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「叱られ」が珍しいから見たくなる…TikTokで社長が従業員を叱る動画が510万回再生になる本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年2月14日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat

TikTokで人気を集める動画にはどんな共通点があるのか。芝浦工業大学教授の原田曜平さんは「利用者の多くは10~20代なので、大人には人気の理由がわからない動画も多い。たとえば510万回も再生されている『社長が従業員を叱る動画』は、若者は叱られる経験が少ないため、物珍しさから見られている」という――。(第1回/全3回)

■10代女性の半分はTikTokを使っている

今、Z世代と言われる若者たちの人気は、静止画中心のインスタグラムから短い動画中心のTikTokに移りつつあります。2022年10月に行った調査では、10~20代のうちTikTokを利用している人は約26%にまで伸びてきており、なかでも10代の女性では50%近くが利用しているという結果が出ました。

ところが、30~50代ではTikTok利用者はまだ8%程度しかいません。大人はほとんど見ていないと言っていいでしょう。YouTubeなどと違って、TikTokは大半の大人にとって未知の世界であり、どんな動画がZ世代の心をつかんでいるのか、それはなぜなのか、わからない人が大多数だと思います。

【図表1】TikTokの利用率

では、いまTikTokではどんな動画が人気で、それらにはどんな共通点があるのでしょうか。僕が所長を務める「次世代生活研究所」では、2021年11月~2022年7月に一般人から投稿され、10万回以上再生された、いわゆる“バズった”動画を収集して分類・分析しました。

■バズる動画を分析して分かった「3つのインサイト」

そこから“バズる動画”は以下の3つのインサイトに分類できることがわかりました。

①「知りたい・学びたい」……知らない世界や日常に役立つことを知りたい・学びたいというインサイトに応える動画
②「共感したい」……自分と同じような愚痴や悩み、憤りなどを抱えた人に共感したいというインサイトに応える動画
③「刺激を受けたい」……新しいインフルエンサーの手法、推し活、間接自慢を知り、自分も取り入れたいというインサイトに応える動画

本稿ではこのうち「知りたい・学びたい」のグループを掘り下げます。そこには大きく3つのタイプがあります。

【図表2】一般投稿のインサイトまとめ

■出稼ぎ風俗嬢の出勤風景が160万回再生

1つ目のタイプは、普段は覗けない世界を見せてくれる、「覗き見欲求」を満たす動画です。分類としては、Z世代には行きにくいクラブの実態をそこで働くスタッフなどが再現して見せてくれる「クラブ覗き見系」、ホストやキャバクラ嬢の姿を紹介する「夜職(夜の仕事)覗き見系」などがあります。

また、地元から離れた店へ出稼ぎに行く風俗嬢の姿や、稼いだ金額分の札束を撮影した「出稼ぎ嬢覗き見系」なども挙げられます。例えば酒鬱猫さん(@rajimorara91)は、地方から出稼ぎに来た風俗嬢の出勤風景や日常生活を投稿しています。

160万回以上再生された51秒の動画「寮相部屋でしんだ」は、玄関で靴を履く場面から始まります。「お仕事に行きます」「身長詐欺」というテロップが素早く流れ、車の助手席に座って移動するシーンが続きます。「パパ駅まで送ってくれた ありがとう」というテロップの後、スーツケースを引いて移動する映像に。

続いてコンビニでおにぎりやペットボトルの水などを手に取ってレジで精算。電車を待ちながらおにぎりを食べ、電車に乗り込んで目的地に着く。それだけの映像です。

■普段は知ることができない夜職のリアルを知りたい

動画に本人の顔は映っていません。どれも足元や道中の風景、コンビニで買った商品が本人目線で映され、それに「朝ごはん!」「乗り継ぎクソだるかった」「到着‼」という簡単なテロップがついているだけです。それに「いいね」が2万近くついています。なぜZ世代からこれほど人気を集めたのでしょうか。

Z世代にとって、AV女優やホステス、キャバクラ嬢はすでに身近な存在になっています。SNS上で「夜職系インフルエンサー」として活躍する女性も増えたことから、一般のZ世代の間でもそうした職業への偏見はなくなってきています。むしろ「キレイで楽しそうに生活していてうらやましい」と憧れる人も少なくありません。

しかし、風俗嬢はまだ身近な存在ではないようです。だからこそ、「普段は知ることのできない職業のリアルを知りたい」「実際いくら稼げるのか知りたい」と興味が湧くのでしょう。この動画がバズったのは、自分が風俗の世界に入りたいかどうかは別として、Z世代に当事者の投稿を通してその世界のリアルを知りたがる若者が多かったということだと思います。

■他人が叱られる様子がエンタメになっている

こうした覗き見欲求を満たすものとしては、「叱られエンタメ系」の動画もZ世代に受けています。例えば、春木開さん(@harukikai_positive)が投稿した、UberEatsの配達員に偉そうな態度をとった社員を社長が叱る動画「初めて社長を怒らせてしまいました。」は460万回再生です。

また、ねぎしこ社長(@negisi.33)が投稿した、遅刻しがちなキャバクラ嬢を時間通り来させるようにと社長がスタッフを叱りつける動画「お客様を想うあまりです」も510万回再生です。

今は少し強く叱責(しっせき)すればパワハラと言われ、怒鳴るなどもってのほかとされる時代。そのため、Z世代は叱られた経験が少なく、他人が叱られているシーンを見ることもあまりありません。

だからこそ、他人が叱責される様子をエンタメとして楽しみつつ、かつ叱られたら場がどんな雰囲気になるのか、自分が叱られないためにはどうしたらいいのかも知りたいというわけです。

また、似たようなニーズからバズったものとして「見下し安心系」があります。これは、いかにも身近にいそうな陰キャ(陰気なキャラクター)や仕切りたがり、イケメンではないのにイケメンポーズを決めるなどの“イタい人”を、モノマネして見せる動画です。

見る側は「こういう子いるよね」「イタいよね」とエンタメとして面白がりながら、自分がそう見られないようにと参考にしたり、自分がそうしたキャラクターではないことに安心感を覚えたりする。バズった背景には、そうした構造がうかがえます。

■LGBTQの人の本音を知りたい

さらには、LGBTQをオープンにしている人のリアルな声がわかる「LGBTQ理解系」の動画も人気を集めました。例えば、「元女子に○○を聞いてみた」という動画を投稿する、奏太【かなたいむ。】(@kanata_1023)さんです。奏太さんはトランスジェンダーのクリエイターで、「男子になった今、胸はどうなってる?」との質問に答える動画は約170万回再生になっています。

Z世代はジェンダー平等に関してしっかり教育を受けていますし、LGBTQをオープンにしている知り合いがいる子も少なくありません。そのため、当事者を偏見の目で見ることはほとんどありませんが、とはいえ本人にあれこれ聞くのは失礼だろうというためらいもあります。

自分では聞けないけれど、本当はとても興味があるし当事者の感覚も知りたい。LGBTQ理解系は、そんな思いに応えてくれるものだったからこそバズったのだと思われます。

■家族や友人には聞きにくい悩みに応えてくれる

次に、「知りたい・学びたい」ニーズを背景に人気を集めた動画の、2つ目のタイプをご紹介します。僕たちはこれを「学外先生」と名づけてカテゴライズしました。

このタイプに含まれる動画は、学校や身の回りではなかなか質問できない“本当に知りたいこと”を教えてくれる、いわば学校外の先生のような役割を果たしています。

例としては、性器などのデリケートゾーンに関する質問をして回答を募集する「デリケート知恵袋系」、恋愛が進んでいく過程をLINEのトーク画面で見せる「恋愛トーク画面参考系」、異性の目から見て好ましいコーディネートなどを紹介する「異性好みコーデ紹介系」、大学4年生が後輩に向けて発信する「上級生のすゝめ系」などがあります。

いずれも、授業では教わることのできない情報や、友達や家族には聞きにくい情報、他人の恋愛過程などディテールまでは知ることのできない情報を提供するものです。恋をする先輩とのLINEのトーク画面を投稿しているRemiさん(@aruto200011)の動画は、再生回数が130万回を超えるものもありました。Z世代が、「知りたい」の答えをいかにTikTokに求めているかがうかがえます。

■「庶民発想」に共感が集まる

バズった動画の3つ目のタイプは「庶民発想」という名でカテゴライズしました。TikTokの利用者はまだお金のない若者が多く、金持ち自慢や高級品自慢は、基本的にあまり共感されません。

逆に共感を集めているのが「庶民テク系」です。例えば、ニャンチーズさん(@nyanchi_z)の、回転寿司店で海鮮丼を作るアイデアを披露した動画は140万回再生されています。

1日100円で生活する様子を投稿する100円娯楽さん(税抜)(@100yengoraku)は、献血会場に行ってお菓子を食べる様子を投稿した動画が555万回再生を超え、大人気になりました。

このタイプでは、「提案共感系」の動画も注目を集めています。この系統には、庶民目線や消費者目線のアイデアを企業に提案する動画を分類しました。こうした動画には、共感や応援の気持ちを込めて「いいね」をつける若者が多くいます。

例えば、ディズニーランドに対して新しいポップコーンの販売を提案するマスターさん(@superarter)の動画は300万回再生、15万いいねを集めました。自分で開発した「おにぎりバターサンドクッキー」をセブン-イレブンに提案するぎーすけ・お菓子作りさん(@gi_sk_cake)さんの動画も、120万回再生、9万いいね集めています。

ここまで、Z世代の「知りたい・学びたい」という欲求に応えることでバズった動画を紹介してきました。僕を含めた中年世代とはまったく違う、Z世代特有の欲求や考え方が見えてきたのではないでしょうか。

■動画は「映え」なくてもいい

もうひとつ特徴を挙げるなら、TikTokでバズる動画には映像のクオリティーが低いものも少なくありません。「映え」を意識した写真が人気を集めるインスタグラムとは違い、いかにも素人が撮影したという感じのものがバズっているのです。

TikTokの投稿映像には、クオリティーの高さは求められていません。むしろ素人感満載のほうが、Z世代にとっては親しみやすいようです。お金も社会での経験値もない若者が見慣れた、ごく身近な風景がそのまま映像になっている──。そのほうがリアルに感じられて、違和感なく受け入れられるのでしょう。

自分が知らない世界のことを知りたい、学校や大学では教えてもらえないことを学びたい、友達や家族には聞けないことを聞きたい。そしてそれらの情報を、自分たちにとってリアルに見える短い動画から簡潔に得たい。TikTokでバズった動画からは、Z世代に特徴的なこうした意識構造がうかがえると思います。(再生数・いいね数は1月末時点)

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。

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(マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授 原田 曜平 構成=辻村洋子)

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