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1億円あっても「取り崩す」だけなら足りない…お金の価値が下がる「インフレ時代の老後」に必要なマネー能力

プレジデントオンライン / 2023年2月11日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

老後のお金の不安は、どうすれば解消できるか。会計学博士の榊原正幸さんは「預金ではインフレに対抗できないので、いくらあっても老後の不安は払拭できない。退職後も資産を増やし続けられるように、なるべく早いうちに株式投資の運用能力を身につけておくべきだ」という――。

※本稿は、榊原正幸『誰も教えてくれなかった「お金と仕事」の話』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■老後資金の不安解消のために必要な能力

「老後の不安」において、常に1位と2位を争っているのが「健康の問題」と「お金の問題」です。ここでは「お金の問題」について簡潔に述べてみます。

お金の心配をしないためには、「資産を築く能力」が不可欠です。では、この「資産を築く能力」とは、いったいどんなものでしょうか。

一つはもちろん、「働く能力」です。定年などで本業を辞めたあとも、定年後再雇用や転職、独立起業、あるいは副業などで「イヤじゃない仕事をする」ことができれば、定年後も安定した収入が得られます。

しかし、定年後再雇用の賃金は、定年前より下がるのが普通ですし、起業もうまくいくとは限りません。また、「副業」による収入は十人十色で、月額5万円以下の人もいれば、100万円以上稼ぐ猛者もいます。月額5万円以下の人は、やはりそれだけでは心許ないですし、月額100万円以上稼ぐ猛者でも、身体を壊したりして働けなくなったあとのことも考えておかなければなりません。

そこで必須となるのが、株式投資による資産運用です。最近よく耳にするようになった「お金に働いてもらう」というやつです。

本当は40歳前後から株式投資を実践して、60歳になる頃には20年くらいの投資経験を積んでいてほしいところではありますが、どんな年齢でも、今から始めて遅いということはありません。

しかし、よく言われるように「投資経験がないのに、退職金を全額つかって投資」は絶対にダメです。最初は少額でいいのでコツコツ投資を繰り返し、運用能力を身につけていくのです。

この「運用能力」こそが、もう一つの「財産を築く能力」です。株式投資によって増えていく財産は、「お金」でもありますが、「経験値」でもあるのです。逆もまた真で、株式投資の経験を積んでいった証が、財産の金額なのです。

■最終的には「運用能力」がモノを言う

株式投資での運用利回りは、配当利回りで3%、キャピタルゲインで7%(いずれも税引き後)の10%を目標とします。

投資初心者の方のために説明しておきますと、配当とは株式を持っている人に対して、一定の期間ごとにその企業から支払われる金額のことを指します。通常、「1株当たり○○円」という形で提示され、多くの株を持っていればそれに比例して配当額は多くなります。

キャピタルゲインとは、株が購入時よりも高くなってから売ることにより得られる利益のことを指します。「株で儲ける」というと多くの人がイメージするのは、こちらかもしれません。

ともあれ、この二つで毎年10%の利益を得ることができれば、老後の運用資金総額が5000万円なら年額500万円、1億円なら年額1000万円の運用益が見込めます。これは、老後の経済的な安心という意味で、かなりデカいです。

複数のコンピュータモニターで株式市場の動向を監視
写真=iStock.com/Edwin Tan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Edwin Tan

そして、「本当に身についた運用能力」というのは(年によって浮き沈みはあるものの)決して失いませんし、比較的安定した成果が出せるものです。

たとえば、年金収入が手取りで月20万円あり、副業からの収入が手取りで月10万円あれば、それだけで月額30万円を確保できます。それに加えて、運用資金総額が3000万円あって、株式投資で(手取り)年率10%を達成できれば、年間で300万円、毎月にすると25万円の可処分所得が得られます。合計すると毎月55万円です。これで、かなりゆとりが持てますね。

■株式投資はインフレに強い

さらにいえば、株式の価格はインフレとともに上昇しますので、インフレ対抗力もあります。強いインフレによって生活費が100倍になっても、株式投資から得られる収入も100倍になれば、十分ゆとりある生活が送れるのです。老後のお金の不安は「運用能力」を身につければ、完全に解消されます。

私は株式投資による運用ができるおかげで、老後のお金の不安は皆無です。株式投資をしていなかったら、平日は「ヒマだ病」に襲われるし、お金の安心は得られなかったと思います。でも今は、そんな老後はまったく考えられません。

「老後には株式投資はしてはいけない」とか、「株式投資をするとしても少額にしなさい」とかいうのは、完全に「前世紀の発想」です。21世紀は、その正反対です。「運用能力なくして、老後の安心なし」です。

■貯金だけでは「1億円」あっても安心できない

一方、最も不安なのが「貯金を取り崩すだけの老後」です。

たとえ5000万円の現金があっても、毎年300万円ずつ下ろしていったら満17年を迎える前に枯渇します。60歳の人なら76歳までしかもちません。1億円あったとしても34年弱、93歳で枯渇してしまいます。

しかも、現金や預金ではインフレには対抗できません。日本はこれまで、少なくとも1991年から2003年までの13年間はデフレ経済でしたが、それだけのデフレ期を含めてさえもバブル前の1986年(37年前)と比べたら、いろいろなものの値段は2倍くらいにはなっています。つまり、「1億円」が枯渇する34年後の300万円の購買力は、現在の2分の1かそれ以下になっている可能性が極めて高いのです。

ということは、貯金を取り崩すだけの老後なんて、「ジリ貧」でしかないのです。

■「安定した老後」を3タイプでシミュレーションする

では、運用能力を身につけることで、どのような老後の設計ができるのか。シミュレーションをしてみましょう。

地味で平穏な生活を好む「ジミーさん」と、普通の生活で大満足な「ノーマルさん」、そして、老後も優雅で派手な生活を送りたい「ハデーさん」の三つのタイプです。

【タイプ1】生活費が月額30万円のジミーさんの場合
お金の計算をする笑顔の老夫婦
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

ジミーさんの場合、リタイア後の「満足する生活費」を「月額30万円」とします。少々多いと思われるかもしれませんが、普段の生活費に加え、住居の修繕費や介護費、その他にも突発的な出費も考慮に入れると、月額30万円でも地味なほうです。

ジミーさんは、65歳まで勤め上げ、収入は年金に移行します。年金は世帯で月額20万円。この時点で、退職金を合わせた金融資産が3000万円ほどあるとします。

ただし、生活費30万円に対して年金は20万円ですから、あと10万円が不足します。そこで、この不足分を「運用」によって賄うのです。

ジミーさんの長期的に達成可能な運用能力は税引き後で「年3%」だとします。私が推奨する「年10%」に比べ、かなり控えめな値です。

①リタイア後の「満足する生活費」の月額:30万円
②運用利回りと受け取る利益の額:年率3%×3000万円=年90万円(月額7万5000円)
③世帯が受け取れる年金の月額:20万円
収支:収入27万5000円-支出30万円=マイナス2万5000円

ということで、目標額に月2万5000円ほど足りないということになりますが、このくらいの金額なら運用以外の「副業」で賄えるでしょう。これでぴったり収支が合いました。財政赤字を垂れ流しっぱなしの日本政府にも見習ってほしいところです(笑)。

もちろん、運用能力を高める、あるいは定年時の資産額を上げることで、副業なしで収支を合わせることもできるでしょう。

ちなみにもし運用も副業もしていなければ、金融資産は25年で底をつきます。90歳の時点で「老後破産」です。

【タイプ2】生活費が月額40万円のノーマルさんの場合
リビングルームで並んで座るシニアカップル
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

「老後を青春時代にするために、もう少しお金をつかいたい」という方もいるでしょう。そういう方を「ノーマルさん」と呼び、ひと月の生活費を40万円とします。毎月、旅行などのちょっとした贅沢ができる金額ですね。

ノーマルさんが受け取れる年金の額は世帯で月額25万円で、退職金を合わせた金融資産が4500万円ほどあるとします。株式投資による運用をしていなければ、金融資産はやはり25年で底をつきます。90歳の時点で、ジミーさんと仲良く「老後破産」です。

ノーマルさんの運用能力は「年5%」とします。ジミーさんは地味な生活で満足しますので、運用利回りも低めに(3%で)設定しましたが、ノーマルさんはノーマルな水準として5%としました。すると、以下のような計算となります。

①リタイア後の「満足する生活費」の月額:40万円
②運用利回りと受け取る利益の額:年率5%×4500万円=年225万円(月額約19万円)
③世帯が受け取れる年金の月額:25万円
収支:収入44万円-支出40万円=プラス4万円

ノーマルさんの場合、副業をしなくてもめでたく財政収支はプラスです(日本政府よ、見ならえ! 笑)。

ただ、副業をしないと何もやることがなくなり、「ヒマだ病」に取りつかれてしまいます。なんらかの副業をして収入を増やせば、1年に一度はちょっと贅沢な海外旅行も楽しめることでしょう。

■運用能力を高めればリッチな老後も夢ではない

【タイプ3】生活費が月額70万円のハデーさんの場合
キッチンで幸せそうなシニアカップル
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

「定年後はとにかく派手に暮らしたい」という人を「ハデーさん」と呼ぶことにします。満足する生活費は月70万円。

退職時の金融資産は1億円あり、運用も長年してきたので年7%の運用能力があるとします。おそらく現役時代の収入も高かったと思われるので、年金も少し多めの月30万円と仮定します。

①リタイア後の「満足する生活費」の月額:70万円
②運用利回りと受け取る利益の額:年率7%×1億円=年700万円(月額約58万円)
③世帯が受け取れる年金の月額:30万円
収支:収入88万円-支出70万円=プラス18万円
榊原正幸『誰も教えてくれなかった「お金と仕事」の話』(PHPビジネス新書)
榊原正幸『誰も教えてくれなかった「お金と仕事」の話』(PHPビジネス新書)

これまた、副業なしでも目標金額クリアです。むしろ毎月18万円、年間200万円以上のプラスが出ますから、かなり贅沢をしても資産は減らないことでしょう。

さらに副業からの収入も含めれば、資産は1億円からどんどん増えていくはずです。

「運用」が、どれほどパワフルに老後の生活を支えてくれるか、おわかりいただけたでしょうか。皆さんも一度、「自分の老後の満足できる生活費」と「定年時の資産の見込み額」をベースに、シミュレーションをしてみることをオススメします。それによって、自分がどれだけの資産を貯めるべきか、また、どれくらいの資産運用能力を身につけるべきかが見えてきます。

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榊原 正幸(さかきばら・まさゆき)
会計学博士
1961年、名古屋市生まれ。名古屋大学経済学部、大学院経済学研究科を経て、同大学経済学部助手。東北大学経済学部助教授、同大学院経済学研究科教授、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授を経て、21年3月に退任。現在はファイナンシャル教育の普及活動を続けている。著書に『株式投資「必勝ゼミ」』(PHP研究所)の他、『現役大学教授が教える「お金の増やし方」の教科書』(PHP研究所)、『会計の得する知識と株式投資の必勝法』(税務経理協会)などがある。

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(会計学博士 榊原 正幸)

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