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なぜTikTokに「若いころの父親の写真」を投稿するのか…Z世代が得意とする「間接自慢」というお作法

プレジデントオンライン / 2023年2月16日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Olga Ihnatsyeva

TikTokで人気の動画にはどんな共通点があるのか。芝浦工業大学の原田曜平教授は「たとえば『容姿ポテンシャル自慢』というジャンルがある。自分の容姿をストレートに自慢すると炎上リスクがあるため、父親の若いころの写真を投稿することで、間接的に自慢している」という――。(第3回/全3回)

■Z世代の若者たちはTikTokに刺激を求めている

TikTokはZ世代と呼ばれる若者の間で人気のSNSです。僕たちの調査結果で、10~20代の約26%、10代女性は50%近くが利用していることが分かりました。

そんなTikTokではどんな動画が人気で、どんな共通点があるのでしょうか。2021年11月~2022年7月に一般人から投稿され、10万回以上再生された、いわゆる“バズった”動画を分析すると、3つのインサイト(人を動かす隠れた心理)が浮かび上がってきました。

①「知りたい・学びたい」……知らない世界や日常に役立つことを知りたい・学びたいというインサイトに応える動画
②「共感したい」……自分と同じような愚痴や悩み、憤りなどを抱えた人に共感したいというインサイトに応える動画
③「刺激を受けたい」……新しいインフルエンサーの手法、推し活、間接自慢を知り、自分も取り入れたいというインサイトに応える動画

本稿ではこのうち「刺激を受けたい」のグループを掘り下げます。そこには大きく3つのタイプがあります。

【図表1】一般投稿のインサイトまとめ

■人気者の気持ちを味わってみたい

1つ目は「プチインフルエンサーワナビー」。一般の投稿者がインフルエンサーのように振舞う動画がトレンドになっています。

Z世代に人気のインフルエンサーは、SNSで「このイベントに来ています、見かけたら声をかけてね」といった投稿をすることがよくあります。これによって現地でフォロワーからたくさん声をかけられるわけですが、これは本人が人気者だからこそ。一般の子が同じことをしても、インスタやTwitterではそもそも投稿自体見てもらえないことも少なくありません。

ところがTikTokでは、インフルエンサーではない若者の投稿が、なぜか突然バズることがあります。「声をかけてください」と伝える動画がバズれば、インフルエンサーのようにフォロワーに声をかけられるという非日常を楽しめるのです。これは、TikTokならではの特性を生かした手法と言えるでしょう。

例えば、みたんさん(@.miyeon_)の動画「12月24日のディズニーシー」です。「シャボン玉持ってる人見かけたら声かけてください!」というコメントをつけて、シャボン玉を飛ばしながら園内を歩く姿が投稿されています。再生回数は65万回を超えました。ハロウィーンのコスプレ姿で「ユニバ(USJ)で声かけてください」と呼びかける善ちゃんさん(@zenchan__)の動画は、34万回近くも再生されました。

いずれもすでに削除されていて見られませんが、「プチインフルエンサーワナビー」動画は1日経ったら削除されることがほとんど。1日だけインフルエンサー気分に浸るという意味で、「1DAYインフルエンサーワナビー系」と言えると思います。

■「平成の男子高校生」を再現する動画が680万回再生

また、Z世代の男子が、平成中期の学園ドラマに出てくる男子高校生のヘアアレンジなどを再現する「なりきり平成中期男子系」も人気です。今の高校生のファッションは当時に比べておとなしい。その一方で、幼いころにテレビで見たシーンに憧れのような感情を抱いているのかもしれません。

例えば、ななし。と申しますさん(@_nanasi_)は「2007年の男子」というシリーズを投稿しています。680万回再生された12秒の動画「2007年の高校生がやっていそうなヘアアレンジ3選」では、ヘアピンで再現できる髪型を紹介しています。

起きたばかりのようなだらしない部屋着スタイルから、ハイブランドのモデルのような姿に変身するビフォー・アフターものも人気です。「ギャップブランドチャレンジ系」とも言えるジャンルです。

特にバズったのが、コスプレ動画などを投稿するマツヤマイカ(まいか)さん(@maichannn)の動画「誰でもGUCCIのスーパーモデルになる方法」です。髪がボサボサで部屋着姿の投稿者が、家にあるジャケット、サングラス、スカーフ、ゴム手袋などを使ってGUCCIモデルのように大変身する内容です。48秒のこの動画は720万回以上再生されています。

このジャンルの投稿は非常に多く、バズっている動画もたくさんあります。ごく普通の子たちも、ちょっとした工夫でインフルエンサー気分を味わえる。それがTikTokの大きな特性であり、Z世代の心をつかんでいる理由ではないかと思います。

■炎上覚悟で親密ぶりをアピールする

TikTokでは「推し活」に関する動画もよく見られています。推し活は、好きな対象を応援したりそのために積極的に消費活動をしたりすることですが、全生活を好きな対象に捧げる「ヲタ活(ヲタク活動)」よりはかなりライトです。

Z世代では、大半の若者が「他の人よりちょっとだけ詳しい」と言える領域を持っており、何らかの推し活をしています。TikTok上では、この推し活に今までは見られなかった新しいタイプが生まれていることから、「シン推し活」と名づけてカテゴライズしました。

例としては、推しインフルエンサーや推し地下アイドルとの、恋人同士のような密な関係を見せつける「推し密マウント系」動画があります。

ファンの女の子が撮影会に行き、推しインフルエンサーとベッドの中でハグする様子などを投稿しているのです。他のファンが嫉妬して炎上するケースも多々ありますが、動画の傾向としてはこれまであまり見られなかったものです。

■トレーディングカードの梱包がバズる

また、アイドルのトレーディングカードなどの“推しグッズ”を丁寧に梱包する様子を撮影した「梱包センス系」動画も人気です。トレーディングカードはメルカリなどで売買されることも多く、送る際には梱包が必要になります。

その梱包の仕方で、推しへの愛の深さや自分のセンスをアピールするというわけです。僕が見てもあまり面白いとは思えないのですが、Z世代には刺激になる、まねしたいと思う若者が多いようで、中には330万回以上再生された動画がありました。

同じタイプでは、アイドルグループの歌唱シーンから、専用のアプリを使って推しの声だけを抽出し投稿する「推し歌唱力アピール」もあります。アイドルは歌唱力に関して叩かれることも多々あるため、ファンがこうした投稿によって批判を覆そうとするのです。これもまた、推し活の新たな形と言えるでしょう。

■なぜZ世代は「若いころの親の写真」を投稿するのか

3つ目は「間接自慢」というジャンルです。この言葉は僕が10年ほど前につくった造語で、直接的に自慢するのではなく間接的に自慢したいという若者独特の欲求を表したものです。

SNSではストレートに自慢すると炎上しやすいため、Z世代の若者たちは自慢する際に間接的・婉曲的な表現を使うようになっています。まさにSNS時代ならではの表現手法ですが、TikTok上ではこの手法をさらに進化させた「シン間接自慢」と言えるものが生まれており、高い人気を集めています。

そのひとつが「容姿ポテンシャル自慢系」です。今の自分と同年代のころの親の写真を投稿しているものですが、これは暗に「自分もその遺伝子を受け継いでいる=イケメンである」と匂わせていると考えられます。投稿写真はカッコいい父親の姿であることが多く、投稿者もなぜかほとんどが男子です。

ベッドに横たわり、夜にスマートフォンを使用する人
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

■ストレートに自慢すると、角が立つ

例えば、yushinさん(@yushin106)の動画「父親、本気出してみた」です。300万回再生された11秒の動画は、投稿者と父親と思われる男性が焼肉をしているシーンから始まります。父親の若いころの写真に「パピー(父親)の若い時レベチ(レベルが違う)だった」というコメントが添えられ、5枚の写真が次々と映し出されます。

同じような内容で、100万回再生を超えた動画も多くあります。投稿に共感したり、手法をまねしたいと思ったりしたZ世代が多かったということでしょう。

僕たちの世代には、「親を他人に見せるなんて恥ずかしい」という感覚の人も多いと思います。しかし、Z世代ではこうした抵抗感は薄く、いわゆる“友達親子”も少なくありません。普通に「今日はお母さんとデートしてくる」という男子学生もいますし、反抗期がなかったという若者も増えています。これもまたZ世代の大きな特徴と言えそうです。

■「古参メンバー集まれ!」の本当の意味は…

シン間接自慢では、「古参優越感系」の動画もトレンドになりました。TikTokで初期に流行していた音源やダンスを投稿に使い、「自分は周りより早くTikTokを使っていた」と間接的に自慢するものです。

具体的には、主にダンス動画を投稿するナオグリッターさん(@nao_glittergirl)の投稿が挙げられます。初期に流行った音源に合わせて踊る1分間の動画「古参集まれ 懐かしいTikTokソングメドレー」は、350万回以上再生されています。

また、中国のEC型SNSアプリ「小紅書(レッド)」のトレンドに詳しいことをアピールする「ソロ小紅書映え系」も、シン間接自慢のひとつ。小紅書で流行っている自撮り手法を自分の投稿に取り入れることで、人とは違う分野の流行に敏感であることを間接的に自慢しているわけです。

中国で流行しているハートフレームという撮影方法を紹介する、ともえとみっちゃんさん(@_mitutomo_)の動画「これめっちゃ盛れる」は、150万回以上再生されています。

同じく、中国で流行しているピンク色の照明で自撮りをする方法を紹介する{中国トレンド【CN】}美容まとめちゃんさん(@makemakemakeup)の動画「エモい雰囲気になる写真の撮り方」は53万回再生に上っています。

こうした動画が人気を集めるのは、今、Z世代の間で中国のメイクやコスメに興味が高まっているあかしでもあるでしょう。

■NHK紅白歌合戦も、TikTokを参考にしている

冒頭で示したように、TikTokはZ世代にとってはごく身近なツールになっています。大人世代にとってはまったく違う世界に見えるかもしれませんが、今やZ世代のトレンド発信拠点であり、ここでバズった事象が即座にリアルの世界に反映されることも少なくありません。

例えば、2022年の「紅白歌合戦」では東京ディズニーリゾートのダンスプログラム「ジャンボリミッキー!」が披露されました。大人世代には唐突な登場に見えたかもしれませんが、Z世代にとってはTikTokで幾度となく目にしているもの。自分で「踊ってみた動画」を投稿したことがある、あるいは友達と踊ったことがあるという若者も多かったはずです。

昔は、クラスメイトと昨日見たテレビの話題で盛り上がることが多かったように思いますが、今はTikTokが取って代わりつつあります。バズった動画は多くの人の画面に自動的に表示されるため、TikTokを開けば今流行っていることが否が応でも目に入ってきます。

■TikTokを見るとつらくなる男子大学生も…

このように、受動的にトレンド情報を受け取る装置という意味では、TikTokはテレビと似ているかもしれません。テレビも、つければ自動的に情報が入ってきます。インスタグラムやTwitterといったこれまでのSNSは、みずから検索して情報を集める、いわば能動的な使い方が基本ですが、TikTokはテレビと同じく受動的な使い方になっています。

TikTokは一見イマドキのツールに見えますが、情報の受け取り方という意味では、実はテレビの時代に回帰しているのかもしれません。

ただし、Z世代の中にはTikTokに興味のない人ももちろんいます。僕が大学で教えている学生には男子が多いのですが、「見るのがつらい」といった声もよく聞きます。きれいな写真ばかりが並ぶインスタも、陽キャ(陽気なキャラクター)の生き生きとした姿が並ぶTikTokも、自分には合わない・向いていないと感じる子は一定数いるのです。

■刺激的であり、生きづらさの原因でもある

なのに、周りの話についていくために無理をしてでも見ようとする。それが生きづらさにつながっているようです。なかでもTikTokはトレンドの移り変わりが早いため、たまに開くと、自分がいかに時代についていけていないかを自覚させられてしまいます。

授業では、TikTokでバズった動画を集めてインサイトを分析し、自分でバズる動画をつくりなさいという課題を出すことがあります。これをこなそうとすると嫌でもたくさんの動画を見なければならないので、僕が教えている男子学生の多くは「もう見たくない」と愚痴りながらやっています。

そうした若者もいますが、TikTokは今やZ世代のトレンドやインサイトを知る上で欠かせないツールになっています。Z世代の上司や親の立場にある方々、この世代を対象としたマーケティング戦略や採用戦略などを担当する方々は、ぜひ参考にしていただけたらと思います。(再生数・いいね数は1月末時点)

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。

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(マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授 原田 曜平 構成=辻村洋子)

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