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日本の高速道路は世界一高いのに…堂々と「無料化は2115年まで先送り」と説明する岸田政権の時代錯誤

プレジデントオンライン / 2023年2月10日 17時15分

閣議に臨む岸田文雄首相(中央)ら=2023年2月10日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

政府は今国会で「2115年まで高速道路の無料化は先送りする」という法律案を成立させる予定だ。ジャーナリストの小川匡則さんは「日本の高速道路料金は世界一高い。やるべきことは無料化の先送りではなく、高すぎる通行料をいますぐ引き下げることだろう」という――。

■世界一高い高速料金が2115年まで続く

日本の高速道路料金は世界一高いことで知られる。

東京から名古屋まで行くには片道で7000円以上かかり、大阪だと1万2000円以上もかかる。そこまで遠方でなくとも、ルートにもよるが大宮までは3000円程度、宇都宮までは5000円程度と高価で、気軽に利用することははばかられる。

これに対して、アメリカやドイツ、イギリスなどでは原則無料、フランスやイタリア、韓国などでは有料だが、日本ほど高い国はない。

しかし、日本の高速道路は「一定期間の料金収入により整備・管理に必要な費用を賄った上で、その後は無料開放する」という原則だ。つまり、将来的には「無料化」するとしているにもかかわらず、ずっと「世界一高い」料金が続いているという奇妙な国なのだ。

そんな中、政府は「道路整備特別措置法及び独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法の一部を改正する法律案」という法案を閣議決定し、今国会に提出する予定だ。

長い名称だが、要するには「2115年まで現在の世界一高い高速道路料金を維持する」ことを決めるという驚くべき内容の法案なのである。

■無料化が事実上棚上げにされた

国土交通省はこの法案を提出する主な理由として「平成26年度からの点検強化により、重大損傷の発見が相次いでいる」と説明。大規模な修繕が各地で必要になっていることを挙げた。高速道路の修繕などの事業を追加で行うためには、事前に「必要な費用の返済を完了させるまでの期間」を設定し、高速道路会社が国交大臣に許可申請を行う必要がある。もちろん返済に充てる原資はドライバーから徴収する通行料となる。

そもそも、政府は2005年の旧道路公団の民営化に伴い、料金徴収を最大50年とし、その後は無料開放する方針を定めた。その後、中央道笹子トンネルの天井板崩落事故が発生(2012年)。国交省は財源確保のため、徴収期間の15年延長させた。つまり現状は2065年までに料金徴収を終了し、無料化しないといけないことになっている。

その期間を今回さらに50年延長し、2115年までに完了させて、そこからようやく無料化するように変更するというのがこの法律案なのだ。

しかし、これまでの経緯を振り返れば、数十年後も再び「大規模な修繕が必要になる道路が見つかった」として有料期間がさらに延長されることになるのは明らかだ。無料化が事実上棚上げされると言っていい。

つまり、永久に現状の「世界一高い高速道路料金」を維持していくというのが国交省の方針であるとみるのが自然である。民主党が「高速道路無料化」を公約に掲げて政権交代したが、その100年後になっても無料にはならないというのは悪い冗談としか思えない。

■高速道路を無料にできない根本原因

なぜ、こんなことになってしまっているのか。

その元凶となっているのが、「債務の償還主義」だ。

高速道路の基本的な考え方は「ユーザーが応能負担し、かかった費用を返済できたら無料にする」というものだ。高速道路は最初に莫大な費用をかけて建設される。その費用を高速道路料金として徴収し、返済に充てていくのだ。

その仕組みはこうだ。

2005年に道路公団が民営化されてNEXCO東日本、中日本、西日本の3社に分割された。

道路公団が保有していた債務は40兆円あったが、それは「独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構」に承継された。

NEXCO3社はドライバーから徴収した料金収入からこの機構に毎年返済していく。それでも、昨年3月末時点での債務残高はなんと28兆2714億円に上る。要するにNEXCO3社がこの債務残高の返済を終えない限り、高速道路は無料にならないということでもある。

ただし、道路を維持していくためには一定の補修などランニングコストも必要になる。現在は料金収入のうち2割程度がランニングコスト、8割程度が償還に充てられている。

【図表】令和3年度の債務残高の推移
出典=日本高速道路保有・債務返済機構「債務残高の推移(決算ベース)」

■将来の無料化より、今すぐ料金を安くするべきだ

こうした政府の償還主義を厳しく批判する人がいる。近藤宙時氏との共著『地域格差の正体 高速道路の定額化で日本の「動脈」に血を通わす』(クロスメディア・パブリッシング)がある元トヨタ自動車副社長の栗岡完爾氏だ。彼はこの償還主義こそが日本における高速道路の価値を下げていると断じる。

「これから100年の間に償還すると言っているが、アホとしか言いようがない。『あんたは100年後も生きとるんか』という話だ。例えば、高速道路の先につながっている港湾や空港は無料化を前提とした償還主義ではやっていない。永久に有料です。どれも構築物なのだから補修する費用は必要になるのは当たり前のことです」

28兆円にものぼる莫大な債務を償還するために世界一高い高速道路料金となってしまっており、それが高速道路の活用を妨げている――。そこで栗岡氏は、「『将来の無料化』というこだわりを捨てて、高速道路料金を安くするべきだ」と語る。

中央道・三鷹料金所
写真=iStock.com/501room
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/501room

高速道路の料金は基本的に「ターミナルチャージ(150円)+距離料金(1キロ当たり24.6円)」である。

「これでは1キロ走るごとに関所を通るようなもので、目的地を遠ざける愚策です。そもそも飛行機や新幹線、電車にタクシーといった交通機関は『乗っけてもらう』ものです。ところが高速道路は自ら車を用意して、ガソリン代をかけた上、自分で運転する。それなのに他の交通機関のように『乗った距離に応じてお金を支払う』という発想がおかしいのです」

■800円の定額制で採算は取れる

栗岡氏が提唱するのが「高速道路の廉価定額制」である。

公表されている資料から2021年度の年間での料金収入を走行台数で割ると、NEXCO東日本では一台当たり746円、NEXCO中日本では911円、NEXCO西日本では682円。3社平均は763円だった。さらに過去15年にわたっても調べたところ、平均額は553~826円の間を推移していた。

つまり、高速道路料金を「800円」の定額制にしても現在と同水準の料金収入が得られるということである。

裏を返せば、現在は800円からターミナルチャージ150円を引いた650円分の距離(26.4キロ)程度しか平均では走っていないということでもある。これは高速道路のもつ「都市間を高速でつなぐ」という機能を全然生かせていない現状を明確に示している。

「日本で『ロジスティック』を『物流』と訳したのは大きな間違いです。本当の意味はまず『人流』があって『物流』、そして『情報流』が含まれるのです。高速道路の利用が促進され、都市間の移動がもっと活発化するとそうした本当の意味でのロジスティックが進み、日本経済にとって大きなプラスとなることは間違いありません」

実際にその成功例もある。

2009年3月から2011年6月まで「土日だけ、ETCを搭載した乗用車に限り」上限1000円での走り放題の料金制度を実施した結果、高速道路の通行量は2008年度の約23億台から2010年度には約27億台へと2割程度増加した。国交省はこのときの検証として、観光消費拡大は直接効果として年間3600億円、間接効果も含めると年間8000億円と試算しているのだ。

高速道路
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

■料金の見直しが日本経済再生の起爆剤になる

定額制にすることの利点はこれだけではない。

「日本の高速道路の欠点は出口で料金を支払うため出口が少ないことです。それによって渋滞も生まれやすい。定額制にすれば入口で料金を支払えばいいので、もっと短い間隔で出口を作ることができるし、料金所が不要になるため渋滞も大幅に防ぐことができる。それによって走行速度も速くなり、都市間の移動時間も短縮できる。その上、道路の補修費用も確保できる。安くなれば利用者も増えるので今まで以上の料金収入を得る可能性だって十分あります」

また、今は距離料金を念頭にしたさまざまな割引制度があるが、こうした複雑な料金制度も必要ない。深夜割引を利用するために夜間に走ったり、安く済ませるために下道を使っているトラックドライバーの負担軽減にもなる。

「例えば『乗用車は一律200円、大型観光バスなら一律800円』といった車種別に適切な定額料金設定にすれば、高速道路の持つポテンシャルを最大限に発揮し、日本経済再生の起爆剤にもなると考えています。無料化と違い、料金収入も確保できます。メリットしかなくてデメリットは一つもない。この案に反対する理由は国交省が『将来の無料化を前提にした償還主義にこだわっているから』という以外に考えつかないのですが……」

高速道路を気軽に利用できれば国内旅行ももっと加速することは「土日上限1000円」とした社会実験からも明らかだ。また、通勤圏も拡大するため、地方の活性化につながることも期待できる。

■岸田政権の現状維持がいちばんの悪手である

物流価格も低減化することから高速道路を直接利用しない人でもその恩恵を受けることができる。「地方の人ほど送料が高くつく」といった不平等も是正することにつながる。

何より「高速道路料金が高くて必要なのに使えない」という多くの国民に応えることが何よりも重要なはずである。

「忘れてはいけないことは『高速道路は国民全員の所有物である』ということです。住んでいる地域で差をつけるようなことをしてはいけないし、いかなる人に対しても便益性に差がついてはいけない。しかし、現状の距離制の料金体系だと東京など都心に住んでいる人はいいが、地方の人は大きな不利益を被ってしまう。こんな現状を許していてはいけません」

岸田政権は2115年まで、高速道路の無料化を先送りする方針だ。それは日本経済のため、国民の生活のためになるのだろうか。無料化にこだわるあまり、それを先送りするのは本末転倒だ。栗岡氏が指摘するように、償還主義にとらわれず、定額制を含めた世界一高い高速料金の見直しこそ先決ではないのか。

国や地方のあり方、経済成長、地方創生、労働環境などあらゆる課題を好転させられる可能性があるのが「高速道路政策」だ。だが、この国会で大した議論もなく「現状維持」が100年近く続いてしまう重要な決定がされてしまうのだろうか。

もしそうなれば、「失われた30年」と言われる日本社会の停滞が、さらに何十年と続いてしまうことを予兆しているように感じてならない。

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小川 匡則(おがわ・まさのり)
ジャーナリスト
1984年、東京都生まれ。講談社『週刊現代』記者。北海道大学農学部卒、同大学院農学院修了。政治、経済、社会問題などを中心に取材している。

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(ジャーナリスト 小川 匡則)

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