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夫より、妻より優しい「レンタルお母さん」サービスの正体

プレジデントオンライン / 2023年2月10日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

エアコン掃除や電球の取り換えなど、代行サービスはありふれている。しかし孤独な人生、会話もなく、心のふれあいがなければ、ただ寂しいだけだ。そんな現代人の孤独を癒す、真心のこもったサービスがあった! 「プレジデント」(2023年3月3日号)の特集「ひとりが楽しい人生戦略」より、記事の一部をお届けします――。

■心のスキマ、お埋めします

「今はシェアの時代。車や自転車だけでなく、お母さんをシェアしたっていいですよね」

こう話すのは、外資系証券会社で働く村上隆子さん(仮名・40代)。東京都中央区のタワーマンションに住む、いわゆるバリキャリ女性だ。アルマーニのスーツを愛用し、白いBMWを乗り回し、年収は20代の頃から数千万円を稼いできた。誰もが憧れる生活をしていると思いきや、こう心情を吐露する。

「傍から見れば、私はすべてを手に入れた勝ち組の女に見えるでしょうね。しかし、心が満たされない。火のつかないしけった花火のようでした。ヨシ江さんに会うまでは……」

隆子さんは既婚者だが子供はいない。同業者の夫と同居しているものの、10年近く家族らしい会話をした記憶がないという。

「『おはよう』も『おやすみ』すらありません。食事もベッドも別です。平日も休日も、お互いどんな過ごし方をしているのか、さっぱりわかりません。きっと、よそに女の人をつくっているのでしょうね。それでも私の心にはなにも波風が立ちません。夫婦として、終わっていますよね」

離婚の話が出たこともあるにはあるが、なんとなくお互いが踏み出せず、家庭内別居の状態が続いている。

「家庭で話をする人がおらず、私の心は孤独です。仕事に成功したときは、家族に話して、褒められたい日だってある。しかし、うちにはそういう存在はいません。なにせ旦那と私は同業者で、ある種ライバル関係でもある。以前、仕事が大成功して報告をしたところ、『なんだ、そんなことで』と鼻で笑われてしまいました。それ以来、もう仕事の話はよそうと思っています。私の唯一の話し相手は、家中をウロウロするお掃除ロボットだけ。もちろん、返事をしてくれることはなく、ふと我に返ってむなしさを感じます」

■突然、現れたお母さんのような人

そんな隆子さんのもとに、ある1通のメールが。利用中の家事代行サービスからの連絡で、担当者が変更になるという。隆子さんは、このサービスを週に1度利用し、家の掃除や洗濯、ベッドメイクを頼んでいる。

これまで家に来ていたのは、隆子さんと同世代のパートの女性。普段は3人の子供を育てる主婦のようで、庶民派ブランド「アネロ」のリュックサックには、子供の写真を加工したキーホルダーがつけられている。化粧っ気がなく地味で、見る人が見たら、50代にも見えるかもしれない。

「自分とは正反対の人生を歩んでいるなと感じます。私のように派手な暮らしをしている同世代を見て、彼女はどう思っているのでしょうね。来ていただく日も特におしゃべりはせず、『お風呂を念入りにお願いします』のように、必要最低限の会話をする程度でした」

特に会話はないものの、テキパキ家事をこなしてくれ、仕事ぶりに隆子さんは満足していた。その女性の代わりに来るようになったのが、ヨシ江さん(仮名・60代)である。白髪交じりのショートカットに、目じりのシワがしっかり刻まれた、どこにでもいそうな初老の女性だった。

「なんとなく、九州の田舎の母と雰囲気が似ているんです。背が低くて、エプロン姿でちょこまか動き回り、家中を磨き上げるその姿。“ザ・お母さん”という風貌の方です。そんな雰囲気の人が家にいるだけで、不思議と心が癒やされました」

ある日、隆子さんは仕事で大きなミスを犯し、家でため息をついた。それに気づいたヨシ江さんが、何げなく話しかけてきた。「最近、お疲れじゃないですか?」と、とても包容力のある声だった。

「お母さん」のような存在がいるだけで、どうしてこんなに安らぐのだろう。
「お母さん」のような存在がいるだけで、どうしてこんなに安らぐのだろう。

「この人なら、自分の心を打ち明けても大丈夫そうだなと直感的に思い、私は仕事の話を聞いてもらったんです。ヨシ江さんは、キッチンのシンクをせっせと磨きながら、淡々と話を聞いてくれました。『そう、そんなことがあったの。これまで一生懸命、頑張ってきたんだものね。私にはよくわからない世界だけど、疲れているのは、あなたがよく頑張っている証拠よ』と」

「あなたは頑張っている」、その一言が欲しかったという隆子さん。そう思った瞬間に、力が抜けて、感動の涙がこぼれたという。

「それ以来、ヨシ江さんは私の心の支えとなり、来るのが楽しみになりました。会話をしない日もありますが、定期的に来てくれるだけで、メンタルは安定しています。私の母は九州にいますから、年に1度、会えるか会えないかの距離感です。

『遠くの母さんより近くの業者』ではありませんが、お母さんや、心の支えになる家族をシェアできる時代が今、来ているのだと思います」

■「レンタルお母さん」とは、一体何なのか

夫より妻より優しい、母のようなサービス。隆子さんが利用したのは、あくまでも一般的な家事代行サービスだが、なかには「思いやり」の提供を一番に考えたサービスがある。

その名も「レンタルお母さん」。女性スタッフの便利屋を派遣するクライアントパートナーズが展開しているサービスだ。お母さんのような人が訪ねて来て、お母さんのようにさまざまなことに対応してくれるのだとか。

依頼内容は実に幅広い。家の炊事洗濯など家事をやってほしいという依頼にも、話し相手となり相談事や愚痴を聞いてほしいという依頼にも対応できる。ほかにも「母親として結婚式に代理で出席してほしい」「お袋の味を再現してほしい」「息子の運動会に同行してほしい」など、ホームページを見れば「こんなのもOKなの?」というほど、さまざまな依頼に応えているのがわかる。

ただし、通常の家事代行や便利屋とは、一線を画すのがレンタルお母さんだという。同社の代表取締役・金澤瑠璃氏に話を聞くことができた。

「私たちが提供するのは『安心』です。通常の便利屋といえば、力仕事などを想像するかもしれませんが、私たちが主に提供するのは物質的なものではなく、お母さんのような精神的なサポートです。ご希望の依頼に応えていますが、逆に依頼内容は『特になし』でも構いません」

一体どういうことなのか。

「誰かにただ黙ってそこにいてほしいときもありますよね。ひどく落ち込んでいて、何も話したくなければ、それでも構いません。レンタルお母さんは気持ちを汲み取り、寄り添い、適切なサポートをさせていただきます。自分をつくらずに、そのままの姿で話をしていただければ大丈夫です。精神的なサポートが根底にあり、その一環として、希望があれば家事代行などをするとイメージしていただくといいでしょう」

レンタルお母さんは、人の気持ちを察することにも長けているという。

「ある日、40代女性の利用者の方が、ぽつりと言ったんです。『普段、コンビニやテイクアウトばかりで、もう何年も手作りのご飯を食べてない。死んだお母さんのご飯が食べたい』と。特に年末年始の時期は、故郷がやっぱり恋しくなる時期ですからね。そこでレンタルお母さんが、出身の地域に合わせたお雑煮を作ってあげて、利用者の方に喜んでいただきました」

冷えきった心を察するように、温かいお雑煮を作ってくれた。
冷えきった心を察するように、温かいお雑煮を作ってくれた。

なんとも心がジ~ンとなるエピソードではないか。「お母さん」という言葉を聞けば、どこか温かい気持ちになるのが私たち人間だ。

「『お母さん』という存在は、私たちに安心感を与えるのが役割です。やってほしいことは、その人によって違います。掃除や料理など、家事をこなすだけでなく、そばにいて話を聞くのも、役割の1つです。

たとえばひどい失恋をして『自分にはもう価値がない』と絶望に暮れる人にとっては、『あなたはそのままでも価値があるよ』と安心感を与えてくれる。これも、現代人が求めるお母さん像の1つでしょう。

先ほどお話しした通り、『ただ、そばにいてほしい』という依頼も少なくありません。そういう時に寄り添って、心の滋養をしてあげるのが私たちのサービスなんです」

■我慢して生きるのはもうやめにしませんか

レンタルお母さんの利用者は男女問わず、年齢層は20代から上は70、80代までと幅広い。ビジネスを一生懸命頑張っている人や、何かに我慢をして、ストレスを抱えている人も多いという。週に1回、月に1回など定期的に頼む人もいれば、辛いことから心を立て直すために、ある一定期間を毎日頼む人もいるようだ。

今、このサービスが求められている背景には、現代人の心を蝕む「孤独」がある、と金澤氏は指摘する。

「今の日本には孤独を抱える人や、孤立する人が増えていると感じます。本来、日本人はすごく精神性の高い民族だと思うんですが、それがどんどん希薄化している。仕事やプライベートで失敗すると、自分がどうしてもダメな人間に思えてしまい、自分を責めるようになる。そういうときに、人間は寂しさを感じるのだと思います。なにかと責任が求められる日本社会ですから、そういう人は増えています。

さらにコロナ禍を経て、利用者も増えました。人と人との距離がますます広がっているのも1つの要因です。また話す人はいても、表面上のコミュニケーションで人に合わせるばかりで、本心で話せる人がいないと疲れてしまう。本音を言えずに気を使う人は、ますます孤独を感じるでしょう。

外側から見たらメンタルが強く、問題なさそうな人でも、実は心に問題を抱えている方は、世の中にたくさんいるのです」

■愛情はお金で買える

幼い頃の母親との関係性も1つのポイントだ。

「利用者の中には、小さい頃、お母さんに甘えたかったけど上手に甘えられなかった方もいます。上手に甘えられないと、子供の頃に必要な『心の安全基地』が少なくなってしまう。子供だけでなく、大人も一緒です。心に安全基地があると、困難を乗り越えて、一歩前に進むことができます。

「落ち込むこともあるけれど、私は元気です」。そう笑顔で言える日は、きっと来る。
「落ち込むこともあるけれど、私は元気です」。そう笑顔で言える日は、きっと来る。

私たち現代人は『安心』を求めているのです。それを取り戻すためのサポートをするのが、私たちの目的です。

もちろん『レンタルお母さん』はあくまでも代行サービスであり、主役はご家族です。お母さんというのは唯一無二の存在ですが、そんな本物のお母さんがいながら、足りないところを少しでも補えたらいいなと思っています」

所属するお母さんの中には、カウンセラーの資格を持っている人もいるそうだ。しかし資格やスキルよりも、優しさや思いやりを持っている人を採用基準にしていると金澤氏は言う。

「もしも夫婦や家族で問題が生じていたら、間を取り持つこともしています。もしも本当のお母さんとの関係がうまくいかないなら、うまくいくように手助けをしたい。本来の家族との絆、心のふれあいとはこういうことです、と理解していただき、実践してほしい。

『和を以て貴しとなす』という言葉があるように、『本来の日本にはお互いを尊重しあい、協調することが何よりも尊い』という考え方がありました。かつての日本はコミュニティが絆で繋がれていましたが、今やそれが希薄となり、家庭の中でも個々で過ごすようになりました。そうした絆を通して生まれる豊かな人間性を取り戻す手助けができればいい。このように考えています」

人知れず悩みを抱える現代人。誰にも言えない悩みは、赤の他人であるから話せることもあるのかもしれない。本当に、レンタルお母さんには何でも話していいのだろうか。

「ご安心ください。私たちは偏見や差別なく話を受け入れる訓練をしています。誰にも言えないことでも、困ったときに利用をしていただきたいですね。ただし、医療行為や性的サービスには対応しておりません。スタッフがお酒を飲むことも、判断能力が鈍ってしまうのでNGとしています。もちろん晩酌へのお付き合いはできますが、ノンアルコールでの対応になります。依頼主が男性の1人暮らしの場合は、スタッフ2名からの対応としています」

最後に、こうした安心を提供するサービスがもっと日本中に広まったら何が起こるのか、金澤氏に聞いてみた。

■私たちは疲れ切っているんです

「現代の日本人はみな『安心』を求めています。会社からは結果を求められる毎日で、安心感がないとストレスがたまり、失敗を恐れるようになる。『失敗するなよ』という言葉に、ピストルを突きつけられているような気がしてしまう。このような緊張感と不安に、私たちは疲れ切っているんです。

そのような状態になったら、『安心』を獲得できるサービスをぜひ積極的に利用してもらいたい。日本全体でそうした意識が生まれれば、一人一人のストレスが減り、うつ病患者の割合や自殺率も下がっていく。日本全体がハッピーになるはずです」

今の時代、心のふれあいはお金で買える! 言いたいことも言えない世の中を生き抜くために、豊かで賢いお金の使い道だと言えるだろう。

胸にジ〜ンときた感動体験エピソード

レンタルお母さんなどを展開する「女性スタッフの便利屋 クライアントパートナーズ」にはこんな声が寄せられている。

洋服選び
服装は自分ではわからないことばかりだったので、試着しながらアドバイスを貰えて、とてもいい時間になりました。買うときのポイントを教えてくれたので、1人でも買いやすくなりました。また、季節が変わる頃にお願いします。(男性・30代)
野球観戦の同行
私が応援するチームの勝利を願い、最初から最後まで応援を一緒にしていただきました。一緒に観戦していただきながら、あとから振り返ると、私が野球を見るのに結構没頭してしまったところがあり、申し訳なく思うところもありました。でも、とても楽しく見ることができ、感謝しております。(男性・30代)
手術の付き添い
無事手術も成功し、術後の眠りから覚めたところです。とてもおだやかで、優しく、節度ある態度で接していただき、手術までの待ち時間の会話も楽しく、とても満足しています。(女性・60代)
カラオケの同行
スタッフさんに無事にお会いできました。とても気持ちの良い方で、楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございました。(男性・50代)
カメムシの退治
1人暮らしをしてから、初めてカメムシが出現。動揺していたところ、すぐに飛んできてくれて本当に助かりました。(女性・50代)

(プレジデント編集部)

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