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「サービス残業は泣き寝入りしかない」はもう古い…「残業代が出ない」と悩む人が会社を訴えるべき理由

プレジデントオンライン / 2023年2月6日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

働き方改革により、会社が社員の労働時間を正確に把握することが義務化された。その流れで、弁護士業界では未払残業代請求に注目が集まっているという。弁護士の桶谷治さんと小嶋麻鈴さんの共著『社長も社員も幸せになる労働トラブルゼロ会社のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)より、一部を紹介する――。

■あなたの会社の「勤怠管理」はどうなっているか

労働時間のトラブルの中で、最も社員と揉める可能性が高いのは、未払残業代の問題です。サービス残業が美徳、という感覚の強い会社も、中にはあるかもしれません。

また、社長以下、役員、管理職からすれば、会社の成長が第一ですから、時間をいとわず仕事をするのは当たり前という感覚だろうとも思います。

一方で、そもそも残業代を支払うお金がない会社や、残業時間を把握するシステムがないために、残業代を支払うベースが整備されていない会社も残念ながらあるのが現実です。

なぜ残業時間の記録ができていないのかというと、そもそもその必要がないと考えていた会社が多かったからではないでしょうか。

■労働時間を正確に把握することが義務化

会社が勤怠管理を行う主な理由は、給料を支払うための根拠を集める必要があるからです。ですから、(よくないことですが)残業代を一切払うつもりがない会社や、固定残業代を支給しており、ある程度労働時間が把握できていれば十分だと、勤怠管理を曖昧に考えている会社にとっては、正確な勤怠管理ができていなくても、特に問題はなかったのだと思います。

しかし、働き方改革の導入によって、社員の健康を守るために、会社に労働時間を正確に把握することが義務化されていることもあり、正しい勤怠管理をすることは極めて重要な課題となっています。

ですから、現在、残業のことで労働トラブルがない会社でも、いまこそ勤怠管理の見直しに目を向ける必要があります。勤怠管理をおろそかにしている会社は、「賃金管理のため」だけではなく、「会社の繁栄」や「社員の健康のため」といった視点でも対応するべき喫緊の課題として、意識を高めてください。

■弁護士業界でも注目されている残業代請求

「残業をしたらその分の残業代を支払うのは当然のこと」です。時代は変わっています。

甘い考えのまま、残業代支払の問題を放置していた場合、会社が痛い目にあってしまう可能性があります。そして、その可能性は、以前よりも高まっているように思います。

その大きな理由として、残業代の消滅時効期間が延長されたことが挙げられます。

残業代をさかのぼって請求できる「消滅時効」という期間はかつて2年でしたが、働き方改革に伴う労働基準法の改正で、現在は移行期間として当面の間3年に延長されており、今後5年になる可能性があります。

このような流れを受けてか、未払残業代の請求は、弁護士業界でも注目されています。借金の過払金請求を呼びかける法律事務所のCMをよく見聞きしますが、未払残業代請求も、請求することに法律上は、正当な理由があり、相手も個人ではなく会社で、回収がしやすいという点では、過払金請求と共通の性質を持っています。よって、昨今の時効期間延長の流れを受けて、未払残業代の請求も、弁護士業界で過払金請求のようなトレンドになっていく可能性があります。

裁判所の看板
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

それこそ、毎月ほとんど残業代をもらえずに、不満を抱えながら長時間労働を強いられている労働者が、そんなCMを見たら「今の会社は辞めて残業代を請求しよう」と思うのも無理はないでしょう。

本書は、社長に、労働トラブルを未然に防ぐためのポイントをお伝えすることを目的にしています。よって、社長の皆さんには「労働時間」に関して気がかりな点があれば、早急に手を打ってもらいたいと念を押してお伝えしたいところです。

■裁判で会社が完全に勝てるケースは少ない

残業代の裁判でも、会社が完全に勝訴できるケースは少ないです。その理由の一つとして、会社側の反論が通りにくいということが挙げられます。未払残業代について裁判になった場合、会社は、

①その社員が管理監督者にあたるという反論
②残業になった理由は、通常の勤務時間中に社員がサボっていたからだという反論

をすることが多いです。しかし、これらの理由は裁判所にはなかなか認めてもらえません。

■「管理監督者」であると認めさせるハードル

まず、①について、管理監督者とは、「労働者の労働管理について、経営者と一体の立場にある社員」を指します。管理監督者にあたる社員に対しては、会社は残業代を支払う必要がありません(労働基準法第41条2号)。

他の社員の労働時間などを管理監督するような社員であれば、自分の労働時間は自分の裁量で律することができるはずです。そして、その地位に応じた高い待遇を受けているのだから、労働時間の規制をする必要がありません。さらに、そのような社員は、職務や責任が重大であることから、労働時間は自ずと長くなるはずなので、労働時間の規制になじみません。以上が、管理監督者にあたる社員に、残業代を支払わなくてよいとされている理由といわれています。

しかし、例えば「部長」など、管理職の肩書きが与えられている社員であれば管理監督者にあたる、といった単純な話ではありません。社員が管理監督者にあたるかどうかについては、

ⅰ: 経営に関する決定に参加して、他の社員の労務管理について指導監督する権限が認められているか
ⅱ: 出退勤の時間などを自分の裁量で決められるかどうか
ⅲ:高い地位と、それにふさわしい給料を得ているか

など、様々な観点から判断されます。裁判所に、管理監督者であると認めてもらうハードルは意外と高く、この主張が通るケースはあまりないというのが実情です。

■「社員のサボり」をどう客観的に証明するか

②については、例えば、「残業代を請求してきた社員は、勤務時間中にずっとSNSを見ており、仕事をしていなかった」といったものです。

このような主張をするのであれば、最低限、パソコンのログの解析結果など、客観的な証拠を集める必要があります。さらに、ログを提出できたとしても、社員から、「仕事の合間に会社のパソコンでSNSを開いたことはあるが、そのままその画面をつけっぱなしにしていただけで、仕事はしていた」「サボっていると会社から注意を受けたことは一度もない」などと主張されると、それに対する反証も難しいです。

勤務時間中に、Twitterで1日2、3回程度ツイートしていたとしても、それだけで残業代を払わなくていい、と判断されることはまずないでしょう。1日中ずっとツイートしていたとか、勤務時間中に何度も株取引をしていた、といったレベルでないと、残業代を支払わなくていい理由とはされないと考えてください。

このように、残業代を請求された場合に、会社が反論をして、支払う金額をゼロにするということは、決して容易ではないのです。

■「固定残業代」として認められないケース

「うちはみなし残業による固定残業代を支払っているから大丈夫」と考えている社長もおられるかもしれません。しかし、固定残業代も、そう簡単な問題ではありません。

固定残業代は、法律的には、「対価性」と「判別可能性」の両方を満たしてはじめて、適法な残業代と認められます。

「対価性」とは、その手当が、時間外労働や深夜労働に対する対価として支払われていることを意味します。支払の趣旨が、残業代であることをしっかりと説明できないと、固定残業代とは認められないのです。特に、固定残業代を「業務手当」や「営業手当」といった名称で支払っている会社は注意が必要です。

「判別可能性」は、通常の労働時間分の給料にあたる部分と、残業代にあたる部分とを判別することができることを意味します。

例えば、「うちの会社の基本給には残業代も含まれている」と主張したとしても、それだけでは、基本給のうち、どの部分が通常の労働時間分の給料にあたる部分で、どの部分が残業代なのかが分かりません。よって、残業代に対応する金額や時間数を何ら明らかにしないまま、基本給に残業代を含めて支払っていると主張しても、それが固定残業代の支払と認められることはないのです。

また、判別可能性の問題は、残業代の未払以外にもトラブルを生みかねません。例えば、会社としては、固定残業代も含める趣旨で、「月給40万円」として求人広告を出していたところ、40万円のほかに残業代ももらえると考えていた社員と、入社後にトラブルになる、といったケースもあります。

厚生労働省も固定残業代の適切な表示を呼びかけている
固定残業代の適切な表示を呼びかける厚労省の文書

■残業代を支払っていても、計算上はゼロベースに

裁判所に、「対価性」と「判別可能性」の要件を満たしていないと判断されると、会社はダブルパンチのダメージを負います。

どういうことかというと、裁判所からそのように判断されると、訴えた社員に支払うべき残業代は、ゼロベースで計算されてしまいます。

例えば、支払わなければならない残業代が10万円で、固定残業代として支払った金額が5万円だったとします。この場合、適法な固定残業代として認められれば、追加の支払は5万円で済んだのに、対価性や判別可能性が認められないことで、「あなたは5万円支払ってはいますけど、それは残業代の支払とは認められないので、改めて残業代として10万円支払ってください」という判断がなされてしまうのです。

■会社にとって安易な制度利用はデメリット

また、適法な固定残業代と認められなかった場合、固定残業代として支払っていた5万円は、残業代を計算する際のもととなる賃金に含めなければならなくなるため、会社が支払う残業代の金額は増えることになります。

桶谷治、小嶋麻鈴『社長も社員も幸せになる 労働トラブルゼロ会社のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)
桶谷治、小嶋麻鈴『社長も社員も幸せになる 労働トラブルゼロ会社のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)

具体的には、残業代は、「時間単価×割増率×残業時間」で計算されるのですが、「時間単価」は、月給制の場合、「月額賃金」÷「年間の所定労働日×1日の所定労働時間数÷12カ月」で計算されます。例えば、正しく固定残業代を支払っていた場合、月額賃金は30万円とすれば済むところ、5万円が固定残業代と認められなかった場合には、月額賃金を35万円として計算しなければならなくなるのです。

これまでに支払っていた手当が残業代とは認められず、改めて支払う残業代も、高い賃金をもとに計算されてしまう――。会社にとっては文字通りダブルパンチのダメージです。

このように、固定残業代制度は、安易に利用してしまうと、かえって会社にデメリットをもたらしてしまう可能性もあります。

固定残業代制度は、個々の会社によって、その内容が大きく異なりますが、しっかりとした制度を構築することができていない会社が意外と多いように思います。

自社で固定残業代制度を導入している場合には、今一度、自社の制度に問題がないかどうか、よく確認していただければと思います。

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桶谷 治(おけたに・おさむ)
桶谷法律事務所弁護士
1963年、北海道札幌市生まれ。一橋大学法学部卒。1989年弁護士登録。札幌弁護士会所属。各種企業の外部通報窓口、コンプライアンス関係委員会委員、社外監査役も務める。注力分野は労働分野ほか企業法務一般。講演・セミナーなども多数。

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小嶋 麻鈴(こじま・まりん)
桶谷法律事務所弁護士
1993年、北海道北見市生まれ。北海道大学法学部卒、同法科大学院修了。2019年弁護士登録。札幌弁護士会、桶谷法律事務所所属。注力分野は、企業関連法務、労働事件、離婚問題、相続・遺言問題。職場のハラスメント対応策の講演実績もある。

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(桶谷法律事務所弁護士 桶谷 治、桶谷法律事務所弁護士 小嶋 麻鈴)

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