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連続強盗犯はここから「襲う家」を決めている…1件1万円で取引される「金持ちリスト」はだれが作ったのか

プレジデントオンライン / 2023年2月6日 18時15分

フィリピン・マニラ首都圏にある入国管理局の収容所で拘束されている渡辺優樹容疑者[フィリピン国家捜査局提供] - 写真=時事通信フォト

全国で凶悪な強盗事件が相次いでいる。犯行グループはどうやってターゲットを決めているのか。龍谷大学嘱託研究員の廣末登さんは「闇名簿を使用しているのではないか。裏社会では、一件1万円程度で『金持ちリスト』が流通している」という――。

■どうやって強盗に入る家を決めていたのか

関東地方を中心に強盗事件が続発している。被害は、関東圏にとどまらず、広島や山口など西日本でも出ている。

複数人で民家へ侵入し、住民を縛り上げ、暴行したうえで現金を奪うといった荒っぽい手口や、「高齢者が一人で暮らしている家庭」や「高級品を購入している顧客」が狙われるなど、犯行が酷似しており、同様の事件は全国で少なくとも30件以上確認されている。

犯行に加担した実行犯は、関与を疑われている者を含め、10~30代の30人以上が、既に逮捕されている。「ルフィ」や「キム」と名乗る人物がフィリピンから指示を出していたとみられている。

彼らはいったいどのようにして強盗に入る家の情報を得ていたのか。

筆者は、今回の事件(以下、本件)について、元暴力団で特殊詐欺事情に詳しい土井氏(仮名)に取材した。

土井氏によると、本件は、裏社会でも話題になったが、決して評価できるものではないという。

■プロではなく素人による犯行と考えるワケ

――今回の一連の事件をどのように見るか。

【土井氏】今回の仕事を見て、仕事が粗いので「素人」の仕業と思いました。

まず、彼ら実行犯はカメラを意識していない。次に、逃走車両についても、足がつくレンタカーを借りているし、ナンバープレートも天ぷらナンバー(偽造プレート)にしていない。

後のことを考えていないから、逃げ方も雑ですね。熟練されたプロであれば、現場に行くとき、消火器の2本くらいは用意して行く。車を乗り捨てるのなら、車内に消火器をぶちまけて逃げるのは基本(証拠を消し、捜査をかく乱するため)。

ヤクザが仕事するときは、いかに(被害者を)殺さないようにするかということに気を使うが、この事件の実行犯は高齢者を殺害している。これは、素人が勢いでやっているように見える。勢いで自分が興奮して、気がついたら殺していた――みたいな感じですね。

――ルフィや指示役は犯罪のプロではなかったのか?

【土井氏】犯罪がプロかどうかは、そうした痕跡を見ればすぐにわかるものです。自分たちも若い時に仕事して、必要なものと不要なものを学習していました。

犯罪における役割なども、向き不向きで自然に決まるもの。今回の事件のように、「闇バイト」で即席に集められた烏合(うごう)の衆では、まずいい仕事はできないでしょう。

■ルフィの手下が現場にいた可能性

【土井氏】フィリピンから指示していたルフィという首謀者も、ネットで集めて使い捨てにするつもりだったかもしれないが、闇バイト求人で集めた連中なんか信用できません。強盗先で貴重品を盗んで横取りし、「ありませんでした」と言うこともできる。

そうした裏切りを防ぐために、(強盗で現場に行く)チームの中の一人は、子飼いの指示役を同行させた可能性は高い。

ただ、奪った金銭や貴重品の受け渡しまで、緻密に考えてやっているか現時点では不明です。

フィリピンの収容所にいる4人も、長年犯罪社会に関わってきたようには見えない。すでに、名前も割れているが、そんなに有名な前科も出てこない。

事件の報道を見ていて、細かい指示を出していないことから、指示役も素人と思えるんです。

■テレグラムよりも安全な連絡方法

――警察は実行犯たちの携帯を押収し、「テレグラム」などを解析した。

今回、警察の捜査で「たどる」ことができたのは、逮捕された者の携帯を解析して、メールのやり取りで、ルフィが出たからですよね。ここも甘い。

テレグラム、WhatsApp、Facebook、メッセージ、その他のアプリのアイコン
写真=iStock.com/stockcam
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stockcam

私も昔は「テレグラム」や「シグナル」を使ったことはあります。確かに、両アプリとも一定時間経過したら自然にメッセージは消去されますし、スクリーンショットを撮ろうとすると、画面が真っ黒になります。

だから、俺らは他の携帯で画面ごと撮影していました。だから、メッセージが自動消去されるといっても、あまり信用していなかった

まあ、そうした犯罪をするとき、いちばん安全なのは、携帯通話です。通話記録は残りますが、内容は残りません。

今回は、フィリピンから電話してたどられたわけですが、ここに日本国内の総指揮役の手下を「いっちょ噛み」させておけば、フィリピンまでたどれなかった。

おそらく、ルフィと指示役は親しい関係じゃないと思います。指示役もアタマからルフィに期待していたわけじゃないでしょう。

■強盗は技術がいらない

――犯罪はどのように計画されたのか。

【土井氏】刑務所あるあるなんですけど、暇だからいろいろなこと(犯罪)を考える。シミュレーションして、あかんところ潰していく。で、結局、この方法は無理があるなとかなるわけです。

これは、実地で経験しているから、無理とわかるわけですが、ルフィらは分かっていなさそう。経験していないから「いける」と思ったのでしょう。あと。警察の捜査力もわかっていないようです。

今回、ネットで人を集めていますよね。これは、誰でもわかることですが、ネット応募者には技術が期待できない。窃盗ひとつを考えても技術がいる。

素人には、シャッターすら開けられない。各種詐欺だと、演技力が必要になる。だから、一番簡単な強盗をやろうとなったんでしょう。

目出し帽をかぶった強盗犯が窓を破ろうとしている
写真=iStock.com/BrianAJackson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BrianAJackson

強盗は技術がいらないんです。必要なのは根性と用心深さだけ。ルフィたちは、フィリピンの収容所の中で、自分らが動かずして儲けようと考えたのでしょうけど、犯行の手口がずさん過ぎます。(犯罪の)経験不足と言われても仕方ないと思います。

■価値のある名簿は1万円で売られている

――裏社会における名簿の取引はどのようになっているのか?

【土井氏】強盗のターゲットは、名簿からチョイスしたと思います。ただ、現時点では、この名簿の質はわからないし、入手先も分からない。もしかしたら、ダークウェブで購入(後述)したものかもしれない。

名簿はピンキリで、サラピン(一度も犯罪に使われていない)は値が張ります。詳細な名簿なら一件あたり1万円する場合もある。一方、使い古された名簿(出がらし)は、一件300円、500円と安くなる。おそらく、今回使われた名簿は、金を持っている、入ったら金がありそうな家の名簿を使ったと思います。

■一般人→情報屋→名簿屋→犯罪者

【土井氏】名簿屋は、情報屋から情報を買います。情報屋はカタギ(一般人)から情報を買うんです。

デイサービスや家政婦派遣の情報、学校職員の家族名簿、市会議員や村会議員の名簿と、いろいろあります。

ツイッターでも「情報買います」というツイートがある。#名簿、#情報などと引っかかるようにしています。

名簿屋は、情報屋から名簿を買うとき、安く叩いてナンボ。だから、マスコミさんは相場を知りたがりますが、それは企業秘密です。相場を作らせないためですね。

■一般人が名簿を流す

――カタギが個人情報をカネにしているのか。

【土井氏】カタギ個人もですが、会社ぐるみの場合もあります。

例えば、正規の合法な名簿屋がある。これは、セールスマンのための名簿を扱う会社です。学習教材会社なら、ファミリー名簿を買うんです。

しかし、こうしたカタギの名簿屋さんも、名簿のオイシサを知ったら、悪いほうに流れていくケースもあります。

高級ブランドや高級車の購入者名簿が欲しければ、店の従業員に接触して、カネをチラつかせてデータのコピーを取らせるとか、さまざまな方法があります。

あと、カタギさんに「家にカネありそうなところ知らないか。そこに本当にカネがあれば、(儲けの)10%やるから教えてくれない?」って言うと、必死で調べてきますよ。こうした生の情報はありがたい。自分がタタキ(強盗)の実行犯にならなかったとしても、情報自体が売れるんですから。

大体、名簿がカネになるようになったのは、特殊詐欺が始まってからじゃないですか。昔は、名簿なんか捨てていました。パソコンの中の名簿なんか普通に放置されていました。

ノートパソコンで作業する人の手元
写真=iStock.com/Tippapatt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tippapatt

しかし、これがカネになる現在ですと、わざわざ名簿を盗みに入る者も出てきた。名簿は、貴金属や現金と違って、セキュリティーの甘いところに保管していますから、盗みやすい。さらに、盗まれても、被害者はお客に責められるから、被害届を出さないんじゃないですか。

■ダークウェブでの取引の実態

【土井氏】2013年アメリカのFBIに潰された「シルクロード」というウェブ闇市がありました。いわゆるダークウェブの草分け的存在です。カネの出先が分からないビットコインは、こういうところで使われる。裏のメルカリみたいなものです。

当時、ダークウェブは英語版しかなかったのですが、現在は日本語のサイトも存在します。シルクロードは薬物専門でしたが、昨今のダークウェブは、名簿、銃器、シャブ、殺人請負、児童ポルノ、キャッシュカードから臓器まで、何でも売られています。

もっとも、違法サイトですから、商品が届かなくても被害届は出ないので、詐欺も横行しています。日本は税関が厳しいので銃などは注文できないから、大麻の種子などが人気のようです。

だから、今回の事件で使用された名簿が、どこで入手されたかということは、ルフィらが帰国して、当局によって尋問されないと分かりません。要は、名簿の入手先は複数存在するということです。

■被害者にならないためにできること

現時点で、続発した強盗事件で使われた名簿の出所は分からない。しかし、土井氏の示唆するように、入手経路は複数存在する。

闇名簿の問題は、土井氏も言及している通り、名簿をカタギの人が裏社会に流さないと出回らないのかもしれない。小遣い稼ぎのために流した名簿データから、今回のような悲劇が生まれてしまう可能性がある。

拙著『だからヤクザを辞められない 裏社会メルトダウン』(新潮新書、2021年刊)で半グレの証言を紹介しているが、彼らの犯罪はカタギの協力者がいるケースが散見される。グレーにも濃淡があるということだ。

ほかに名簿の情報収集は、筆者が知る限り、Amazonや銀行、各種配送サービスを語る詐欺メールだ。慌ててクリックしてしまうと情報収集されてしまう。このようなメールを受信したら、慌てずにメール左上の「From」の部分をクリックして、差出人を確認してほしい。「@amazon.co.jp」なら本物の可能性が高いが、「amazon@zecedtz.cn」など、co.jp以外は偽物である。

■特殊詐欺の背景を知るチャンス

本件は、なかなか逮捕されない犯罪組織上層部の取り調べから、特殊詐欺の背景を知る千載一遇のチャンスである。

捜査で明らかとなるであろう諸事実から、われわれは社会防衛のための対策、新たな被害者を生まないための対策を立てることが可能となる。

いま、国内外に複数人いるとされる「ルフィ」。そのうち渡邉優樹(38)、今村麿人(38)、藤田聖也(38)、小島智信(45)の各容疑者は、フィリピンの収容所に身柄を拘束されている。

彼らが強制送還され、警察の取り調べにより、一刻も早く事件の全容が解明されることが待たれる。

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廣末 登(ひろすえ・のぼる)
龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学)
博士(学術)。1970年福岡市生まれ。北九州市立大学社会システム研究科博士後期課程修了。専門は犯罪社会学。青少年の健全な社会化をサポートする家族社会や地域社会の整備が中心テーマ。現在、大学非常勤講師、日本キャリア開発協会のキャリアカウンセラーなどを務める傍ら、「人々の経験を書き残す者」として執筆活動を続けている。著書に『若者はなぜヤクザになったのか』(ハーベスト社)、『ヤクザになる理由』(新潮新書)、『組長の娘 ヤクザの家に生まれて』(新潮文庫)『ヤクザと介護――暴力団離脱者たちの研究』(角川新書)など。

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(龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学) 廣末 登)

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