2026年までに日本のサッカーは変わる…Jリーグ村井チェアマンが自信を持つ「重要プロジェクト」の中身
プレジデントオンライン / 2023年2月14日 8時15分
■優勝を争う国の選手は、どこのクラブに所属しているか
――吉田麻也選手、三笘薫選手、堂安律選手などW杯カタール大会で活躍した日本代表選手の多くは、10代をJリーグのジュニアユースやユースで過ごしています。育成の主体が学校の部活からJクラブに移りつつあるわけですが、そんな中でJリーグは2019年、ワールドクラスの選手を輩出することを目的にした「PROJECT DNA」を始動させました。
【村井】2018年のW杯ロシア大会はフランスの優勝で終わりましたが、私が注目したのは久々にベスト4まで勝ち進んだサッカーの母国、イングランドの躍進でした。
ロシアに滞在している間はわりと時間があったので、出場32チームの全選手の経歴をエクセルに入力して、どのクラブの出身なのか洗い出しました。
■ドイツもイングランドも自国リーグの選手が多かった
優勝したフランス代表の場合、重要なグループステージ初戦のスタメンのうち自国のリーグ・アンでプレーしていたのはパリ・サンジェルマン所属のエムバペだけ。他の選手はイングランド・プレミアやドイツのブンデスリーガ、スペインのラ・リーガなどのクラブに所属していました。ドイツ代表は自国で一番強いバイエルン・ミュンヘンの選手が6~7人で、他も自国リーグの選手が多かった。イングランドの場合は、ほとんどの選手が自国のプレミアリーグでプレーしていました。
つまりW杯でベスト4以上に進むためには、まずJリーグがプレミアリーグやブンデスリーガと同じレベルにならなければならない。そこでクラブの育成能力を客観的に評価・採点しているベルギーのベンチャー企業に依頼して、Jリーグとブンデスリーガの育成力の比較をしてもらいました。
![【連載】「Jの金言」はこちら](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/a/1200wm/img_da1cd476c47c2df664614e8843db3f3e199505.jpg)
この会社は400項目から5000点満点でクラブの育成力を評価するのですが、その内容は多岐にわたります。タレント発掘力やチーム強化のレベルだけではなく、変わらぬ育成哲学を持っているか、クラブ収入の多寡で育成原資が左右されないような予算措置や恒常的な組織構造を持っているか、青少年の心理面やキャリア面をサポートする専門家含めスタッフの充実度、施設設備面のレベルなどを丁寧に調査していきます。特に個の育成に関しては極めて重視しています。
■ブンデスリーガを100点としたら、Jリーグは…
日本にオーディター(調査員)がやってきて、ストップウォッチを片手にJリーグユースの練習を観察していました。何を測っているのか尋ねると「オーナーシップをもって練習している比率を見ている」と言います。
オーナーシップとは子供達が自発的に考案して練習することです。最初から最後までコーチが考えたメニューをこなす日本式の練習は「オーナーシップが足りない」と評価されます。試合のオーナーシップを握るのはピッチの選手です。ベンチが動かすわけではない。なので日ごろの練習からそうした自立性を求めているのです。
結果的にブンデスリーガを100点とした場合、Jリーグは40点という結果が出ました。
――絶望的な差ですね。
【村井】いや、そうは思いませんでした。むしろ「日本サッカーにはこんなに伸び代があるのか」と嬉(うれ)しくなりました。
前回、お話ししたようにドイツの育成についても色々調べたのですが、ドイツより強い関心を持ったのはイングランドでした。イングランドの場合、プレミアリーグに世界中の有力選手が集まりすぎて、リーグは盛り上がるが自国の若手がなかなか育たない、という状況が長く続いていました。しかしロシア大会前後のイングランドの選手育成は明らかに結果を出していたのです。
■長期的な育成プランで若い選手への投資を
2017年のアンダー17とアンダー20のW杯で優勝しており、アンダー19も欧州選手権で優勝しています。若い世代がメキメキと力をつけ、その成果がW杯ロシア大会のベスト4という形で表れました。人材の底上げに成功した感じでした。
イングランドはいったい何をやったのか。調べてみると2012年にEトリプルP(エリート・プレーヤー・パフォーマンス・プラン)という育成プログラムを導入していたことがわかりました。
――いわゆる英才教育ですね。2022年カタール大会では優勝したフランスに敗れベスト8で終わったイングランドですが、ベリンガム(19)、サカ(21)、フォーデン(22)といった若い選手が躍動しました。
【村井】面白いのはそのプログラムを主導したのがFA(イングランドサッカー協会)ではなく、プレミアリーグのクラブで構成するプロサッカー協会だったことです。当時からプレミアリーグは巨額の収益を上げていましたが、キャリアのある年齢が上の選手に多くの報酬が支払われていました。ある時、プレミアリーグの全社長が集まって話し合い「長期的な育成プランを持って若い選手たちにもっと投資していくべきだ」と意見が一致しました。
■技術だけでなく教育、栄養、分析力も
【村井】では誰が育成プランを作るのか。白羽の矢が当たったのが、ウェストハム・ユナイテッドの監督などイングランドで37年の指導歴を持つテリー・ウェストリーさんでした。
テリーさんが作った「EトリプルP」は、フットボールの技術だけでなく、教育、栄養、分析力などのスタンダードを作り、それをベースに各クラブが独自の育成に取り組むプログラムでした。
――そのテリーさんを村井さんが日本に招くわけですね。
【村井】ロシア大会が終わった後、ロンドンに会いに行きました。2018年の9月だったと思います。郊外のカフェでお会いして「あなたがイングランドを変えたプランを日本でやってほしい」とお願いしました。テリーさんは2年がかりで取り組んでいたウェストハムのトレーニング施設の改修事業を終えたところだったこともあり、Jリーグのビジョンや今度のアイデアを説明したところ、日本に来る決断をしてくれました。
■秋田には秋田の、沖縄には沖縄のサッカーがあっていい
――テリーさんは日本に来て、何から始めましたか。
【村井】イングランドでやったプログラムをそのまま日本に持ち込むのかと思ったら、それはやらないんですね。テリーさん自身が日本に飛び込んで、全身どっぷり日本に浸かって、日本の文化を理解しようとされました。来て早々に全国の20クラブくらいを回り、その地域の風土や文化を学ぼうとしていました。フットボールというのはそういった地域の風土に根ざして発展するものだという考え方なのです。
例えば1年のうちの3カ月が雪に閉ざされる秋田県では、冬の間、耐えに耐えて夏になると大曲の花火や竿燈まつりで一気に爆発させる。そういうサッカーをすれば、おじいちゃん、おばあちゃんも「これが秋田のサッカーだ!」と感じてくれるはずです。ですから、秋田には秋田の沖縄には沖縄のサッカーがあっていい。それを育成や戦術に落とし込むために、まずは各クラブが自分たちの「フィロソフィ(哲学)」をしっかり持ちなさい、というのがテリーさんの教えでした。
■2026年までに日本サッカーは大きく変わる
【村井】日本にはクラブチーム以外に部活の高校サッカーが盛んです。イングランドにはないものです。テリーさんはこうした違いも研究していました。私はテリーさんと一緒に天ぷら屋に行き、ちゃんこ鍋屋にも行って、日本文化とサッカーについて語り合い、テリーさんが語る育成の理念をひたすら「傾聴」しました。
――イングランドのクラブがEトリプルPの活動を始めてからW杯でベスト4に進むまで7年かかりました。Jリーグの「PROJECT DNA」が始まったのが2019年ですから、結果が出るのは2026年ということでしょうか。
【村井】その頃には日本のサッカーも大きく変わっていると思います。しかしすでに今回のW杯でもある程度の効果は見えたのではないでしょうか。予選リーグのドイツ戦とスペイン戦、日本代表はいずれも先制されながら後半から立て直して勝利を掴むことができました。選手やベンチが瞬間瞬間に判断していかないとああした戦い方はできません。日本サッカーの進化はすでに始まっていると思います。
![色紙「TRUST the Process.Terry Westley=2021.09.17.」](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/5/1200wm/img_a5b826ab087b7ade97ce2fa8749c193c409807.jpg)
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ジャーナリスト
1965年生まれ。愛知県出身。88年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。98年欧州総局、編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年独立。著書に『東芝 原子力敗戦』ほか。
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(ジャーナリスト 大西 康之)
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