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「オムツ定期便」は意味あるんですか?…ひろゆきの「アマゾンのほうが便利」に明石市長が返した答え

プレジデントオンライン / 2023年2月16日 20時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

兵庫県明石市は10年連続で人口が増えている。泉房穂市長は「子どもの医療費は所得制限なしで無料化するなど、子育て支援を充実させたことで中間層が移り住み、税収も伸びている」という。ひろゆき氏との対談をお届けする――。(第1回/全3回)

※本稿は、泉房穂、ひろゆき『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■子育て支援に注力したら結果として経済成長がついてきた

【ひろゆき】実際問題として、人口が減っていくと、経済は衰退していきますよね。世界的に見ても、経済成長を続ける国は、人口が増えていて、かつ教育にお金を突っ込んでいるのが共通項だと思います。明石市の場合は、少子化対策というよりも子育て支援に力を入れた結果、経済の循環や人口増につながったということですか?

【泉房穂】そうですね。将来的な経済成長はもちろん頭にありましたけど、最初からそこをピンポイントに狙っていたわけじゃないということです。メディアには、わかりやすいから「人口増」とか「税収増」って言ってますけど、出産や子育てを望んでいる家族が住みやすい環境づくりに取り組んでいたら、自然と人が集まってきたというだけの話。だって、子育てするなら、明石市に住んだほうが絶対に得やもん。手当なんかで100万円くらい浮くから。

【ひろゆき】そんなに? それってどういう内訳なんですか。

【泉】明石市では、18歳までの医療費と、第2子以降の保育料が無料なんです。やっぱり中間層以上の子育てだと、保育料に月5万、6万は当たり前ですから。そうすると、例えば子どもが3人いれば、大体100万円ほど得する計算になります。明石に引っ越してくるだけで、可処分所得が100万円増えるとなれば、そりゃあ人も増えますよ。

【ひろゆき】100万円も浮いたら市民は美味しいでしょうけど、逆に、市のほうの財源がどうなっているのか気になります。

■目玉政策「5つの無料化」にかかるお金は全体予算のたった1.7%

【ひろゆき】具体的に、子育て支援にどのくらいのお金がかかっているんですか?

【泉】まず明石市の場合、全体の予算が年間で大体2000億円くらいなんです。1年でそのくらいの金額のお金が動いているということですね。で、明石市の目玉政策である「5つの無料化」にかかるのが、ざっと34億円ほど。

【ひろゆき】そんなものなんですね!

【泉】全体の1.7%程度なんですよ。例えば、年収600万円の世帯で、ちょっと多めに2%見積もっても、12万円ですよね。1カ月に1万円。簡単に言ったら、子どもの習い事に月謝で1万円出しているのと同じ感覚ですわ。これと同じことを市でやれば、「5つの無料化」は十分可能なんです。

これね、最初にやり始めた頃は独りぼっちだったんです。でも、2021年頃から、周辺の都市も続々と真似し始めて、今や兵庫県で13の市町が医療費無料化などを実施している。私もびっくりです。「なんや、やればできるやん」って(笑)。最近では、東京23区でも同様に、18歳までの医療費無料化を打ち出しましたよね。そういう意味では、やろうと思えばどこでもできる取り組みだと思います。

■問題はコストよりも「どうやって予算に組み込むか」だった

【ひろゆき】へぇー、そのくらいのお金でできちゃうのは意外でした。それって、最初からそんなにコストが安かったんですか? それとも、明石市がやり始めたからどんどん下がっていったとか?

【泉】明石市では医療費が大体15〜16億円くらいですから、最初から予算感は変わってないです。所詮、子育て政策にかかるお金って、その程度なんですよ。ただ難しいのが、予算って、張りついちゃっているでしょ。つまり、すでに決まっている予算を、新たな政策のためにシフトすることが大変で。しかも、一度やり出したら簡単にやめられへん。毎年かかる予算になるから、毎年かかっているどこかの予算から引っ張ってこないといけないので、そのあたりのやりくりは結構しんどかったですね。

【ひろゆき】まあでも、他の都市からしたら、明石市が成功例をつくってくれたので、予算組みがやりやすい部分もあるでしょうね。

【泉】そうだと思います。わかりやすく言えば選挙ですよね。今となっては、「選挙に勝つためには子育て支援」がテンプレートになりつつあるから、公約にも子育て政策を掲げる政治家が増えました。現金なもんですわ(笑)。

■実際にやっていること以上に評価してもらっている

【ひろゆき】でも実際に、そのくらいのお金でできるんなら絶対にやったほうがいいと思うんですよ。明石市で言うと、無償化の対象となる子どもの人数は何人くらいなんですか?

【泉】全体の人口が約30万人で、ざっくりとしたパーセンテージをもとに計算すると、18歳以下の子どもは大体5万4000人くらいですかね。

【ひろゆき】34億円を5万4000人で割ると、大体6万円なんですよね。年間に1人の子どもに6万円かけたくらいで「5つの無料化」ができて、子育て対策が成功して「明石市スゴイ!」って日本中から言われるのは、めちゃくちゃコスパいいと思います。

【泉】実際にやっていること以上に評価していただいていると思いますけどね。ただ予算に関しては、先ほど言った通り、抵抗は強かったですよ。

【ひろゆき】いろいろな反発があったことはお察しします(笑)。

■所得制限をしないからお金がある人が引っ越してくる

【ひろゆき】ちょっと具体的に明石市の子育て政策について伺いたいんですが。さっきも名前が出ましたけど、最も有名なのが「5つの無料化」。あらためて、どんな対策なのか教えてもらっていいですか?

【泉】18歳までの医療費無料、第2子以降の保育料無料、0歳児のオムツ定期便(オムツの無料)、中学校の給食費無料、プールや博物館など公共の子ども施設の入場料無料。この5つの無料化を所得制限なしで行っています。

【ひろゆき】この所得制限なしっていうのがうまいなぁと。所得制限をしないことで、お金持ち、つまり税金をきちんと払う人たちが集まってきて、結果として税収が上がるっていう好循環が生まれるのかなと思います。このあたりって、実現するのは難しくなかったですか? だって、「金持ちにお金渡す必要ないじゃん」っていう考えの人もいるじゃないですか。

【泉】そこは難しいかどうかっていうより、仮に所得制限をかけた場合、安いお金で済むけど、効果がほとんど出ないんですよ。所得制限なしにすれば、お金はかかるけど、かえって税収が増える。明石は「5つの無料化」を実施することで、どんどん人が増えていって、10年連続人口増なんです。で、所得制限かけてないから、入ってくる人はほとんどダブルインカムの納税者でしょ。

お金を落とすから地域の経済が回り始めて、2021年には、明石駅前の商店街が過去最高益を叩き出しましたからね。経済が回り出して、税収もどんどん増えているので、やればやるほど財源が貯まってく。まさに好循環です。所得制限かけちゃったら、納税者が入ってこないし、地域でお金落としてくれるわけでもない。そういう効果を考えても、所得制限はかけないほうがいいんですよ。

■オムツ定期便はネットでポチるのと同じではない

【ひろゆき】肉を切らせて骨を断つ、みたいな。あと僕、0歳児のオムツ定期便っていうのがすごく面白いなと思いました。保育料とか給食費の無料化はよくありますけど、オムツ定期便っていうのは、他の国でもあんまり聞かないなと。

泉房穂、ひろゆき『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』(KADOKAWA)
泉房穂、ひろゆき『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』(KADOKAWA)

【泉】生後3カ月から満1歳になるまで、毎月オムツやミルクなどを配達するサービスですね。これ、ポイントは、配達員がみんな子育て経験がある女性っていうところなんですよ。つまり、見守りが本当の目的なんです。オムツを届けて帰るんじゃなくて、お母さんの話を聞いて、月齢期に合わせたアドバイスをしながら不安を解消してあげる。孤立防止というか、先輩ママと話す時間を提供している感じです。

【ひろゆき】単に「オムツを毎月届けます」って言っても、「それってアマゾンでポチッとするのと同じじゃん」って感じる人も多いと思うんです。でも、オムツを届けるのは表向きの役割で、相談相手と毎月会えるっていうところに本当の価値がある。核家族化していることもあって、子どもの発育状態に不安を覚える人も多い中、相談できる相手がシステムとしてきちんと用意されてるっていうのが、意外と大事な気がしています。

紙オムツ
写真=iStock.com/Irina Lesovaia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Irina Lesovaia

【泉】私が以前弁護士だった頃、子どもの虐待案件をよく担当していて、その頃の経験がベースになっています。厚生労働省の統計では、子どもが最も命を落とすリスクが高いのが、0歳から1歳の突然死なんですよ。

【ひろゆき】寝返りできなくて亡くなってしまうとか、ぬいぐるみで窒息しちゃうとか。ベッドが平面になっているかどうかも重要だったりしますよね。

■家のドアを開けてもらうためにオムツの大きさが必要だった

【泉】それに加えて、何らかの事故や虐待の可能性もある。死亡するシチュエーションって、大体、お母さんと子どもの2人きりの状態ですし、虐待の可能性がある人ほど外とのつながりを断ちやすいんです。そことどうやってつながって、子どもの状態を確認するか。どうやって家のドアを開けてもらうか。そういう意味では、オムツ定期便は極めて有効なんです。ほら、オムツって大きいから、受け取るときにドアのチェーンロックを外さなきゃいけないでしょ。

【ひろゆき】あ、オムツってそういう狙いもあったんですね!

【泉】閉ざされた家庭のチェーンロックをどうやって開けてもらうかっていうのが、ホンマにネックだったんです。で、オムツ定期便では、ちゃんとドアを開けてもらって、オムツを玄関に置いてくるっていうのをルールとして定めました。そうすれば必然的にお母さんとのコミュニケーションが生まれますし、赤ちゃんの様子もうかがえますから。

■ヒアリングを受けた母親にはタクシー券を出す

【ひろゆき】確かに、「お子さんの様子見に来ました」じゃドアを開けない人も多そうですもんね。オムツのサイズ感が、ドアを開けることに一役買ってる、と。

【泉】似た話で言うと、明石市では、母子健康手帳を発行する際に、必ず1時間程度のヒアリングをしているんですよ。お母さんと職員が子育てについて話したり、あればお悩みとかを相談してもらう感じです。でも、1時間って長いですし、お母さんにとっては正直面倒ですやん。だから、それに付き合ってもらった人には、5000円分のタクシー券を支給しているんです。それでも職員としゃべりたくなくて帰る人は、大体ワケありです。

【ひろゆき】なるほど、そこでちょっと怪しいなっていうのがわかる。

■厚労省に「やりすぎ」と言われても児童手当の振り込みを止めた

【泉】何か深刻な事情がある可能性があるから、後で職員が家庭訪問に行くようにしています。あと、子どもの定期検診あるでしょ。1歳6カ月児検診とか3歳児検診とか。それに来ないご家庭には、翌月から児童手当の支給を止めさせてもらっています。お子さんと一緒に役所まで来てもらって、母子の健康を確認できたら、お金を渡すことにしているんです。

【ひろゆき】児童手当って、市の権限で勝手に止められるものなんですか?

【泉】厚生労働省に掛け合いました。最初は「児童手当を止めるのはやりすぎです」って反対されて。それでも粘ったら、「銀行振り込みを現金手渡しにすることは可能です」と。だから、子どもと一緒に来てくれたら渡しますっていうルールにしたんです。

【ひろゆき】オムツ定期便もそうですけど、表向きの政策の見えないところに「子どもを守る」っていう本当の目的があって、そのつくり方が非常にうまいですよね。

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泉 房穂(いずみ・ふさほ)
明石市長
1963年、兵庫県明石市生まれ。東京大学教育学部卒業。NHKディレクター、弁護士を経て、2003年に衆議院議員となり、犯罪被害者等基本法や高齢者虐待防止法などの立法化を担当。2011年に明石市長に就任。特に少子化対策に力を入れた街づくりを行う。主な著書に『社会の変え方』(ライツ社)、『子どものまちのつくり方』(明石書店)ほか。

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ひろゆき(ひろゆき)
2ちゃんねる創設者
東京都北区赤羽出身。1999年、インターネットの匿名掲示板「2 ちゃんねる」を開設。2015年に英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人に。YouTubeチャンネルの登録者数は155万人。著書に『ひろゆき流 ずるい問題解決の技術』(プレジデント社)、『なまけもの時間術』(学研プラス)などがある。

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(明石市長 泉 房穂、2ちゃんねる創設者 ひろゆき)

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