自信満々な人ほど落とされる…中途採用で「前職ではこんなに実績があります」と言ってはいけない理由
プレジデントオンライン / 2023年2月7日 15時15分
※本稿は、鳶本真章『ミッションドリブン・マネジメント』(技術評論社)の一部を再編集したものです。
■コストが安いダイレクトリクルーティング
「最近、ダイレクトリクルーティングが流行っているじゃないですか。うちもやりたいんですよね」
こんな相談も増えています。エージェントを介さず、企業が直接候補者にアプローチする方法を「ダイレクトリクルーティング」と言います。ネット上に公開されている求職者の情報を見て、適した人を探し、スカウトするのです。Linkedln(リンクトイン)やBIZREACH(ビズリーチ)などのダイレクトリクルーティングサービスに登録することによって、人材データベースにアクセスすることができ、「この人は」と思ったらスカウトメールを送ることができます。
ダイレクトリクルーティングの一番のメリットといえば、コストが安いことでしょう。エージェントに人材を紹介してもらった場合は採用フィーが高いので、ダイレクトリクルーティングを活用したいという相談が多いのです。
■一部の人気企業以外にはハードルが高い
ダイレクトリクルーティングは、サービスによって違いますが「人材データベース利用料+成功報酬費」で、1人採用するのに平均60万円程度のコストです。
単純にエージェントの採用フィーと比べれば、安いですね。だれもが知るようなブランド企業、人気企業にとっては、ダイレクトリクルーティングは非常にやりやすい仕組みだと思います。
しかし、そうでない企業にとって、ハードルは高いです。理由は3つあります。
■100人に声を掛けて1人採用できれば良いほう
理由① 適した候補者を探す労力がかかる
求人サイトに登録して応募者が来るのを待つのではなく、こちらから人材を探してアプローチできるのは「攻める採用」とも言われます。候補者のターゲットが明確であり、母数も少ない場合は、とてもいい方法です。たとえば、特殊な素材についての研究職を採用したいと考えていて、その研究者がどういうところにいるか(大学の研究室など)わかっているなら、直接アプローチしたほうがいいでしょう。
しかし、そうでない場合は、候補者を探すことにも労力がかかります。ダイレクトリクルーティングサービスの人材データベースで検索をかけてある程度絞り込むことはできますが、精度が低ければ100人にスカウトメールを出しても1人採用できるだけというくらいのものです。「この候補者は会社にマッチするだろうか?」と1人1人見ていけば精度が高まりますが、採用担当者の時間をそれだけ使うということです。
■思った以上に自社のアピールは求職者に響かない
理由② 自社のアピールをする必要がある
「当社はこういう事業をしていて、業務拡大のため店舗営業ができる人を求めています。あなたの経歴を拝見して、当社でぜひご活躍いただきたくご連絡いたしました。当社は研修制度が充実しており、昇給スピードの速さが喜ばれています。また、社員同士が仲がよく風通しのよさが魅力です。ご興味をお持ちくださいましたら、云々」
よく知らない会社の人事担当者からこのようなメールが来ても、ほとんどの場合スルーするでしょう。読んだとしても、これではまったくよさがわかりません。興味を持ってもらうためにはしっかり自社のアピールをする必要があります。
しかし、そもそも自分で自分のことをアピールするのは難しいのです。「当社はこんなにいい会社ですよ」「こんな魅力がありますよ」と言うだけでは信用してもらえません。
その点、エージェントのような第三者が「こういういい会社があるので紹介したい」と言えば、信頼度が格段に高くなります。
■せっかく内定を出しても…
理由③ クロージングの技術が求められる
ダイレクトリクルーティングでは、企業と候補者が直接やりとりをします。お互いにマッチしている感触があり、面接がスムーズに進んだ場合も、最後のクロージングで失敗すると内定辞退ということになりかねません。
クロージングとは、採用の内定を出したあと最終的な条件のすりあわせをしつつ、入社意思を確認することです。オファー面談とも呼びます。直接、条件の交渉には高度なクロージング技術が必要になります。候補者は直接言いにくいことがあるからです。
たとえば「いまの給与は700万円で、転職したら750万円を希望している」といったことはエージェントには話せても、採用担当者に対しては「いまの給与は700万円です」としか言わないかもしれません。率直な希望がわからないため、「では、うちでは670万円でお願いしたい」と希望からズレたオファーをしてしまうことがあるのです。
![ビジネスマンの手と下向き矢印の付いた日本円](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/5/1200wm/img_053324ba4529ca862703a06ce35a7d00329358.jpg)
直接やりとりするということは、クロージングにもかなり気を使う必要があることに注意しましょう。
■学歴、職歴はざっと確認する程度
人材の定義ができたら、次は採用面接などで見極めることが必要になります。エージェントが紹介してくれた人も、面接をして確認し、決定は慎重におこなうべきです。
それでは、採用面接で見るべきポイントは何でしょうか。
通常、履歴書を提出してもらうと思いますが、学歴や職歴の部分はざっと確認する程度。判断を左右する部分ではありません。それより重視したいのは、どのような経験があるにせよ、その人なりにどう考えてきたかという思考の部分です。
中途採用であれば、これまでやった業務内容をひととおり話してもらいます。それをとっかかりにして、「そのとき、何を考えてどうしたか」を聞きたいのです。
「一番大変だった仕事は何ですか?」
「なぜ大変だったのですか?」
「そこから学んだことは何ですか?」
こういった質問によって、仕事への向かい方、考え方を知ることができます。これが経験やスキル以上に重要です。
■過去の実績には誇りを持ちつつ、プライドを捨てる
とくに中途採用の場合は、いかに素晴らしい実績を持っていても、それが逆に成長を阻む場合があります。たとえば、僕がトリドールでの実績をたずさえてほかの会社に移ったとして、
「トリドールではこうだった」
「トリドールではこれでうまくいった」
と前職に囚われていたら、結局うまくいかないでしょう。会社が変われば、環境も違うし、フェーズも違う。ミッションも違うわけですから、新たな気持ちで仕事に向かわなければなりません。僕はこれを「過去の実績には誇りを持ちつつ、プライドを捨てる」と言っています。
「俺にはこんなにすごい実績があるんだ」と鼻高々な人を採用するのは危険です。変なプライドは学びの邪魔になります。学び続けられる人こそ、会社の成長に必要な人材です。ですから、実績よりも考え方に焦点を当てて質問していくことが大事なのです。
新卒の場合はどうでしょうか。僕がいつも聞くのは次の2つです。
「今までで一番楽しかったことは何ですか?」
「一番の失敗は何ですか?」
「そのときどう思ったのですか?」「それでどうしたのですか?」と深堀りすることで、その人の価値観に触れられると思うからです。新卒のメンバーこそ、会社の文化を作るコアメンバーになります。ミッションにフィットする人かどうかが重要です。
ミッションにフィットする人材を見つける質問は、会社によって違うかもしれません。ただ、少なくとも学歴やインターンシップ、ボランティア、サークルでのマネジメント経験など華々しい経歴で「一般論としていい人材」に目を奪われていてはいい結果になりません。どのような経験を持っているにしても、「なぜ、それをしたのか」「そのときどう思ったのか」こそが大事です。
■「意識が高い」とは何か
今は就活の情報も多く「こういう経験(インターン、ボランティア、マネジメントなど)があると就活で有利」と考える人もいるかもしれません。それは、採用する側が「意識が高い人はいろいろな経験をしている」と思い込んでいるフシがあるからでしょう。しかし、意識が高いとは何でしょうか?
就活への意識が高くても、何にもなりません。「人をよく見ない採用担当者が好みそうな経験」を並べているだけだとしたら、「ぜひ我が社に!」とは言わないはずです。
逆に言うと、「大学とバイトしか行っていなかった」という人が「意識が低い」とは言えません。
「大学で好きな研究をしているだけで幸せだと思っていました。でも、研究結果を人に伝えたり、そもそも研究の重要性を伝えたりすることが重要なのだと気づいたんです。それで、コミュニケーションが必要な接客のアルバイトにチャレンジしました」
![鳶本真章『ミッションドリブン・マネジメント』(技術評論社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/5/1200wm/img_9586c36288c658dbbca09f03c68bb799166904.jpg)
……そんな話を聞くことができたら、どうでしょうか。その人にとってチャレンジングな経験をしているのであり、そこから学んだことも多いに違いありません。表面上の経験からはわからない、思考や人となりを知るために質問をするのだと心得てください。
返ってきた答えは、社会人からすると幼いと感じるかもしれません。もちろん、それでいいのです。
これからどんどん成長し、活躍していく人材なのですから。中途採用で面接する人と比べてはいけません。
繰り返しになりますが、最も重要なのは、会社のミッションにフィットするかどうかです。中途採用にしても新卒にしても、経験・実績よりも考え方にフォーカスしたほうが、ミッションにフィットする人材を見つけやすくなります。
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合同会社IDEAL Arts CEO
1983年大阪生まれ。関西学院大学卒業後、大手自動車メーカーに入社。マーケティング領域に従事した後、京都大学大学院でのMBA取得を経て、大手外資系コンサルティングファームへ。多様な経営戦略案件にコンサルタントとして携わった後、大手日系建材メーカーで社内コンサルティング部門を担当。その後、複数のベンチャー企業での経営支援を経て2018年にトリドールホールディングスに入社し、トリドールホールディングスグループ全体の組織・人事戦略をリード。2019年より、執行役員CHRO兼経営戦略本部長に就任。人材の採用・育成を通じたグループの成長にコミット。“ヒトが変える、ヒトを変える”をモットーに、経営と人事をつなぎ、企業変革をより社会に波及させるために合同会社IDEAL Artsを設立し代表社員/CEOに就任(現任)。2022年より株式会社いつも 取締役 経営戦略本部長に就任。
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(合同会社IDEAL Arts CEO 鳶本 真章)
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