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自分の仕事もこなしつつ部下の統率もする…日本企業をダメにする「プレイング・マネージャー」というポスト

プレジデントオンライン / 2023年2月9日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

部下の能力を引き出せないダメ上司にはどんな特徴があるのか。人事コンサルタントの鳶本真章さんは「日本には自分の仕事をこなしながら部下の統率もするプレイング・マネージャーという役職に就いている人が多い。名プレイヤーが名監督に必ずしもなれないように、部下のマネジメントにも研修が必要だ」という――。

※本稿は、鳶本真章『ミッションドリブン・マネジメント』(技術評論社)の一部を再編集したものです。

■新卒が育たないダメ会社の特徴

ミッション実現のためにどういう人材が必要なのかを定義したら、同時に組織も変えなくてはなりません。せっかく採用した良い人材が力を発揮するには、相応の環境が必要だからです。現場にきちんと受け皿があり、相応の教育や処遇がされなければなりません。

「会社のミッションに沿ったいい人材を採用したのに、その後うまくいかない……」

そんなケースがあります。そのうちの1つが、新卒の社員がなかなか育たないこと。よく聞く悩みです。

大きな理由となるのが、仕事の一部を切り取ってやらせる「作業者」にしてしまっていることです。最初は作業も必要でしょう。言われたとおりに業務を遂行するのだって、最初は大変なものです。しかし、いつまでもそれでは育つわけがありません。自ら課題を見つけたり、仕事を作り出したりできるようになるには、仕事の全体像を理解し、工夫やチャレンジができる環境にあることが必要です。

とりあえず作業をやってもらうのはラクです。ハッキリ言って、マネージャーとしての能力は要りません。しかも、新卒の社員は経験がないわけですから、まっさらで何にも染まっていない状態。上司の教育能力が低くても、意見することはあまりないでしょう。

「どう、仕事は慣れてきた? ○○さんが入ってくれたおかげで助かるよ。オレが新入社員だった頃は大変で……」

そう先輩風(?)を吹かせておけば、なんとなく面目も立ちます。

ですから、本来は教育に相応の労力がかかる新卒社員ですが、配下につけたいと思う中間管理職が多くいるのが実態です。逆に、経験豊富でスキルの高い中途採用社員は、どう扱っていいかわからない……と尻込みします。採用面接でも「オーバースペック」ということでお断りすることもよくあります。オーバースペックでも会社が提示した条件で来てくれるなら、本当は活躍してもらいたいところ。優秀な人材を活用する自信がないわけです。

もし、そんな文化があったら変えましょう。そのままでは会社全体として成長できません。

■新卒社員は「最も優秀な人」の配下にすべき

新卒の社員をどこの部署に配属するかという問題があったとき、僕は「会社で最も優秀な人につける」ことを勧めます。こう言うと

「その優秀な人に仕事が集まるからですか?」
「優秀な人にもっと働いてもらうためですか?」

と聞かれますが、新卒社員を育てるためです。

ここでの「優秀」とは、会社のミッションに即した行動が卓越していることを指します。ミッション実現のために、会社が求める行動と考え方ができていることです。ですから、具体的にどんな人かは会社によって違いますが、「ミッションに即した仕事を自ら作り出せる人」であることでしょう。その優秀な社員のもとでは、新卒社員も作業者になることなく、会社が求める行動と考え方を身に着けていくことができるはずです。そして、新卒社員たちが会社のカルチャーを作っていくのです。

■上司に必要なマネジメント能力とは

ミッション、ビジョン、バリューが定義され、必要な人材像が明確になって、いい人材を採用できたとします。次に必要なのは、適切なマネジメントです。いくら採用がうまくいっても、現場でマネジメントできなければうまくいきません。十分に能力を発揮してもらうことができず、ミッション実現に向かうことができません。

たとえば、「柔軟に考えてチャレンジできる人」が重要だと考え、バリューとして定義していたとします。実際、そういう人を採用することができました。しかし、現場では歓迎されないことが現実にあるのです。

「それは前例がないから、ちょっと待って」

上司が、チャレンジを拒むような態度を見せてしまう……それでは、せっかくの人材が活躍できず、結局辞めてしまうことになるでしょう。現場でも「柔軟に考えてチャレンジできる人」が重要だと認識し、そういう教育ができるようになっていなければなりません。

そのためには、あらためてマネージャーの仕事や役割について定義することです。本来のマネージャーは、メンバーそれぞれに能力を発揮してもらい、チーム全体として目標を達成できるよう指揮する存在です。そのために、一定の権限が与えられています。

まず、会社のミッションにひもづいた部署としての目標を立てる。

その目標に向けて、メンバーの目標設定から評価を管理しながら、メンバーの成長を促す。

これを基本的な軸として、どういう仕事をするのかを定義します。

■日本に多い「プレイング・マネージャー」の問題点

日本の企業に多い管理職は、プレイング・マネージャーです。2019年のリクルートワークス研究所による調査では、管理職の約9割(87.3%)がプレイング・マネージャーであり、そのうち約3割が仕事時間の50%以上をプレイング業務に割いていると答えています。

プレイヤーでありながら、チームのマネジメントをする──これが問題を複雑にしています。

スポーツを見れば、名プレイヤーが名監督になれるわけではなく、プレイヤーと監督は別の能力であることがよくわかります。仕事も同じです。プレイヤーとして優秀な人が、自動的にマネージャーになれるわけではありません。本当は、プレイヤーとして優秀ならプレイヤーとして活躍し、マネージャーとして優秀ならマネージャー業務に専念するほうがいいのです。

しかし、日本の企業では、単一のキャリアパスで「管理職になると給与が上がる」のが普通です。ですから、優秀なプレイヤーを課長に昇進させよう、部長に昇進させようとなります。

高度経済成長の頃は、それで問題ありませんでした。普通にやっていれば右肩上がりに成長できたので、プレイング・マネージャーがマネジメントをほぼしなくてもかまわなかったのです。ところが、今はそうではありません。どうすればチームが成長できるのか、しっかり考える必要があります。

怒る上司と頭を抱える部下
写真=iStock.com/JackF
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JackF

■教育なくして「いいマネージャー」にはなれない

僕は、全員がマネージャーになる必要はないと思っています。プレイヤーがスペシャリストとして昇格・昇進していく道もある、複線的なキャリアパスを設計すればいいのです。

○マネージャー=組織や人を通して会社に価値貢献する人
○スペシャリスト、エキスパート=専門性や知識を通して会社に価値貢献する人

たとえば、成績優秀な営業職の人が、マネージャーとなって部下を育て、チーム全体の営業力を上げる方向にいくのではなく、営業職スペシャリストとして活躍できるようにします。マネージャーとスペシャリストに優劣はありません。それぞれの会社に合わせて、柔軟に設計すればいいと思います。

少なくとも、全員がマネージャーになっていくのであれば、その際にマネージャーとしての教育が必要です。マネジメントの考え方、マネージャーとして何を求めているのかといったことを、会社としてしっかり伝えなければなりません。

■チームプレイができないダメな上司の思考

そして、プレイング・マネージャーであっても、本来のマネジメント業務に7~8割は使えるようにすべきでしょう。そうでないと、「自分はこう働いてきたから、おまえたちもやれ」と言うばかりになります。

かくいう僕も、マネージャーになりたての頃、まったくマネジメントができませんでした。「なんでこんなこともできないのか」と部下にイライラする日々。つい言葉がきつくなりました。僕は自分がもともと賢いタイプではなく人の倍努力するつもりでやってきたので、「部下ができないのは努力が足りないのだ」と思っていました。部下に仕事を「教えてあげる」必要があり、「部下に時間を奪われている」と思っていました。典型的なダメ・プレイング・マネージャーです。

あるとき、まったくうまくいかないことに気づきました。表面上は僕を慕っているように見えた部下が、陰で「あの人の下で働きたくない」と言っていました。気づけば、異動していく部下が多いのです。何より、成果が出ない。僕1人なら10できるところ、チームでやったら10以上できなくてはおかしいのに、10を下回っている……。

愕然とした僕は、冷静になってチームを見渡してみました。メンバーは萎縮して、十分に力が発揮できていませんでした。それにイライラして、僕が自分で頑張ろうとする。でも時間がとれない。悪循環に陥っていたのです。

■あえて部下の前ではヒマそうに見せる

僕は考え方を変えました。

「僕1人なら10しかできないところを30や40にするために、チームみんなでやるんだ。部下たちは、そのために頑張ってくれる仲間なんだ」

鳶本真章『ミッションドリブン・マネジメント』(技術評論社)
鳶本真章『ミッションドリブン・マネジメント』(技術評論社)

「仕事を教えてあげる」ではなく、目標に向けて手伝ってもらうためにどうするかを考えるようになりました。プレイング・マネージャーであることに変わりはなかったのですが、メンバーと一緒にいる間はマネージャーに徹することにしました。メンバーの仕事を見て、声をかけ、相談にのります。

できるだけフラフラして、ヒマそうに見せました。忙しそうな上司には声をかけにくいと思ったからです。自分の仕事は、メンバーがいないときにやりました。朝早く出社して早く帰り、家でおこなうなどしていました。

こうやって、考え方を変え、やり方を変えたことで、チームの生産性は大きく伸びました。あんなに「頑張っても成果が出ない」とストレスをためていたのに、むしろラクに成果が出るようになったのです。メンバーが育てば、マネージャーはラクになるのだと実感しました。

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鳶本 真章(とびもと・まさあき)
合同会社IDEAL Arts CEO
1983年大阪生まれ。関西学院大学卒業後、大手自動車メーカーに入社。マーケティング領域に従事した後、京都大学大学院でのMBA取得を経て、大手外資系コンサルティングファームへ。多様な経営戦略案件にコンサルタントとして携わった後、大手日系建材メーカーで社内コンサルティング部門を担当。その後、複数のベンチャー企業での経営支援を経て2018年にトリドールホールディングスに入社し、トリドールホールディングスグループ全体の組織・人事戦略をリード。2019年より、執行役員CHRO兼経営戦略本部長に就任。人材の採用・育成を通じたグループの成長にコミット。“ヒトが変える、ヒトを変える”をモットーに、経営と人事をつなぎ、企業変革をより社会に波及させるために合同会社IDEAL Artsを設立し代表社員/CEOに就任(現任)。2022年より株式会社いつも 取締役 経営戦略本部長に就任。

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(合同会社IDEAL Arts CEO 鳶本 真章)

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