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なぜ路上喫煙を注意する動画が370万回再生なのか…TikTokで増殖する「世直し口実系過激動画」の世界

プレジデントオンライン / 2023年2月15日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TkKurikawa

TikTokで人気の動画にはどんな共通点があるのか。芝浦工業大学教授の原田曜平さんは「たとえば『世直し口実系過激動画』というジャンルがある。このうち『渋谷の路上喫煙者を公開説教してみた』という動画は370万回再生になっている。罪悪感なく過激動画を見たいZ世代のニーズにマッチしているようだ」という――。

■Z世代はTikTokに何を求めているのか

TikTokは、Z世代の約半数が使っている動画投稿サイトです。ここでバズった動画を分析すると、Z世代のインサイト(人を動かす隠れた心理)が見えてきます。

僕が所長を務める「次世代生活研究所」では、2021年11月~2022年7月に一般人から投稿され、10万回以上再生された動画を収集して分類・分析しました。その結果、“バズる動画”は以下の3つのインサイトに分類できることがわかりました。

①「知りたい・学びたい」……知らない世界や日常に役立つことを知りたい・学びたいというインサイトに応える動画
②「共感したい」……自分と同じような愚痴や悩み、憤りなどを抱えた人に共感したいというインサイトに応える動画
③「刺激を受けたい」……新しいインフルエンサーの手法、推し活、間接自慢を知り、自分も取り入れたいというインサイトに応える動画

本稿ではこのうち「共感したい」のグループを掘り下げます。そこには大きく3つのタイプがあります。

【図表1】一般投稿のインサイトまとめ

■「縮毛矯正をかけたら髪がチリチリになった」に500万回再生

1つ目は「愚痴共感」です。TikTokでは、Z世代が愚痴を吐露する動画が人気を集めています。大人から見れば「わざわざ投稿するほどの内容か」、「そんなことで愚痴るなんて甘い」と感じてしまうものが大半ですが、Z世代の若者は深く共感するようで、僕自身も分析しながら世代感ギャップの大きさを痛感しました。

例えば、はるさん(@kawaiiko_haru)の「クラスの女子のせいで自分が先生に怒られた」という投稿は25万回再生以上。変人さん(@amomo120)さんの動画「美容室で縮毛矯正をかけたら髪がチリチリになった」は500万回も再生され、いずれも多くの「いいね」がついています。

これらは、日々の怒りや不満を投稿することでストレスを発散したい、あるいは他人の投稿を見て共感したいという心理がうかがえることから、「愚痴承認系」と言えるでしょう。

■新社会人の愚痴動画に共感が集まる

Z世代の部下を持つ上司が知っておきたいものとしては、「新人辞めたい欲求系」の動画があります。

例えば、22卒社会人さん(@tomyam___)は、2022年入社の新社会人が会社で感じたつらかったことを1日1回投稿しています。動画「サボった翌日に出勤したら上司に『遅れを取り戻せ』と言われた」は、再生数が13万回近くにのぼりました。

その上司は、「これから頑張ればいいんだよ」と励ますつもりで言ったのかもしれません。しかし本人は、休んだことを責められた、プレッシャーをかけられたと受け取り、つらく感じたようです。

同じく、会社への不満を1日1回投稿している限界マンさん(@kawaiiseikei)の動画「入社2日目にサボった」は140万回再生され、3万以上のいいねがつきました。僕たちの世代からすれば「意欲なさすぎだろ」と言いたいところですが、Z世代にはこうした投稿に共感する若者がたくさんいるのです。

TikTokには、「会社辞めたい」「上司にこんなことを言われてつらい」といった動画がたくさんあります。社会に出れば誰もが体験するごく普通のことでも、彼らには大きなダメージになることも。だからこそ、「新人辞めたい欲求系」の動画が共感を集めているのでしょう。

■Z世代に「普通の感覚」は通用しない

僕がZ世代の若者にインタビュー調査をする中で感じたのは、彼らがすぐ「ブラック」「パワハラ」と口にすることです。特に休んだ後の周囲の対応には敏感で、体調不良という理由(実際はサボりでも)で休んだことをマイナスに捉えられたと感じたら、その会社はブラック企業ということになります。

あるときは、「上司のパワハラがすごい」と言うのでどんな状況で何を言われたのか具体的に聞いてみたところ、上司が言っていることはごく普通で、ただ本人の主張ややりたいことが通らなかっただけでした。普通に考えれば、まだ経験値のない新人の提案がそのまま通ることはあまりないでしょう。

しかし、Z世代には通るのが当たり前だと思っている子も少なくありません。人数が少ないこともあり、若い人材をほしがっている企業では、面接で「あなたの思い通りに活躍できますよ」と言ってしまっている場合もあります。だから、意見が通らないと「話が違う」と感じてしまうわけです。

大学での授業でも、こうしたZ世代の感覚に悩まされることがあります。例えば、ある学生が課題を提出してきたときのことです。内容が的外れだったので、僕は課題の意図はこうで、提出物はどこがどうずれているか、長々と説明を書いてメールを送りました。

■Z世代を大人の考えに染め上げるのは難しい

するとその学生から、「ダメな部分を説明するのではなく、何を書けばいいのかを教えるべき」という怒りの返事がきたのです。思わず膝から崩れ落ちました。僕としては、説明をもとに自分で答えを考えてほしかったのですが、そうではなく答えを教えてくれというわけです。教育って難しいなとつくづく感じた出来事でした。

Z世代の上司に当たる方々も、彼らにどう接したらいいのかと悩むことが多いと思います。ただ、若者というのは昔から未熟で視野が狭いものでした。皆さんにも、新人の頃「自分は悪くない、わからず屋の上司が悪い」と愚痴っていた時期があるのではないでしょうか。それを先輩や親に諭されながら、経験談を聞きながら、だんだんと社会になじんでいったのではと思います。

ところが、今はSNS上でいくらでも愚痴ることができますし、バズれば同世代から無限と言っていいほどの共感を得ることもできます。こうした経験を持つ若者を、「社会は甘くないものだ」という大人の考え方に染め上げるのはもはや無理でしょう。

Z世代と僕たちでは、考え方も感じ方も大きく違うのです。この世代を部下に持つ方々は、こうした違いを前提とした上で、「正す」のではなく「共感する」スタンスで接することが大事だと思います。

TikTokとFacebookアプリアイコン
写真=iStock.com/5./15 WEST
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/5./15 WEST

■コンプライアンスのギリギリを攻めた過激動画は人気

次に、2つ目として「溜飲下げ欲求」タイプの動画を紹介します。少し過激な行為や、迷惑な相手を打ち負かす様子を見てスッキリしたい。共通点として、そうした欲求がうかがえる動画群です。

近年は社会全体がコンプライアンスに厳しくなりつつありますが、それに伴ってTikTokでは、コンプライアンスの範囲ギリギリを攻めた過激な動画が人気を集めるようになってきました。そのひとつが「世直し口実系過激動画」です。

これは世直しを口実とした、若干行きすぎた行為を投稿したものです。例えば、路上喫煙をする人を過剰なパフォーマンスで注意するYouTuberグループの雨来ズ。(@amekozu.jp)です。動画「渋谷の路上喫煙者を公開説教してみた」は370万回再生されました。

また、【オバクルメン】だいさん(@oveclemen_doutoku)の動画「お人好しな道徳5」は、有料駐輪場で入庫のロックをかけない、つまり無料で停めている自転車に次々とロックをかけていく様子を撮影したものです。こちらは63万回再生となっています。

最近はTikTokでも、過激なコンテンツは批判を浴びたり炎上したりすることが多いのですが、皆、過激な動画はやはり見たいようです。これらの動画は、「世直し」を口実にしているため、炎上しそうな行為を罪悪感なく楽しめるということで人気を博していると思われます。

■バズらせたいけど、炎上はしたくない

Z世代にとってSNSでの炎上はとても身近な問題であり、実際に経験して苦しんだ人も少なくありません。そのため投稿者も、過激とはいえコンプライアンスの範囲ギリギリにとどめること、炎上を避けることに心を砕いています。

しかし投稿者には、炎上したくないと同時にバズらせたいという思いもあります。「世直し口実過激動画系」の投稿がバズるかどうかは、この2つがうまく両立できているかどうかがカギになりそうです。

実際のところ、炎上とバズりは非常に見分けにくいものです。それでも投稿者は、「炎上したからバズった」のではなく「いい動画だからバズった」と思われたいもの。そのために、世直しという大義名分が必要なのではないでしょうか。

このタイプではもうひとつ、「アンチコメント打ち負かし系」も人気です。例えば、YouTuberグループ・ラストチアーズ(@last.cheers.rui)の動画「滑り台を全力で磨きました」が挙げられます。

これは17秒の動画で、1100万回も再生されました。別の動画撮影で公園の滑り台を汚してしまったグループに、視聴者から「いや、ちゃんと奇麗にして欲しいです…子供も使うし撮影の後ちゃんと奇麗にしたよね?」というコメントが寄せられました。

これに応えるかたちで掃除している様子をアップ。アンチコメントに、スマートに対応するさまが人気を集めました。

Z世代の中にはアンチによって動画コンテンツの規制が厳しくなり、つまらなくなったと感じている人もいます。大概のインフルエンサーはアンチコメントを無視したり、反論したりしますが、こうした手段をとるとチャイルディッシュに見えてしまう傾向があります。

■無加工に価値を見いだす

3つ目のタイプは「ありのまま欲求」です。SNS上に加工した写真や映像があふれかえったことから、今、Z世代の間では、逆に加工していないありのままの自分を見せたい、投稿者の素の姿を見たいという欲求が高まっているようです。

具体的には、これまで顔やダンス中心の投稿をしていた投稿者が地声で歌う「声出しチャレンジ系」、無加工であることの証明をつけて投稿される「無加工エビデンス系」などがあります。

例えば、TikTokには「無加工フィルター」というフィルターがあります。この機能を使って撮影すると動画の中にその旨が記載されるので、無加工であることの証明になるというわけです。

また、iPhoneの純正カメラアプリには顔を加工するエフェクトがありません。そのため、このアプリで撮影していることがわかるように、撮影画面の録画を投稿することで無加工を証明している動画もあります。これを使った人気投稿のひとつはカップルの日常を投稿しているソラさん(@soralani__)の動画「何年経ってもキュンキュンです」です。これまで400万回再生され、26万以上のいいねがつきました。

ここ数カ月、Z世代の間では、加工なしのリアルな写真を投稿するアプリ「BeReal.」もよく使われるようになっています。今後、加工全盛期はひと段落し、そのアンチテーゼとして生まれた「ありのまま」が共感を集めていきそうです。この変化からどんな新しいトレンドが生まれるのか、注視していきたいと思います。(再生数・いいね数は1月末時点)

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。

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(マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授 原田 曜平 構成=辻村洋子)

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