてくれる、個室などで寝るスペースのある病室を増やすなど、人間らしい生活ができるようにするべきです。また、食事量の記録、排泄の記録、子供の清潔を保つといった、医療なのか育児なのか境界が不明瞭な部分も誰がやるべきことなのかを明確にしないといけません。

病院のベッドでパルスオキシメーターを着けている子供
写真=iStock.com/Wavebreakmedia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wavebreakmedia

■子供の入院における保護者の付き添い実態調査

以前、制度自体を改める動きもありました。2021年6月、衆議院厚生労働委員会で、当時国会議員だった津村啓介氏が田村憲久厚生労働大臣(同じく当時)に対して質疑を行ったのです(※1)。そこで、事実上、子供が入院する際には保護者が24時間付き添いを求められている現状と問題点を指摘し、国として初めて実態調査を行うことになりました。

この調査は子供の入院に付き添う保護者3000人にアンケート用紙を渡し、退院時に提出してもらうというものでしたが、小学生以下の子供に限ると、回答はたった27件(0.9%)。実態の把握ができなかったため、なんの対応策にも解決策にもつながりませんでした。子供の付き添い入院中は忙しく、過酷な入院生活が終わって疲れ果てて慌ただしく退院する際に、主旨のよくわからないアンケート用紙に適切に回答し提出できる人は少なかったのでしょう。事前に保護者へ目的を説明し、入院中や退院後にスマホで入力できたら回答率は上がったはずです。

その後、2022年11月に加藤勝信厚労大臣が、改めて付き添い家族への事前説明を行い周知するよう病院に依頼すると述べたようですが、実際の再調査や解決策に関しては言及していません。厚生労働省に不満が届かなければ、問題は存在しないのと同じです。

※1 47NEWS「『心を病む』過酷な子どもの付き添い入院、親の声はなぜ国に届かないのか 厚労省の実態調査は回答率わずか1%で終了?支援いまだ進まず」

ベッドで点滴を受ける子供
写真=iStock.com/thekopmylife
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/thekopmylife

■それぞれが厚労省や議員に意見を伝えよう

子供の付き添い入院の改善要望を上げ、厚労省を動かすにはどうしたらよいでしょうか。それには、まず実態を知ってもらわなくてはいけません。

付き添い入院についての再調査が行われるためには、政治家または厚生労働大臣に質疑を行ってもらったり、厚労省に直接伝えたりする方法がいいのではないでしょうか。例えば陳情する、オンライン署名サイトで署名活動を行う、SNSやメールで厚労省や国会議員に伝えるのがいいのではと考えます。SNSはこういう時に役に立ってくれるでしょう。今いる子供を大切にすることも少子化対策です。政府は「異次元の少子化対策」をするとのことなので、私たちも要望を伝えていきましょう。

子育て中でも、わが子が入院するという経験をしたことがない人のほうが圧倒的に多いと思います。もちろん、入院が必要になるような大きな病気やけがをせずに成長してくれたら何よりです。でも、どの子が、いつ入院することになるかはわかりません。だから、誰しも人ごとではないのです。ぜひこの問題を知っておいていただけたらと思います。

最後に「つきそい応援団」というサイトがあり、入院制度・病院の仕組みやちょっとした工夫などを知ることができます。子供の入院に関しては、事前に情報を得ることが難しいので、ありがたいですね。ぜひ一度見てみてください。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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