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認知症よりも怖い…高齢者医療の専門家・和田秀樹が「人生最大級の悲劇」と断言する"死にいたる病"

プレジデントオンライン / 2023年2月15日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ozgurcankaya

高齢になってからとくに気を付けたい病気は何か。高齢者医療の現場に長年携わってきた精神科医の和田秀樹さんは「認知症にだけはなりたくないと思っている人が多いでしょう。しかし、精神科医の目から見ると、晩年、うつ病になって一生を終えるのが、人生最大級の悲劇だと思います。老人性うつの本当の怖さを知っていただきたい」という――。

※本稿は、和田秀樹『ぼけの壁』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■認知症より怖い“老人性うつ”

「年をとっても、認知症にだけはなりたくない」と思っている人が多いことでしょう。

しかし、私のような精神科医の目からみると、晩年、認知症以上に不幸なことがあります。「老人性うつ」を患うことです。

私は晩年、うつ病になって、「何もしない暗い老人」として一生を終えるのが、人生最大級の悲劇だと思います。私自身、老人性うつにだけはなりたくないと思います。

晩年の日々を楽しく、穏やかに過ごせるかどうかは、うつを防げるかどうかにかかっているといっても、過言ではありません。

体のケアはむろん大事ですが、心のケアも忘れないようにしたいものです。心の不調を感じたときは、ためらうことなく医者に行くことをおすすめします。

「うつ病は心の風邪」という言い回しがありますが、うつ病は決して風邪ではありません。この言葉は、「うつ病は、風邪をひくくらい、なりやすく、誰もが発症する病気」という意味で使われますが、それ以外の点では、うつ病と風邪には大きな違いがあるのです。

いちばん大きな違いは、うつ病が「自殺」という死にいたる病であることです。私はむしろ、「うつ病は心のがん」といったほうが正しいと思います。

欧米では、自殺者が出ると、周辺の人々から生前の様子を聞く「心理学的剖検」が広く行われています。その検証作業によると、自殺者の50~80%が「うつ病」だったと診断されているのです。

■日本の人口の10%近くにうつ症状

では、今の日本に、うつ病の人は、どれくらいいるのでしょうか?

厚生労働省の患者調査によると、約120万人ですが、これはあくまで医者にかかっている人の数です。実数は、そんなものではないでしょう。

国際的に、うつ病の有病率は3~5%とされていますので、この数字を日本の人口に当てはめると、患者数は400~600万人くらいという計算になります。

そのほか、うつ病とまではいえなくても、抑うつ気分の人まで含めると、私を含めた多くの専門家が、人口の10%近くにのぼっているとみています。

そのうち、65歳以上の「老人性うつ」の人数も、正確な数字はわからないのですが、現在、人口の約30%が高齢者であり、高齢者のうつ病発症率が若い人よりも高いことを考え合わせると、全患者の3分の1以上が高齢者であることは、ほぼ確実でしょう。

とりわけ、老人性うつは、自殺を招きやすいので、要注意です。

世界的にみて、うつ病患者の自殺率は、高齢になるほど、上がっていきます。

■老人性うつ病をめぐる「痛恨事」と戒め

私自身、かつて辛い経験をしました。

20代の終わり、浴風会病院に勤めはじめて、まもなくの頃のことです。入院していた「心気症」症状の高齢女性の患者さんが、一度具合がよくなって退院し、その後、再度入院してきたことがありました。

私は主治医をまかされ、前回入院時と同様の治療方針でいくことにしたところ、まもなく病棟で首吊り自殺されたのです。すぐに、呼び出しがかかり、私が遺体を下ろすことになりました。

これは、私にとって、きわめてショックな体験でした。「もう医者を辞めよう」と思うほどに、落ち込みました。その後、反省会のような場が持たれ、先輩からいろいろ教わるなか、「うつ」の怖さを骨身にしみて学びました。「高齢者の場合、『うつ』を見逃さないことが何よりも大事」ということを肝に銘じた経験でした。

それから、約35年間、臨床の現場に立ってきましたが、私はその後、一人の患者さんにも死なれていません。

これは、精神科医として、誇りに思っていることです。35年間、患者さんに「自殺だけはさせまい」と、真剣に取り組んできた結果として、ひそかに自負しています。

なお、医者にかかっている人の自殺者数と精神科医の人数から計算すると、おおむね、精神科医は2年に1人くらいは、患者に自殺されているという計算になります。

病院、待合室でフェイスマスクを着用した日本人先輩女性
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

■医師でさえ見間違える「老人性うつ」と「認知症」

「老人性うつ」と「認知症」は、まったく違う病気ですが、症状には似通った点があります。そのため、家族が「認知症だ」と思って、高齢者を病院に連れてきたところ、うつ病だったということがよくあります。

両者は、初期症状がよく似ています。「なんとなく元気がない」「一日中ボーッとしている」といった症状が似ていることから、医師でさえ、見間違えることがあります。残念ながら、うつ病が原因で記憶力が低下しているのに、アルツハイマー病の進行をおさえる薬を処方されている高齢者がいるのが現状です。

むろん、十分な臨床経験を積んだ医師なら、両者を見分けることができます。たとえば、私は次のような点に注意しながら問診します。

■うつ病と認知症を見分けるポイント

まず、「症状は、いつごろからはじまりましたか?」と聞いて、本人や家族がはっきり答えられるようなら、うつ病の可能性が大です。認知症はゆっくり進行するため、いつから始まったか、はっきりしないことが多いのですが、うつ病はある時期から急に症状が出るので、いつから始まったか、おおむねわかるのです。

つまり、うつ病では、短い期間に、さまざまな症状がいっせいに現れます。外出するのが急に億劫になったり、化粧が急に面倒になるなど、さまざまな症状が、1カ月くらいの間にまとまって現れるのです。

そのため、家族に質問すると、「去年のクリスマスあたりから、こんな調子で」と、症状が始まった「日付」さえわかることがあるくらいです。

一方、認知症はゆっくり進行し、家族の人に聞いても、いつごろから発症したか、よくわからないことがあります。

たとえば、「いつからもの忘れがはじまりましたか?」と尋ねても、「2年前くらいだったかな」「3年前くらいだったかな」というような話になり、本人も家族もはっきり答えられないことが多いのです。一方、うつ病も、もの忘れを伴うことがあるのですが、それは突然はじまります。

台所の流しの近くに立って窓から見ている先輩女性
写真=iStock.com/Wavebreakmedia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wavebreakmedia

■うつ病の場合は自発的に医者にかかる人が多い

また、本人に明確な「自覚症状」があるときも、うつ病が疑われます。たとえば、うつ病の人は、もの忘れが増えたとき、本人にその自覚があり、「もの忘れが激しいのは、アルツハイマーではないでしょうか」などと、自発的に医者にかかる人が多いのです。そういう患者さんは、認知症よりも、うつ病が疑われます。

一方、認知症の人は、もの忘れが多くなっていることに、自分ではあまり気づいていません。そもそも病識(「自分は病気である」という意識)が欠如している人が多く、自らの記憶障害にあまり不安を覚えることなく、ケロリとしています。

また、私の質問に「答えられず、黙り込む」人は、うつ病の可能性大です。一方、認知症の人には、はぐらかしたり、取りつくろおうとする傾向があります。ごまかしてでも、何とか答えようとするのです。

■食欲や睡眠の状態変化はうつの大きなシグナル

うつ病では、食欲障害と睡眠障害が同時に生じることが多いです。

和田秀樹『ぼけの壁』(幻冬舎新書)
和田秀樹『ぼけの壁』(幻冬舎新書)

食欲に関しては、一般に、うつ病の人は食欲が減退します。そして、「不眠」もうつ病の典型的症状で、寝つきが悪くなる以上に、夜中に目が覚めてしまう「早朝覚醒」が多くなります。

ちなみに、認知症の人は、食欲が増すケースが多く、またよく眠り、ロングスリーパーになる傾向があります。そのため、これらの点に着目して、うつ病か認知症かの区別がつくこともあります。

そして、治療をめぐる最大の違いは、認知症は、今のところ、進行を遅らせることはできても、治癒することはできませんが、老人性うつは、適切に治療すれば、かなりの確率で治る病気だということです。

とりわけ、早期に発見し、治療を開始すれば、抗うつ薬がよく効き、90%くらいの確率で治ります。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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