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エアバスCEOは「3社独占になる」とため息…航空業界に激震が走った「中国製ジェット旅客機」のすごい完成度

プレジデントオンライン / 2023年2月8日 18時15分

武漢天河国際空港に着陸する、中国初の国産大型旅客機である中国商用飛機集団(COMAC)のC919型機=2023年1月16日、中国湖北省 - 写真=AFP/時事通信フォト

■ボーイングとエアバスの2社独占が崩れる恐れ

「あの機体を買うのはしばらく中国の航空会社だけでしょう。しかし、徐々にしっかりとしたメーカーになる。おそらく10年後までに、2社独占から3社独占になると思う」

世界の旅客機市場をボーイングと二分するメーカー、欧州エアバスのギヨーム・フォーリー最高経営責任者(CEO)は中国製ジェット旅客機「C919」の出来栄えを知り、米欧の未来を考えるフォーラムの席上、こうコメントした。

世界で広く使われているジェット旅客機市場は目下、ボーイングとエアバスの2社がほぼ独占している。しかしフォーリーCEOがこんな驚きのコメントを残すほどに、中国製ジェット機の実力は優秀なのか。客観的事実や資料とともに分析を図ることにしたい。

■「ボーイングは中国でのシェアを失くすだろう」

上海で昨年12月9日、中国初の国産旅客機メーカー・中国商用飛機(COMAC)製「C919」型機が商業運航用の機体として、中国東方航空(CEA)へと引き渡された。CEAは、2023年春にも正式に路線投入する方針を固めており、“中国が作った飛行機“が人を乗せて空を飛ぶことになる。

フォーリーCEOが率いるエアバスは、180~200人乗りのナローボディ機(1本通路の機体のこと)のベストセラーともいえる「A320ファミリー」を量産している。2016年からは「A320neo(ニュー・エンジン・オプション)」という、環境にやさしいエンジンを搭載した改良モデルが飛び始めた。

さらに、航続距離を従来型の6500~7000kmから8600kmまで延ばした「A320XLR」も開発し、小さな機体ながら効率よく遠くへ飛ばすという航空会社にとってうれしい“高コスパ商品”を世に出した。

そんなフォーリーCEOが「C919は10年後までにエアバスA320neoの強力な競争相手になる」と主張するのだ。しかも、C919の登場で「ナローボディ機市場はエアバス、ボーイング、COMACの“三極化”に徐々に変貌する」との見通しも口にした。

米国の航空アナリストのひとりは、「COMAC製航空機が普及すれば、ボーイングは中国でのシェアを失う可能性があるのは必至」と指摘している。それほどまでにC919は将来が約束されているのか。

■航空需要の「ど真ん中」に勝負を挑んできた

ナローボディ機はこれまで、米ボーイングが1万1000機、前述の欧州エアバスが1万機を生産。日本でもANA(全日本空輸)、JAL(日本航空)などのほか、格安航空会社(LCC)が全国津々浦々にある地方空港に飛ばすのに使っており、出張族にもレジャー旅客にも身近な機体といえる。

中国では2010年代に行われた予測として、2030年代までに合計7646機の民間旅客機と650機の民間貨物機が追加で必要となり、その大半をナローボディ機が占めると試算されている。C919の安定的な生産継続が可能になれば、これまで売れてきた欧米2社のシェアを食い荒らすことになる。

C919の登場で「末恐ろしい機体が出てきた」と世界の航空関係者は目下、恐怖におののいているといっても過言ではない。それは、世界の航空需要のいわゆる「ど真ん中」とされるマーケットにぶっ込むという勝負に挑んできたからだ。こうした使い勝手が良く、マーケットの存在も確約されている機体を、中国が自国生産に成功したことはどうあれ評価する必要がありそうだ。

各国の航空アナリストらは今、こぞってC919の仕様や、大手2社との比較を論じた記事を書いてはさまざまな媒体で発表している。

■エンジンは米仏の合弁会社製を導入

インド拠点の航空ニュース配信サイト「Jetline Marvel」は、ボーイングの新鋭機「737MAX8」と、C919とを比較している。

ボーイング737自体は、単一モデルとしては歴史的に最も多く売れている機体だ。ただ最新型の737MAXは胴体の素材や翼の構造などから「実は違う型の機体では」と揶揄(やゆ)されるほどに斬新な一方、これまでに2機が墜落。長期にわたって安全性の見直しを図るという事態に陥った。現在は当局の承認が下り、日本への乗り入れも再開している。

最大210席搭載できる737MAX8よりも、C919は標準仕様では160席前後と若干小さい。航続距離でみると、737MAX8は6570kmに達するが、C919は最長約5600kmにとどまる。したがって、A320neoファミリーよりも遠くに飛べない。

エンジンについては、目下のところ中国も国産品の開発は進めているものの、当初段階では、従来のジェット機でもよく使われている米仏合弁CFMインターナショナル製エンジンを導入した。なお、機体はCOMACが手がけたが、実際の機装品・システムのほとんどは、欧米と中国の合弁会社が製造している。

ユニークなのは、エコノミークラスの3列シートの真ん中の席が隣の席より1.5cm広くなっており、“より快適な座り心地を実現”としている。このアイデアは、新幹線の3列席の真ん中に当たるB席が若干広いというのと同じ考え方だ。

受注実績でみると、737MAX8は各国の航空会社から5800機以上を受注。また、A320neoは2022年末実績での受注数が8600機以上に達する。一方のC919は、中国国内の各社から1000機以上を受注している。

■機体の組み立て技術はエアバス仕込み

気になる機体価格だが、現在公表されている“カタログ価格”によると、737MAX8は1億ドルをやや切る水準。一方、C919は約9500万ドルとあまり価格差はない。

メーカーのCOMACはC919について、「国際耐空規格に準拠し、独立した知的財産権を有している」「先進的な空力設計、推進システム、素材を採用し、低炭素化、高燃費を実現」と発表資料に記載している。“知的財産権は中国にある”としているのは、機体に装着する部品やシステムは中国側が設計あるいは選定した、との主張があるが、いずれにしても外国の技術を相当な部分で導入していることは間違いない。

とはいえ、中国は航空機組み立てに関しては高い技術を擁している。COMACは2008年エアバスと組み、欧州連合(EU)加盟国外で初めて天津に合弁工場を設立。エアバス天津として、2020年10月にA320ファミリーの機体を500機出荷した。一部の機体は、中国から日本の各空港へ国際線フライトとして乗り入れている。

香港国際空港のチェックインカウンターに並ぶマスクをした人々
写真=iStock.com/Derek Yung
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Derek Yung

■しばらくは中国国内での飛行のみ

同工場では今や、ワイドボディー機であるA330の組み立ても行っており、キャビンの設置、機体の塗装、製造飛行試験、顧客となる航空会社等の承認、機体引き渡しまでを行っている。

鳴り物入りで登場したC919だが、航空機が安全性と環境適合性の基準を満たしていることを示す「型式証明」は中国民用航空局(CAAC)のみから取得。平たくいうと、中国国内しか飛べず、日本など海外への乗り入れはできない。納入予定機数は「5年以内に年間150機」と言っているところからして、今のところは中国国内の受注残高に応えるのが精一杯だろう。

ただ、欧州航空安全機関(EASA)に証明申請を行っている動きがあるとされるほか、CAACとEASAとの間で一部証明を代用認証可能で合意しているとのニュースも流れている。目下のところEASAは中国との相互認証開始の時期について「コメントできない」と回答しているが、「痛くもない腹を探られたくない」という意思も働いているのか。

■中国にできて、日本でなぜできない?

新型旅客機の生産、といえば日本人としては三菱重工が手がけた三菱スペースジェット(旧、三菱リージョナルジェット=MRJ)の事を思い出さずにはいられない。同機は、数十年にもわたって実現できずにいた国産旅客機の自主開発・生産を軌道に乗せるものとして、大きな期待をかけられていた。

生産プロジェクトは長期にわたり「凍結」されていたが、三菱重工業は2月7日、開発を取りやめ、撤退すると正式に発表。巨額の開発費を投じたが、継続しても採算の見通しは立たず、撤退に追い込まれる格好となった。

パリ航空ショーの舞台で、世界の航空業界関係者にお披露目された三菱スペースジェット(2019年6月)
筆者撮影
パリ航空ショーの舞台で、世界の航空業界関係者にお披露目された三菱スペースジェット(2019年6月) - 筆者撮影

当初、2013年には量産初号機がANAに納入される予定だったものの、合計6度にわたり延期。2017年のパリ航空ショーではANAとのコラボ塗装で登場したりした一幕もあったが、2020年10月以降は事実上の開発凍結状態にあった。パリで展示された機体もすでに解体済みだ。

凍結となったのには、さまざまな生産を進める中で不具合の調整や作り直しという局面も多かったとされるが、結局のところは「型式証明の取得」が極めて難しかった、という事情が大きいように思える。当初から米国の地方短距離路線への売り込みを前提に販売プランを組み立てていたことから、米国連邦航空局(FAA)の証明獲得は不可避だったわけで、そこへの見込みが立たなかったことが大きな敗因と見るべきだろう。

一方のC919だが、あえて欧米での証明取得にこだわらず、「中国国内のみで飛ばせば良い」と自国の航空市場の成長に期待を寄せた点において、三菱スペースジェットとは販売の姿勢が大きく異なる。

■中国製航空機が日本の空を飛ぶ日は来るのか

では、こうした中国製の機体が日本の上空をブンブン飛ぶ日は来るのだろうか。

前述の通り、欧米航空当局が証明を出さない限り、国外である日本へと飛んでくることはあり得ない。

とはいえ、中国国内の航空会社に販売する一方で、水面下では国外に飛ばすための研究・開発は必ずや行っていると予想する。数年後のある時、中国の国内航空会社が、日本のどこかに突如飛ばしてくる可能性がゼロとは言えず、そういう意味では今後動向を気にかけておく必要がありそうだ。鉄道の世界では、中国が欧州への車両輸出もすでに実現しており、大型展示会でも実車の展示を行っている。

2023年夏には、あのMRJ(当時)が晴れ舞台を踏んだパリ航空ショーがある。もしや中国からC919の機体展示があったら、世界の航空界の話題をかっさらっていくことだろう。エアバスの幹部さえも恐れをなして見守っている中国航空界。予想できない何かを引き起こすかもしれない。

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さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。■Facebook ■Twitter

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(ジャーナリスト さかい もとみ)

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