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これがあれば残された家族も安心できる…税理士が万が一に備えて「大事なもの袋」に保管しているもの

プレジデントオンライン / 2023年2月12日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

自身の死に、どう備えておくべきか。税理士の島根猛さんは「財産目録や遺言書をつくっておくと、残された家族に財産はどれくらいあるか、どう取り扱ってほしいかを伝えられる。財産目録は手間がかかるという人は、通帳や保険証券などを一つにまとめて保管するだけでもいい」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、島根猛『「もしも夫が亡くなったらどうしよう?」と思ったら読む本』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■夫の財産を洗い出してみて、妻は青ざめた

私は相続関連のセミナーで講師を務めることがありますが、生前に財産目録をつくることの重要性は、必ずお伝えしています。生前のうちに財産目録をつくっておいてもらえれば、遺産分割協議をスムーズに進められますし、そして何よりご主人の財産を事前に把握できれば、奥さまの老後の生活をより具体的に見通すことができます。

財産目録の例
出所=『「もしも夫が亡くなったらどうしよう?」と思ったら読む本』

次のような話を聞いたことがあります。

ある奥さまは、生活費を含めてご主人からお金をもらったことがほとんどなく、ご自身が病気になって入院しても、ご主人は医療費を一切出してくれなかったそうです。奥さまには兄弟がたくさんいたので、仕方なく兄弟にお金の相談をしていました。一方で奥さまは、ご主人が亡くなったら相続人としてそれなりの財産を相続できるだろうと考えていたようです。

そして実際にご主人が亡くなって財産を洗い出してみたのですが、奥さまの予想をはるかに下まわる額であることが判明しました。ご主人はケチで妻に生活費を渡さなかったわけではなく、そもそもお金を持っていなかったことが明らかになったのです。奥さまのあては大きく外れてしまい、これではその後の生活もままなりません。

このお話から得られる教訓としては、やはり生前からご主人とコミュニケーションをとっておくべきであるということ、そしてご夫婦で夫に先立たれたあとの奥さまの生活について、真剣に考えておくべきであるということです。

■税理士が実践している「大事なもの袋」

ご主人が財産目録をつくってくれる気になったとしても、すべての財産名をリストアップするだけでなく、その金額も記さなければなりませんから、これはなかなか大変な作業です。そこでおすすめなのが、「大事なもの袋」をつくり、その中に通帳や生命保険証券などを放り込んでおくという方法です。

これは私自身も実践していることで、私の場合はファスナーが付いているビニール製のケースに、通帳や生命保険証券など重要と思われる書類をすべて保管しています。このケース自体は文具店や百円ショップで簡単に手に入るものですが、もしも私が死んだときには、残された家族はこの「大事なもの袋」を開ければすべての財産を把握できますので、手間も費用もあまりかからず、費用対効果が抜群です。

年に1回くらい中身をチェックして古いものは捨てておけば、さらに精度が上がります。この方法なら、財産目録をつくるよりも圧倒的に手間がかかりませんから、ぜひ試していただきたいと思います。

もしできることなら、取り扱い説明書のようなイメージで、銀行預金の金額や生命保険に加入している金額を書面に記載し、「このお金は妻に使ってほしい」「このお金は子どもの教育費のために使ってほしい」「この人に連絡すれば生命保険の手続きを滞りなく進めることができる」など、財産をどのように取り扱ってほしいか、家族に伝えるものがあるとより良いと思います。

■遺言書がないと自分の意思が伝わらない

「生前からの相続対策」と聞いて、遺言書の作成を思い浮かべる方も多いかと思います。遺言書を書くべきか否かというのに、財産金額の大小は関係ありません。自分が死んだあとに財産を誰にどれくらい渡すかを事前に自分で決めておくことで、残された家族や親族が相続争いをすることを未然に防ぐことができ、円満に相続を進めることが可能になります。

たとえば、夫婦に子どもがおらず、ご主人が地主家系の末っ子長男だったとしましょう。既にこの夫婦それぞれの両親は他界していますので、遺言書がなければご主人の財産の多くは妻、そしてその後は妻の兄弟姉妹へと相続されていきます。ご主人が「自分が受け継いだ土地は姉たちに返したい」と考えているなら、遺言書でその意思を残さなければ、絶対に叶えられません。

あるいは、前妻との間にも現在の妻との間にも子どもがいて、「現在の妻との子どもだけに財産を残したい」という場合も、遺言書を書いたほうがいいでしょう。前妻との子どもも、現在の妻との子どもと同様に、相続する権利があります。

■相続について真剣に考えるだけで意味がある

遺言書でいえば、こんなケースがありました。お客さまは80代の男性で、遺言書の作成をお手伝いしたのですが、ある日「遺言の内容を見直したい」とご連絡をいただきました。この方と奥さまは、高級介護施設で暮らしていました。一般的なシニア世代よりはお金に余裕があるのですが、とても心配性で、「自分が死んだら妻がお金に困らないか」と不安になって遺言書の見直しを考えたそうです。

遺言書
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

そこで私は実際にお会いしてお話をうかがい、3カ月くらいかけて遺言書を書き直す段取りを整え、どのように財産を分けたいのか、考えをまとめていただくことにしました。

ところがその後しばらくして、この方から「財産の分け方に悩んでしまって、遺言の内容を決められない」という連絡がきたのです。結局私がアドバイスしながら配分を決めたのですが、この方のように、財産配分を自分で決められないという方は少なくありません。

結果として、遺言書を書こうとしていても、内容が決まらないまま放置してしまうというケースもありますが、遺言書を書くということは、ご自身の財産を棚卸しして相続について真剣に考えるという面で、大きな意味があることです。

財産配分を決められなくても、「とりあえず財産目録だけでもつくっておこう」となれば、十分に意味があったといえるでしょう。「そういえば、放ったままの口座がある」と気づくきっかけになるかもしれません。ご主人が「遺言書を書いてみようかな」と考えるということは、それ自体で相続対策を前進させることになるのです。

■「二次相続」対策がなぜ必要なのか

第1回でもお話ししましたが、最近注目度が高まっているのが「二次相続」です。

夫婦のどちらかが亡くなったときの相続が一次相続で、たとえば、ご主人を亡くした場合、残された奥さまと子どもが相続人になります。この状態で次に奥さまが亡くなったときの相続が二次相続で、このときの相続人は子どもだけです。

二次相続では一次相続と比べて税負担が大きくなる可能性が高く、そのためメディアがこぞって二次相続対策による節税策を取り上げています。

二次相続で税負担が増える理由のひとつは、二次相続では配偶者に対する税額軽減が使えないからです。先に述べた通り、二次相続での相続人は子どもたちですが、相続人が配偶者であれば、相続した財産が法定相続分または1億6000万円までであれば相続税がかかりませんが、子どもたちはこのお得な制度を使うことができません。

もうひとつ、基礎控除額も小さくなるという理由もあります。二次相続では相続人の人数自体も減るので、基礎控除額も自ずと小さくなるわけです。

こうしたことから、一次相続のときに「妻に多くの財産を残せば、相続税がかからないから」と考えてすべての財産を奥さまに相続させてしまうと、二次相続発生時に子どもたちの相続税の負担が大きくなる恐れがあるのです。

こうした事情から、一般的には「一次相続の時点で二次相続時の相続税の負担を考えたほうがいい」というアドバイスを行うことが多いです。

■妻は節税できても、子どもの税負担が重くなる

図表2を見ると、一次相続と二次相続の関係を具体的にイメージできます。

相続税額の早見表
出所=『「もしも夫が亡くなったらどうしよう?」と思ったら読む本』

ご主人の財産が5000万円、ご家族が妻と子ども1人だとして、法定相続分通りに相続すると相続税は40万円です。ところが、5000万円すべてを妻が相続すれば相続税は0円となりますから、40万円が節税できます。

ところが、妻が亡くなったときにその5000万円がそのまま残っていたとしたら、子どもへの相続で160万円の相続税がかかってしまいます。

このように、一次相続でうまく節税できて喜んだとしても、二次相続で相続税の負担が大きくなることを考えると、一次相続時の節税だけを重視して相続対策を行うのは、あまり得策ではないかもしれません。

そのため、税理士であれば「一次相続と二次相続の相続税のバランスを見て、税金がトータルで安くなるように相続を進めましょう」とアドバイスをするのが一般的です。具体的には、二次相続での税負担も見据えて、一次相続で妻の取り分を減らして子どもたちの取り分を多くすることになります。

ただし、ここで懸念があります。こうした背景から一次相続で子どもたちに多くのお金を分けてしまったために、その後の妻自身の生活費が足りなくなってしまった場合、どうしたらいいでしょうか。

■「いざとなったら母親に戻す」は現実的ではない

「子どもたちに生活費の援助を頼めばいい」と考える方もいるかもしれません。実際、お子さんに「二次相続のことを考えて、一次相続で多めにお金を分けておく」と伝えたときに、「もしもお母さんがお金に困ることがあったら、私たちが援助する」と答えるお子さんもいるでしょう。しかし現実には、一度受け取ったお金を母親に返すというお子さんは、あまり見られないように思います。

相続に限らず、一度自分がもらったものに対して、相手から「やっぱり返してほしい」と言われても、すんなり返すというのはかなり難しいことではないでしょうか。「もらったものは返せない」「一度自分がもらったのだから、このお金は自分のものだ」という心境になるはずです。

そして子どもたちも、住宅ローンや自分の子の教育費など、いろいろなお金が必要となります。「相続したお金ありき」で生活設計を立てていれば、あとになって変えるのは決して容易ではありません。そのため、「子どもが相続したお金を、いざとなったら母親に戻す」というのは、あまり現実的ではないと私は考えています。

■まず優先すべきは、妻の老後の生活ではないか

私のスタンスとしては、たとえ二次相続時の相続税の負担が大きくなろうとも、残された奥さまが今後の生活に必要な分のお金を最初から受け取ったほうがいいというものです。

島根猛『「もしも夫が亡くなったらどうしよう?」と思ったら読む本』(クロスメディア・パブリッシング)
島根猛『「もしも夫が亡くなったらどうしよう?」と思ったら読む本』(クロスメディア・パブリッシング)

たしかに、一次相続で妻が多くを相続して相続税が安くなると、その反動で二次相続での相続税が高くなる恐れがあることは事実ですので、私は相続のご相談を受けたお客さまにはこのことは必ずお伝えしています。

しかし、相続において何を最も優先するのか。一次相続時の相続税が少ないほうがいいのか、それとも二次相続を見据えてトータルの相続税を少なくするほうがいいのか――。何を最も優先すべきか考えると、まず優先すべきは、やはり奥さまの老後の生活ではないでしょうか。

相続では、節税はあくまでも手段のひとつにすぎず、最も大きな目的は、奥さまのこれからの生活を守ること、もっといえばご主人を亡くされたあとの人生を、不安や後悔なく豊かに生きることです。この一次相続で奥さまに多く財産を残すというのは、それを実現するための第一歩となります。

それに税金対策は、相続後でもできることがあります。二次相続のことばかりを憂いて対策を立てたがために、奥さまの生活が窮屈になってしまわないよう、二次相続のことは「ちょっと意識しておく」くらいに留めておくのがちょうどいいのです。

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島根 猛(しまね・たけし)
島根税理士事務所代表税理士
埼玉県で代々続く専業農家の長男として生まれる。「実家の相続を円満に導きたい」という思いから税理士を志し、24歳で税理士試験に合格。大学卒業後に専門学校での税理士講座講師、某保険会社の営業職を経験したのち、税理士法人にて税理士業務の基礎を学び、27歳で税理士登録。その後は相続税のエキスパートとして年間100件以上の相続案件に携わり、累計は約1000件を超える。円満で豊かな相続を実現する"相続専門税理士"として活躍中。日本相続支援総研代表取締役。著書に『「もしも夫が亡くなったらどうしよう?」と思ったら読む本』(クロスメディア・パブリッシング)、共著に『円満相続をかなえる本』(幻冬舎メディアコンサルティング)がある。

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(島根税理士事務所代表税理士 島根 猛)

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