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本格的な景気後退が迫っている…過去最高の利益を出した日本電産が業績を下方修正した重要な意味

プレジデントオンライン / 2023年2月6日 9時15分

オンラインで記者会見する日本電産の永守重信会長(右)と小部博志新社長=2022年9月2日 - 写真=時事通信フォト

■景気の先行き危機感が強いことがうかがえる

1月24日、日本電産は2023年3月期、第3四半期の決算を発表し業績予想を下方修正した。それは、今後の世界経済の展開、特に、IT先端分野などにおける設備投資の先行きに黄色信号をともすものだった。

最近、日本電産は、ITデバイスや脱炭素など世界経済の先端分野におけるモータ需要を取り込んで成長した。同社の業績動向は、世界各国の設備投資動向を機敏に反映しやすい。その設備投資の動きに不安があるということは、景気の先行きに暗雲が差しかけない状況ということだ。

2019年1月も日本電産は業績を下方修正した。当時、同社の永守重信会長は「尋常ではない変化が起きた」と述べ、世界経済の先行きに警鐘を鳴らした。その後、中国では過剰な生産能力が深刻化した。また、米中対立の先鋭化によるサプライチェーン混乱の負の影響も高まった。

今回の決算説明資料を確認すると、その時以上に経営陣の先行き危機感は強いようにも見える。それだけ日本電産にとってモータ需要の減少と、コスト増加のインパクトは大きかったと考えられる。同じことは、国内外の主要企業にも当てはまるだろう。それだけに、今回の業績予想下方修正の意味は慎重に検討すべきだ。

■「世界シェア80%」デジタル需要で大きく成長

産業構造の変化や経済の成長によって、世界のモータ需要は増えてきた。その中で日本電産は、さまざまなタイプの新しいモータを生み出すことによって成長を遂げた。重要なポイントは、経営トップの指揮の下で、より成長期待の高い分野に、よりスピーディーに経営資源を再配分したことだ。まず、同社のコア・コンピタンス(強み)を世界に示したのは、“精密小型モータ”だった。代表的なものとして、ハードディスクドライブ(HDD)用スピンドルモータで同社は世界シェアの80%を確保している。

同社は精密小型モータの製造技術に磨きをかけ、それを新しい機器などと結合した。その成果として、日本電産は、ファクトリー・オートメーション、データセンタや家電など、産業・家電分野で用いられるモータ分野でも競争力を発揮している。特に、リーマンショック後の世界経済ではデジタル化が加速し、データセンタの建設は増えた。省エネや民生、産業機器分野などでの“IoT=インターネット・オブ・スィングス”の加速も加わり、機器の制御や冷却などモータの用いられる分野は急拡大した。

■日本電産の業績は、世界の動向を反映している

その上で、近年の日本電産は、車載用のモータ需要の高まりに商機を見出した。特に、“イーアクスル”の製造能力向上に取り組んだ。イーアクスルとは、電気自動車(EV)に搭載される駆動用モータ、インバーター、減速機などと組み合わせたモジュールをいう。

コロナ禍の発生以降、日本電産は迅速に生産体制を強化し、販売支援策などによって需要が急速に増加した中国のEV需要に対応した。さらに、日本電産はEV関連ユニットなどの生産能力を拡大して品質面だけでなく価格競争力を高めるために、工作機械事業を新しい収益の柱に育てようと買収戦略を強化している。

このようにして、日本電産は能動的に世界経済の先端分野、その中でもかなり上流に近い部分での設備投資需要を取り込む体制を強化してきた。それに伴い、日本電産の現在の業績と、先行きの事業展開予想には、世界の主要企業の設備投資動向がより色濃く反映されるようになっている。

■販売数量は増えたが、価格は下押しされている

以上を踏まえたうえで、日本電産の現在の業況などを考察する。まず、足許の業績に関して、連結の売上高と純利益は過去最高を更新した。しかし、営業利益は前年同期の実績を下回った(いずれも第3四半期までの累計)。数量と価格に分けて考えると、イーアクスルなどの販売数量は増えている。ただ、徐々に価格は下押しされたと考えられる。

要因の一つとして、中国などでEV生産体制が急速に強化され、車載用モータ市場の競争が激化したことは大きい。それは産業用など他のモータ分野にも当てはまるはずだ。米欧の利上げによる個人消費(需要)の鈍化の影響も大きかった。

世界経済全体で供給不安が高まったことも大きい。中国では新型コロナウイルスの感染が再拡大し、2022年4月には上海がロックダウンされた。その後も、ゼロコロナ政策は続き、中国の生産活動は一時、大きく落ち込んだ。それは日本電産にとって需要を取りこぼす原因になった。また、ウクライナ危機の発生などによって、エネルギー資源などの価格は上昇し、日本電産のコストは増えた。足許、世界的な供給不安は徐々に和らいでいるものの、全体として日本電産にとって本業の収益を守ることは難しかったと考えられる。

■予想を下方修正した同社の警戒感

2023年3月期の業績予想に関して、日本電産は売上高を当初予想の2.1兆円から2.2兆円に修正した。一方、営業利益は当初予想の2100億円から1100億円に下方修正された。その結果、営業利益率は当初予想の10.0%から5.0%に低下する。製品の単価に関して、これまで以上に強い下押し圧力がかかりやすくなっているとみられる。それだけ、米欧での利上げや家電製品などの需要減少の影響は大きい。

それに加えて、コストプッシュ圧力も依然として強いようだ。足許では、やや楽観的にも見えるが、中国の景気持ち直し期待の高まりなどによって資源価格が上昇した。ウクライナ危機や、IT先端分野などでの米中対立の先行きも見通しづらい。そうした要素を背景に世界的に設備投資のモメンタムは弱まりやすいと日本電産は先行き警戒感を強め、業績予想を下方修正した。

ワークショップで車のポンプに取り組んでいる認識できない車のメカニックのクローズアップ。
写真=iStock.com/skynesher
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/skynesher

■「スマホ需要減」主力製品の市場は飽和している

今後、日本電産は収益性の引き上げを目指して構造改革を断行する。そのための費用増加も業績予想の下方修正の一因だ。根底には、コア・コンピタンスにさらなる磨きをかけなければならないという危機感の高まりがある。日本電産は、世界経済のデジタル化の加速などによって人工知能=AIの利用などは加速度的に増え、企業の優勝劣敗はこれまで以上に激化すると予想している。

そのために、事業運営の無駄を省きつつ、人材の育成、研究開発体制の強化を徹底し、より高付加価値な製品を生み出して収益性を高めようとしている。決算説明会では、グループ全体で月給を統一する方針も示された。これまで以上に日本電産は組織全体の集中力を引き上げ、新しい需要を、世界トップのスピードと技術で生み出そうとしている。

見方を変えれば、世界経済を支えてきた主力製品の需要は飽和し、減少し始めた。象徴的なのは、スマートフォンだ。米調査会社IDCによると、2022年10~12月の世界スマホ出荷台数は前年同期比18.3%減の3億30万台だった(速報値)。6四半期連続の減少だ。昨年7~9月期の減少率(同9.7%)から落ち込み幅は拡大した。スマホは、SNSやサブスク型のビジネスモデルの成長を加速させ、データセンタ建設も増えた。

■IT先端分野の設備投資は鈍化する恐れ

しかし、足許では米GAFAの業績拡大ペースは鈍化し、メタやアマゾンなどは大規模な人員削減を発表した。メモリ半導体の在庫調整も進んでいる。スマホを起点とした世界的な需要創造は難しくなっている。パソコンの出荷も減少している。これまでに比べ、IT先端分野の設備投資は鈍化する可能性は高い。

また、当面の間、米国やユーロ圏ではインフレ鎮静化のための利上げも継続されるだろう。企業の債務返済コストは増えやすい。世界的に設備投資のモメンタムが追加的に弱まる可能性は高まっている。

そうした展開予想にもとづき、日本電産は構造改革を進めようとしている。同社をはじめ、わが国の精密な電子機器や工作機械メーカーは世界経済の需要をいち早く取り込んで景気回復を支えた。それだけに、日本電産の業績下方修正の意味は慎重に考えるべきだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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