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健康な人はPET検診や脳ドックを受ける必要はない…鎌田實「長生きするためにやってはいけないこと」

プレジデントオンライン / 2023年2月9日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

健康でいるためにはどんなことに気をつければいいのか。諏訪中央病院の名誉院長で作家の鎌田實さんは「健康のために検査を受けすぎるのはよくない。たとえば大腸内視鏡検査は5年、10年に一度で十分。不要な検査や服薬を避けることを心がけてほしい」という――。

※本稿は、鎌田實『60歳からの「忘れる力」』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■「正常値」に縛られなくていい

高血圧の診断基準は、最大血圧が140mmHg以上か、最小血圧が90mmHg以上になる場合で、正常血圧は120/80です。

ぼくは、多くの高血圧患者さんに「130/80」を目標に生活指導をしています。まずは生活習慣の改善が大事です。すぐに薬を出すことはしませんが、必要なときには出しています。

70歳以上の人には、血圧の治療目標設定を150/90に上げています。高齢になると軽い動脈硬化を起こしている人が多くなります。その状態で、無理やり多量の薬で血圧を下げると、脳や心臓へ血液を流す力が弱くなってしまい、かえってよくありません。

年齢や血管の状態を見極めて、微妙なさじ加減が必要なのです。やはり、正常値にこだわりすぎず、高血圧につながるような生活全体を改めていくというのが基本です。

血圧からは、高いか低いかという以外に、もっと踏み込んだこともわかります。次の計算をしてみてください。

脈圧=最大血圧-最小血圧

脈圧は、大動脈や心臓の冠動脈といった太い血管に動脈硬化があるかどうかの目安になります。血圧が127/78の場合、脈圧は49です。30~50は正常と考えています。65以上になると太い血管の動脈硬化を疑い、レントゲン検査やエコー検査、心電図の検査などをしています。

みなさんも自分の血圧を測り、脈圧を計算して、血圧管理のモチベーションにつなげてほしいと思います。脳梗塞や心筋梗塞を起こす太い動脈の老化を防ぐには、運動、野菜、減塩がキモです。

血圧はかなり高くなっても、自覚症状はほとんどありません。「静かな殺し屋」(サイレントキラー)ともいわれるように、じわじわと血管を傷つけ、脳卒中につながる動脈硬化を進めます。高血圧患者は正常血圧の人より認知症のリスクが1.6倍に高まるという研究論文もあります。

正常値にこだわりすぎず、上手に血圧をコントロールしていきましょう。

■姿勢のクセは関節トラブルを招く

毎日の生活習慣によって、いつの間にか背中が丸まって猫背になったり、ひざや腰が曲がったりします。健康のためウォーキングをしている人も、姿勢がよくないとひざや腰に負担がかかったり、関節の可動域が狭まったりするので、ときどき姿勢をチェックしましょう。

正しい姿勢を横から見ると、腰椎(ようつい)や頸椎(けいつい)がゆるやかなS字を描いています。全身が映る鏡の前に立ち、正面や横から自分の姿勢を見てみましょう。壁に背をつけてまっすぐに立ってみるのもいいでしょう。壁にかかとをつけて立ったとき、背中や後頭部が壁につかない人は、姿勢が前傾している証拠です。

姿勢のゆがみの原因の一つは筋力の低下です。また、いつも同じ肩にバッグをかけている、足を組んで座るときに上になる足がいつも同じなど、左右どちらか一方に偏っている習慣によっても生じます。こうした姿勢のクセを、一日一回、姿勢を正してリセットしましょう。

姿勢が正しいと、見た目も若々しくなります。気持ちも前向きになり、関節のトラブルも防いでくれます。

■お風呂では「手のひらでやさしく洗う」

毎晩、お風呂にゆっくりつかることは、自律神経を整える意味でも、安眠のためにも、そしてもちろん清潔を保つ意味でも大切な習慣です。

ただし、体の洗い方で注意したいのは、ゴシゴシ洗い。ナイロンタオルで赤くなるほどゴシゴシ洗わなければ洗った気がしないという人がいますが、皮膚の角質層が削られてしまいます。高齢になると皮膚が薄くなり、ちょっとした刺激で皮膚がかゆくなる老人性皮膚搔痒(そうよう)症が多くなります。

皮膚がかゆいからといってナイロンタオルでゴシゴシ洗うと、ますますかゆみが悪化してしまいます。毎日お風呂に入る人なら、お湯をかけて、手のひらで皮膚をやさしくこすり洗いするだけで十分です。せっけんやボディソープを使いたいという人は、泡をたっぷり立てて、泡の力で洗うようにします。お風呂あがりは、ボディクリームや保湿剤を忘れずに。

手元に泡を置く
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

また、皮膚に栄養を与えている毛細血管の老化は、運動で防ぐことができます。内と外から皮膚の健康を守りましょう。

■頼りになるのは「名医」ではなく「良医」

多くの人は「名医」にかかりたいと願いますが、かかりつけ医として選ぶなら、狭い分野で専門性を発揮する「名医」よりも、なんでも相談しやすい「良医」のほうが頼りになります。

良医は、高齢期を最後まで伴走してくれるのです。ぼくが名誉院長を務める長野県の諏訪(すわ)中央病院は「総合医」の研修が充実していて、日本各地の医学部を卒業した若いドクターたちが研修に来ます。この総合医は良医になる可能性が大きいと思います。

20年ほど前、ぼくは『病院なんか嫌いだ』(集英社新書)の中で、「良医」にめぐりあうための10箇条を次のように紹介しました。

①話をよく聴いてくれる
②わかりやすい言葉でわかりやすく説明してくれる
③薬や検査よりも生活指導を重視する
④必要なときは専門医を紹介してくれる
⑤患者の家族のことまで考えてくれる
⑥患者が住む地域の医療や福祉をよく知っている
⑦医療の限界を知っている
⑧患者の痛みやつらさ、悲しみを理解し、共感してくれる
⑨他の医師の意見を聞きたいという患者の希望に快く応じてくれる
⑩ショックを与えずに真実を患者に伝えられる

この10箇条は、ぼくが医師として心がけてきたことでもあります。いま読み返してみると、どれも当たり前のことのようですが、当時の診察室では当たり前になっていなかったのです。いまもそうかもしれません。

■「いつでもそばにいるから大丈夫」と言えるかどうか

この10箇条を、永六輔さんがラジオ番組などでたびたび取り上げてくれました。そのうちに、「いい患者の10箇条」なるものもつくられました。その10箇条目がすごいのです。

「生きているのに、ご臨終ですと言われたら、死んだふりをしてあげる」

これには笑ってしまいました。笑えるだけでなく、「医者だって人間だからミスするものだ」という、ちょっとした毒も感じられます。けれど、永さんの意図は、もっと深いところにあるのかもしれません。「ご臨終です」と言われて、しばらく死んだふりをしたあと、「ぼく、まだ生きてるよ」と薄目を開けて周囲を驚かせる。そんなことがあったら、湿っぽい臨終の場面は一転して大爆笑に変わります。

患者と握手を担当する医師
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

患者本人も、医師も、看護師も、家族も大笑いしながら、力を抜いて「死」を迎え入れることができたら本物の大往生です。死ぬときは、どんな経過をたどるのか。痛みや苦しみはないのか。それを取り除く方法はあるのか。最期まで点滴をする必要はあるのか。そうした死への経過を説明してくれて、「いつでもそばにいるから大丈夫」と言ってくれる医師が「良医」であり、その役割に気づかせてくれる患者が「いい患者」なのでしょう。

■大腸内視鏡検査は5年、10年に一度で十分

健康のためとはいえ、痛い、つらい、恥ずかしい検査はできることなら受けたくありません。なかには、微量ながらも放射線被曝をする有害な検査もあります。何が必要で、何が不要な検査かの見極めが重要になります。アメリカの内科専門医認定機構財団では、不要な検査や治療をなくす「チュージング・ワイズリー(賢い選択)」という取り組みをしています。

鎌田實『60歳からの「忘れる力」』(幻冬舎)
鎌田實『60歳からの「忘れる力」』(幻冬舎)

たとえば、大腸内視鏡検査は5年、10年に一度で十分。必要以上に多く検査すると、検査による合併症のリスクや費用が高くなってしまい、検査によるデメリットがメリットを上回ってしまうというのです。また、チュージング・ワイズリーでは、健康で無症状の人にPETによるがん検診や、MRIによる脳ドックも推奨されていません。

日本ではこれほどスッパリ切り捨てられていませんが、ぼく自身はこれらの検査を受けていません。家族がくも膜下出血を起こし、自分も起こすのではないかと心配しすぎる患者さんには、脳動脈瘤を疑い、保険診療のなかで造影CT検査やMRI検査をすることもあります。日本では、ちょっとした発熱に対しても抗生物質を処方する医師がいますが、感染症には効果がなく、むしろ多剤併用によって耐性菌をつくり、抗生物質が効かなくなるリスクがあります。不要な服薬や治療はしないことが大切なのです。

■健康なうちに終末期の過ごし方を考えておくべき

とくに、不要な医療が問題になるのが終末期です。口から食べられなくなったときに、胃ろうをつくって栄養を得られるようにすることがあります。その処置を受けるかどうか、家族や主治医に伝え、できれば書面にしておきたいものです。

自発呼吸ができなくなったとき、人工呼吸器をつけるかどうか。心臓が止まったあと、蘇生処置をするかどうか。最期はどこで過ごすか。そういったことをよく考え、毎年、自分の誕生日などに意思を伝えておくこと。自分の人生のしめくくりを後悔しないために、何が不要で何が必要か、健康なときから考えておきましょう。

胃ろうや人工呼吸器、蘇生処置……決めるのはあなた。健康なうちによく考え、家族や主治医に意思を伝えておこう。

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鎌田 實(かまた・みのる)
医師・作家
1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』ほか多数。新著『だまされない』(KADOKAWA)が刊行中。

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(医師・作家 鎌田 實)

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