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なぜ容疑者名ではなく「ルフィ」と呼ぶのか…連続強盗事件でキャラ名を連呼するマスコミ報道への違和感

プレジデントオンライン / 2023年2月10日 19時15分

「ぽかぽか」オフィシャルサイトより

■「ぽかぽか」MC岩井の発言は本当に炎上しているのか

今年1月にスタートしたばかりの新番組「ぽかぽか」(フジテレビ系)とMCのハライチ・岩井勇気に「批判殺到」「大炎上」などの厳しい記事が浴びせられている。しかし、本当に「避難殺到や大炎上しているのか」と言えば、あやしいと言わざるを得ない。

ここまでの顚末(てんまつ)を紹介すると、2月7日の12時30分ごろ、特殊詐欺に関与した窃盗の疑いで、フィリピンから日本に移送中の今村磨人容疑者と藤田聖也容疑者が飛行機内で逮捕。2人は広域連続強盗事件を指示した「ルフィ」と名乗る人物との関連が指摘されているだけに、テレビでも速報が流された。

「ぽかぽか」では、「速報“ルフィ”逮捕」とテロップが表示され、これに岩井が反応。カメラ目線で「ルフィ逮捕です」「みなさん、ルフィ逮捕となりました」「強制送還され、あのルフィが、今日本に着き、逮捕されました」と繰り返して笑いを誘った。

この言動に「強盗殺人なんだから不謹慎」「被害者が多い事件なのに不適切」などと批判の声があがったが、どれも正論で理解できる。だからフジテレビは『女性自身』の取材に、「番組の対応について配慮に欠ける点がありました。今後も視聴者の皆様のご意見を真摯(しんし)に受け止め、制作に活かしてまいります」と回答したのではないか。

しかし、報じられているような「批判殺到、大炎上をしたのか」は話が別。ネット上を見ると冷静なコメントが目立ち、「ぽかぽか」や岩井勇気を糾弾し、謝罪を求めるようなものは少ない。実際、8日、9日の放送では謝罪どころか、この件に触れることすらなく、「何の影響もなかった」と言っていいのではないか。

ではなぜ「批判殺到」「大炎上」というムードになってしまったのか。フジテレビ、岩井勇気、ネットメディア、これらを見る人々……それぞれが一端を担っていた。今回の実情をどこにも忖度(そんたく)せず掘り下げていきたい。

■「炎上案件PVを増やしたい」という思惑

真っ先に挙げておかなければいけないのは、ネットメディアの報じ方。まず今回の件を報じた記事の見出しを挙げていこう。

「ハライチ岩井 『ぽかぽか』で『ルフィ逮捕』連呼、スタジオは大笑い…“ネタ”扱いに『人が亡くなってる』『不謹慎』と批判殺到」(WEB女性自身、7日15時11分)

「フジ『ぽかぽか』で『ルフィ逮捕』連呼の悪ノリに不快感、時事ネタ“完無視”する『ラヴィット!』との差」(週刊女性PRIME、8日13時32分)

「『ぽかぽか』ハライチ岩井の“ルフィ逮捕”茶化しに批判殺到…フジテレビは「配慮に欠ける点があった」(WEB女性自身、8日14時47分)

「ハライチ岩井 フジで『ルフィ逮捕!』絶叫の間の悪さ ワンピース絶賛放送中」(東スポWEB、9日5時16分)

「『ぽかぽか』内の“ルフィ茶化し”が大炎上…浮き彫りになった“ニュース全スルー”の『ラヴィット』との差」(WEB女性自身、9日11時00分)

「フジ『ぽかぽか』平穏スタート 前日“ルフィ”茶化して炎上…紀藤弁護士は疑問視」(東スポWEB、9日12時26分)

「有吉弘行『ルフィと言わないで』と警鐘…際立つ“逮捕いじり”で大炎上ハライチ・岩井との差」(WEB女性自身、9日16時21分)

「『“ルフィ”逮捕』テロップ、茶化すハライチ岩井をアップに…『ぽかぽか』大炎上でフジテレビの“演出”にも批判噴出」(WEB女性自身、9日19時27分)

注目すべきは媒体名。「WEB女性自身」「週刊女性PRIME」「東スポWEB」の3つに絞られ、なかでも「WEB女性自身」はわずか2日あまりで5本もの批判記事を量産している。

その狙いは「炎上案件を作って批判の声を集めることで、ページビューを増やしたいから」にほかならず、これは週刊誌やタブロイド系ネット媒体の常套(じょうとう)手段。

しかも今回は「WEB女性自身」の記事がYahoo!トピックスに選ばれたことで、ページビュー狙いの批判前提記事が拡散されてしまい、「批判殺到」「大炎上」のイメージが一気に広がった。

1月にスタートしたばかりでファンが少ない上に、ミスやアクシデントの起きやすい生放送であり、「腐り芸」「毒舌」が武器の岩井がMCのセンターを務める「ぽかぽか」は、週刊誌やタブロイド系ネット媒体にとって、炎上案件を生み出す上で格好のターゲット。

暗い部屋でこうこうと光るパソコンに向かう男性の後ろ姿
写真=iStock.com/M-A-U
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/M-A-U

「WEB女性自身」の記事を見て批判の声を上げる人々は間違っていないが、「炎上案件を作りたい週刊誌やタブロイド系の媒体に釣られた」とみるのが自然だろう。

ちなみに上記以外では、「岩井勇気『ルフィ逮捕されました』神田愛花『詳しい情報が入り次第』フジ『ぽかぽか』で緊急速報」(日刊スポーツ、7日15時15分)などの事実を書いたものが数本あったのみで、番組や岩井を批判するような切り口はほぼなかった。

ただし、この記事も冷静に報じているように見せているが実際は、「『ぽかぽか』、岩井、神田の名前を使ってページビューを稼ごう」というコタツ記事に過ぎない。週刊誌やタブロイド系の媒体ほど押しは強くないが、「炎上案件候補を探して速報している」というニュアンスは似ている。

■テレビ業界の軽すぎるムード

もちろん、「炎上案件を作ってページビューを増やしたいネット媒体だけに問題がある」というわけではない。

まず問題視されているのは、フジテレビが「速報“ルフィ”逮捕」という大げさなテロップを表示したこと。なぜ事件内容や容疑者の名前ではなく、「“ルフィ”逮捕」でなければいけなかったのか。すでに容疑者たちの名前は報じられているため、わざわざ「ルフィ」と呼ぶ必要性はなく、それ以前に「ルフィ」と呼ばれる人物が誰なのか確定していないため、混乱を招くテロップだった。

しかし、フジテレビだけを責めるのもおかしいだろう。テレビに限らず大半のメディアが「ルフィ」と報じ続けていたし、わざわざ漫画『ONE PIECE』を引き合いに出して耳目を集めようとするケースが少なくなかった。

テレビは視聴率、新聞は部数、ネットメディアはページビューを得るために『ONE PIECE』を思い起こさせる「ルフィ」を連呼し、事件のショーアップ化をイメージしていたのは間違いないだろう。

なかでも目に余るのが民放各局の情報番組であり、早朝から深夜まで「ルフィ」を連呼している。「他局も同じだからいいだろう」「メディア全体がそうだから大丈夫だろう」。そんな軽いムードが業界内にあると言われても否定しづらいのではないか。

■「ルフィ報道」そのものへの揶揄

唯一、名指しで批判を受けている岩井については、反省すべきところがある一方で、同情したくなる点が少なくない。メディアも、それを見る人々も、「岩井の立場や意図を分かった上で批判している」とは思えないからだ。

第一に岩井は「事件や逮捕」を茶化そうとしたのではなく、「『速報“ルフィ”逮捕』というテロップに反応した」という感がある。

テロップは画面上部に表示される「FNSニュース速報」のそれではなく、画面下部に大きな文字で赤色を交えた特別仕様だった。あえて“ルフィ”とカッコをつけて強調したことも含め、岩井が「このテロップはバラエティー仕様だ」とみなして笑いを取りに行くのも不思議ではない。だからこそ岩井は芸人として最速かつ最大の反応をしたのではないか。

さらにもう1つ考慮すべきは、岩井が漫画やアニメ好きであること。あの発言は事件を茶化すためではなく、『ONE PIECE』をイジるようなテロップや、これまでの「ルフィ報道」そのものを揶揄(やゆ)しているように見えた。

もともと岩井はハライチでネタを作っているほか、エッセイ集がベストセラーになり、漫画やゲームの原作も手がけるなどの多才さで知られている。彼ほど頭の切れる芸人なら、「『ルフィ逮捕』って何だよ」というスタッフへの不満があっても、「悪ノリで事件を茶化すようなことはしない」と感じさせた。

ただ、もし岩井にそんな真意があったとしても、「視聴者に伝わったか」と言えば疑問符がつく。番組を見ていない人も含め、「凶悪な事件を茶化すな」と批判されてもおかしくない姿だったのは確かだ。その点で岩井は直接的な謝罪はなくても、それなりに反省しているのかもしれない。

■「ラヴィット!」との比較は見当違い

あらためて前述した記事を振り返ると、平日朝の帯番組「ラヴィット!」と比べて貶める記事が2本もあったが、これも批判を集めて炎上を狙うための強引さを感じさせた。

そもそも「ラヴィット!」と「ぽかぽか」は番組のカラーがかなり違う。「ラヴィット!」はMC・川島明の穏やかなキャラクターをベースにした牧歌的なムードの番組で、朝だからこそのさわやかさを求められている。

一方の「ぽかぽか」はMC3人の“センター”を務める岩井勇気の「腐り芸」「毒舌」を前面に出すなど、目指すは「攻めた番組」。事実、「ラヴィット!」よりスタジオで生放送されるコーナーが多く臨場感にこだわっている。

放送時間帯もカラーもまったく異なるだけに、「ニュースを扱う、扱わない」という点でも同じである必要性はない。むしろ別路線を目指すのがクリエイターとしての自然な姿だろう。

■「ぽかぽか」とMC岩井の評価は

さらに「ぽかぽか」は、まだスタートから1カ月で番組内容が固まっていない状態。岩井もスタッフも、「平日昼の生放送でコメントできるラインを探っている」という試行錯誤の段階にすぎない。フジテレビとしても、『笑っていいとも!』のスタート時にあえて“深夜帯の芸人”という印象のタモリを起用したときと同じように、岩井にも持ち味の「腐り芸」「毒舌」を期待しているのは確かだ。

ニュースを扱うことの是非はさておき、今回の一部メディアによる「批判殺到」「大炎上」というムードに負けず、持ち味を発揮していけるのか。「ぽかぽか」と岩井を評価するのは、もう少し先でいいだろう。

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木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)

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