「33万円のワニ革ケース」も完売…iPhone向け高級ケースで勝負する国内ブランドの独特すぎるこだわり
プレジデントオンライン / 2023年2月11日 10時15分
GRAMASの歴代商品。左下から時計周りに、日本初の一枚革で作られたiPhone 5ケース(2012)、初めて上代が1万円を超えたiPhone 6ケース(2014)、iPhone 13 Proケース(2021)、最新の iPhone 14 Proケース(2022)。 - 写真提供=坂本ラヂヲ
■「高いスマホケースは売れない」常識を打ち破る
1000円前後で買えるスマホケースが並ぶ家電量販店で、2万円でも売れているスマホケースがある。
この値段を聞いた方の多くは、「そんな高いスマホケースが売れるのだろうか?」と思うのではないだろうか? 「スマホを買い替えるたびに必要となるスマホケースは安価なほうが売れる」とも。
ところが、そんな予想を見事に裏切るかのように、そのスマホケースは2014年に発売するやいなや大ヒットとなった。ブランド名は「GRAMAS(グラマス)」。日本で初めての一枚革を使用した横開き手帳型のiPhoneケースのブランドである。
ブランドはGRAMASを筆頭に、10万円を超える最上位ラインの「GRAMAS Meister(グラマス マイスター)」、合皮を中心としたカジュアルラインの「GRAMAS COLORS(グラマス カラーズ)」の3種を展開している。販売するのは「坂本ラヂヲ」(東京都目黒区)。「高いスマホケースは売れない」と言われていた業界の常識を打ち破った企業である。
■ヘッドフォンの美しさを追及し、怒られたことも
ではなぜGRAMASは、「高いスマホケースは売れない」と言われる業界の常識を覆すことができたのか?
そこには坂本氏ならではの「美意識」がある。坂本氏は大学卒業後、「アイワ」(1989年)を皮切りに、数社のオーディオメーカーでヘッドフォンステレオやカーオーディオの開発プロジェクトなどに携わってきた。商品開発においては機能性だけではなく、常にビジュアルも重視したという。
特に話題になったのは、あるメーカーで企画したラインストーン付きの女性向けヘッドフォン。安価なガラス玉ではなく、高品質のクリスタルガラス、スワロフスキーを用いることにより、アンテナの高い女性たちから多くの支持を得た。
「ヘッドフォンに社名が入っていない方が美しいと思い、社名を入れずに企画。販売後、社名が入っていないことが社長に見つかり、怒られました」
■リスナーの声で成り立つような会社でありたい
その後、生体認証で知られる「DDS」(2005年)にて、小型指紋認証ユニット、防水ワンセグTVなど、これまでと違った製品をヒットさせたことが自信につながり独立。2009年に「坂本ラヂヲ」を設立した。
社名の由来について坂本氏は、「ラジオというメディアは、リスナーの声で番組が成り立っています。ラジオ世代だった私にとって、自分たちのものづくりはユーザーとそんな関係でありたいという想いから命名しました」と話す。
「ラヂヲ」という旧字体をあえて用いているのは「老舗感を出すため」。社名の自体に関しても、「ただなんとなく」ではなく、ビジュアルからくるイメージを意識しての命名だった。
また、坂本氏はファッションへのこだわりも強く、スーツから小物に至るまで、常にトータルで自らコーディネートしている。
そんな坂本氏が切望したのが、「手帳型」のスマホケースだった。
■「スーツにシリコンケースなんてかっこ悪い」
「私が初めて手にしたスマホがiPhone3Gでした。当時、スマホケースと言えばシリコン製のカバータイプのものが主流で、手帳型のケースは縦型のみ。それも選択肢がないほどマイナーな存在だったんです。スーツにシリコンケースはどう考えても似合わない。何でこんなかっこ悪いケースしかないんだろう? そうだ、世の中にないんだったら、日本一、いや、世界一かっこいいスマホケースを自社で作ってしまえばいい。GRAMASはそんな考えから生まれました」(坂本氏)
![スーツや小物のコーディネートにこだわりを持つ坂本氏](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/1/1200wm/img_a1b8d2eaa2f617bb6c59437e54972d05455835.jpg)
本来、企業であればきちんとマーケティングを行い、利益を出すことを第一に考えて新製品を作るのが一般的。しかしGRAMASはマーケティングを一切行うことなく、坂本氏の「スーツに合うかっこいい手帳型のスマホケースが欲しい」という純粋な思いから製作が決定した。
しかし、開閉にワンアクションを要する手帳型のスマホケースに、坂本氏はなぜそこまでこだわったのだろう?
■人目に触れるスマホケースは「手帳型」しかない
「かつてスマホは机の上に置くものではなく、バッグの中にしまっておくものでした。特にビジネスシーンでは、スマホをテーブルに置くのはご法度。商談中にスマホを触るなんて、とてつもなく失礼と見なされていましたよね。しかしスマホやアプリが進化するにつれ、商品の写真を撮ったり、その場で検索したりと、ビジネスシーンでのスマホの登場率が増大。それにより、スマホは人目に触れる存在となりました。
ビジネスシーンであれば余計にスーツに合う上質な本革製で、見た目もいいスマホケースが欲しくなる。また、使用頻度が高くなった分、スマホの画面を確実に守ってくれるふたのあるケースがいい。これらのことをトータルして考えると、手帳型以外の選択肢がなかったのです」(坂本氏)
![坂本氏のスマホケースは「GRAMAS Meister」。常に自社の最新商品を身に着け、使用感や改善点を次の商品開発に生かしているという](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/8/1200wm/img_78f1cc214c7eec0547fb7ecaa2152f51466514.jpg)
こうした考えをもって、日本初となる横開きの本革製手帳型スマホケースの製作がスタートした。しかし、いざスタートしてみると、日本で横開きの手帳型スマホケースを作れる工場はほぼなかった。2~3社あたってサンプルを作ってもらったこともあったが、坂本氏が納得するクオリティーに達しない。
困り果てて訪れた「Hong Kong Electronics Fair」(香港エレクトロニクスフェア)で、偶然にも坂本氏は横開きの自国の警察手帳を製作する、ある韓国の生産メーカーと出会う。「ここだ!」と坂本氏は思った。
■“革オタク”とタッグを組み、構想1年で完成
「その会社は韓国の警察手帳をはじめ、各公共機関に手帳などを収めている信頼できるメーカー。社長はいわば“革オタク”とも言える人で、とにかく革に詳しい。試しにサンプルを依頼してみると、ほぼ完璧なものが上がってくる。100単位でも受けてくれるということもあり、発注依頼をしました」(坂本氏)
「完璧」と言いながらも、サンプルの差し戻しは4~5回あった。ケースの周囲を縫うステッチをミリ単位で変更依頼する坂本氏の注文に、工場の担当者から「できない。コストと時間がかかる」と言われることも多かった。それでも坂本氏は一向に引くことなく、自らの思いを貫いた。
そして構想から1年、ようやく坂本氏が首を縦に振るクオリティーのサンプルが完成した。そこまで厳しい基準を設けたら、さぞや開発費がかかったかと思いきや、「実は開発費はほとんどかかっていないんです」と坂本氏。
■社員すら「売れない」と予想していたが…
「これは私の『とにかくいいものを作りたい』という思いと、『日本人が求めるクオリティーを実現したい』という職人魂、そして双方の情熱に共鳴した“革オタク”の社長の思いが一致したからだと思います。実は今もサンプル代は無料なんです」
![「坂本ラヂヲ」設立の翌年、2010年にGRAMASのブランドを立ち上げ、2012年に日本初となる本革製手帳型スマホケースを販売](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/a/1200wm/img_1ac55547a09f995b15fa600859d22349464783.jpg)
こうしてGRAMASの手帳型スマホケースは、製作を依頼する側、そしてそれを受ける製作側の「いいものを作りたい」という共通した思いをもって、2012年に完成した。当初は5000円だったが、「原価にとらわれず、自分が使いたいと思える心から欲しいもの」に集約して作った2014年発売の手帳型スマホケースの上代は、iPhone 6用が1万円、Phone 6 Plus用が1万2000円(ともに税込)となった。
社員からも「そんな高いスマホケースは売れない」とまで言われた通り、当初営業は大苦戦。一時は販売すら危ぶまれたが、「日本の人口1億人のうち、1000人ぐらいは自分と同じ感性の人がいるだろう」という坂本氏の考えのもと、販売に踏み切った。
すると瞬く間に完売となり、順調な売り上げを記録。その後、ユーザーからの意見を取り入れつつ、バージョンアップを繰り返す度にケースの値段が上がっていったが、売り上げは下がるどころか右肩上がりになった。年商28億円を記録したのは、発売からわずか5年目のことだった。
■一枚革にこだわり、ベルトは絶対につけない
年1回のペースで発売される新作iPhoneのサイズや規格に合わせて新商品を発売しており、iPhoneを乗り換えると同時にGRAMASのケースを買い求める“常連客”も多いという。
では、iPhone14対応の最新バージョンをベースに、その数えきれないほどある坂本氏の手帳型スマホケースへのこだわりの中から、2つほど紹介しよう。
第一に考えたのは、当初に挙げた「スーツに合うスタイリッシュな見た目」であること。スマホをスーツのポケットに入れた際、シルエットが崩れないことを考慮すると、一枚革で作るのが適していた。革といっても何でもいいわけではない。ランクが高く、手になじむクオリティーの革を選んだ。
![一枚革はこだわりの一つ。最初に1枚の革を繰り抜いて作成したモデルは、決して耐久性が優れているとは言えず、ユーザーやスタッフの声を参考にアップデートを繰り返した](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/a/1200wm/img_4a5bbb06fba46b076d43266feb6a3a15442810.jpg)
デザイン上、「絶対に付けたくない」と坂本氏が思っていたのが、ケースのふたを留めるベルト。理由は「所帯じみた雰囲気で、ビジネスシーンには合わない」から。それを実現したのが、ケースのフレームに仕込んだ磁石だ。ガウスを測り、ふたがピタッと閉まる基準の磁石を採用している。
■ケースの角はあえて直角にして強度アップ
また、交通ICカードなどを入れるポケットは、ケースの内側をウエーブ状にカットし、袋状に成形。これは見た目の美しさだけではなく、使っているうちに革が伸びてもカードが落ちにくい細工が施されている。
第二のこだわりは「強度」。GRAMASのケースの角は実はあえて直角になっている。これはスマホが角から落下した時、本体に衝撃が伝わりにくいという利点もある。ケースの中心となる部分の芯だけを抜いていることもまた、強度を上げる大きなポイント。これにより革の割れを防ぐことができると同時に、開閉もしやすくなる。
![角に丸みのある一般的な手帳型ケース(奥)と異なり、GRAMASのケース(手前)は直角になっている。GRAMASのケースは、革の端を折ってからステッチを施す「ヘリ返し技法」で仕上げることにより、耐久性を高めている](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/0/1200wm/img_60d29a808d9e3b102052d61d360cd777488284.jpg)
■値引きが当たり前の家電量販店でも販売開始
坂本氏の予想通り、顧客の中心層はスーツを着るシーンが多いと思われる30~50代の男性。職業はビジネスパーソン、経営者が40%以上を占めている(GRAMAS Official Shop 直近2年間のデータ)。
「2019年に発売した希少性の高い高級クロコダイルレザー『ヒマラヤ』を使用した28万円と、33万円のケースはすぐに完売しました。手間とコストをかけた商品の値段が高くなるのは当然。その価値をわかってくれる人は必ず一定数います。こうした結果から、“安いから売れる”という考えが必ずしも正しいとは言い切れないと思いました」(坂本氏)
![上質なクロコダイルのなかでも、腹部から脇腹にかけての「ヒマラヤ」と呼ばれる部位を表面にあしらったiPhoneケース。内側には耐久性に優れた希少な象革を使用した(XS用28万円・XS Max用33万円、終売)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/7/1200wm/img_778def4c206020e21f21f96475086712437437.jpg)
自身の感性を信じること。これもまた勝因の1つになったように思う。さらにプラスとなったのは「徹底したブランディング」だ。
高級感を維持するため、当初は「UNiCASE」や「AppBank Store」といったスマホアクセサリー専門店でのみ販売。強気とも言える値引き、返品なしという厳しい条件を提示しながらも、販路を徐々に拡大していった。人気が加速する2017年、某家電量販店が同条件でGRAMASの導入を開始。値引きが当たり前の量販店では稀有なことである。
■スマホケースを見れば、どんな人かわかる時代に
「生意気かもしれませんが、GRAMASのよさをわかる人にだけわかってもらえたらいい。媚びるつもりも、大量に作って安く売ろうとか、ひと儲けしてやろうという気はさらさらありません。かつてホテルマンは、靴を見ただけでどんなお客さまかがわかると言われていましたが、今はスマホケースを見ればわかると言っても過言でなない。スマホ決済が進む中、スマホの利用率は一段と上がっています。だからこそ見た目にもこだわりたい。機能面も兼ね備えたガジェットとファッションの間をいくスマホケースを作り続けたいですね」(坂本氏)
今や「生活の一部」となったスマホ。スマホがなくなることはないにしても、今後はますますスマートウォッチやスマートグラスといったウェアラブルデバイスが進化していくと思われる。主力商品がスマホケースの坂本ラヂヲは、どのような商品展開を考えているのだろうか。
■近い未来に向け、スマートウォッチバンドを強化
「あくまで私の予想ですが、未来のスマホは今のような板型の形状をしていないのでは? と思っています。今はスマホというデバイスに、通話・ネット接続・カメラ・決済・体調管理などの機能が集約されていますが、これからは一部の機能が分散されるのではないかと考えています。その最たる例がスマートウォッチです」
「スマホから切り離すことによって、より簡単に、そしてさらに正確に体調管理の記録がとれるようになりました。また、そう遠くない未来、スマホをかざすことなく身体に埋め込んだチップ、あるいは店舗内の顔認証で決済をする日が訪れるかもしれません。そうしたことを踏まえ、当社は、現在スマートウォッチバンドの企画を強化しています。と同時に、ファッションが時代とともに変化するように、GRAMASもあらゆる変化に対応できる準備をしている最中です」(坂本氏)
![GRAMASは本革製のスマートウォッチバンドも展開している](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/7/1200wm/img_2763af3aa4e92d6d89f54e9c68e593f8463548.jpg)
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酒ジャーナリスト・エッセイスト
1966年、東京都生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。「酒と健康」「酒と料理のペアリング」を核に各メディアで活動中。「飲酒寿命を延ばし、一生健康に酒を飲む」メソッドを説く。2015年、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを柴田屋ホールディングスとともに設立し、国内外で日本酒の伝道師・SAKE EXPERTの育成を行う。現在、京都橘大学(通信)にて心理学を学ぶ大学生でもある。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』『名医が教える飲酒の科学』(ともに日経BP)、『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』(シンコーミュージック)、『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)など多数。
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(酒ジャーナリスト・エッセイスト 葉石 かおり)
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