処女を競売にかけられ、妊娠すると風俗街に捨てられる…26歳女性が英紙に語った「インドの巫女」の惨状
プレジデントオンライン / 2023年2月17日 15時15分
■女神と人間のあいだを取り持つ「インドの巫女」
南インドの複数のヒンドゥー教寺院に、「デーヴァダーシー」と呼ばれる習慣が残る。選ばれた少女たちが寺院に召され、奉仕のための修練に励む制度だ。神霊に仕え舞を奉納することから、インドの巫女(みこ)とも呼ばれる。
デーヴァダーシーの少女たちは、女神に嫁いだ身分とみなされる。かつては女神と人間のあいだを取り持つ存在として誰しもから敬われ、寺院での豊かな生活を保障されていた。ところがいまでは、宗教儀礼の名を借りた性奴隷として、耐えがたい日々を生きている。
少女たちはなかば公然と競売にかけられ、
インド政府は1980年後半からデーヴァダーシーを違法化したが
■処女を競売にかけられた…16歳少女が英紙に語った壮絶な夜
インド南部、カルナータカ州の高台に、イエラマ・デヴィ寺院が静かに佇(たたず)む。豊穣(ほうじょう)の女神・イエラマを祭る小さな村の寺院だが、毎年1月の祝祭になると実に50万人ほどの信徒たちが押し寄せる聖地だ。
寺院周辺で信徒を迎える中年の女性たちや、祭りを訪れた若い女性の一部の首に、紅白のビーズが並んだネックレスが光る。デーヴァダーシーの証しだ。
そのひとり、現在16歳のルーパさんは、英ガーディアン紙に対し壮絶な経験を打ち明けている。女神イエラマの加護を受けるのだと母親に告げられ、9歳でデーヴァダーシーに出されたという。
「初めての夜は大変でした」と彼女は語る。寺の位置する村で処女を競売にかけられ、裕福な男性に買われた。だが、夜を共にするはずだった男は、彼女の陰部をカミソリで切り裂いたという。
AFP通信は、同じくデーヴァダーシーとして半生を生きたビマッパさんの例を挙げている。親に金銭で売られたあとは、結婚を諦め、年上男性に処女を捧(ささ)げた。
「私の場合、母の兄でした」とビマッパさんは辛(つら)い体験を振り返る。
■妊娠すると歓楽街に売り払われる
下位カーストの貧困家庭が苦悩の末に娘を差し出し、現金収入を得る手段とする事例が後を絶たない。
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のサティヤナラヤナ・ラマニーク博士(青年期保健学)は、実際にデーヴァダーシーの女性たちに聞き取り調査を実施し、結果を研究論文に著している。
それによると、買い手の男性は相当な投資を行ったとの感覚があるため、一定期間はデーヴァダーシーの女性と親密な関係を持つという。宗教儀礼という口実がある以上、女性側も家族に売られたという感覚を持ちにくい。売春の被害者だという意識が薄いことが多いようだ。
だが、妊娠すると男性の興味は薄れ、歓楽街に売られてゆく。同論文によると、聞き取り調査に協力した20人のデーヴァダーシーのうち17人が、性的サービスを主たる収入源にしていると答えた。そのほとんどが、過去1週間に5人以上の相手をしたと回答している。
また、これら17人のうち16人のデーヴァダーシーが、14歳から16歳までに風俗産業で働き始めたと答えた。
■男たちに利用され、そして捨てられる
ガーディアン紙は、幼くしてデーヴァダーシーになったという26歳(取材当時)のパルヴァサマさんの事例を取り上げている。彼女は10歳で女神に捧げられ、しきたりに従い人間との結婚を禁じられた。思春期を迎えると競りに掛けられ、最も高い値を付けた男性に処女を買われたという。
14歳で妊娠し娘を出産したあとは、ムンバイの歓楽街に売られた。衰弱し、エイズを患っていることが判明したあとはそれ以上働くことができず、後ろ指を指されるのを覚悟で故郷の村に帰ることになる。
パルヴァサマさんの顔色は厳しい。「私たちは呪(のろ)われた共同体なのです。男たちに利用され、そして捨てられる」
気がかりは、娘の面倒を誰が見るのかという点だ。自分が働けなくなった以上、母娘とも将来は暗い。自身がデーヴァダーシーとして辛(つら)い人生を生きた彼女だが、いま、わが子をデーヴァダーシーに出すよう真剣に考えている。
■貧しい家庭のあいだで繰り返されてきた
娘が直面するであろう過酷な運命を知りつつ、寺院に奉仕する尊い役割を担ったのだと自分に言い聞かせ、娘の身柄と引き換えに得た金銭で生き延びる。こうした行為は、貧しい家庭のあいだで世代を超えて繰り返されている。
ガーディアン紙は「現代ではこの制度は、貧困に苦しむ親たちが娘という重荷を下ろす手段とみなされている」と指摘する。
女性ばかりが身売りの対象となっている背景に、インドにおける結婚制度が影響している。女性側の家族は結婚にあたり、男性側の家族に多額の結納金を納める伝統がある。
APF通信は、人間との結婚が禁じられるデーヴァダーシーの役に就かせれば、結納金を避け、さらに男性側の家庭から一時的に金銭を得ることができると指摘している。
貧困家庭にとってやむを得ない選択ではあるが、娘の人生を奈落の底に突き落とす選択でもある。17歳で2人の子供を産んだというシトゥヴァさんは、儀式の悲しい瞬間をAFP通信に語っている。
「人が結婚するときは、花嫁と花婿がいるものです。私は独りなのだと気づき、涙がこぼれ出しました」
■“巫女”をやめても1日1ドルを稼ぐのが精いっぱい
元デーヴァダーシーの女性のなかには、自分の人生を取り戻そうとする人々もいる。
母親の兄に買われたビマッパさんの場合、性的な奴隷として人生の大切な数年間を奪われたのち、デーヴァダーシーの役割を抜け出した。しかし、教育を受ける機会を逃した彼女にとって、畑に出て1日1ドルを稼ぐのが精いっぱいだ。
彼女はAFP通信の取材に対し、「私がデーヴァダーシーでなければ、家族も子供もいて、いくぶんのお金もあったでしょうに。もっとよい人生があったでしょうに」と唇を噛む。
彼女に限らず、40代半ばを迎えたデーヴァダーシーたちには、残酷な運命が待ち受ける。ガーディアン紙は、ほとんどのデーヴァダーシーは寺院で余生を送ることになると説明している。しかし、想像できるような巫女としての生活とはほど遠い。
65歳で盲目のチェナワさんは、寺院で物乞いとして生きることを余儀なくされた。信者が分け与えるわずかな食料だけが頼りだ。
チェナワさんはかつて、女神と共に生きる運命を誇りに思ったという。ガーディアン紙に対し、「イエラマと共にあることが幸せだったのです」と語っている。「母を、妹を、弟を(経済的に)支えました」
だが、いまやその感情は尽きた。ほとんど空っぽの物乞いの椀を抱え、彼女は打ち明ける。
「自身もデーヴァダーシーだった母ですが、私を女神イエラマに捧げたのです。そして私は路上に捨てられ、蹴られ、打たれ、陵辱されました。女神なんてもういらない。ただただ死なせてもらえないでしょうか」
■7世紀から続く風習、かつては敬われる存在だった
もともとデーヴァダーシーは、女神にその身を捧げ、神前での舞踊などの芸を学ぶ制度だった。7世紀から続く、由緒正しいしきたりだ。
歴史家のガヤトゥリ・アイヤー氏はAFP通信に対し、「まかり間違っても本来の援助制度には、宗教的に是認された性的奴隷という考え方はありませんでした」と説明している。
古来、多くのデーヴァダーシーたちは、吉祥を告げる存在として敬われていた。彼女たちは高度な教育を受け、ヒンドゥー教寺院に古くから受け継がれる舞踊や儀式の習得に専念することができた。その生活は豊かであり、自ら選んだパートナーとの性交渉も許されていたという。
ところが19世紀にイギリスが入植すると、状況は一変した。神聖なデーヴァダーシーと女神との契りは、性的搾取の制度へと変貌を遂げた。
現在では実質的な身売りであるとして問題視され、
だが、司祭が金銭目的で密ひそかに取り持つ例が後を絶たない。
■宗教の名を借りた売春の手段になっている
AFP通信もデーヴァダーシーについて、「親に強制される形でヒンドゥー教の神との手の込んだ結婚の儀式に臨み、その後、彼女たちの多くは違法な売春を強いられる」ものだと指摘している。
インド・ニュースメディアのインディアタイムズは、デーヴァダーシーたちが強いられる宗教儀礼の数々に、制度の野蛮さが表出していると指摘する。競りで買われる「初夜の儀」さえ、宗教的に正当な通過儀礼のひとつだと弁明されまかり通っている。
同紙はまた、司祭の介入も指摘する。「『宗教的な職務』の一環として司祭は、彼らの寺院に入門した女性の一人ひとりと関係を持つとされる」のだという。
司祭との接触に関しては、ここ数世紀で始まった習慣ではないようだ。ラマニーク博士は論文を通じ、デーヴァダーシーたちには古来より、司祭の性的欲求を満たす役割が与えられていたと論じている。
■「風俗街へのサプライチェーンに成り果てた」
人口増加に経済成長にと、インドは国際社会のなかでも日増しに存在感を高めている。しかし、根深い南北格差に加え、カースト制やデーヴァダーシーの習わしなど、過去の遺産から脱却できていないのが現状だ。
デーヴァダーシーの風習は、バンガロールが位置する南部カルナータカ州を中心にいまも色濃く残る。インド紙ヒンドゥスタン・タイムズは昨年12月、21歳の娘をデーヴァダーシーに出した両親が逮捕されたと報じている。
事態を察した村人たちが女性・児童福祉開発局などに通報し、警察が捜査に乗り出したことで逮捕に至った。両親は、病気を繰り返す娘が神の呪いにかかっていると考え、ヒンドゥー教寺院に捧げたのだと説明している。
同紙は「ショッキングな事件」だとしているが、決して例外的な事象ではない。AFP通信によるとインド人権委員会は昨年、同州だけで7万人のデーヴァダーシーが現存すると発表している。
ジェンダー問題の専門家であるアーシャ・ラメシュ氏は、インドNPOメディアのワイヤーに寄稿し、制度は「風俗街へのサプライチェーンに成り果てた」と指摘する。
■娘を寺院に差し出す親、静観する村人…
インド政府はデーヴァダーシーの慣習を違法としているが、農村部には罪の意識なく子を差し出す親や、それを静観する村人たちがまだまだ多い。悪習に疑問の目を向けることはなく、カーストの下層に位置するとされるデーヴァダーシーの人々をただただ蔑(さげす)むことが多いようだ。
希望もある。ラメシュ氏は、ある少女の取り組みを紹介している。ラダという名のこの少女は、デーヴァダーシーの制度がもたらす害悪に気づき、人々の意識を変える草の根運動を始めたという。
徐々に村人たちの理解を得られるようになったほか、児童保護団体などへの通報を通じ、実際にデーヴァダーシーになることを逃れた事例も出ているという。
インド政府は元デーヴァダーシーの人々に対し、わずかながら経済的支援を行っている。デーヴァダーシー行きを逃れた少女たちに対しても、同様の支援が求められるだろう。
人生を救うはずだった寺院に、人生を奪われた少女たち。その生き方を次の世代へ送らずに済むよう、7万人のデーヴァダーシーたちが悪習の根絶を待ちわびている。
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フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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