全く同じことを言っているのになぜ…相手から「イエス」を引き出せない人に共通する"残念な話し方"
プレジデントオンライン / 2023年2月9日 14時15分
※本稿は、深沢真太郎『「数学的」話し方トレーニング』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
■「モデルを使って話す」説明がうまい人の共通点
説明がうまい人はモデルを使って話しています。いったいどういうことか、さっそく説明を始めましょう。
まずはモデルという言葉を理解します。
あなたがこの表現を聞いてすぐに思い浮かべるのは、ファッションモデルといった類の言葉で表現されるものではないでしょうか。ファッションモデルの仕事とは、服にはどんな特徴があるのか、うまくコーディネートするための法則は何か、などを着用することで表現することです。すなわちモデルとはあるものの特徴や法則をわかるように伝える役割があると考えられます。
実は数学の分野では「数理モデル(あるいは数学モデル)」という言葉があります。専門家によって定義は様々ですが、一般的なものとしては「性質を明らかにしたいものについて、その定量的なふるまいを定式化し、計算によってその性質を模擬できるようにしたもの(※)」となります。難しい言葉が並んでおり、この説明だけではピンとこない方も多いかもしれません。後ほど少しだけ補足いたしますので、恐縮ですがここはいったんこのまま読み進めてみてください。
あらためて、先ほどの「数理モデル(あるいは数学モデル)」の定義を確認します。その文章において数理(数学)という概念を除いて表現してみると、モデルとは性質を明らかにしたいものについて、そのふるまいを言語化し性質を説明できるようにしたものと理解することができないでしょうか。そしてこれは先ほどのファッションモデルの話とほぼ同じことを表現していることに気づいていただけるでしょう。
■「○○は××という性質がある」
そこで、ここではこのモデルという言葉を、これ以上シンプルに表現することは無理だと言えるギリギリまで情報を削ぎ落として定義することにします。
モデルとは、「~はこういう性質(法則)がある」と言語化されたもの。
準備が整いました。ではここからが本題です。
冒頭で私は、説明がうまい人はモデルを使って話していると主張しました。それはすなわち、「~はこういう性質(法則)がある」と言語化されたものを使って話しているということに他なりません。
例えば企業の採用活動において、「偏差値の高い大学の学生の方が即戦力になりやすい」という法則があったとします。誤解がないように補足をしておきますが、これはあくまで説明のための仮の設定であり、私はこれが真実であると思っているわけではありません。
もし多くの人がこの法則を正しいと評価しているとするならば、企業の採用担当者がこの法則を使って「だから偏差値の高い大学の学生を優先的に面接していくべきだ」という考えを持ったり、誰かにそう説明することは自然でしょう。そしてその説明にはある種の説得力が生まれます。なぜなら、多くの人が正しいと評価する法則に当てはめて説明しているからです。
主張したいことがある
→多くの人が正しいと評価する法則に当てはめる
→説得力ある内容として伝わる
極めてシンプルですが、これがモデルを使って話すという行為です。感覚を掴んでいただくために簡単な演習問題を用意しました。ぜひチャレンジしてみてください。
あなたの知人の中で「仕事がデキる(デキそう)」と思う人物をひとり挙げてください。何かしらの法則に当てはめて、なぜその人物は仕事がデキる人なのかを説明してください。
■モデルにあてはめて説明する「数学的な話し方」
前項の(※)について少しだけ補足をします。
実は数学にはモデルの学問という側面があります。あなたもかつての数学の授業において実にたくさんのモデルと出会っています。典型的なものが「◯◯の定理」や「△△の公式」といったものです。例えば三平方の定理(ピタゴラスの定理)は直角三角形の3辺に関する性質を明らかにしたものとして知られていますし、2次方程式の解の公式は正解を得るために当てはめる法則と捉えることもできます。これらは「~はこういう性質(法則)がある」と言語化されたものであり、まさにモデルです。
ここで重要なのは、「数学」と「数学的」の違いです。
私はこのようなモデルを作るところまでが「数学」であり、作られたモデルに当てはめることを「数学的」と整理しています。ですから三平方の定理が誕生するまでが数学であり、直角三角形の辺の長さを求めるためにその公式を使うことは数学的な行為となります。後者を1行で表現するとこのようになります。
モデルに当てはめて正しいと説明する行為。
実はこの数学的な行為が私たちのコミュニケーションに役立つ、つまり数学的な話し方を実現するのです。
■「人間は変化に弱い」を行動経済学的に説明する
例えば経済評論家の勝間和代さん。物事をわかりやすく説明する動画をたくさん公開していますが、ある事例をご紹介しましょう。「なぜ私たちはこれほどまで変化が苦手なのか」というテーマにおける一節を要約してお伝えします。具体的には、人間は現状維持を好む生き物であることを説明した内容です。
【参考】勝間和代が徹底的にマニアックな話をするYouTube「なぜ私たちはこれほどまで変化が苦手なのか」
お気づきのように勝間さんはご自分の主張に対してプロスペクト理論と呼ばれるものに当てはめることで説得力を持たせた内容にしています。
プロスペクト理論なるものを極めて平易に表現するなら、「人間は目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先し、損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向がある」ということです。この法則に当てはめることで、人間は変化に弱いという主張をなさっています。
個人的にはなるほどと思わされる内容に感じましたが、この話のどこに説得力を感じたかは言うまでもありません。プロスペクト理論と呼ばれるモデルに当てはめて説明されたからです。
■「プロスペクト理論」抜きではどうなるか
もし勝間さんの話がこのようなモデルの当てはめをしない内容だとしたら、どのように伝わるでしょうか。試しにその部分を除いて表現してみます。
もちろん主張は伝わります。しかし根拠という点ではやはり物足りなさを感じてしまうように思いますが、いかがでしょうか。
モデルに当てはめることで主張の正しさを訴える。ぜひあなたも勝間さんの話し方を真似てみてください。そのような意味を込めて、次のエクササイズに挑戦してみましょう。
あなたの周囲に、なかなかチャレンジしようとしない人はいませんか。その人がチャレンジしない理由を、プロスペクト理論を使い説得力ある内容で説明してみてください。
■「正しい」ではなく「正しそう」
ところでもし「結局のところ、説得力ある話とは何か」という問いがあるとしたら、あなたはどのように答えるでしょうか。シンプルゆえにとても答えることが難しい問いかもしれません。
さっそく私の答えを示します。すなわちこの記事のの結論は何かということです。
「正しそうに伝わる話」
ここで重要なのは「正しい」ではないことです。あくまで「正しそう」です。説明が上手な人(つまり頭のいい人)は正しい内容を伝えているわけではありません。自分の主張を正しそうに伝えているだけなのです。
![オフィスの同僚にプレゼンテーションをするビジネスウーマン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/8/1200wm/img_38485b7f6ec46dbb0500b90ac01190b8599158.jpg)
少し伝わりづらいニュアンスかもしれないので、補足のために説明をさせてください。
あらためて、モデルに当てはめて話すとはどういうことかを確認します。
主張したいことがある
↓
多くの人が正しいと評価する法則に当てはめる
↓
説得力ある内容として伝わる
ここで重要になるのが、「多くの人が正しいと評価する法則」という表現になっていることです。なぜ私は「正しい法則」と表現していないのでしょう。
■「100%正しい」と断言できるものではない
これがもし数学の(机上での)論述だとしたら、当てはめるモデルは必ず正しいものと言って構いません。ご紹介した三平方の定理はどんな直角三角形でも必ず言える法則であり、2次方程式の解の公式も同じことが言えます。数学のモデルは、数学の世界の中においては必ず正しいものです。
![深沢真太郎『「数学的」話し方トレーニング』(PHPビジネス新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/5/1200wm/img_a540144de8073cfc8c7f97a12ae6c769297426.jpg)
しかし数学の世界と私たちがいる現実の世界は違います。私たち人間がいる現実世界において語られるモデルとは、必ずしも正しいものとは限りません。
つまり本稿でご紹介したモデルと呼ばれるものは、100%正しいと断言することはできないものばかりなのです。実はこの違いこそが、「数学」と「数学的」の違いです。
数学:正しいことを説明する
数学的:正しそうに説明する
本稿はあくまで数学的な話し方を推奨するものです。私たちが現実の世界においてモデルを使って話すということは、正しい内容を伝えることではなく自分の主張を正しそうに伝えることなのです。
先ほどご紹介した勝間さんの話した内容は、実は正しいかどうかは誰にもわかりません。ただ、とても正しそうに伝わります。
もしあなたが【演習問題】にチャレンジしていたら、そこで考えた“説力ある内容”が正しいかどうかは誰にもわかりません。ただ、相手には正しそうに伝わることでしょう。
結局のところ、説得力ある話とは正しそうな話のことです。正しそうな話とは、本稿でご紹介したような数学的に話した結果のことです。つまり説得力ある話とは、数学的に話した結果のことです。極めてシンプルな三段論法ですが、私はこれが本質だと確信しています。あなたは、どう思いますか。
説得力ある内容=正しそうな内容
↓
正しそうな内容=数学的に話した内容
↓
説得力ある内容=数学的に話した内容
私たちがいるこの世界、特にビジネスシーンではいかに正しそうに話すかで勝負が決まっています。どうすれば正しそうな話ができるか。本稿はあくまでひとつのアプローチをしたに過ぎません。ぜひこれをきっかけに、ご自身でも考えてみてはいかがでしょうか。
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ビジネス数学教育家
日本大学大学院総合基礎科学研究科修了。理学修士(数学)。国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者。予備校講師から外資系企業の管理職などを経て研修講師として独立。その独特な指導法で数字や論理思考に苦手意識を持つビジネスパーソンの思考とコミュニケーションを劇的に変えている。大手企業をはじめプロ野球球団やトップアスリートの教育研修まで幅広く登壇。SMBC、三菱UFJ、みずほ、早稲田大学、産業能率大学など大手コンサルティング企業や教育機関とも提携し、ビジネス界に数学教育を推進。2018年に国内でただ1人の「ビジネス数学エグゼクティブインストラクター」に就任し、指導者育成にも従事している。著書に『数学的思考トレーニング 問題解決力が飛躍的にアップする48問』(PHPビジネス新書)、『わけるとつなぐ これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義』(ダイヤモンド社)、『数字にだまされない本』、『数学女子智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(ともに日経ビジネス人文庫)などがある。
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(ビジネス数学教育家 深沢 真太郎)
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