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コロナ禍でも外出を控えなかった高齢者…現役世代の少食化vs.リタイア組の大食い化が進んでいる背景

プレジデントオンライン / 2023年2月9日 11時15分

同じ高齢者、昔と今とではどのような違いがあるのか。統計データ分析家の本川裕さんは「働くのが当たり前になり、自宅に閉じこもらなくなった。その影響もあり、1人の1日分の摂取カロリーは成人層(20~59歳)が減少する一方、高齢層(60歳以上)は上昇し、2019年には逆転した」という――。

■「高齢者」のイメージがひっくり返る衝撃データ

同じ高齢者でも昔と今とではまるで違う。まず、働くようになった。次に、自宅に閉じこもらなくなった。そして少食ではなく、もりもり食べるようになった。

こうした点が統計データで明らかになってきたので紹介しよう。あくせく働かずに自宅で枯れ木のような生活を送り、人生経験豊富なので横町のご意見番として自宅を訪問してくる後輩たちに知恵を授けるといった老人イメージはもはや過去のものだ。だいたい、時代が大きく変化しているので、高齢者の知恵はほとんど役立たずになっている。

まず、高齢となっても、働くようになった点を見ていこう。

図表1には1970年から2022年までの毎年の年齢別労働力率(就業者と失業者の計が人口に占める割合)を掲げた。※高齢者は、通常65歳以上として区分されるが、定年制や年金制度上では60~64歳が高齢者に至る推移段階として特殊な年齢層になっている。また高齢期以前のデータとも対照させたいというねらいもある。そこで、図表1には、高齢期に入る前の55~59歳から5歳ごとに70歳以上までの区分で、男女の労働力率の推移を描いた。

男性と女性とで状況はかなり異なるが、共通する面もある。最初に男性を見ていこう。

50歳代後半では、90%超の人が働くという状況に変化はない。ただし、1990年代前半の時期には労働力率がやや上昇している。これは、当時、企業の定年制における定年到達年齢が55歳から60歳へと延長されつつあったためと考えられる。

60歳以上では、戦後、労働力率はほぼ一貫して低下傾向をたどって来た。定年のない農業や自営業の割合が小さくなるとともに、年金などの社会保障が充実してきて生活のために働く必要が薄くなってきたためと考えられる。欧米を見習ってという側面もあったように思う。ところが2005~06年頃に転機が訪れた。60代の前半や後半では、労働力率が反転し、上昇する傾向に転じた。70歳以上では、反転はしなかったものの、下げ止まって横ばいに転じた。

■なぜ、60歳以上は働くようになったのか

何がこうした変化のきっかけとなったのか。じつは、年金給付年齢の引き上げの流れの中で、老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給開始年齢が2013~25年度に(女性は5年遅れて)、60歳から65歳へ引き上げられることとなり、これに対応するため、2004年制定の改正高年齢者雇用安定法が2006年に施行された。それによる影響が大きいと考えられるのだ。

この改正法では、自社の社員に対して60~64歳の雇用を確保する対策が企業に義務づけられた。対策は、①定年制の廃止、②定年年齢の65歳への引き上げ、③継続雇用制度の導入のいずれかとされた(図表2の「現行」)。この改正法によって、企業の労使はともに60歳で退職、引退というわけにはいかない、と考えるようになったと推測される。

【図表2】シニアの雇用確保措置

では、女性の労働力率はどうだろうか。全体として男性よりレベルが低くなっている。推移を見ると、男性と異なって、定年退職者が多くないため、60歳以上の各年齢層でもほぼ横ばいの動きとなっている。だが、2005~06年頃を境に60代で上昇に転じた点は男性と同様である。男性と異なり50代後半でも上昇が見られることから、これは、将来的な年金給付年齢の引き上げという家計における新事態に対して、夫婦ぐるみで対処しようとしたのではないかと思われる。

政府は、さらに2020年の通常国会に高年齢者雇用安定法の再改正案を提出し、可決成立させた。これによれば、努力義務として、上記3項目の5歳引き上げに加えて、65歳~70歳までの他企業への再就職の斡旋、フリーランスで働く人への業務委託、起業した人への業務委託、NPO活動などの社会貢献活動の参加という項目から少なくとも1つ以上のメニューを導入するとされた。

図表1に見られるように、最近の動きとしては、2017年からついに70歳以上の労働力率までが上昇しはじめたのが目立っている。政府の対策を先取りするような動きがはじまっているようにもみえる。

2020~22年は新型コロナの感染拡大で大きな影響を受けた年であるが、男性60歳以上、女性65歳以上で労働力率の上昇が鈍化したのは、やはりコロナによる外出抑制の影響であろう。しかし、鈍化したものの基本的な上昇傾向は止まっていない。

なお、女性55~59歳の労働力率が2020年に低下しているのは、この層で宿泊・飲食関連のパートタイム労働が多く、コロナの影響が大きいからであろう。

■高齢者は家に閉じこもらず、外に出て活動するように

次に、自宅で過ごす時間がどうなったかを総務省統計局が5年ごとに実施している「社会生活基本調査」のデータで見てみよう(図表3参照)。

年齢別自宅生活時間の推移

調査が2011年、16年、21年と行われているので、2011~16年の変化がコロナ前の状況、2016~21年の変化がコロナの影響をあらわしていると捉えられる。

2011~16年(棒グラフ:ピンク)にはほとんどの年齢階層で自宅生活時間は減少傾向にある。日本人が自宅外で活発に活動する方向にあったことを見て取ることができる。

そのなかでも55~64歳(マイナス28ポイント)と75歳以上(マイナス33ポイント)では自宅時間が大きく減少している点が目立っている。75歳以上の場合はデイケアなどで高齢者施設へ通う人が増えたという要素もあるだろうが、55~64歳のばあいは、通勤に加え、趣味・レジャーなどで外出する人が増えたためと考えられる。

一方、2016~21年の変化(棒グラフ:黒)はどうか。こちらは逆にほとんどの年齢層で自宅時間が増加しており、コロナ禍の影響で外出が控えられるようになったという動きが目立っている。

その中で高齢者はコロナを恐れて若年層より自宅時間が増えたかというと、その反対である。55~64歳(プラス39ポイント)、65~74歳(プラス19ポイント)の自宅時間の増加はそれより若い世代(例:25~34歳はプラス92ポイント)よりずっと少なくなっている。高齢者はコロナ禍でも外出をそれほど控えていないのである。

75歳以上ではむしろ自宅時間がマイナスとなっているが、これは高齢者施設で過ごす時間が増えたためかもしれない。

トータルに見て、高齢者がもっぱら自宅にいるという状況は過去のものとなりつつあるのである。

■意外な事実「高齢者がもりもり食べるようになった」

最後に高齢者の食事量を摂取カロリーで追って見ることにしよう。

結論から言えば、摂取カロリーが減ってきた壮年層とは逆に高齢者の摂取カロリーは近年上昇傾向にある。年齢別のデータ推移を厚労省があまり積極的に公表していないので、ほとんど知られていない事実であるが、ここまで、高齢者がよく働くようになり、自宅に閉じこもることも少なくなっていることを見てきたわれわれにとっては、むしろ、当然の動きであり、また整合的な事実なのではなかろうか。

年齢別1人1日当たり摂取カロリー
国民のカロリー摂取量の長期推移

それではデータを追って見よう。

国民が1人1日当たりどれだけのカロリーを摂取しているかに関しては、2つの指標がある。供給カロリーと摂取カロリーである。

供給カロリーは、生産や輸出入の量から算出される農水省の「食料需給表」を基にするもので、1997年をピークに減少傾向に転じている(全体平均)。

一方、摂取カロリーは厚生労働省の世帯調査である「国民健康・栄養調査」を基にしており、先の農水省データよりずっと早く1971年をピークに減少傾向に転じている(同上)。

図表4には、厚生労働省の摂取カロリーの推移を年齢別のデータが得られるようになった1995年から図示した。※それまで世帯主の年齢別にしか集計されていなかったのが、この年から、世帯全体の食事内容を世帯員各人別に按分して調査する方式に変更された。

全体(年齢計)の摂取カロリー(折れ線グラフ:青)が減少傾向にあるのは、食事量が少ない高齢者が増えているからにすぎないからではないか。そうした仮説が成り立つかを確かめるためには年齢別のデータを追うのが一番である。グラフには、年齢計のほかに、高齢層である60歳以上と成人層である20~59歳、及び成長期の1~19歳について、それぞれの摂取カロリーの推移を示した。

年齢計(1歳以上)の動きは、2010年頃までずっと減少傾向が続き、それ以降、横ばいかやや上向きに推移している。

成人層である20~59歳の動き(折れ線グラフ:オレンジ)は、年齢計の動きとほぼ同じであり、減少していた時期には、年齢計とほぼ並行して減少していた。

なぜ、20~59歳の摂取カロリーは減少傾向にあったのであろうか。これは生活や労働において消費カロリーが少なくなってきているからと考えるほかない。すなわち、肉体労働が減ってきている動き、またクルマやエスカレーター、ロボットなどの普及で筋肉運動が機械に代替されてきていることが影響していると考えられる。ITやネットが発達し、無駄な動きをせずとも済むようになったためもあろう。

20~59歳と顕著な違いを見せるのは高齢層である60歳以上の摂取カロリーの動き(折れ線グラフ:グレー)だ。60歳以上の減少の傾きは緩く、以前は20~59歳よりかなり少なかった摂取カロリーが近年は同等に近づき、2019年にはついに逆転した。摂取カロリーから見て、高齢者とそれ以外の成人との差は急速に消失したのである。

■一方、現役世代はあまりカロリーを消費しなくなった

高齢者は退職後の者が多く、もともと身体を動かす必要が非高齢者より少なく、消費カロリーも多くなかったので、摂取カロリーも少なかった。だが、近年は非高齢者も高齢者と同じようにあまりカロリーを消費しなくなったので、両者は近づいてきたという要因が考えられよう。

さらに、高齢者の労働力率は2005年前後に低下から上昇に転じている(図表1)。また、自宅外で過ごす高齢者も増えた(図表3)。働く高齢者、活動的な高齢者が増えて消費カロリーが増えたので、両者の乖離(かいり)が狭まったというのがもう1つの要因であろう。

なお、高齢者の摂取カロリーが大きく上昇に転じたというのは、いくら何でもありえないのであり、データには統計上のみせかけの要素も混じっているかもしれないという点を付記しておく。というのは、年齢別の摂取カロリーは、世帯の食事内容を世帯員各人に割り振るという方式で集計されているのであるが、高齢者が暮らす世帯はますます3世代世帯が少なくなり、2人世帯や単独世帯が増えていて、食品ロス率が上昇している可能性が高いからである。

図表5には入手した食品のうち食べ残しや廃棄などで生じる食品ロスの割合を少し調査年次は古いが食事管理者(食事を作る人)の年齢別に示した。高齢世帯では食品ロス率が大きいことがうかがえる。

【図表5】年齢別食品ロス率

国民健康・栄養調査におけるカロリー計算は、例えば料理に大根1本を使ったとしても、そのうち残したり廃棄したりする一定割合を引いて口に入るカロリーを計算しているわけであるが、その一定割合に関し少なくとも高齢者については過小評価の程度が年々高まっている可能性があるのである。

この記事のテーマからははずれるが、図表4で成長期である1~19歳の摂取カロリーが年齢計や20~59歳と同じように減少傾向にあり、最近も下落が続いている点も興味深い。カロリーというよりたんぱく質やビタミンなどが充実してきたのでこれで十分なのかもしれない。ゲームやネット時間などインドアでの時間が増え、外で遊ばなくなってあまりお腹がすかないのかもしれない。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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