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読むと自己肯定感が爆上がり…哲学者ニーチェが『ツァラトゥストラ』で伝えたかった"たった1つ"のこと

プレジデントオンライン / 2023年2月7日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

人間の価値観はどのように形成されているか。ドイツの哲学者ニーチェは空想的な世界を前提にした倫理・道徳を批判し、身体こそが重要だと説いた。身体や大地に忠実であれば、人生を後悔することはないという。作家の白取春彦さんが書いた『超要約 哲学書100冊から世界が見える!』(三笠書房)より、ニーチェ哲学を紹介しよう――。

※本稿は、白取春彦『超要約 哲学書100冊から世界が見える!』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

■「超人」と「永劫回帰」の生き方を教えるストーリー

「人間は、動物と超人とのあいだにかけ渡された一本の綱(つな)である」
「きみの身体のなかには、きみの最善の知恵のなかにあるより、より多くの理性がある」
「過ぎ去ったことどもを救済し、一切の《そうあった》を《そうあることをわたしは欲したのだ!》に根本から造りかえること――これをこそわたしは初めて救済の名で呼びたい!」
(出典:『ニーチェ全集〈9〉〈10〉ツァラトゥストラ』吉沢伝三郎訳 筑摩書房)

これは、ニーチェの世界的名著『ツァラトゥストラ』(原題:Also sprach Zarathustra 1883~1885)の一節です。

1881年8月、ニーチェがスイスの保養地にある湖の近辺を歩いていたときに天啓のように「永劫回帰」の思想(すべてがくり返されるとしても、そのすべてを肯定できるような態度)が到来して、それが『ツァラトゥストラ』の核となりました。

原タイトルをそのまま翻訳すれば「ツァラトゥストラはこう言った」となるこの本は哲学的な物語の形になっていて、10年間山に籠っていた40歳過ぎの主人公のツァラトゥストラが山から下りてきて、人々に「超人」と「永劫回帰」の生き方を教えるというストーリーです。

ツァラトゥストラとは、古代ペルシアのゾロアスター教を創始したゾロアスターのドイツ語読みの名前です。

■「神は死んだ!」の示す本当の価値あるものの正体

ツァラトゥストラのセリフとして「神は死んだ」というのが有名ですが、これはこれまでのすべての(権威的な)価値は無になったという意味です。

その場合の価値とは、多くの人が信じてきた価値のことで、その土台となっているのはプラトンの哲学、そしてプラトン哲学(と新プラトン派のプロティノスの哲学)を土台にした民衆版ともいえるキリスト教の考え方のことです。

ただし、ニーチェは感情的にキリスト教を嫌悪しているのではなく、キリスト教の神学が「あの世」といった空想的なものを設定し、その設定から倫理・道徳を生み出していることを批判しているのです。

プラトンもまた、真・善・美が住む「イデアの世界」という真実の世界が向こう側にあるという空想を前提にしているので、構造は同じです。

そのような価値観全体から脱しようとツァラトゥストラが主張するのは、哲学や宗教より以前にある原初的なもの、現実にあるものこそ本当の価値なのではないかとニーチェが考えるからです。

■「身体は大いなる理性である」

その原初的な価値の1つは、わたしたちの身体です。

キリスト教など世間一般の価値観では、身体は精神や霊よりも下位に置かれています。しかしながら、ツァラトゥストラは「身体は大いなる理性である」といいます。

なぜならば、これまで精神とか理性とか呼ばれてきたものもまた、身体が何か行動する場合に用いる道具だからです。これまで精神とか理性とか呼ばれてきたものがいくら働こうとしても現実には何もできません。精神も理性も身体を持っていないからです。

現実において何かを実現させるのはこの身体です。したがって、これまで理性と呼ばれてきたものは、道具の1つとしての小さな理性であり、それを最終的にあつかう大きな理性はこの身体だというのです。

身体は理性であるというこの言い方はもちろん、身体をこそ重視していることを示すための比喩的表現です。

このような態度は、理性と意識を絶対化したことで身体をないがしろにしてきた近代の観念的な哲学、特に理性こそすべてであるかのようにみなして、道徳的行為すら理性の命令にしたがうようにと述べたカントの哲学への反旗なのです。

フリードリヒ・ニーチェの19世紀に描かれたイラスト
写真=iStock.com/clu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/clu

■「超地上的な希望について話す者たちの言葉を信ずるな!」

この、身体こそ根源だというのが、ニーチェの哲学を建てている太い柱です。ニーチェにとって精神だの理性だのといったものは、あとからひねり出された形のさだまらない観念のたぐいにすぎません。一方、身体こそ、ありありとした現実の生としてここにあるのです。

さらに、ツァラトゥストラはこういいます。

「きみのもろもろの思想や感情の背後に……中略……一人の強大な命令者、一人の知られざる賢者が立っている――この者が自己と呼ばれる。きみの身体のなかに彼は住んでいる。彼はきみの身体なのだ」(吉川訳以下同)
「そして、この身体は大地の意味について話すのだ」

この場合、身体と「大地」は同義語です。なぜなら、あらゆるものがそこから生まれ育つからです。そしてまた、観念ではなく、現実だからです。したがって、身体も大地もなくして現実の生はありえないのです。

ただし、ふつうの人の身体もそのままでは大地のようなものだというわけではありません。なぜならば、ふつうの人は神や精神や理性や霊のほうが高級だとして、身体をないがしろにしているからです。ツァラトゥストラの次の言葉はそういう意味です。

「あくまで大地に忠実であれ、そして、きみたちにもろもろの超地上的な希望について話す者たちの言葉を信ずるな!」

■「この人生を何度繰り返してもいい」と思えるか

そして、ツァラトゥストラは超人について語ります。

「超人は大地の意味である」

つまり、超人とは、神、天使、理性、精神、霊、幸運、あの世、輪廻、歴史、などといった非大地的なものを棄てさり、現実の事柄のみを引き受けて生きていく人を指します。

そのような超人は自分のなしたことを後悔するはずもありません。なぜならば、別なふうに行動していればもっとよい結果を得たはずだったのにと考えるのならば、それは超地上的な空想世界に生きることになるからです。

したがって、超人はいっさいの現実を肯定する人です。だから、この人生がそっくりそのままくり返される永劫回帰が起きたとしても充分に耐えられる人となります。

というよりもむしろ、そうであったことすべてを、それは自分が欲していたものだと肯定できるのです。したがって、超人は救われた人でもあるのです。

■詩的な哲学表現がカフカら小説家たちにも影響

論理をいくつも重ねながら慎重に考察していって結論に導く、というのが一般的な哲学の方法だとすれば、ニーチェは鋭い洞察から得た発見を詩的な言語表現でさしだすという方法をとります。

その洞察は、現実の自然から得られました。自分の不安定な体調を悪化させないために郵便馬車に揺られての保養地への旅とそこでの数カ月の逗留をくり返すという生活をずっと続けながら、自然の中での体験や発想を手近の紙片にメモしておくことから始める執筆スタイルは、自分の頭の中で論理をこねくりまわして書斎で書くという従来の観念哲学者とは真逆のものでした。

白取春彦『超要約 哲学書100冊から世界が見える!』(三笠書房)
白取春彦『超要約 哲学書100冊から世界が見える!』(三笠書房)

ニーチェの書いたものに数行だけのアフォリズム(警句)風のものが多いのは、旅先での数々の短いメモが土台になっているからなのです。

好んで訪れていた逗留地の1つスイスのシルス・マリア(標高1800メートル)で散歩をしていたとき、ある岩の前で一種の神秘的な体験をし、そのときに永劫回帰の思想が突然に浮かびあがり、哲学的な寓話『ツァラトゥストラ』を書くことになりました。

ニーチェの哲学は多くの人に影響を与え、特に哲学者のヤスパース、シェーラー、フーコーの他、小説家のトーマス・マン、カフカ、ジッド、カミュ、詩人リルケなど、それぞれの時代をいろどり、今なお古典として残る人々の思想に刺戟をもたらしてきたのです。

フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche)
1844~1900 プロイセン王国の小村レッツェン・バイ・リュッケンに生まれる。病気を理由にバーゼル大学古典文献学教授を辞職してから、保養地を旅した在野の哲学者。55歳没。

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白取 春彦(しらとり・はるひこ)
作家
青森市生まれ。ベルリン自由大学で哲学・宗教・文学を学ぶ。哲学と宗教に関する解説、論評の明快さに定評がある。 主な著書に、ミリオンセラーとなった『超訳 ニーチェの言葉』のほか、『頭がよくなる思考術』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『この一冊で「聖書」がわかる!』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『行動瞑想 「窮屈な毎日」から自由になるヒント』(三笠書房)など多数。

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(作家 白取 春彦)

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