プーチン大統領は国民から飽きられている…ロシア国内で「プーチン氏の後継者報道」が相次いでいる理由
プレジデントオンライン / 2023年2月8日 15時15分
■「プーチン後」の報道が拡散するのは異例
ロシア軍のウクライナ侵攻が長期化する中、年明けのロシア・メディアは2024年3月の大統領選をめぐる展望記事を次々に掲載した。プーチン大統領の病気説が公表され、後継者候補を紹介、意外な人物の名前も挙がった。
英国のロシア専門家、マーク・ガレオッティ氏は、「プーチンの賞味期限は切れた。現状にうんざりする人が多く、後継者を期待する声が強い」と指摘する。世論調査のプーチン支持率は引き続き高いものの、戦争長期化で社会に厭戦(えんせん)気分が広がっているようだ。
ウクライナ侵攻は「プーチンの戦争」であり、プーチン氏が退陣すれば、戦争は終結に向かうことになる。メディア統制が厳しいロシアで、「プーチン後」に触れる報道が拡散するのは異例。いずれ規制される可能性もあるが、現時点で大統領選の有力候補を展望する。
■野党、ジャーナリスト、柔道選手、実業家…
ロシア有力紙「コメルサント」(1月13日付)は、クレムリンがプーチン氏の5選に向けて大統領選の準備に着手したと報じた。次回大統領選は今年12月に公示され、24年3月17日投開票の見通し。プーチン氏は新たに2期12年の続投が可能で、12年間勤め上げると、計36年の長期政権となる。
プーチン氏自身は昨年11月の会合で、大統領選出馬の可能性について、「私には憲法上、再出馬の権利がある」としながら、出馬するかどうかは明言しなかった。
とはいえ、5選出馬は既定路線だろう。プーチン氏が出馬しないと表明すれば、すぐにレームダックとなり、ウクライナの戦争指導は困難だ。後継政権が戦争を終結させれば、苦戦の責任や戦争犯罪を問われかねない。憲法規定では、大統領経験者は終身上院議員として訴追を免れるが、この種の規定は意味がない。プーチン氏はあくまで、戦争を長期化させて政権延命を狙うだろう。
とはいえ、ロシアのメディアでは年明け後、後継者問題をめぐる話題がにぎやかだ。
政府系紙「イズベスチヤ」(1月23日)によれば、2018年大統領選に野党・共産党から出馬し、次点だった農場経営者のパベル・グルジーニン氏、野党・公正ロシア幹部でプスコフ市議会議員のオレグ・ブリャチャク氏、改革派政党・ヤブロコ幹部のニコライ・リバコフ氏、18年大統領選にも出馬した女性改革派ジャーナリストのクセニア・サプチャク氏、五輪にも出場した親日家の柔道選手、ドミトリー・ノソフ氏、実業家のセルゲイ・ポロンスキー氏ら、少なくとも11人の多彩な面々が早々と大統領選立候補を表明しているという。
■注目はプーチン氏に物申したクドリン氏
選挙法によれば、下院に議席を持つ5政党は優先的に候補者を擁立できるが、それ以外の候補者は30万人の署名を集める必要があり、署名審査で失格しかねない。それでも、戦時下での相次ぐ出馬表明は政権にとって好ましくない。
注目株は、ウクライナ侵攻に反対するプーチン氏の古い友人、アレクセイ・クドリン元財務相の動向だ。10年間財務相を務め、欧米諸国の評価が高い改革派のクドリン氏は、昨年2月のウクライナ侵攻直後にプーチン氏に面会し、「戦争はロシア経済を破綻させ、社会に重大な亀裂を招く」として直ちに中止するよう求めたという。
昨年秋、会計検査院長を辞めて民間のネット企業に移ったが、下院に議席を持つ新興政党「新しい人々」がクドリン氏の大統領候補擁立を検討中と報じられた。「クドリン大統領」なら、戦争は終結に向かうだろうが、本人は出馬を否定している。プーチン陣営は全力で出馬を阻止しようとするだろう。
■岸田首相をののしったメドベージェフ前大統領も?
ネットメディア「レポルチョール」(1月2日)は、ドミトリー・メドベージェフ前大統領が極右政党・自由民主党の大統領候補として出馬し、プーチン氏と一戦まみえる可能性があると報じた。
メドベージェフ氏は2008年から4年間大統領を務めた後、首相に転出。2020年に安全保障会議副議長に左遷された。当初のリベラル派から極右に変身し、SNSで欧米諸国を激烈に批判している。
「ロシアを通常戦力で脅せば、核戦争だ」「ドイツはポーランド、チェコなどを衛星国にし、第四帝国を創設しようとしている」「日米首脳会談でロシアの核使用に警告した岸田文雄首相は閣議で切腹すべきだ」といった罵詈(ばり)雑言の強硬発言は、ロシア国内でも顰蹙を買っている。
それでも、極端な愛国主義発言は昨年死去した極右政党・自由民主党の故ウラジーミル・ジリノフスキー前党首に匹敵し、自民党大統領候補として出馬するのでは、との臆測が出ている。
「レポルチョール」は、12月31日に新年のあいさつをしたプーチン大統領に続いて、メドベージェフ氏もビデオあいさつしたことを指摘。「メドベージェフ氏のSNS発信はプーチン氏より強硬で、愛国主義者の支持を得ている。自民党党首に就き、大統領選に出馬する可能性がある」と伝えた。とはいえ、30年にわたり忠実な部下だったメドベージェフ氏が、ボスに反旗を翻すとは思えない。
■プーチン氏の後継者は「45歳の若手閣僚」か
「軍保養所」と題したネットメディアは1月、大統領選の分析記事で、①政治エリートが自分たちの身の危険を感じてクーデターを起こす可能性がある、②70歳のプーチンはもう若くなく、膵臓(すいぞう)がん、白血病、パーキンソン病などの臆測があり、統合失調症の疑いもある――とし、プーチン時代は長くないと分析した。
同メディアは後継者として、プーチン氏のボディーガード出身で、モスクワ南部トゥーラ州知事を務めるアレクセイ・ドゥーミン氏を挙げた。同氏は連邦警護局(FSO)出身で、プーチン氏がシベリアで休暇中、クマの襲来から守った忠誠心で知られるが、根拠は示していない。
「面白い人生」という新興ネットメディアは昨年11月、プーチン氏が出馬しない場合の与党・統一ロシアの後継者として最も有力なのは、ドミトリー・パトルシェフ農業相(45)だと伝えた。プーチン氏の盟友で保守派のニコライ・パトルシェフ安保会議書記の長男で、「世代交代の象徴になる」という。
農業相は「教養があり、数カ国語を話し、若く、戦争の経験もない」という。経済学博士号を持つ銀行家で、30代で閣僚になった。父親の睨(にら)みが利き、オリガルヒとシロビキ(軍や諜報機関出身者)の両方から支持を受けやすく、「ダークホース」とされる。
■体制への不満が社会に広がっていることの表れ
このほか、後継候補として挙げられるのが、ミハイル・ミシュスティン首相、モスクワ市長のセルゲイ・ソビャーニン氏らだ。憲法規定では、大統領が職務執行不能に陥った時、首相が大統領代行に就任する。ただし、ミシュスティン首相は経済テクノクラートで、ウクライナ侵攻についてほとんど発言していない。プーチン氏は近く議会で年次教書演説を行い、首相を交代させるとの説もあり、その場合、後任の首相が有力後継候補になり得る。
ソビャーニン市長も今年9月の統一地方選が改選時期に当たる。来年の大統領選を控えた今年のロシアは「政治の季節」で、政治的緊張が高まろう。戦時下で多彩な後継候補が取りざたされること自体、プーチン体制への不満や嫌悪感が社会に広がっていることを示唆しており、要注意だ。
もう一人、大統領選出馬の大穴が、収監中のアレクセイ・ナワリヌイ氏かもしれない。2020年に化学兵器「ノビチョク」を盛られて重体になり、ドイツで治療を受けて帰国後、拘束された同氏は懲役9年の刑で服役中。その経緯を描いた映画『ナワリヌイ』は今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。
可能性は極めて低いものの、プーチン政権が突然終焉(しゅうえん)を迎える事態でも起きれば、釈放され、大統領選出馬の道が開かれるかもしれない。
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拓殖大学特任教授
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。2022年4月から現職(非常勤)。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『独裁者プーチン』(文春新書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミア新書)などがある。
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(拓殖大学特任教授 名越 健郎)
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