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小学生に「テレワークが浸透しない理由」を説明してください…たとえ話がうまくなる「数学的」な話し方

プレジデントオンライン / 2023年2月8日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

小学生に「テレワークが浸透しない理由」を説明するには、どうすればいいか。ビジネス数学教育家の深沢真太郎さんは「わかりやすく伝えるには、たとえ話を使うと効果的だ。そのためには相手がイメージできる『別物』を考える必要がある」という――。

※本稿は、深沢真太郎『「数学的」話し方トレーニング』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■「同じ構造の別物」で話す

私たちはコミュニケーションにおいてなかなかうまく伝わらないことがあったとき、たとえ話を使ってそれを理解させることがあります。いくつか例を挙げましょう。

テレワークが浸透しない企業
→オンライン授業が浸透しない学校のようなもの

ビジネスにおいて市場や競合などを分析せず闇雲に施策を乱発すること
→暗闇でボクシングをするようなもの

「いつかやろう」は必ずあとから自分の首を絞めること
→夏休みの宿題をギリギリでやる小学生のようなもの

例えば最初の「テレワークが浸透しない企業」を題材にします。

もしあなたが子どもや学生に対して、なかなかテレワークが企業に浸透しないということを伝えたいとします。しかし相手は子どもや学生であり、ビジネスパーソンではありません。それをそのまま伝えても、言葉としては理解できても、「なるほど」と深く納得することは難しいのではないでしょうか。

しかし「学校にオンライン授業が浸透しないのと同じように、企業もなかなかテレワークが浸透しないんだよ」と説明すれば、おそらくイメージが湧くはずです。

この事例における「テレワークが浸透しない企業」をAとし、「オンライン授業が浸透しない学校」をBとします。子どもや学生はAを伝えられてもわかりません。しかしBはわかります。ならばBとAは同じこと、あるいは似たもの同士であることを伝えることでAもわかる。これがたとえ話で相手に理解させるメカニズムです。

Aがわからない
→A=B(AとBは同じ構造)
→Bならわかる
→Aもわかる

■ピンとくるかどうか

ある物を別物にたとえることのメリットについて、もう少し踏み込んで解説します。

繰り返しですが、私たちはコミュニケーションにおいて、たとえ話を使って相手に理解させることがあります。仮に伝えたいことをA、それと同じ構造をしたたとえ話をBとします。Bが必要な理由は相手がAを理解できないからですが、別の表現をするとこうなります。

「ピンとこないから」

「イメージが湧かないから」という解釈でもいいと思います。Aが伝わらないのはAの内容が間違っているからではなく、相手にとってイメージが湧かない話だからです。ならばBの表現に求められる条件は、相手がピンとくるたとえ話であることとなります。先ほど挙げた「テレワークが浸透しない企業」と「オンライン授業が浸透しない学校」の例もまさにこれに当てはまります。

■分数を「ピザ」で説明する理由

他の例として、子どもに「分数の計算」を教えることを考えてみます。

学校や塾などで分数をピザに置き換えて理解させようとする教師がいます。実はこれもまったく同じ発想が根底にあります。

分数という数そのものではピンとこない子どもも多いとするなら、いかにしてこの分数というものの意味を理解させるかを考え、伝え方を工夫することが求められます。そこで分数と同じ構造をし、かつ子どもでもイメージが湧くような別物に置き換えて伝えようとします。これが分数を教える教師がピザで説明する理由です。

ですからもしあなたがなんらかのたとえ話を使ってコミュニケーションをする場面があるとしたら、単に同じ構造のもので話せば伝わるわけではなく、相手がピンとくるかという視点が極めて重要になります。

確認の意味で、簡単な演習問題を用意しました。

【演習問題】
「プレイヤーとマネジャーの違い」を小学生に理解させる話を考えてください。小学生がピンとくるようなたとえ話が必要です。

余談になりますが、優れた数学の指導者はこのような子どもでもわかるたとえ話が上手です。先ほどの分数の例がその典型ですが、他にも、ある数学の指導者は「微分」という概念を「登山」にたとえて説明したり、またある数学者は「曲がった紐」にたとえて説明したりします。相手に理解させるコミュニケーションが上手な人はたとえ話が上手であることは間違いないでしょう。

■「それを作っているものは何?」という発想

そこで次のような問いが自然に生まれます。

「どうすれば同じ構造の別物を見つけることができるのか?」

正直に申し上げると、突然これが上手になるということはまずありません。少し長期的に訓練が必要なものであることは間違いありませんが、すぐに実践できるコツのようなものをご紹介しますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

先ほどご紹介した例の中に、「ビジネスにおいて市場や競合などを分析せず闇雲に施策を乱発すること」から「暗闇でボクシングをするようなもの」というたとえ話が生まれるというものがありました。あまりに無謀な行為であることがとてもわかりやすく伝わります。このたとえ話は私の友人が教えてくれたものですが、なぜこの友人はこのたとえ話を作ることができたのか、私の仮説も交えて解説します。

ヒントは、「それを作っているものは何?」という問いです。「ビジネスにおいて市場や競合などを分析せず闇雲に施策を乱発すること」という出来事は、いったいどんな要素で成り立っているのでしょうか。その答えをシンプルに箇条書きしていきます。

・戦いの場での話
・敵や場など周囲が見えていない
・とりあえず施策を乱発

こんなところでしょうか。「ビジネスにおいて市場や競合などを分析せず闇雲に施策を乱発すること」という出来事にはこの3つのことが盛り込まれており、そしてこの3つで作られた出来事だと捉えるのです。

■要素をさらにシンプルにする

そこでこの3つを満たすような別物の存在を考えます。思い浮かばないので、さらにこの3つをシンプルにし、究極まで情報量を削ぎ落とした表現にしてみます。

・戦い
・見えていない
・乱発

ここは想像力を働かせる必要があります。この3つのキーワードからおそらく浮かんだのが、真っ暗な場所で、相手が見えないのにパンチを繰り出し続けるボクサーの姿だったのではないでしょうか。

「ビジネスにおいて市場や競合などを分析せず闇雲に施策を乱発すること」
「暗闇でボクシングすること」

ボクシングリング
写真=iStock.com/allanswart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/allanswart

こうしてこの2つは同じ構造をしている別物であると説明がつきます。おそらく私の友人はこれを一瞬で行ったはずです。本人は自分が何をしてこのたとえ話を思いついたのか説明ができないかもしれません。しかし私は、すべてのたとえ話はこのような思考法の結果として生まれるものだと思っています。

もしご納得いただけたら、ぜひ今日から「それを作っているものは何?」という問いを習慣にし、ある物を別物にたとえる訓練をしてみてください。

ではひとつ演習問題をご用意します。もちろん、「暗闇でボクシングすること」よりもずっと納得感があるたとえ話をお願いします。

【演習問題】
「ビジネスにおいて市場や競合などを分析せず闇雲に施策を乱発すること」を別の物にたとえ、いかにそれが無謀なことであるかを伝えてください。

■「期待とはベクトルである」

ではここから、前項の思考法がいかにコミュニケーションにおいて有効かを著名人の事例を使って解説してまいります。

タレントであり予備校講師として活躍されている林修さんは、インタビューにおいて次のような発言をなさっています。

「期待とはベクトルだ、という認識を持つことが大切ですね。」

【参考】moviecollectionjp「林修先生曰く『準備』の前に『覚悟』があるべき/東進“準備哲学”プロジェクトWEB動画」

まずベクトルとは数学で登場する概念ですが、簡単に申し上げると「数量」と「方向」の2つをセットにしてひとつの量と考えるものです。例えばあなたがいまいる場所から好きな方向に一歩進むことを考えます。どの方向で進もうとそれが同じ一歩であり、「数量」としては同じです。しかし北に向かって一歩進むことと東に向かって一歩進むことは、「数量」は同じですが「方向」は違います。「北に向かって一歩」と「東に向かって一歩」は異なる量だと定義するのがベクトルです。

■共通する3つの要素

林さんが使った「期待とはベクトル」は、期待をAとしたときベクトルがBであること、そしてAとBが同じ構造であることを表現しています。

深沢真太郎『「数学的」話し方トレーニング』(PHPビジネス新書)
深沢真太郎『「数学的」話し方トレーニング』(PHPビジネス新書)

期待とは大きい・小さいという表現をしますから「数量」と捉えることができます。

一方、期待というものは人からされるものですが、どの「方向」でされているかという視点もあるのではないでしょうか。例えばあなたが会社員だとして、上司から期待されているとします。その期待はプレイヤーとして成果を出して欲しいのかもしれませんし、管理職としてのパフォーマンスを期待されているのかもしれません。期待というものには必ず方向があり、その方向を正しく認識しておくことは重要でしょう。

・「数量」で表現できる
・「方向」がある
・この2つのうち少なくともひとつが異なればそれは「異なるもの」と定義する

この3つで作られているものは何かと考えたとき、おそらく数学にも精通している林さんにはベクトルというものが浮かんだのではないでしょうか。「期待」というものを「ベクトル」でたとえたのは2者が同じ構造をしているものだと捉えた結果であり、そして「期待」というものの構造を見事に表現した言葉だと思います。

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深沢 真太郎(ふかさわ・しんたろう)
ビジネス数学教育家
日本大学大学院総合基礎科学研究科修了。理学修士(数学)。国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者。予備校講師から外資系企業の管理職などを経て研修講師として独立。その独特な指導法で数字や論理思考に苦手意識を持つビジネスパーソンの思考とコミュニケーションを劇的に変えている。大手企業をはじめプロ野球球団やトップアスリートの教育研修まで幅広く登壇。SMBC、三菱UFJ、みずほ、早稲田大学、産業能率大学など大手コンサルティング企業や教育機関とも提携し、ビジネス界に数学教育を推進。2018年に国内でただ1人の「ビジネス数学エグゼクティブインストラクター」に就任し、指導者育成にも従事している。著書に『数学的思考トレーニング 問題解決力が飛躍的にアップする48問』(PHPビジネス新書)、『わけるとつなぐ これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義』(ダイヤモンド社)、『数字にだまされない本』、『数学女子智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(ともに日経ビジネス人文庫)などがある。

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(ビジネス数学教育家 深沢 真太郎)

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