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「子ども食堂」を開くと市から5万円支給…ひろゆきの「そんなにもらえるんだ」に明石市長が返した答え

プレジデントオンライン / 2023年2月20日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

兵庫県明石市では子育て支援に大胆に取り組んでいる。たとえば「子ども食堂」を開くと市から5万円が支給され、しかも食材などを買った領収書を提出する必要はない。不正が起こる心配はないのだろうか。泉房穂市長とひろゆき氏との対談をお届けする――。(第2回/全3回)

※本稿は、泉房穂、ひろゆき『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「食堂運営だけで結構な額になりません?」

【泉房穂】「5つの無料化」はキャッチーだから言い続けているけど、子育て支援はそれだけでは成り立たない。「5つの無料化」は、あったらお得だよね、という経済的な支援にすぎません。それだけじゃなくて、安心して子育てできるという精神面での支えがあって、初めて子育て支援だと思っています。たとえば、学校に行きづらい子のためのフリースクールや子ども食堂も、うちでは市が責任を持ってやっています。

【ひろゆき】子ども食堂やフリースクールにも税金突っ込んでいるのは珍しいですね。でもそういう場所って、明確な定義がないのが懸念点というか。要は、得体の知れない人が「うち、フリースクールやってます」って言ったらそれで成立しちゃうじゃないですか。そのあたりの基準はどう設けて税金使っているんですか?

【泉】子ども食堂の例がわかりやすいと思うので説明すると、まず、やりたいという人がいたら市が5万円お渡しするんです。1回開催するごとに、2万円、3万円を支払っています。

【ひろゆき】そんなにもらえるんだ! じゃあ、子ども食堂を運営してるってだけで結構な額になりません?

■食材を買った領収書の提出は不要

【泉】計算上ではそうだけど、実際にはそうはならんかなぁ。子ども食堂も1人でできるわけじゃないし、狭い田舎だから、それで金儲けしようって思ったらご近所さんの目が黙ってないですよ(笑)。特にうちの場合、子ども食堂をやるなら、近くの小学校でチラシ撒くんですよ。だから、コソコソできない。実際に子ども食堂をやり始めたら、誰が来るかわからないけど、地域の子なら絶対に受け入れなければいけないルールだから。

【ひろゆき】なるほど。仮に食べ物が腐ってたりしたら大炎上するわけですね。

【泉】そういうことが起きたらみんな報告するし、市民の目がチェックになっているわけです。一方で、市は、お金は出すけど運営はお任せします、というスタンス。例えば、食材を買うのでも、領収書などの提出は一切不要にしているんですよ。全国でも珍しいと思うけど、市民を信頼しているから、細かい部分はあまり介入しない。その代わり、ご近所さんがみんな見ているから悪さはできませんよ、と。仮に何らかのトラブルが起きたとしても、責任は行政がとるし、失敗してもいいから頑張ってみてくださいっていうのが明石市の特徴です。

■全国で初めて養育費立て替え制度を導入

【ひろゆき】確かに、役所が自前で人件費使って運営するのに比べたら、断然コスパはいいですよね。

【泉】そうなんですよ。公務員の給料を考えたら、市民の皆さんにやってもらったほうがよっぽどコストがかからない。明石市の人口は30万人ですが、市役所の職員が30万人いるイメージですね。明石市では他にも、子どものために養育費が支払われない場合、市が一定金額を立て替える養育費立て替え制度なども行っています。

【ひろゆき】養育費の立て替えはフランスをはじめ、実は世界では結構普通にある制度です。日本では、明石市が全国初ですか?

【泉】明石市が全国初です。養育費が支払われないことで一番被害を被るのは、やっぱり子どもなんですよ。そこは家庭内の問題ではなく、行政が強く介入する必要があると感じています。そのあたりの施策で言うと、DV(家庭内暴力)対策として「配偶者暴力相談支援センター」を市で設けているんですが、現場で働くDV相談員の方は全国公募で集めて、より専門性の高い人に年収600万円から700万円で来てもらってます。

【ひろゆき】かなり高給ですね! そういう現場で働く人たちって、全国の基準だと大体年収200万円くらいじゃないですか。職員の質を上げるなら、700万まで吊り上げなくても、ちゃんとした人が来てくれる気がしますけど(笑)。

【泉】専門性の高い人には、それなりの待遇でしっかり働いてもらうべきだと思っていますから。

■無料化は実は簡単、予算さえ確保すればできる

【ひろゆき】いずれにせよ、明石市では「5つの無料化」のような経済的支援だけじゃなくて、親が孤独を感じることなく、安心して子どもを育てられるような精神的支援の仕組みが整っているわけですね。子どもの世話は家族だけじゃなくて社会が見るものっていう考えが泉さんの根底にあって、明石市の子育て政策の成功の本当の理由は、そこにあるのかもしれません。

【泉】正直なところ、「無料化」を実施するのは極めて簡単なんです。予算をつけるだけで、新たな制度も人材も必要ないですから。むしろ養育費の立て替えや児童相談所の制度設計などのほうが、対応の丁寧さが求められたりリスクが伴うので、大変な作業です。ただやはり、そうした魂の込もったアプローチをしないことには、本当の子育て支援とは言えないと思っています。

■「みんなのための政策だから」バリアフリー設備の導入を市が全額負担

【ひろゆき】子育て政策とは少し違いますが、明石市では、障害者支援にもかなり注力されていると聞きました。具体的にはどんなことをしているんですか?

【泉】まず、明石市が全国初の試みとして取り組んだことは、飲食店などへの筆談ボードや点字メニュー、簡易スロープの導入を、全額市が負担するというものです。日本では、ホテルには車椅子で入れるようなスロープが設置されていますが、飲食店にはまだまだ未設置のところが多いです。他の自治体では、この設置費を店側と折半することが多いんですけど、明石市では全額負担するのが特徴です。

車椅子
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

【ひろゆき】障害者の人が暮らしやすいようにっていうのがベースにあるとして、お客さんが増えれば飲食店の利益が上がるから、結果的に税収に跳ね返ってくるっていうのも狙いだったりするんですか?

【泉】それもありますが、それ以上に、街がやさしくなるのはみんなのためという考えですね。スロープをつければ障害者の方も入りやすいし、お店の人も助かり、経済が回るから市も助かる。みんなのための政策だから、市が受け持つというスタンスです。

【ひろゆき】僕は今、パリに住んでいるんですが、車椅子の人をほとんど見かけないんですよ。石畳が多くて移動しづらいと思いますし、エレベーターのない地下鉄の駅も結構あったりするんで、パリは障害者の人にとっては住みづらい街なのかもしれません。そういう意味で言うと、日本は設備面において、かなり合理的配慮が行き届いた国のように感じます。

■ハード面の整備は進んでいても就労支援は遅れている日本

【泉】ハード整備の面で言うとその通りで、駅などのバリアフリーに関しては、日本は世界トップレベルだと思います。ただ、例えば就労支援など、障害者の方が生きていくための制度設計においては、海外のほうが進んでいますね。

【ひろゆき】フランスでは、日本に比べて雇用施策の対象となる障害者の範囲が広いそうです。つまり、軽度の症状でも障害労働者認定が下りるので、ある意味では働きやすい環境なんですよね。障害者に限らず、「働けない」って言うと、生活保護以外にいろんな支援が用意されているので、暮らしやすいという側面もあるかもしれません。

■障害者福祉の政策ももっとやりたかった

【泉】明石市ではその他にも、障害者に関する4つの条例を施行しています。1つは、手話言語を確立し、要約筆記・点字・音訳など、障害者のコミュニケーション手段の利用促進を支援する条例。2つ目は、今お話しした、スロープなどの費用を市が助成する制度を入れた障害者配慮条例。3つ目は、私にとっては大きな意味を持つ、優生保護法の被害者を支援する条例です。

優生保護法(1948〜1996年)で障害者が強制的に不妊手術や中絶を受けさせられた問題で、国の制度では対象外だった配偶者と中絶被害者にも支援金を支給する条例を、自治体として全国で初めて制定しました。

そして4つ目は、2022年3月に制定したインクルーシブ条例です。これは、誰ひとり排除せず、すべての人が自分らしく生きられる街としての明石市の理念をまとめたもの。私の市長在任12年間の強い思いが詰まった条例で、4年かけてつくりました。これらはすべて全国初の条例で、先に話した2つの条例は、すでにさまざまなエリアに広まっています。

【ひろゆき】いずれも素晴らしい条例だなと思うんですが、すごく素朴な疑問として、泉さんのその熱意はどこから来てるんですか? 例えば子育て政策なら、経済的、あるいは精神的に困っている子育て層を助けたいっていう信念がベースにあって、プラスアルファで経済効果や少子化対策も見込めるので、行政が積極的に予算と労力を割くのは理解できるんです。

ただ、障害者支援に関しては、それで経済を回すっていうのは現状の日本では難しいと思うので、わりと後回しにしがちな政策だと思うんですよ。特に優生保護法に関する条例なんかは、実現にこぎつけるまでは容易な道のりじゃないだろうなっていうのは簡単に想像できるわけで。

【泉】それで言うと、私、障害者福祉が原点なんですよ。本当は明石市でも障害者福祉の政策をもっとやりたかったんだけど、ご指摘の通り、それで経済を回すのはなかなか難しい。だから最初にまず子育て政策をやって、一定程度の成功を収めてから、障害者福祉に力を入れた感じですね。

■「社会への復讐心」が自分を動かすモチベーション

【ひろゆき】子どもよりも、障害者支援のほうが本丸だったってことですか?

泉房穂、ひろゆき『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』(KADOKAWA)
泉房穂、ひろゆき『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』(KADOKAWA)

【泉】私には4つ下の弟がいるんですが、先天性の脳性麻痺を持って産まれてきました。歩くことが不自由だったのに、近くの小学校ではなく、遠くの養護学校に通うように言われたんです。両親が交渉して私と同じ学校に通えることになりましたが、「送迎は家族が責任を持つ」「何があっても訴えない」と誓約書を書かされました。

両親は漁で不在、私が毎日登下校をともにしました。残念ながら誰も手を貸してはくれず、ただ冷たい目だけがあった。子ども心に、こんな冷たい社会は嫌だ、自分が明石の街をやさしくしてみせるっていう誓いを立てたんです。

【ひろゆき】なるほど。市長になられたのも、子育て政策や障害者支援に力を入れているのも、背景にご自身の生い立ちがあるわけですね。

【泉】端的に言えば、障害者や貧乏人に冷たい社会への復讐心ですね。弟は5歳になって奇跡的に少しずつ歩けるようになって、幸いにも自立に向かうようになりました。逆に私にとっては、それまで弟のことで精一杯だったのに、その覚悟が必要なくなってしまった。なのでいっそう社会のほうに目が向いて、貧しい人や障害を持つ人のために人生を費やそうと思ったわけです。

■死ぬまで世の中と闘い続けるイメージでずっと生きてきた

【ひろゆき】泉さんのモチベーションが社会への復讐心だとすると、いろいろと腑に落ちる部分もあります(笑)。

【泉】ご存じの通り、私なんかはアンガーマネジメントが必要って言われるくらい激しい人間ですけど(笑)、それには理由があって。開き直るわけじゃないですけど、世の中を変えたいという強いエネルギーがあったんです。今もそうです。世の中と死ぬまで闘い続けるっていうイメージは、小さい頃からありました。だから例えば、寝るのが嫌いで(笑)。生きてる間は、寝る間も惜しんで一生懸命やろうって感じですね。

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泉 房穂(いずみ・ふさほ)
明石市長
1963年、兵庫県明石市生まれ。東京大学教育学部卒業。NHKディレクター、弁護士を経て、2003年に衆議院議員となり、犯罪被害者等基本法や高齢者虐待防止法などの立法化を担当。2011年に明石市長に就任。特に少子化対策に力を入れた街づくりを行う。主な著書に『社会の変え方』(ライツ社)、『子どものまちのつくり方』(明石書店)ほか。

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ひろゆき(ひろゆき)
2ちゃんねる創設者
東京都北区赤羽出身。1999年、インターネットの匿名掲示板「2 ちゃんねる」を開設。2015年に英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人に。YouTubeチャンネルの登録者数は155万人。著書に『ひろゆき流 ずるい問題解決の技術』(プレジデント社)、『なまけもの時間術』(学研プラス)などがある。

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(明石市長 泉 房穂、2ちゃんねる創設者 ひろゆき)

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