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首都圏外で唯一「中古マンション値上がりエリア」ベスト10に…子育て世帯がこぞって明石市に移り住む理由

プレジデントオンライン / 2023年2月23日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

地方経済の立て直しには何が必要なのか。兵庫県明石市の泉房穂市長は「私は就任直後、地元から反発を受けながら駅ビルに図書館と子ども支援施設をつくった。結果として人が集まり、商店街は新規開店ラッシュになった」という。ひろゆき氏との対談をお届けする――。(第3回/全3回)

※本稿は、泉房穂、ひろゆき『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■小さな市が企業支援をしてもたかが知れている

【ひろゆき】明石市が子育て政策に取り組むことで、街の経済がめちゃくちゃ回り出すようになったっていうところを、もう少し詳しくお伺いしたいです。

【泉房穂】経済成長を続けている豊かな国って、優先的に子どもと教育に予算を割いているのが特徴だと思うんです。経済の回し方って2パターンあって、企業にお金を回すか、消費者のほうにお金を回すかなんですよ。これまでの日本のやり方は完全に前者です。法人税減税とか、商店街にアーケードをつくるなどハード面のサポートをして、企業のほうを手厚く支援してきました。それは1つの手法なんだけど、それだけじゃなくて、消費者が物を買える状況をつくることが大切で。明石市が企業支援なんかしてもたかが知れていますし、それなら子育て層の負担を軽減して、彼らが街にお金を落とすよう促し、商店街を潤したほうが効率的なんです。

【ひろゆき】明石市でもやっぱり、子育て政策の先にある経済対策はもちろん見越していたわけですね。ちなみに、市長に就任されて一番最初に取り組んだことって何だったんですか?

【泉】最初にやった仕事の1つは、駅前の再開発中のビルの中身をごっそり入れ替えたことです。子育て支援施設と図書館にね。

■「利益も出んような施設を入れて何が楽しいんや」と怒られた

【ひろゆき】それ、企業とか物を売る側の人たちからの反発がすごそうですが……。

【泉】むちゃくちゃ怒られましたよ。駅前の立派なビルに、そんな利益も出んような施設を入れて何が楽しいんや、と。それで説得したわけです。そんなもん、親子連れが来るようになったら自然に人が集まるやないか、と。普通だったら3000円かかるような遊具施設でタダで遊べて、絵本2冊買うのに3000円かかるところを図書館で借りればタダになる。合計6000円浮いたお金を、近くの商店街で落とすようになる。おのずと皆さんが儲かる仕組みになるんだから、少し待っててくださいと。結果、私の読み通りです。駅ビルができたら子育て層が集まって、商店街が新店ラッシュになりました。

■コロナ対策の助成金で市民に一律3000円分の商品券を配った

【ひろゆき】遊具施設で思いっきり遊んだら当然腹が減るので、近くの商店街で飯でも食おうかってなる。そのついでに何か買い物でもって流れで、お金が落ち始めると。よその地域でお金を落とすんじゃなくて、あくまで明石市で落とすっていうのがポイントですよね。

【泉】まさにおっしゃる通りで、その点でも極めてうまくいったと思います。直近では、コロナ対策でも同じようなことがありました。国から地方自治体に助成金がありましたけど、これ、多くの自治体は、タクシー会社やバス会社の経営補塡(ほてん)に充てるんですよね。そんなことをしても、お金が回らないですやん。

明石市には10億円ほどの助成金がありましたけど、人口30万人で均等割りして、赤ちゃんからお年寄りまで均等に3000円分の商品券を配る形にしたんです。もちろん、タクシー乗車も商品券の対象に入れる。すると市民がタクシーを使うようになるし、一度乗るとタクシーの習慣がつくし、会社も儲かるようになる。経済を回すためにはダイレクトに企業や事業者をサポートするんじゃなくて、いったん市民を噛ませることが大切なんです。

【ひろゆき】お話を聞いていると、少子化対策っていうよりは、観光客誘致施策に近い気がします。少子化で、子育て層の負担を軽くしようっていうのはあるんだけど、結果的に商店街に足を運ぶようになって、うまく経済が回る。少子化対策で経済が回るっていうよりは、人さえ来れば潤うよねっていう、至極単純な話。それと、浮いたお金が貯金に回らず落ちていっているのも大きいでしょうね。

【泉】そこも大きなポイントで。例えば高齢者の方なら、70歳80歳でも「老後が心配だから」って貯金する人も多いでしょ(笑)。国がやった10万円の給付金なんかも、ヨーイドンでお金を配っても預金通帳の残高が増えるだけなんですよね。そこはやっぱり、お金を止めずにどうやって回すかっていうのを意識したつもりです。

■事前調査よりもまずは行動してやりながら変える

【ひろゆき】今のお話は、いわゆる乗数効果の典型的な例だと思うんですが、子育て政策を実行に移すまでにどんな実地調査をされたんですか?

【泉】私、調査嫌いなんですよ。

【ひろゆき】調査が嫌い(笑)。

【泉】調査なんかせんかて、街に出て見たらわかるやないですか。まず行動して、やりながら変えていくだけ。

【ひろゆき】事前調査は一切せずにとりあえず何らかの政策をとって、その反応を見て調整していくってことですか?

【泉】そうです。例えば、コロナが始まった頃のこと。明石市のある大学生が、コロナでバイトも満足にできず、学費が払えないと悲鳴を上げていたんです。よっしゃ、代わりに払ったるわ言うて、すぐに市が大学に50万円払うことを公表しました。無利子・無担保です。そしたら数日後に学生から連絡が来て、「足りません」と。恥ずかしながら、私、大学の前期学費の相場を知らなくて。文系でも60万円するって言うんで、すぐにプラス10万円を決めました。そしたらまた連絡が来て、理系だと90万円やと(笑)。慌ててさらに全額をあげたわけですが、それをすべて10日ほどでやったんですよ。

■市長在任12年で市の貯金を51億円増やした

【ひろゆき】めちゃくちゃスピード対応ですね。現場は大変そうですが……(笑)。

【泉】その都度、記者会見をしました。困っている大学生は、明石市がサポートするから連絡してほしいと。そしたら今度は、大学院生や専門学校生から「対象は大学生だけなのか」ってクレームが来て(笑)。じゃあ、まとめてみんな面倒見たるわって、対象を学生全般に広げました。

【ひろゆき】まずは行動に移して、想定外の反応があれば、途中で補正予算を組んで帳尻を合わせる。ニーズに合わせて予算を増やす形ですね。ただそうは言っても、そういう政策にも結構お金がかかるじゃないですか。大学生1人に100万円近く払ったり、結構太っ腹だなと思うんですけど、そんな短期で簡単に予算が下りるものなんですか?

【泉】うち、やたら羽振りがいいんですよ(笑)。と言うより、公共事業の話もそうですけど、他でどれだけ無駄遣いしてんねんって感じかな。さかのぼれば、私が市長に就任したときは、赤字財政で市の貯金が70億円まで落ち込んでいたんです。それが今や、121億円にまで回復しました。私が市長になってから、51億円の貯金を増やしたわけです。

■無鉄砲に見える政策ができるのも経済が回っているから

【ひろゆき】それもやっぱり、子育て政策で経済がうまく回って財源が増えたわけですよね。でも、市にお金があるとしても、市議会のほうで、「そのお金の使い方はさすがに」みたいな反対されません?

【泉】まあそこは……。ご存じの通り、市議会と私の関係性は良好とは言えません(笑)。ただ、政策や予算の使い方に関しては、ほぼ全員に賛成してもらっていますね。私個人に対して「あいつ憎たらしいなぁ」って思う方はたくさんいて、鉄砲玉もたくさん飛んできますけど(笑)。まあそれは私のキャラクターの問題で、政策自体に関しては、皆さん賛同してくれることが多いです。

【ひろゆき】そのキャラクターに対しての攻撃は、ちょっとしょうがないかなと思うところもありますが(笑)。でも、市議会の人たちも、泉さんの政策に対しては信頼しているってことなんでしょうか。

【泉】いや、結局、街の声ですね。圧倒的な市民の支持があるからだと思います。言っておきますけど、明石市は子育て政策だけじゃないですよ。コミュニティバス料金の無料化や認知症検診の助成など、高齢者のサポートも手厚いですから。加えて、明石駅前の商店街は過去最高の利益を叩き出してるし、建設業界は建設ラッシュで。直近の調査だと、全国で中古マンションが値上がりしているエリアの第3位が、25%アップした明石市なんです。ランキングベスト10に、首都圏以外で入っているのは明石市だけですからね。これだけ経済が回れば当然市民も支持してくれますし、市議会でも政策や予算案が通りやすくなります。

■もともと明石市は価値が低く見積もられすぎていた

【ひろゆき】大都会なんかだと、地の利があって価値が高まったりするじゃないですか。明石市は純粋に政策ベースで価値が上がったってことなんですか?

【泉】本音を言うと、明石はもともと価値が低すぎるくらいだったんです。例えば、関西で人気のエリアはぶっちぎりで兵庫県西宮市ですが、あそこでいいマンション買おうと思ったら最低5000万円くらいなんですよ。でも明石市は、少し前まで、2000万くらいだった。今は3000万くらいまで上がっているけど、それでも西宮市なんかに比べたら安いので、割安感はあると思います。

マンション
写真=iStock.com/7maru
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/7maru

【ひろゆき】明石市なら、住宅ローンの資金計画がリアルに想像できる。公園や子ども向けの施設もたくさんあって、雰囲気がよくて住みやすい。子育て層の人気エリアとして不動産バブルになるのも十分理解できます。大阪まで40分弱、十分通勤できるっていう地の利もあるんでしょうけどね。

■ポイントは中間層以上に光を当てた仕組みづくり

【ひろゆき】そうやって景気がよくなると、ホームレスの人が増えたりしません?

泉房穂、ひろゆき『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』(KADOKAWA)
泉房穂、ひろゆき『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』(KADOKAWA)

【泉】そこは意外と、少ないんですよ。生活保護はどこのエリアでも受けられますから、そういう意味では、明石市は都会じゃないので、受け取れる額が少ないんですね。都会のほうが炊き出しなどのサポートも手厚いですし。

【ひろゆき】なるほど、家がなくなったら都会にいるほうが得なんですね(笑)。そういう意味で言うと、明石市の子育て支援目当てに来るような収入の低い人、あるいは生活保護を受けているような人は、意外と少ない?

【泉】おっしゃる通りです。例えば、「5つの無料化」で保育料や医療費を無料にしていますが、生活保護の方たちはもともと無料だから、わざわざ明石に来る必要がないんです。低所得者の方も、もともと保育料は安いですしね。それと、現金バラマキ政策みたいなこともやっていないので、それを目当てにやってくる人もほとんどいないと思います。えてして明石市の政策は、中間層以上の人たちが得する仕組みになっているんです。このあたりは、実は相当考えましたね。

【ひろゆき】経済効果という意味では、政策に使う予算と税収のバランスは極めて重要な気がします。

■フランスの出生率を押し上げたのは移民たち

【泉】ここは実を言うと、フランスの政策を参考にしたんです。言わずもがな、フランスは、少子化対策に成功した代表的な国の1つです。ひろゆきさんは実際にパリにお住まいなので、現地のリアルな子育て政策の様子もぜひ伺いたいと思っているんですが。まず、日本とフランスの大きな違いとして、移民問題が挙げられますよね。

【ひろゆき】フランスの出生率が高いのって、実は、移民の人たちが子沢山っていう背景もあって。その一方で、マリーヌ・ル・ペンさん(極右政党の国民連合に所属するフランスの政治家)みたいに極右の人が支持されたりもするので、少子化と並行して、現地の人vs.移民という社会構造も生じます。出生率が上がる一方で、移民の人たちの数が増え続けている。生粋のフランス人の出生率は、実はあまり上がっていないんじゃないかっていう説もあります。

■もとから住む人と移住してきた人が対立しない仕掛け

【泉】少子化が改善されるほど、移民問題という新たな課題が際立ってくるわけですね。言葉を選ばなければいけませんが、移民の人たちは、低収入の方も少なくありません。そうなると、子育て政策にかけるお金と税収のバランスがとれなくなって、破綻してしまうリスクもあって。だから、私が明石で子育て政策をやるときは、中間層に光を当てて、持続可能な財政構造に持っていくことを強く意識しました。

【ひろゆき】そこが所得制限をかけないことで中間層以上の家庭が集まってくるって話につながるわけですね。(連載第1回)

【泉】その通りです。ダブルインカムの納税者の方に来てもらって、そこがお金を落とすっていうストーリーをつくったんです。あともう1つフランスから学んだのは、移民問題って、やっぱり対立を招きがちなテーマなんですよ。明石市も同じで、他の市町村から人を連れてきて優遇するばかりでは、もとから明石市に住む人たちとの対立を生むんです。それを避けるために、優先度としては、ずっと明石市に税金を納め続けた人が、まず第一。そこを強調しないと反発を生んでしまいます。

■バラマキ政策は対立を生んで分断のもとになる

【ひろゆき】そのあたりの対立もあるかもしれませんが、基本、日本は日本人しかいないのでラクだと思うんですよね。EU(欧州連合)だと、貧しい国の人でもフランスに住めて、国から補償がもらえるんですよ。低収入だと、家賃手当みたいなのを毎月2〜3万円支給されたり。フランスに移住するだけでお金をもらえちゃうんで、じゃあ行くわっていう人も出てきますし、現地の人との軋轢は生じざるをえません。

【泉】確かに、EUのように各国の財政状況が異なると、対立を生みやすい構造にならざるをえません。ただ、同じ日本人同士でも多少のやっかみはありますので、明石ではそうならないように、あくまで中間層以上が得をする政策や、分断のもととなるバラマキ的な政策にならないようなサポートの仕方を目指したつもりです。

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泉 房穂(いずみ・ふさほ)
明石市長
1963年、兵庫県明石市生まれ。東京大学教育学部卒業。NHKディレクター、弁護士を経て、2003年に衆議院議員となり、犯罪被害者等基本法や高齢者虐待防止法などの立法化を担当。2011年に明石市長に就任。特に少子化対策に力を入れた街づくりを行う。主な著書に『社会の変え方』(ライツ社)、『子どものまちのつくり方』(明石書店)ほか。

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ひろゆき(ひろゆき)
2ちゃんねる創設者
東京都北区赤羽出身。1999年、インターネットの匿名掲示板「2 ちゃんねる」を開設。2015年に英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人に。YouTubeチャンネルの登録者数は155万人。著書に『ひろゆき流 ずるい問題解決の技術』(プレジデント社)、『なまけもの時間術』(学研プラス)などがある。

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(明石市長 泉 房穂、2ちゃんねる創設者 ひろゆき)

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