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大人でもこんがらがる「1mで重さ12kgの鉄の棒、0.8m分は何kgか」の立式は12÷0.8か、12×0.8かすぐ答えよ

プレジデントオンライン / 2023年2月15日 11時15分

出典=『プレジデントFamily2023年冬号』

2021年度にそれまでの大学センター試験から変わった「共通テスト」の数学で求められるのは計算処理能力だけでなく、長文の出題文をすぐさま読解する力。河合塾数学科講師:樋原賢治さんとICT教材クリエイター・玉井満代さんによれば、小学生の算数でも文の読み解き力が一段と重要になるという――。

※本稿は、『プレジデントFamily2023冬号』の一部を再編集したものです。

■平均点が前年マイナス20点…「新受験」に必要な力とは

昨年(2022年)度の大学入学共通テスト(以下、共通テスト)、数学I・Aの平均点は37.96点。平年を20点ほど下回る結果で受験生、受験業界に衝撃が走った。なぜこれほどまでに平均点が下がってしまったのか。

河合塾で数学科講師を務める樋原賢治さんは「今までの大学入試センター試験(以下、センター試験)と共通テストでは試験の傾向が全く違います」と指摘する。樋原さんは長年センター試験と、共通テストの解答速報を担当してきた、受験数学のスペシャリストだ。

「一番わかりやすい違いは、文字量です。最初に行われた共通テスト(21年度)は、20年度センター試験の1.84倍もの行数の文章を読み解かなければなりませんでした。私も解いてみましたが、プロでも解答時間ギリギリまでかかるほどの量です。その翌年、22年度は文字量が少しボリュームダウンしたものの、それでも20年度センター試験と比べると1.57倍の行数の文字量です。そのうえ問題の難易度がぐんと上がったので、平均点が大きく下がっても仕方なかったと思います」

さらに21年度と比べて22年度は「解答が選択式の問題が減った」「完全正答の設問が増えた」など、解答形式が変わったことも、受験生を苦しめる一因になったと樋原さんは付け加える。

■典型問題の数が減少「初めて見る」設定の問題が中心に

文字量だけでなく難易度も上がったというのはどういうことか。具体的には、共通テストでは日常を想定した場面設定が問題に加わることが多くなったという。

「センター試験では毎年似たようなテーマの問題が出題されていました。例えば数学I・Aの2次関数なら、ほとんどの年で、文章題ではなくまず2次関数の式が書かれていました。さらに内容も『グラフの頂点』『グラフの平行移動』『最大値・最小値』など、この分野での典型問題が出題され、教科書や問題集にあるような基本問題が解ければ、一定の点数が取れました。つまり数学が苦手な子にとっては、公式や問題のパターンを暗記して、あとは過去問を解いて形式に慣れるというのが一番の対策だったわけです」

対して、共通テストでは陸上選手の歩幅や地図など、社会生活に数学が登場する場面から、情報を整理して問題解決に必要な式を立式する形式の出題が増えた。これらはどれも受験生が解いたことのない初見の問題ばかりで、これまでのような公式の暗記では解けなくなってしまったという。

「例えば21年度の数学I・Aの2次関数の問題は、陸上競技の短距離100m走のタイムや歩数、距離を考えるものでした。これまでのように『これは2次関数の問題だからいつものように計算して解けばいいんだ』と一目で判断できるような問題ではなく、文章から、問われている解を出すための式を組み立てる必要がありました。その式を見てはじめて『あ、これって2次関数の問題なんだ』と気づけるような内容です。つまり、問題文の読み解きでつまずいた子は、計算にすらたどり着けなかったわけです」

2021年度大学入学共通テスト数学I・A
出典=『プレジデントFamily2023年冬号』

その翌年の22年度の数学I・Aの2次関数の問題では、太郎さんと花子さんの二人が2次関数について語り合う会話文に沿って設問を解かなくてはならなかった。正解するには会話から、まず二人が“2次関数のどういうところに疑問を感じているか”を読み解く必要があった。

センター試験と共通テストでは問われる能力が違うと樋原さんは指摘する。

「センター試験で求められていたのは計算を正確に行う能力で、いわば処理能力でした。それが共通テストでは、処理能力に加え、実社会のどのような場面で数学が活用されているかを題材として、“その分野を本質的に理解しているか”を読解力と絡めて問われるようになりました。処理能力を発揮する前に、読解力でつまずいてしまっている受験生が多いというのが現状です」

■「読めば解ける」問題も情報を適当に拾い不正解に

小学校の算数のテストも、親世代の計算力重視の時代から見ると、明らかに問題が読解力重視に変わっている。それが特にわかりやすいのが、全国の小学6年生と中学3年生が一斉に受ける全国学力・学習状況調査(以下、学力調査)の問題だろう。

実際に読解力を問われる問題として、どのような内容のものが出されているのか。20年にわたる学習塾での指導経験を生かして、去年の8月に書籍『玉井式 公式にたよらない「算数的読解力」が12歳までに身につく本』(KADOKAWA)を発行した玉井満代さんに話を聞いた。

「10年ほど前から小学校の算数にも読解力が必要と言われはじめており、学力調査の問題をはじめとして教育現場では、読解力を必要とする問題が増えてきています。平成30(2018)年度学力調査小学校・算数Aの大問2(図表3参照)はいい例でしょう。『答えが12÷0.8の式で求められる問題を、下の1から4までの中からすべて選んで、その番号を書きましょう』という問題です。選択肢の1から4には12と0.8の二つの数を使った、異なる場面の文章題が並んでいて、正解するには一文ずつ読んで立式することが必要です。単に12÷0.8の計算問題を解けるというだけでなく、小数の割り算がどんな場面で使えるかを文章で理解する力が問われているのです」

平成30年度 全国学力・学習状況調査 小学校 算数 A問題大問2
出典=『プレジデントFamily2023年冬号』

ちなみにこの問題は約60%の生徒が解けなかった。この問題の選択肢に『1mの重さが12kgの鉄の棒があります。この鉄の棒0.8mの重さは何kgですか』がある。これは12×0.8というかけ算を使う問題文で、正しくない選択肢だ。だが、実際にはこの文章題を「12÷0.8の式で求められる」と間違えた子が30%以上(約33万人)もいたという。

「12÷0.8=15ですよね。1mの棒が12kgなのに、0.8mと短くなった棒が元の重さより重くなるはずがないということに気づけていないのです」と玉井さんは分析する。

『プレジデントFamily2023年冬号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2023年冬号』の特集は、「読解力」の家庭での伸ばし方。「文章を読める子が“新受験”を制す」「なぜ算数の“文章題”だと解けないのか」「食いっぱぐれないために大事なこと 自分で稼げる子にする!」などを掲載している。

複数の図表から、必要な情報を読み取る問題も頻出するようになっている。例えば、平成30(2018)年度学力調査小学校・算数Bの大問3(2)は計算する必要がない。文やグラフの読解のみで正解できる内容だった。

「これは『人数』を示したグラフ1(棒グラフ)と、『人数の割合』を示したグラフ2(帯グラフ)を読みとる問題です。それぞれのグラフが“何を表す”かを正しく読み取る力を試しています。算数では、問題文や選択肢の文章を読む力だけではなく、この問題のようにグラフや図表などを読み解く力も必要なのです」(玉井さん)

ちなみに、グラフ1(棒グラフ)から読み取るべき情報を、グラフ2(帯グラフ)から読み取ろうとしてしまい、間違えた子が続出。全66.7%(約70万人)もいたそうだ。問題文で、「人数の割合」ではなく、「人数」を聞かれていることが読めていないのだ。

■「なんでこの問題はそう解くのか」考える

最後に、新傾向の共通テストにしっかり対応できていた生徒の共通項を、樋原さんに聞いた。

「『なんでこの問題は、そう解くのか』を自分の言葉で具体的に説明できる生徒は、初見の問題にも強かったですね。そういう対応力を身に付けるには、『幾何学に王道なし』(有名な数学者・ユークリッドの言葉)の姿勢で、“原理原則”を丁寧に理解しようとすることが大切だと思います」

平成31年度 全国学力・学習状況調査 中学校 数学 大問6(1)
出典=『プレジデントFamily2023年冬号』

反対に、数学の解き方を深く考えずに、ただ解法を丸暗記している子は新傾向の共通テストの問題は解けないだろうと樋原さんは言う。算数や数学に苦手意識を持つ子ほど、この問題にはこの公式を当てはめれば答えが出る! というパターン学習をする傾向があるそうだ。そんな勉強法ではもう点が取れなくなっているのが今であり、これからなのである。

「『わからないから、丸暗記しよう!』というのはやめて、なんでこの問題は、このように解くのか? と一問一問、丁寧に考える。先生や友達など第三者に聞かれたときにも、その理由を語れるようにしていく。このクセ付けを小学校のうちから、なるべく早い段階で行うことです。これは、算数や数学だけでなく、理科や社会など、すべての教科に通ずる基本姿勢といえると思います」(樋原さん)

データサイエンスに注目が集まり、算数・数学が重要視されている今、暗記学習では通用しない。多角的に「情報を正しく読み取る力」がますます大切になっているようだ。

■「算数に必要な読解力」習得に、家にあると良いもの

中村義作『解ければ天才!算数100の難問・奇問』(ブルーバックス)
中村義作『解ければ天才!算数100の難問・奇問』(ブルーバックス)

「ブルーバックス(講談社)という理数系のシリーズの本は、読むことで数学に必要な読解力を鍛えることにもつながると思います。有名な問題や証明の裏側、面白い雑学など、小学校高学年から楽しく読める本が出版されているので、本屋で探してみるとよいでしょう。私のおすすめは『解ければ天才!算数100の難問・奇問(著中村義作)』『マンガ おはなし数学史(原作 仲田紀夫、漫画 佐々木ケン)』です」(樋原さん)

「長針と短針があるアナログな掛け時計と、地球儀ですね。時計は長針と短針の角度や時間感覚が身に付きますし、地球儀は球体を触りながら国と国との距離を測ったりできるので、日常会話の中で算数や数学に必要な言葉感覚が育つと思います」(玉井さん)

地球儀と時計
出典=『プレジデントFamily2023年冬号』

河合塾数学科講師 樋原賢治さん
高1生~高卒生まで幅広く講座を担当。全統共通テスト模試を含め数々の模試・教材作成を歴任。河合塾を代表する講師のひとり


ICT教材クリエイター 玉井満代さん
書籍を発行するほか、国語と算数の力を同時に伸ばす「玉井式国語的算数教室®」なども開発。独自の教材は、インド政府立の小学校などでも正式採用されている。

(プレジデントFamily編集部)

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