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体力、技術、メンタルに大きな違いはない…120人のJリーガーを調査して判明した「世界に通用する超一流」の共通点

プレジデントオンライン / 2023年2月12日 8時15分

2014年にチェアマンに就任した村井満さん。任期最終年の2021年には毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。 - 撮影=奥谷仁

世界に通用する超一流選手はどこがすごいのか。Jリーグがキャリア10年目の選手120人を調べたところ、相関が認められたのはメンタルやフィジカルではなく、「傾聴力」と「主張力」という2つの項目だった。Jリーグチェアマンを4期8年務めた村井満さんに、ジャーナリストの大西康之さんが聞いた――。(第17回)

■キャリア10年目の選手を対象に調査した

――W杯カタール大会が終わり、欧州ではリーグ戦が再開しました。欧州のビッグクラブではW杯で各国の代表として戦っていた選手がベンチをあたためていたりして、改めてレベルの高さを感じます。イングランド・プレミアリーグの冨安健洋選手、三苫薫選手やスペイン・ラリーガの久保建英選手らは、そこでレギュラー争いをしているわけですから、日本選手のレベルが飛躍的に上がったわけです。ドイツやスペインに勝ったのも、フロックではないと思います。

【村井】そうですね。ではいったい、どういう選手がそういった世界に通用する超一流に育っていくのか。彼らにはどんな共通点があるのか。2016年、私にとって2回目の新人研修会で話すために、Jリーグスタッフの松沢緑さんに頼んで、2005年入会、つまりその時点でキャリア10年目の選手を対象に調べてもらいました。本田圭佑選手、岡崎慎司選手、西川周作選手らは2005年入会ですが、その世代です。

仮説はあったんですね。「心技体にずば抜けた選手だろう」と。心なら、例えばW杯本大会でも冷静でいられるような強靭なメンタルや、人並外れた闘争心。技なら正確なシュートや巧みなドリブルや足元にピタリと止めるトラップ。体なら90分走りきるフィジカルや圧倒的なスピードやジャンプ力。

■50項目を比較して浮かび上がってきたのは…

ところが2005年に入会した120人を対象に調べたところ、10年間で大きく飛躍した選手とそうでない選手の間に、大きな差異を見つけることはできませんでした。そもそもJリーグに入る時点で一定程度の力は持っているわけで、調査は一度、そこで挫折してしまいます。

【連載】「Jの金言」はこちら
【連載】「Jの金言」はこちら

しかし私はリクルートで職業適性検査とか社会人基礎力検定とかの知見がありましたから、そうしたパラメーターで評価してみたらどうなるか。再度、調査をしてみたのです。今度は分析力、クリエイティブ力、想像力、計画力、規律性、柔軟性など50項目くらいについて、大きな成功を納めた選手とそうでない選手を比べてみたのです。

すると成功した選手の中で圧倒的に相関係数が高い項目が2つ見つかりました。「傾聴力」と「主張力」です。

■「前のめり」に聞き、堂々と主張する力

――聞く力と主張する力。一見、矛盾しているように思えます。

【村井】そこが面白いところですね。まず「傾聴力」。私はこれを「体を前のめりに傾けて聞くこと」と定義しています。聞くだけでなく、前のめりに、というアクションが入っているわけです。例えば、要点をメモするとか、「本当かな」と疑って調べてみるとか。

――わかる気がします。私は20年以上、ボランティアで少年サッカーのコーチをしていますが、小学校を卒業してJリーグの下部組織にいくような子は、みんなを集めて話をする時、私の一番近くにいて、こちらの目をまっすぐに見てきます。内容によってうなずいてみたり、首を傾げたり。はっきりリアクションする特徴があります。

【村井】そう、傾聴の極みというのは「あなたはそう言うけど、僕はそう思わない。僕はこう思います」と主張することです。勇気を持って主張してみると、その倍くらいの答えが返ってくる。この傾聴と主張のサイクルを高速で回している選手が、成長していくのではないかと思います。

2021年9月3日の色紙
撮影=奥谷仁
成功し続ける傾聴力と主張力=2021.09.03 - 撮影=奥谷仁

■「あいつはわかってない」と他人に矢印を向けない

例えば、監督と意見が合わなかった時「あの監督、わかってねえ」ではそこで終わりです。この監督は自分に何を求めているのだろうかと傾聴し、理解して自分の引き出しを増やしていく。その上で自分の考えを主張して、自分がより生きる環境を勝ち取っていく。「あいつは分かってない」と他人に矢印を向けるのではなく「俺には何が足りないのか」と自分に矢印を向けるのです。

――本田選手や岡崎選手はいずれも若い頃、それなりの挫折を経験しています。

【村井】そうですね。本田選手は中学時代、ガンバ大阪ジュニアユースに所属していましたが、ユースに上がれず星稜高校に進みました。同学年の家長昭博選手は昇格しています。岡崎選手は高校選手権で全国ベスト4になり清水エスパルスに入りますが『鈍足バンザイ! 僕は足が遅かったからこそ、今がある。』(幻冬舎)という本を書いているくらい足が遅かった。大久保嘉人選手は2015年にJリーグ史上初の3年連続得点王になりましたが、その年日本代表に呼ばれなかった。

前にも話しましたが、サッカーというのはミスのスポーツなので、どんな一流選手でもミスをします。そのミスがゲームの大事なところで出てしまえば、それでチームが負けることもあるし、相手のミスで自分がヒーローになることもある。ミスがつきもののサッカーは理不尽なスポーツなので、多くの選手がいろんな挫折を抱えています。また自分がどんなに結果を出していても、監督がデザインするサッカーとコンセプトが合わなければ起用されることもない。

■超一流は、自分なりの乗り越え方を知っている

――それを乗り越える力が「傾聴力」というわけですね。

【村井】そうです。岡崎選手はものすごく傾聴力があるので、陸上のトレーナーを雇って、どの角度に体を倒してどういう蹴り方をしたらスピードが出るのかずっと研究し続けて、今の走り方にたどり着きます。その走り方は世界最高峰のイングランド・プレミアリーグでも十分に通用し、移籍したレスター・シティで優勝メンバーの一員になりました。

岡崎選手の傾聴力を私は自分なりの言葉で「おいしくご飯を食べる能力」と考えていました。ブンデスリーガやプレミアリーグでの練習や試合が終わったあと、仲間の選手を誘うのだそうです。独りで食べるよりみんなで食べたほうがおいしいのはもちろんですが、岡崎選手はそこで仲間に「日本とやり方が全然、違うんだけど、俺はどうしたらいい」と聞くのだそうです。彼の優れた能力の一つです。

――乗り越え方にもいろいろあるのですね。

長く日本代表のキャプテンを務めた長谷部誠選手は浦和レッズのサテライトの試合に両親を呼んだ時、緊張のせいで胃薬を飲んで試合に出たと本に書いています。自分の心の弦はこれ以上、太くはならない。だけど細い弦をピアノのように調律して一番良いテンションに張ることはできる。弦を太くすることを諦めた長谷部選手は、朝起きてから夜寝るまでに56のルーティーンを決めて心を良い張り具合に整えているのです。

■ミスをしないことより、どう立て直すかで決まる

【村井】プロで10年以上活躍するような選手なら誰しも、絶対にどこかで一度や二度は挫折しています。けがをしたり、スランプになったり、代表から外れたり、出場機会が減ったり。大切なのはそれを乗り越える力。リバウンドメンタリティーです。そのリバウンドのために必要な要素が傾聴と主張と言うわけです。

成功する選手とはミスをしなかった選手ではなく、ミスで凹んだことを立て直しながらリバウンドしていった選手である。それが調査からわかったことでした。

ミスをして落ち込まない人はいません。問題はそこからどう立て直すか。練習試合でのミスとW杯最終予選でのミスでは落ち込み度合いも違います。でもものすごい落ち込みが来たら「自分もそれなりのステージに来てるんだ」と思えばいいのです。そして倒れるくらいまで体を傾けて周りの意見を聞き、「自分はこう思うんだ」と同僚や上司にいろいろ言ってみる。人はそうやって成長していくものだと思います。

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大西 康之(おおにし・やすゆき)
ジャーナリスト
1965年生まれ。愛知県出身。88年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。98年欧州総局、編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年独立。著書に『東芝 原子力敗戦』ほか。

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(ジャーナリスト 大西 康之)

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