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岸田首相に日本を任せていていいのか…後任最有力の菅義偉前首相がついに沈黙を破ったワケ

プレジデントオンライン / 2023年2月7日 16時15分

自公政権復帰10年のインタビューに答える自民党の菅義偉前首相=2022年12月14日、東京・永田町の衆院議員会館 - 写真=時事通信フォト

支持率低下が止まらない岸田文雄首相について、菅義偉前首相は月刊誌『文藝春秋』(2023年2月号)のインタビューで「派閥政治を引きずっている」と苦言を呈した。政治ジャーナリストの鮫島浩さんは「菅氏が『岸田降ろし』を始めたとみていい。その狙いは首相再登板だろう」という――。

■「理念や政策よりも派閥の意向を優先すべきでない」

岸田文雄首相が最も恐れる政敵・菅義偉前首相が「岸田降ろし」の狼煙(のろし)を上げたのは1月10日、訪問先のベトナムからだった。「理念や政策よりも派閥の意向を優先すべきでない。今は国民の声が政治に届きにくくなっている。歴代総理の多くは派閥を出て務めていた」と記者団に述べ、岸田派会長にとどまる首相をあけすけに批判したのである。

菅氏は同日発売の月刊誌『文藝春秋』のインタビューでも岸田政権について「派閥政治を引きずっているというメッセージになって、国民の見る目は厳しくなる」と指摘。国内外から同時に「岸田降ろし」の号砲を鳴らしたのだ。

岸田首相が欧米5カ国訪問に飛び立ち、国内を留守にした直後を見計らった奇襲だった。この日(日本時間)、岸田首相はパリでマクロン大統領と首脳会談・夕食会に臨んだ。そのころ、岸田首相が首相秘書官(政務)に抜擢した長男翔太郎氏は公用車でパリ市内の観光地を巡り、ビストロで気心の知れたスタッフと夕食を楽しんでいた(週刊新潮報道)。

岸田首相は就任1年を迎えた昨年10月4日、当時31歳だった翔太郎氏を首相秘書官(政務)に抜擢した。小泉純一郎内閣の飯島勲氏、安倍晋三内閣の今井尚哉氏ら政財官界に名を轟(とどろ)かせた大物秘書官が務めたポストである。

世論からは「縁故人事」「公私混同」と批判が沸騰。翔太郎氏が親しい民放女性記者に機密情報をリークしているとの報道が続き、岸田首相の「身内びいき」には政府内にも不信感が充満していた。

■絶妙なタイミングだった「岸田降ろし」の狼煙

そのような悪評もどこ吹く風、翔太郎氏は父親に同行した欧米5カ国訪問でパリに続きロンドンでも公用車でビッグベンやバッキンガム宮殿を巡り、高級デパートハロッズでショッピング。ここで閣僚への土産としてアルマーニのネクタイなどを購入し、大西洋を渡った後はカナダでトルドー首相との記念撮影を執拗(しつよう)に求め、岸田父子と3人でカメラに収まったという。脇が甘いとしかいいようがない。

翔太郎氏の「漫遊」は帰国後、週刊新潮の報道で発覚し、世論の批判が噴出。岸田首相が長男の行動を「公務」としてかばったことでヒートアップした。さらに経産省出身の首相秘書官をLGBTQをめぐる差別発言で一発更迭しながら首相の長男はお咎(とが)めなしというダブルスタンダードを目の当たりにして霞が関の官僚たちにもしらけムードが漂い、岸田首相の求心力は急落した。

「こうして振り返ると菅氏が『岸田降ろし』の狼煙を上げたタイミングは絶妙でした。さすがは策士。官邸は翔太郎氏のパリ・ロンドンでの行動をリークした『犯人探し』に躍起です。首相秘書官の外遊先日程が漏れることはめったになく、ロジを担う外務省を疑っている。外務省は菅氏と極めて近く、菅氏の『岸田降ろし』と連動した波状攻撃を仕掛けてきたと疑心暗鬼になっています」と岸田派関係者は指摘する。

■菅氏の再登板を望む外務省

外務省は安倍政権で冷遇された。安倍首相の最側近である経産省出身の今井氏や警察庁出身の北村滋氏ら「官邸官僚」が内政ばかりか外交まで牛耳り、外交安保政策の司令塔である国家安全保障局長のポストも警察庁出身の北村氏に奪われた。外務省は蚊帳の外に置かれたのである。

窮地を救ったのが菅氏だった。菅氏は安倍氏を受け継いで首相になると外務省主導の外交政策に戻し、国家安全保障局長も外務事務次官だった秋葉剛男氏に差し替えた。外務省は息を吹き返した。

外交経験が乏しい菅氏を外務省シンパに引きずり込んだのは、菅官房長官の秘書官を務めた市川恵一氏である。市川氏はその後、米国公使、北米局長とトントン拍子に出世し、今は筆頭局長の総合外交政策局長だ。大物外交官が歴任した事務次官コースである。

「菅氏の首相復帰をどこよりも望んでいるのは外務省です。市川氏は順当なら事務次官に昇進するでしょう。最大のリスクは菅色が強いこと。岸田首相が菅氏の影に怯(おび)え、人事に介入してくることを外務省は懸念しています」(外務省関係者)

■本人は再登板を否定したが…

岸田首相は5月に地元広島で開催する先進7カ国(G7)サミットでホスト役を務めることに強い意欲を示している。それを取り仕切る外務省に「菅シンパ」が潜んでいて足元をすくわれることがあれば大打撃だ。翔太郎氏の情報流出元に神経を尖らせるのはそうした事情がある。たしかに「岸田降ろし」が一気に加速する気配が政界を覆っていた。

ところが、狼煙を上げた菅氏当人が一転して動きを緩めたのだ。2月1日のインターネット番組で、自らの首相再登板について「私はもうパスだ」と否定したのである。

菅氏はポスト岸田に河野太郎デジタル担当相や萩生田光一政調会長らを押し立てる――そんな分析が相次いで報じられている。本当だろうか。

私の見立ては違う。菅氏はあくまでも自分自身の首相再登板を狙っている。自民党内の無派閥議員らの間でも「菅氏待望論」は盛り上がりつつある。河野氏は国民人気は高くても党内人気は低く、岸田首相が任期途中で辞任した場合の総裁選(党員投票はなく、国会議員と都道府県連代表のみが投票)に勝つのは容易でない。

萩生田氏は安倍派会長の後継レースで一歩リードしているものの、旧統一教会問題のマイナスイメージが残り、いきなり総裁選出馬は難しい。「河野氏や萩生田氏では勝てない」という見方が広がって「菅氏待望論」が醸成させていく機運をつくり出そうとしているのではないのか。

■山場は広島サミット後

岸田首相は5月の広島サミットに並々ならぬ意欲を燃やしている。4月の統一地方選や衆院補選に向けて「岸田首相では戦えない」という不満が噴出しても首相の座を手放さないだろう。「岸田降ろし」の山場は広島サミットが終わった後、防衛増税の実施時期をめぐる党内論議が始まる今年夏以降だ。まだ半年以上ある。今の時点で「菅氏待望論」が広がるのは早すぎる。逆に「菅政権つぶし」の動きを誘発しかねない――そんな老獪な政局判断から「首相再登板」をいったん否定して沈静化させる狙いがあったと私はみている。

実際に「菅政権阻止」の動きは表面化しつつある。その急先鋒とみられるのが検察だ。

菅氏が安倍政権の官房長官として検察人事へ介入したのは周知の事実だ。検察捜査を次々に封じたとして「官邸の守護神」と呼ばれた黒川弘務氏を引き立て、法務省官房長→法務事務次官→東京高検検事長と検事総長コースを歩ませる一方、検察庁が検事総長に推していた同期の林真琴氏を冷遇。黒川氏の定年を延長してまで検事総長に据えようとした。

「菅vs検察」の対立が激化した土壇場で、黒川氏が新聞記者と賭け麻雀していたことが週刊誌報道で発覚し、黒川氏は辞職に追い込まれて林氏が検事総長へ就任したのだった。検察ほど菅氏の首相再登板を恐れている役所はない。

令和3年1月4日 菅内閣総理大臣記者会見
令和3年1月4日 菅内閣総理大臣記者会見(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■菅氏の復権を阻止したい検察の思惑

安倍氏が急逝した昨年7月以降、東京地検特捜部は東京五輪汚職事件に着手して電通出身の東京五輪組織委員会元理事らを逮捕・起訴した。民間人の立件だけで捜査は終結したが、「東京五輪の招致・開催に官房長官や首相として深く関わった菅氏には大きなプレッシャーになった」(岸田派関係者)のは間違いない。

特捜部は今なお電通が絡んだ東京五輪談合事件の捜査を続けている。岸田首相は東京五輪の招致・開催には関与しておらず、検察捜査は「岸田降ろし」を主導する菅氏への牽制であるという見方は根強い。

さらに東京地検特捜部が菅氏に追い打ちをかけるような事件が発覚した。安倍氏や菅氏と親しく、安倍・菅政権下で「マスコミの寵児」となった国際政治学者の三浦瑠麗氏の夫の投資会社への家宅捜索である。

三浦氏の夫の投資会社は、建設見込みのない太陽光発電事業への出資をもちかけ約10億円の出資金をだまし取ったとして刑事告訴されていた。三浦氏は自らが代表を務める「山猫総合研究所」のホームページで夫の会社が家宅捜索を受けたことを認め、「私としてはまったく夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ないこと」と説明した。

その後、①夫の投資会社と山猫総合研究所は同じビルのフロアにある、②三浦氏自身が対談本で夫の経営する会社の株を半分持っていると明かしていた、③テレビ番組に出演して太陽光発電を推す発言をしていた――ことが次々に報道され、「夫の会社経営には関与していない」という根拠が揺らいだ。

■主戦場は、岸田首相が打ち上げた防衛増税

最大の焦点は、三浦氏が菅政権の成長戦略会議に有識者委員として起用され、太陽光発電をめぐり「規制の総点検に関する具体的な業界の要望」を提出していたことだ。

夫の事業を後押しする「利益誘導」との批判は免れず、菅政権の任命責任が浮上するのは避けられない。三浦氏は21年、神奈川県横須賀市であった防衛大学校の卒業式に菅首相と並んで登壇し祝辞を述べている。菅氏との親密な関係は隠しがたい。

岸田派関係者は「今後、特捜捜査の進展にともなって、菅氏と三浦氏の関係はますます注目されていく。東京五輪談合事件と併せて、検察が菅氏への牽制を強めているという構図です。菅氏が自らの首相再登板について『私はもうパスだ』と否定してみせたのは、検察をはじめとする風当たりをいったん弱める狙いがあるのではないでしょうか」と読み解く。

菅氏が「岸田降ろし」の山場とみる今年夏以降、政局はどう動くのか。主戦場となるのは、岸田首相が打ち上げた「防衛増税」だ。

見出しには「防衛財源」の文字が躍る
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

米国が求める防衛力強化とミサイル購入に応じるため、岸田首相は昨年末、防衛費増額の財源を確保するための法人税・所得税・たばこ税の増税を表明した。しかし最大派閥・安倍派などが強く反発したため、増税実施は「24年以降の適切な時期」として23年の税制改正論議に先送りしたのである。

岸田派重鎮の宮沢洋一氏が会長を務める自民党税制調査会で議論を主導し、今年末の税制大綱で決定する――というのが岸田官邸と財務省が描いたシナリオだった。

■復権シナリオの鍵を握る公明党

これに待ったをかけたのが、菅氏に気脈を通じる萩生田政調会長である。萩生田氏は増税以外の財源を検討する党特命委員会を設置して自らトップに就き、今年夏には一定の方向性を打ち出すと表明した。党税調に先駆けて増税以外の財源を示すことで、増税撤回に追い込む算段だ。菅氏も歩調を合わせて増税への慎重姿勢を示している。

萩生田氏は幹事長ポストに意欲を示してきた。安倍派会長の座を西村康稔経産相や世耕弘成参院幹事長らと競い合っている。ここで菅氏に加担して「岸田降ろし」を成就させ、その功績で幹事長に就任すれば、安倍派会長の座も転がり込んでくるだろう。岸田首相さえ引きずり降ろせば、その後の総裁選は最大派閥・安倍派を中心とした「派閥の数」で制することができる。

鍵を握るのは公明党だと私はみている。昨年末は防衛増税に理解を示したものの今年はどう出るか。公明党はもともと岸田首相や麻生太郎副総裁ら主流派より、菅氏や二階俊博元幹事長ら反主流派とソリが合う。今年夏時点で「経済状況が悪化した」として増税慎重論に寝返り、菅氏や二階氏らと水面下で歩調を合わせて「岸田降ろし」を側面支援する展開は十分にあり得る。

■延命したい岸田氏、主流派を切り崩す菅氏

増税包囲網ができつつあることを察したのか、岸田首相は1月30日の予算審議で萩生田氏の質問に対し「(防衛増税の)実施時期を柔軟に判断する」と弱含みに転じた。今年の税制改正での決着にこだわらず、来年以降にさらに先送りして「岸田降ろし」を封じる思惑がにじむ。いざとなれば「増税実施」より「政権延命」を優先させるつもりだろう。

今年夏以降の防衛増税政局を「岸田降ろし」の山場とみて、首相再登板を視野に主流派切り崩しを狙う菅氏。内閣支持率の下落もどこ吹く風、衆院解散権を封印し防衛増税を先送りしてでも24年秋の自民党総裁選まで政権に居座ることをもくろむ岸田首相。前首相と現首相の攻防が今年の政局の中心である。

安倍氏というキングメーカーが去った今、岸田首相の後ろ盾で財務省の後見人でもある麻生氏、ポスト岸田への野心を隠さない茂木敏充幹事長、菅氏と気脈を通じて安倍派会長の座を狙う萩生田氏、麻生派ながら菅氏と連携してポスト岸田を狙う河野氏ら、それぞれの思惑が複雑に交錯して視界不良の権力闘争が続く。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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